女王の秘密   作:白天竺牡丹

50 / 51
第4話 同好会発足

 入学して4日目の昼休みが終わるまで、同級生の類家(るいけ)に対応してもらい、『烏野警備同好会』の人員は一クラス二人として、最低限の30人を若干越えるほどには集まった。五時間目が終わった休み時間に、タブレットでマルシン工業に銃をそれぞれ5(ちょう)追加発注する。

 大まかな年間活動計画表と来年は部員と活動場所を今の倍にすると告げ、部室棟の余っている5部屋全てと空き教室1部屋。教師2人を確保し、期限である明日まで待ちながら、生徒会の承認を得られる表向きの理由を考えていく。

 昨日の放課後に校長とカツラを被っている教頭を交えて概要を伝えたが、1日置いた今日の放課後は、国家機密を伏せてより詳細な内容を話した。

 明日の放課後に確保した空き教室にて、東海紡とニチカの双方が採寸。あおい安全が個々に合わせて靴の調整を行うことと、すでに先方に来て頂いている約束を取りつけていることを伝えれば、彼らはそろって許可するしかない。そして、複数の大企業が協力下にあるため、生徒会で明日中に同好会設立の許可が下りてもらわなければ困ることを強調し、彼らの前でタブレット端末で繋いで採寸担当者と連絡。これらを経て双方が頭を縦に振って、あたしは堂々と生徒会の扉を叩いてから開き、室内にいる生徒会長に同好会発足の届けと30人弱の入部届をまとめて出した。

 一段落して明日使う教室の軽い掃除や通信状態などを確認すれば、もう辺りは暗くなっていて正面玄関口に走っていき、校門から出るところでまだ出禁になっている影山と日向に声をかけた。

 

「二人共お疲れさま」

「お疲れ、黒脛巾さん!」

「お疲れッス」

「これから夕飯食うの?」

「ああ。軽めのヤツ」

「そうか。今日どんなのだろ。楽しみ~」

「……」

 

 日向の言葉で、普通の家庭は親が食事を準備してくれるのかと思い至り、一瞬口を閉ざしてしまった。

 幼少期の影響で黒崎が死ぬまで夕飯を食べる習慣がなく、山鹿家の居候になってから徐々に1日3食の生活に慣れていったものの、どんなに頑張ってもご飯茶碗で換算すれば4分の1杯ほどの量しか食べられない。それでも、昔よりマシになってきたことを内心喜んだ。

 自宅に帰ってから必要なことを諸々(もろもろ)済ませて、スウェットに着替えたあたしは、自室にあるパソコンとタブレットを音声で起動させながら、手元でiPadの待ち受け画面を開く。自分の準備ができたのを見計らい、ブルーライトカット仕様の眼鏡をかけてから、きちんと座布団の上で正座する。

 

「しのぶ。『モバイル東雲(しののめ)』のQRコード最終調整をしてくれ」

《はいよ》

「律は、引き続きE組の支援。同好会は、しのぶとあたしが主体になる。何かあれば情報共有するぞ」

《わかりました》

 

 人工知能にとって数秒で終わる作業でも、烏間さんに許可を頂いた以上、計画を無事に遂行する責務がある。

 入部届を受け取ってデジカメで撮影し、自室のインクジェットプリンターで印刷した30人弱の写真をノートに貼りつけては特徴を書きこんでいく。単調作業の合間に二人と問答を交わして眠さを紛らわせたものの、あくびを噛み殺す様子を電子端末の『目』で見た二人に就寝を促された。

 

 

 翌日、金曜日の放課後。

 迷彩服と防具の東海紡。黒インナーのニチカ。長靴のあおい安全という3社を前に、1年生にして烏野警備同好会部長の自分に部員となる者達の注目が集まり、『まずは採寸が先だ』と噴出する質問を一時的に遮った。

 1時間ほどで終わらせて担当者達と別れ、種明かしをするために彼らを視聴覚室へ集める。事前に通達していたため不平不満が噴出することはなく、顧問も含め全員が着席したのを見計らって教壇に立ち、マイクの電源を入れて堂々とこう告げた。

 

『この同好会は、募集時にも言った通り、実戦的な護身術を学んでもらうために発足した。採寸を含めて、専用の服や武器を与える。最低でも1年続ければ、自分の身を守れるだけの技術が身につく』

 

 証拠を裏付けるために先ほどの大企業の協力を引き合いに出すが、彼らはまだ疑心暗鬼になっている。だが、役目を果たすまで本当の目的を明かすつもりはなく、機密保持のために退部も認められない。

