「ユズル~今何時だー?」
「もうすぐで5時半だよ」
「まじか! やばいやばい片付け切れてない……!」
うちの作戦室にある一室は、オペレーターの光がだらけるためのこたつが置いてある。光の許可なくそこに入ることはできないけど、同じ隊なら事後承諾でもなんだかんだ許される。
で、光はいつも物を散らかすんだけど、とある条件があるといつも慌ただしく片付けだす。直前になってから片付けを始めるから、学習能力がないんじゃないかなと思ってる。
「流川さんが来るからって体裁気にしなくてもいいのに。前までそのままにしてたじゃん」
「別に流川が来るからじゃないぞ! 客が来るなら片付けるもんだろ!」
「流川さん以外の人で片付けてるの見たことないけど?」
そもそもこの作戦室に来る人なんてそうそういないんだけどね。流川さん以外だと師匠の鳩原先輩くらいかな。
「あの人全部覚えてるんだし、開き直ったらいいのに」
「いやいやいやいや。ユズルは分かってないぞ。流川はあれでだらしない奴だからな。お前らと一緒でアタシが面倒見ないと駄目な奴だ!」
「頼りがいアピールはいいけど、光も光でだらしないから人のこと言えないよ」
「なんだと~!」
「片付けんなら口よりも手動かせ」
「おっとそうだった。ナイスカゲ!」
カゲさんの声はしたけど、その位置は遠い。たぶんソファのとこから言ってるのかな。
「そういえばカゲさん。ゾエさんは?」
光の片付け(笑)の邪魔にならないように、こたつから出てカゲさんがいる場所へ。やっぱりソファでだらけながら漫画読んでた。これ光がオススメって言ってたやつだっけな。あとで読もう。
「あァ? 知らねぇ。食堂かどっかだろ」
「なんか限定メニューあったっけ?」
「たしか今日からあるんじゃなかったか? 流川から情報貰ったって言ってたような気がする」
「へ~」
期間限定メニューは定期的に用意される。当たりから外れまで幅広くて、売れ方の差が激しい。だから初日からそれを食べる人は新しく入った訓練生か、ゾエさんみたいに勇者扱いされる猛者ぐらい。
「みんなお疲れ様~。ゾエさんがお土産持ってきたよ」
「噂をすればなんとやら。……ゾエさんそのお土産って?」
「期間限定メニュー! 初日は人が少ないから確保できたよ!」
「……おいゾエ。それ1個は食ってきたんだろうな?」
「食べてないよ。この前の時は先に食べたらカゲと光ちゃん文句言ってたし」
そういえばそんな事言ってたね。カゲさんも心覚えがあるみたいで、苦々しい顔をしてる。これで外れだと苦行だもんね。しかもボーダーの期間限定メニューって2回に1回、あるいは3回に1回のペースで外れが来る。そして前回が当たり。わりと苦行を覚悟しなきゃいけない。
「ゾエ流川は?」
「ちゃんと連れてきたよ」
「足止めしとけよ! 片付け終わってないのに!」
「えー。ゾエさんちゃんと最初にラボに行ってから食堂に連れて行ったんだけど」
「仁礼片付け手伝おうか?」
「うぉぉああ!? こっち見んなぁぁ!!」
「ぶへっ!」
「目は危ないよ光ちゃん」
2つのみかんが流川さんの両目にストライク。流川さんが部屋に来るたびにコントロールが良くなってる気がする。けど目は危険過ぎ。カゲさんも軽く叱った。
「仁礼が片付けできないのは今に始まったことじゃないんだし、俺は気にしてないぞ」
「アタシが気にすんの! いいからちょっとソファにでも座ってろって!」
相変わらずのやり取りを聞き流して、カゲさんたちと3人でソファへと移動する。ゾエさんが持って帰ってきた期間限定メニュー。デザートだけど、見るからに色がヤバイ。7色の層ができてる。ゼリーなのかプリンなのか何なのか。見るだけじゃ判断つかない。
「おっ、炬燵使ってくれてんのか! 今冬じゃないけど!」
「万年こたつにしたの流川だろ! 作ってくれたのは嬉しいけど!」
「へ~嬉しいんだ。やっと感想言ってくれたな」
「なっ! アタシが冷たいみたいなこと言うなよ! 聞かなかった流川にも問題ある!」
「たしかに。感想言われないことが多いから、自分から聞きに行かないことが染み付いてたわ。悪いな仁礼」
