一般病弱妹系自意識最低TS哲学兵装雪女の儚い一生   作:雪女って良いよね!

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ノーブルレッドの三人視点です。


家族と雪音雪華。

「っへくし! ⋯⋯ううぅ、さっむいんたゼ」

「これを受けたら、錬金術師も一溜りもないでありますね⋯⋯」

「そうね。でも、アイツらにはちょうど良いんじゃないかしら」

 

 愛しくなければ、欠片も惜しくない憎き我が家(施設)氷漬け(・・・)のオブジェクトとなって辺り一面の雪景色(・・・)に花を添えているのを背に、私達はただただ逃げるべく足を進めていた。

 

 未だに信じることができないでいる。

 私達があそこ(パヴァリア光明結社)から出られたことも、あんなに結社に心酔していたと思っていた彼女(・・)が私達を助ける為に身を張って能力を行使してくれたことも。

 

「セッカちゃん、大丈夫?」

「はぁっ⋯⋯はぁっ⋯⋯んくっ⋯⋯はい、大丈夫、です」

 

 私の背中で苦悶に喘ぎ、荒く呼吸をする白髪の少女の名前はセッカ・ユキネ。

 元は、パヴァリア光明結社のロシア支部で実験を受けていた孤児で、支部の解体に伴い私達がいた施設へとやってきた。

 彼女の血が私達を生かす稀血(・・)、Rhソイル式であることも理由の一つなのだろうが、本質的には手に余る彼女を厄介払いしたようなものだ。

 聖遺物との融合と洗脳を用いて、人為的に人と哲学兵装のハイブリッドを創り出す、などという反吐が出る計画の被験者にして、唯一の成功例(・・・・・・)

 そして、無理やり怪物にされたにも関わらず、卑しき錆色と蔑まれた私達同様に、完璧な人間からは程遠いと身勝手にも失敗作の烙印を押された被害者でしかない。

 

「⋯⋯追っ手は、来ていませんか⋯⋯?」

「ええ。セッカちゃんが、みんな凍らしてやっつけちゃったわ。だから安心して?」

 

 セッカちゃんは不思議な子だった。

 口数少なく、淡々と結社に従うだけだったはずの彼女。

 私達と同じ境遇に身を窶す彼女のことを私達は家族の一員だと思っていたが、当の彼女にはそれほどの私達への情は無いと思っていた。

 

 けれど、能力の行使がそのまま自傷行為に等しい(・・・・・・・・)彼女のその力を、私達のために使ってくれたのだとしたら、それは、とても嬉しい。だが、それと同じくらい悲しくもある。

 だからこそ、今度は家族として、お姉ちゃんとして、私達のために頑張ってくれたセッカちゃんのことを幸せにしてあげたい。そう思う。

 

「⋯⋯ぁくっ! 寒、い⋯⋯ッ! 痛い⋯⋯ッ!!」

「セッカ! しっかりするであります!」

「後ちょっとでこの雪原ともおサラバだ、それまでの辛抱だゼ!」

 

 機械の体故の高精度な感圧センサが、私の背中に刺さるようにして押し付けられるいくつかの結晶片を鋭く感知する。

 だが、それは彼女の身体に刺さっている物ではない。

 

 彼女の身体から生えている(・・・・・)モノだ。

 

 聖遺物、『ジェド・マロースの氷雪片』。

 それは彼女の体内に溶けることなく在り続け、彼女の肉体を通して世界を凍らせてゆく。

 その力は絶大で雪の降らない気候であるはずのここら一帯を永久凍土に閉ざしてしまった。

 哲学兵装である彼女の雪は、彼女がその呪いを解かなければ、溶けることなく永遠に降り積もり続けるだろう。

 しかし、その分代償も大きい。

 彼女に生えた結晶片もまた、永遠の氷。彼女のタイムリミットを報せるモノなのだ。

 

 今はどうすることも出来ない。

 けれど、いつかは私やミラアルクちゃん、エルザちゃん、そしてセッカちゃんの四人で元の体を取り戻す。

 絶対に誰も欠けさせるものか。

 

「───セッカちゃん、日本(・・)に行きましょうか」

「⋯⋯日本?」

 

