ボーダー探究部   作:粗茶Returnees

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綾辻遥①

 

 真面目な結束曰く、作戦室に行く時は手土産を持って行けとの教えがあるのだとか。風間隊の作戦室に行く時とか、影浦隊の作戦室に行く時とか手土産持っていかないんだけどな。無くていいって言われてるし、風間隊のとこに行く時なんて三上ちゃんに用がある時だけだし。

 そんな俺でも、嵐山隊に行く時は手土産を持っていく。嵐山さんには入隊当初から世話になってるしな。この理由で言うと、あとは柿崎さん、太刀川さん、東さん。この3人の作戦室に行く時は持っていく。

 

「失礼しまーす」

 

「錬久しぶりだな! 元気にしてたか?」

 

「そりゃあもう毎日楽しくラボでトリガー弄って遊んでますよ。試作トリガーに携わるのも楽しいですよ!」

 

「そうかそうか! それは何よりだ!」

 

「嵐山さんこれ手土産です」

 

「いつも悪いな」

 

 遥は甘いもの好きだし和菓子にすることが多いけど、そればっかりだと手土産がワンパターンになってしまう。そんなわけで今回はゼリーにしてみました。開発部の人のツテを使って、今話題の大人気ゼリーを取り寄せ。これなら問題なし。

 

「それで今日はどうしたんだ?」

 

「あれ? 遥から聞いてないですか? 木虎にアドバイスをしてくれって前に頼まれてて、それで来たんですけど」

 

「そうだったのか! 錬がアドバイスしてくれるのはありがたい! 木虎は自分にも厳しい子で、自己鍛錬を欠かさないから、どうにも同じ隊のおれたちからは助言しにくくて」

 

 遥から木虎のことは聞いてる。俺がどういう情報を欲しがるのか、それを言わなくても汲み取って纏めて送ってくれたから。

 木虎は柿崎さんの後に加入したメンバーだ。その間が1年くらいあるけどそれはいい。C級としての正式加入でも3000ポイント以上。即戦力として期待され、B級になったら嵐山隊に加入した。だからこそ、そこからの伸び悩みに苦しんでる。理想と現実のギャップ。その性格。超真面目な女の子だ。

 

「その件の木虎が見当たらないのですが。てか遥もいないし」

 

「もしかしたら先にトレーニングステージを使ってるのかもしれないな」

 

「じゃあ遥に電話しながらそっち行きますね」

 

「悪いな。おれの方からも木虎に聞いてみるよ」

 

 遥と連絡を取れなかった時用か。そこまでしなくてもいいのに、嵐山さんいい人だな。木虎のことも心の底から気にかけてるんだろうな。

 

 嵐山さんの予想通り、木虎はトレーニングステージにいたし、遥もそれに手を貸してた。ちょっと木虎の雰囲気が怖い気がする。もしかしてアレかな。木虎は俺に教わるのも嫌だったりするのかな。

 

「……来たんですか」

 

 もしかしてが当たったなこれは。どういうことかを遥に聞くのも駄目だ。顔を見なくても分かる。板挟みになって苦しんでるんだろ。遥はそういう女の子だから。

 なら、俺がやることは決まったな。

 

「木虎の葛藤でも見届けてやろうかと」

 

「なら帰ってください」

 

「──っ!」

 

 遥が口を挟む前に手で制する。何も言わなくていい。

 遥がやることはもう終わってて、ここからはすべて俺が引き受けることだから。

 

「トリオン量で悩んでるんだろ? 生まれた時から決まってるものだから、そこは諦めろ。……もしかしたら伸ばし方があるのかもしれないが、現状ではそこを模索するなんて時間の無駄だ」

 

 それをやるのは俺たちエンジニアの仕事だ。

 

「分かったようなことを言わないでください。エンジニアのあなたに何が分かるんですか!」

 

「お前の苦しみは知らん!」

 

「っ!! だったら──」

 

「──けど視野を広げてやることはできる」

 

「…………は?」

 

「トリオン量の数値は4なんだろ? 俺は5だから、そこまでの差はない。平均よりは低い」

 

 そんな俺でも、エンジニアの1人として、トリガーの試運転を任されている。孤月から何まで。全てのデータを取って、組み合わせも思いつく限り試して、有効なトリガーを正隊員に回してる。加古隊が試作トリガーを使うことも増えてきたけど、役割はまだまだ現役だ。

 