あの炬燵流川さんが作ってたんだ。作ってもらったとは聞いてたけど、誰かは知らなかったな。予想通りではあるけど。
冬場に有効活用できてるけどそれだけじゃない。あの炬燵、暖房から冷房までできちゃう優れもの。1年中快適な温度をキープできるから、ランク戦も任務もない時に光はずっとあそこで過ごしてる。流川さんからの貰い物なら、余計に納得だ。
「仁礼これはどこに置けばいい?」
「それはそっちの空いてるスペース」
ジャンケンをして、誰が最初にこの謎のデザートを食べるか決める。ゾエさんがひとり勝ちしたけど、男気ジャンケンだから結局食べるのはゾエさんだ。これ以上の勝ち損はそうそうない。
「流川はいつになったらアタシを下の名前で呼ぶんだよ」
「仁礼が俺を下の名前で呼ぶようになったら。仁礼って名前はボーダーで1人なんだし、困ることもないしな」
「んぐっ! そうだけどよ。ダチに名字で呼ばれんのもむず痒いんだよな」
「だから、そう言う仁礼から俺を下の名前で呼べばよくない?」
「……なんか恥ずい」
「なんでだ」
なんだかんだ流川さんが片付けを手伝ってることに誰もツッコまない。それにこっちもそれどころじゃない。豪快に大きなひと口でガッツリといったゾエさんが、目を白黒させながら急いでコーラを口に流し込んでる。ゾエさんでそれってことは、これは間違いなく外れのデザートだ。
「手伝ってくれてありがとな! これがこの前話した漫画」
「たしかに。ありがとう仁礼」
「これくらいいいって! 流川はアタシがいないとこの手の漫画読めないからな!」
「こっち方面のアンテナは、ほんと仁礼頼みだよ。たまに三上ちゃんも貸してくれるけど」
「あ~……、でもジャンルはちげぇよな?」
「違うね」
流川さん無自覚に地雷を踏みかけるから、たまに怖くなるんだよね。光も三上先輩も、流川さんに気があるわけじゃないらしいけど。でもなんか、言葉にできない特別な気持ちは向いてる。
「なんでゾエは机に突っ伏してんの?」
「デザート」
「今回は外れか」
「とはいえ1人1個は食えよ。食いもんを粗末にするなんざ俺が許さねェ」
「それはもちろん。ゾエさんみたいに一気にいったほうが良さそうだね」
「そうか? わりといけるぞこれ」
「流川さんの舌ってどうなってんの?」
「味音痴だもんなー」
「失礼だな仁礼」
「自覚しろ流川。ファントムババァの外れ炒飯を平然と食うのはお前だけだ」
「待ってほしい。一度気合いで乗りきってから耐性がついただけだ」
流川さんがそう言うなら、昔は普通の味覚をしてたのかな。それが狂ったのが加古さんのせいってわけで、あの炒飯は人の味覚を崩壊させるわけか。堤さんよく生きてるな。
「今度はアタシの手料理を食わせてやるよ」
「カゲさんとこのお好み焼きか? それは奢りっていうんだぜ仁礼」
「ちげーわ! 1から作るわ! だから買い物に付き合えよ! 荷物持ち!」
「絵馬。仁礼って料理できるのか?」
「インスタントしか見たことないよ」
「骨はゾエに食わせてやるから安心してくたばれ」
「まじかー。しゃぶられそうで嫌だな」
「あれ? もしかして今ゾエさん罵倒されてる?」
「酷えな男ども!」
たとえ光がダークマターを作り上げても、味音痴の流川さんならきっと美味しいって言ってくれるよ。
「ったく、女っ気のない集団のくせによー」
「光ちゃんの家庭スキルが上がるきっかけになるのなら、ゾエさんは嬉しいけどね~」
「保護者か!」
「ゾエさんは家庭的な子が好みと」
「流川くん勝手に捏造されても困るよ」
「流川はあれだろ。タッパとケツのデカイ女だろ!」
「一言もそんな話したことないけど!? あとそれ加古さんくらいしか当てはまらなくない?」
「タッパはともかく、ファントムババァは別にケツデカくねぇだろ」
「なんでカゲさんそこまで知ってんのー? ツンケンしながら目で追ってたのかな? やーいツンデレ~! 男のそれは需要ねぇよー!」
「殺されてぇのかテメェ!!」
主人公と最も心地よい距離感を作れてる3人のサブタイトルを出せました。(特に意味はないです)