 追っ手も来るだろう。

 けれど、一度自由になってしまえばこっちの物だ。

 私達に往く宛は無い。なんなら故郷を憎んでいる者も居る。

 だが、彼女は生まれ故郷の記憶すらも奪われている。だから、私達にも彼女にもピッタリだと、そう思った。

 

 

 □

 

 

 箱いっぱいの機材を机の上に置いて、ウチは新たな我が家を見渡した。

 まだまだ設備は不十分だが、念願のマイホームにしては物々しくとも悪くない。ここで暫くウチら家族が暮らすのだとしたら、あの頃から比べたら天と地程も差がある。それだけで十分だ。

 

「ヴァネッサ、取り敢えずこんなもんか? まだ足らなかったら言うんだゼ?」

「ありがとう、ミラアルクちゃん。それで取り敢えずは大丈夫よ」

「しっかし、四人で使うにはだだっ広い研究所なんだゼ」

 

 ウチらが、パヴァリア光明結社の研究所を逃走してから早一ヶ月が経った。

 その間、追っ手は当然の如く来た。

 ウチらの力を以てすれば、簡単に蹴散らすことは出来る。結局、ウチの『不浄なる視線(ステインドグラス)』で追っ手の錬金術師を洗脳し、ウチらを討伐したことにさせた。

 だがそれはそれとして、研究所から持ち出したセッカのモノや他の誰かのモノをふくめた全ての稀血であっても、これから先を考えれば十全な蓄えとは言い難いのも事実。この不自由で最低な身体は透析だってしなければ生きてはいけない。

 ウチらの身体を流れる力の源、パナケイア流体は時としてウチらを死に至らしめる必殺として牙を剥く。悔しいが、専用の設備が無ければやっていくことは不可能だった。

 

「まさか、こんなに立派な施設を譲ってくれるなんてね。これが、アメリカングレートの一端というやつなのかしら」

「だとしたら、連中は今頃、威信にかけてセッカの雪の調査で大変だろうな」

 

 だから、ウチとヴァネッサは二人で話し合って、F.I.S.と秘密裏に手を取り合った。

 まだヴァネッサがパヴァリア光明結社の研究員であった頃の記憶では、パヴァリア光明結社とF.I.S.の間に繋がりは無かった。だからこそ、漬け込む隙がある。

 ウチらが知り得る錬金術の技術と成果、それと引き換えにウチらに対するバックアップ。パヴァリア光明結社にウチらのことをバラさなければ、少しくらいならウチら二人のことを研究しても良いというその条件に、奴らは二つ返事で頷いた。

 

 また研究に身を晒すのかと思うと腸が煮えくり返る思いだが、セッカとエルザのことを想えばなんということは無い。

 

 ウチら家族は何としても生き残り、絶対に人としての幸せを掴んでみせるんだゼ。

 

 

 □

 

 

「セッカはどうしてそこまでわたくしめらの為に身を粉にしてくれるのでありますか?」

「⋯⋯どうして、ですか」

 

 自分から抜いた血を、溶けない氷で保存していくセッカを見ながら、わたくしめは前から気になっていたことを聞いた。

 

 セッカは家族の一員だが、ここまで身を張られても、現状わたくしめらでは何も返すことはできない。

 セッカだってそれは分かっているはずであります。

 だのに、彼女は儚げに笑って、またその身を削る。ほんの少しの力の行使なら何の害もないと彼女は笑うが、それでも危険なことはやめて欲しい。

 家族として、頼りなくとももっと頼って欲しいのであります。

 

「私には⋯⋯これくらいしか、できませんから⋯⋯」

「そんなことはないであります! セッカのお陰で、わたくしめらはあの地獄から解放された! 返すにも返し切れない恩があるのであります!」

「⋯⋯それでも、私はまだまだ皆の役に立ちたいのです」

 

 そう言うと、彼女は悲しげに眉を歪める。

 その顔は、ずるい。そんな顔をされては、なにも言えなくなってしまう。

 けれど、ここで引き下がることは絶対に後悔する。そうも直感した。

 だから、

 

「⋯⋯絶対に、わたくしめがセッカも、ヴァネッサも、ミラアルクも護るのであります。セッカだけに辛い思いはさせないであります!」

 

 わたくしめのこの身がどれだけ傷付こうとも、三人の家族だけは守り抜く。

 ひんやりと冷たいその身体を抱き締めながら、私はそう誓った。

 




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