一般病弱妹系自意識最低TS哲学兵装雪女の儚い一生   作:雪女って良いよね!

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遅くなりましたが最新話です。


“ばとる・おん・ざ・すてーじ”

 ───【凍匠(とうしょう)雪融(ゆきとおし)

 

「⋯⋯はぁっ!」

 

 想起するのは薙刀の一振り。掌に吹雪が集い、細かな雪すらも貫く繊細な一刀を形成す。

 鋭い凍りの刃が、蒼白い軌跡を浮かべながらノイズを両断した。

 

 ふと、皆は無事かと視線を向ければ、今まさにノイズに囲まれてピンチのエルザの姿。群がるノイズに処理が追いついていない。

 咄嗟に空いた片手を突き出して、ノイズを猛吹雪で吹き飛ばすイメージを構築する。

 

 ───【凶雪(おそれゆき)

 

 押し出すようにした掌から放たれた吹雪が、ノイズを凍てつかせながら遠く吹き飛ばす。

 エルザちゃんがそれを逃すはずもなく、上手く氷の部分に当てる形でテールを叩き付ける。

 

「⋯⋯エルザさん⋯⋯!」

「た、助かったのであります。ありがとうであります、セッカ!」

 

 ノイズに生身で触れるのは、例え私達のような人間以上であっても危険なことこの上ない。触れただけで炭化するなんて、人類の天敵過ぎる。

 その上、ノイズはもうひとつ厄介な特性を持っている。

 位階差障壁。

 これによって、ノイズに現存兵器の攻撃、ひいては物理攻撃はあまり効かないのだ。

 

 だが、どうやら私の攻撃はかなり有効らしい。しかも、凍らせた部位にエルザ達が物理攻撃を当ててもよく通る。

 今はそれを基点にして戦っているが、如何せん数が多いので押され気味だ。

 だが、その甲斐あってか概ね観客は避難を完了している。

 

 これは、そろそろ撤退も視野に入れた方が良いか。

 そう思ったその時、

 

 

「──── gungnir zizzl」

「──── amenohabakiri tron」

 

 

 ()が聞こえた。

 戦士のように力強く、剣のように鋭くて、翼のように雄大な歌。

 

 眩いばかりの光が放たれ、矢の如く無数の()が降り注ぐ。その一撃は、ノイズ達を一網打尽にする。

 

 ───【STARDUST∞FOTON】

 

「あっぶないんだゼッ! さては新手かッ!?」

「悪い! けど、アンタ達、誰かは知らないけど助かる!」

 

 舞台から飛び出してきたのは、変身ヒロインも斯くやといった装いのツヴァイウィングの二人。

 あの装いはなんなのか、とか、あの槍は私達も殺す気だろ、とか。いろいろ言いたいことはあるが、こんなナイスタイミングで飛び出してくるのだから、心強い援軍だと考えて良いはず。良いはずだ、多分。

 

「───♪ ッ、らァッ!!」

 

 歌手でも戦えるのか、なんて心配は杞憂だとすぐに分かった。

 何故かは知らないが、めちゃくちゃ上手い歌を歌いながら、ノイズ達を駆逐していく様は歴戦のソレ。

 特に、青い髪の方、確か風鳴翼とかいう名前の少女は私のおざなり剣術なんか比べ物にならないくらい洗練された剣戟が冴えている。赤い髪の方の少女、天羽奏には技術は薄いが、地に足着いて荒々しく力強い戦い方は、素人目にも目を見張るものがある。

 この調子なら、ノイズの全滅も時間の問題だろう。

 

「きゃぁっ!?」

「⋯⋯っ、逃げ遅れ⋯⋯!」

「くっそ、まだ鈍臭いのが残ってるんだゼ! 世話が焼けるッ!」

 

 そうは言うが、怪物と蔑まれるばかりだった力を人助けの為に使っている現状を、ミラアルクだって悪くは思っていないはずだ。その証拠に、口角は気分良さげに上がっている。

 もうほとんど観客はいないが、チラホラと逃げ遅れている者もいる。まだ戦わなくては。

 状況を把握しようと周囲に目を向けた時、足を痛めたのか、観客席の崩落に巻き込まれた少女が苦悶に顔を歪ませているのが見えた。

 だが、どうにもここからでは届かない。数体のノイズが悲鳴に釣られてか少女に迫るのを、ここから見ることしか出来ない。

 

「走れッ!」

 

 だが、少女に近い位置に居た天羽奏がノイズを槍で打ち倒す。

 弾かれたように逃げ出す少女へと、巨大なノイズが放水のように気持ち悪い汚水を吹き放つが、それすらも天羽奏は唸る槍捌きで見事に防いで見せる。

 

「おいおい、アレは不味そうだゼ」

「⋯⋯でも、こちらも手が離せません⋯⋯!」

 

 しかし、如何せん数が多い。攻撃の手は緩まない。

 段々と攻撃が通り始め、装甲にもダメージが蓄積する。

 遂にはひび割れた槍が砕け散ってしまった。

 

「⋯⋯ぁっ」

 

 しかも、最悪なことにその破片は守るべき背の少女へと襲いかかり、その胸を穿った。

 鮮血が舞い、幼い身体が瓦礫に叩き付けられる。

 

「くっそ、何やってやがるんだゼ!?」

「⋯⋯ヴァネッサさん、ミラアルクさん、ここは任せます」

「分かったわ。くれぐれも無茶はしないようにね?」

 

 着物の裾邪魔っ!?