 

『1年と言えば長く思えるだろうが、これが年間計画表だ。しかるべき講師を呼んで側につけるし、夏と冬に強化合宿も行う』

 

 手元にあるノートパソコンを操作して、パルクールの発展形のフリーランニングを含めた予定をスクリーンに表示する。一時的にマイクを置いて、顧問になったガタイのいい体育教師の攻撃を難なくいなし、黒板や床に叩きつけてしまう形になったが、彼らの興奮が最高潮に達した。だが、話を締め(くく)るにはまだ早い。あともう一息だ。

 

『今はまだ疑ってもらって構わない。だが、どうか自分についてきてくれ』

 

 教壇の机に額がごつんと鈍い音を立てるほど深々と頭を下げると、雄叫びや元気の良い快諾が室内に響く。数秒後にゆるゆると顔を上げれば、皆『やってやろうじゃねぇか!』だの『ヤバくない!?』だの興奮の坩堝(るつぼ)と化していた。

 

『では、各自ここにある複数の端末からQRコードを読み取って、今日は解散しろ。明日14時に、私服とは別に、汚れてもいい服装を持ってきて部室棟前に集合。以上』

『はい!!』

 

 一斉に返ってきた返事に今日一番の笑みを返して、全員がダウンロードしたことを無事に起動した人工知能の『東雲(しののめ)』から軽快な口調で報告を受け、視聴覚室の鍵を持って退室する。

 職員室に鍵を返しに行った後、女バレに途中参加も考えたものの、今日は同好会の件で欠席しているためあきらめた。そのまま正面玄関から帰ろうとして影山達の様子を見に運動場のほうへ行くと、まだ日向と二人で練習している。

 

「二人共お疲れ様」

「おう。同好会のほうはどうだった?」

「問題ない。予定通り、明日から始められる」

「そうか」

「あたしも混ぜてもらっていい?」

「ああ」

 

 数日前より日向のレシーブが幾分上手くなっており、そのことを手放しで褒めると彼の笑顔が弾けて、影山は『まだヘタクソだ』と不機嫌な顔と口調で告げた。

 明日は二人の入部を()けた試合があると話を聞いていていても、万が一という場合がある。試合前に負の感情を引き出すのは良くないと考え直して、応援を送るだけに留まった。

 

 

 高校生になって最初の休日だが、休みたい気持ちはさらさらない。久しぶりに真剣に打ちこめるバレーに、本格的に始動する同好会を掛け持ちするものの、やる気と興奮が湧き上がって予定よりも早く学校に着いてしまった。

 

「おはよう。影山。日向」

「ハザッス…。黒脛巾さん」

「なんだ。二人の知り合いか?」

「俺の幼馴染です」

「マジか!? お前も隅に置けねぇな、この野郎!」

「? アザッス」

 

 話が噛み合わないながらも好感を得ている坊主頭の人は、第2体育館の鍵を担当している2年の田中先輩で、ポジションはウィングスパイカー。今日の試合で二人の味方をするらしい。

 

「影山と日向をよろしくお願いします。田中先輩」

「おう! 任せな!」

 

 深々と頭を下げた後、自分も職員室から第1体育館の鍵を借りて女子更衣室で着替え、独りでネット張りやら用具諸々の用意やら済ませて準備体操をやる。同級生や先輩達が来たのは、体が温まった1時間後だった。

 思う存分バレーに集中できたが、やる気と技術力の差は初日と変わらずに苛立ちが募り、思わず先輩相手にきつく当たる場面もあった。それは全て勝ちたいと思うからであり、女子バレー部のジャージを受け取っても晴れることはない。

 

「お疲れ様でした。お先に失礼します」

 

 女子更衣室でジャージから私服に着替え、首からドッグタグを提げた格好で職員室へ向かう。途中、生徒指導の教師から注意をされたが『校長に許可を得ている』と告げれば、面白くなさそうな顔で閉口した。

 『烏野警備同好会』と書かれた部室棟の鍵を保管場所から3つ取り出して空き部屋に向かい、畳の上に乗せられた大量の未開封段ボール箱を全てカッターで開ける。そこには春休み中に様々な企業先に発注した、アサルトライフルとコルト・ガバメントの二種類の銃器と、当面使用する青のペイント弾。コンバットナイフが注文数だけ入っており、部長である自分宛てに領収書やら手紙やらが同封されて、物言わぬそれらにこれからのことを考えて黙って一礼した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。