 お世辞にも高くない身体能力をフルに使って、酷使している身体を押しながら天羽奏達の元へと駆け付ける。

 決意を固めたような表情で歩みを進める天羽奏とノイズの間に割って入って、私は継戦力を残して放てる最大の一撃を見舞おうと右手を翳した。

 

「お前⋯⋯っ、ここはわたしに任せてく「⋯⋯死ぬつもりですよね?」⋯⋯っ!」

「⋯⋯貴女こそ、ここは私に任せてさっきの子を助けてあげてください」

「だ、だが⋯⋯!」

 

 尚も食い下がろうとする天羽奏を無視して、雪融を放り捨てて左手も翳す。

 正直言って、ギリギリなラインだ。やったら、今日はもう戦えないかもしれない。

 けど、私が身体を張って誰かが助かるならば問題は、ない。

 

 ───【哀雪(あわれゆき)

 

「⋯⋯はぁぁぁあッ!!」

 

 四方八方から吹き荒れ上昇する吹雪が、大小に関係なく全てのノイズを宙へと浮かび上がらせる。

 見れば、右手に新しく氷の結晶が生まれていく。能力行使の一定ラインを超えてしまったのだろう。風呂の時とか不意に触ると冷たくてビックリするから、切実に増えないで欲しい。

 ハッキリ言って、とてもしんどい。が、浮かび上がらせるだけじゃ駄目だ。

 

 ───【祟雪(たたりゆき)

 

「⋯⋯これで、終わりですッ!」

 

 ノイズの上と下、二箇所に集まった吹雪が大きなプレートのような氷塊を形作る。

 指揮をするイメージで、上下から押し潰すように両の手のひらを縦にゆっくりと合わせる。

 ばんっ。

 巨大な二枚の氷塊に押し潰されて、全てのノイズ達はぺしゃんこになった。

 

「⋯⋯はぁっ、はぁっ⋯⋯んくっ、寒、い⋯⋯!」

「お、おい! 大丈夫かっ!?」

 

 サンドイッチ氷塊が地面に落っこちると同時に、私は全身の力が抜けてその場にへたりこんでしまう。

 信じられないくらいの悪寒が全身を取り巻いて、追い討ちのような倦怠感とで、今は一人で立ち上がることは出来そうにない。いや、マジで寒っ!?

 駆け寄ってくる天羽奏を、私は震える手で制する。

 今の私は触るといつもの数倍冷たいからだ。

 見た感じボロボロの彼女に、こんな剥き出しの冷凍庫人間の世話をさせるのは忍びない。というか、誰かに世話してもらうこと自体、私の良心が痛む。

 

「退けッ!」

「あくっ」

「セッカ!? もう大丈夫なんだゼ! 早く帰ろう!」

 

 ⋯⋯あのさあ。怪我人なんですけど。こんな私の心配より、天羽奏の心配をだな。

 だが、私の配慮なんてお構い無しにミラアルクは怪我人の天羽奏を突き飛ばして、軽々と動けない私をお姫様抱っこした。

 そう。まさかのお姫様抱っこである。

 やだ、イケメン⋯⋯! 

 ナチュラルにお姫様抱っこされてることに元男として文句を言いたいが、そんなこと出来る元気も無く。

 されるがままな私と、出口へ急ぐミラアルクへと声が掛る。

 

「おい、待てよ!?」

「ああ!? こっちはてめえらの不始末で家族が苦しんでるんだゼ! さっさと行かせろッ!」

「っ! なら一つだけ聞かせてくれ。アンタ達は、誰なんだ⋯⋯?」

 

 その問いに、私達は応える名を持たない。

 そう思っていた時期が、私にもありました。

 

「私達は『誇り高き真紅(ノーブルレッド)』。覚える必要は無いわ」

 

 小脇にエルザを抱えながら、空から降りてきたヴァネッサの一言に、私は凍りついた。

 ⋯⋯私の知らぬ間に名前が⋯⋯!?

 いや、ミラアルクもびっくりした顔をしているし、必要に迫られた今ヴァネッサが咄嗟に名乗った物だろう。

 

 だが、ノーブルレッド、誇り高き真紅とは彼女達にピッタリだ。心の底からそう思う。

 

「それじゃあね、機会があればまた」

「あばよ」

 

 エルザを抱えながら両足をスラスターに変えて飛び立つヴァネッサの後に、私を抱っこしたままその背の羽で飛翔するミラアルク。

 私は、後始末やら何やらを全て任せてしまうことを彼女達に内心謝りつつ、早く暖かいお風呂に入りたいと切に願った。

 

 ⋯⋯寒っ。




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