「太刀川さんとか当真さんみたいな変態は一旦頭から外せ」

 

「変態って……」

 

「ボーダーのトリガーは汎用性がウリだ。戦術の幅なんて隊員が思いつく限りある」

 

「私にもそれを増やせと? それぐらい自分でも気づけてます!」

 

「まだ甘い」

 

「なっ!」

 

 木虎の戦闘記録も全部見た。C級の時のから、B級に上がった後のものまで。

 

「木虎、自分がヒーローとでも思ってるのか? 残念だったな! お前は嵐山隊のエースになれてもヒーローにはなれない!」

 

「……何が違うんですかそれ」

 

 全然違うだろ。ヒーローはなんだってできる奴だぞ。みんなの原動力になるような、火薬みたいなやつだ。エースは切り札だ。何でもできる必要なんてない。必要なタイミングで刺す。そんな奴だ。

 っていう説明をしたのに木虎がイマイチ分かってくれない。何言ってんだって顔に書いてある。チラっと遥の方を見たら、にこっとだけ微笑を返された。相手によって伝わらないやつっぽい。

 

「木虎は元々銃手だよな? んで、トリオン効率のいいスコーピオンを選んだ。近中距離を担う万能手を目指していると」

 

「そうです」

 

「目の付け所は完璧だ。あとは経験を積んでいけってぐらいに。でもまだ足りないことがある」

 

「……」

 

「まず基本的なことを確認しよう。トリオンはトリガーを使えば消費するし、被弾しても消費する。だから、大きなものでなくとも被弾は避けるべきだ」

 

「当然ですね」

 

「そう、()()()()()()()()。それ自体にまず意味がある。この場合、木虎が生存しているというだけで、敵にとっては意味のあることだ。そんなわけで、落ちない立ち回りってのが大事だな」

 

 これも木虎は分かってるだろう。

 だから、本題を言ってやる。

 

「そのためにも木虎は胸削ろうぜ!」

 

「……………………は?」

 

「錬くん何言ってるのかなー?」

 

「いや真面目な話! 体の大きさは的の大きさだ! 木虎は小柄だけどその胸が被弾のリスクを上げてる! 映像でも見たぞ! 胸のせいで被弾してるの見たんだぞ! 遥より大きそうだから仕方ないけど! ならまずヒットボックス削るためにも胸小さくしようぜ!」

 

「錬くん?」

 

 やろうと思えばできるはずだ。太ってる人がトリオン体なら痩せてるってパターンもできる。これは既にゾエさんで確認済み。ゾエさんはスリムな自分に違和感しかないって言ってリアル体型に戻したけど。仁礼も絵馬も、太ってるゾエさんの方が落ち着くとか言ってたけど。

 ずるいよな。ゾエさん痩せたらただのイケメンだったもん。メテオラ投げたわ。

 

「筋は……通ってますね……」

 

「落ち着いて木虎ちゃん! これセクハラ発言もいいとこだから!」

 

「で、でも綾辻先輩。負傷が減ればその分チームに貢献できますし……」

 

「そういや、トリオン体と生身のギャップが脳や体にどう影響を与えていくかってのは不明なんだよな。もしかしたら木虎生身でも胸小さくなるかもしれん」

 

「チームのためなら……それにそのデータがボーダーのためにもなるのなら……」

 

「木虎ちゃん!?」

 

「止めないでください綾辻先輩! 私もう足を引っ張りたくないんです!」

 

 ほい、やっと本音が出たな。

 

「私が嵐山隊の穴って思われてるのも知ってます。C級の人たちに陰口叩かれてるのも知ってます。そんなの……もう嫌なんです! 誘ってくれた先輩たちのためにも、町を守る役割を担う者としても! 私は……!」

 

「木虎ちゃん……」

 

 嵐山さんたちに欠点があるとすれば、隊の人間がみんな良い人過ぎることだ。木虎みたいな生真面目な奴が、そこで伸び悩んだらまず周りのことを気にする。それが重荷になる。

 そして木虎は弱音も吐かない。嵐山さんたちも、話を聞く聞かないの葛藤が起きる。悪循環が生まれてもおかしくない状況だ。そうならないのも、嵐山さんたちの人柄で保ってただけ。遥の独断行動はファインプレーだな。

 

「木虎。持つ者と持たざる者。その2人が戦ったとして、持たざる者が勝つにはどうしたらいい?」

 

「嫌味ですか? ……策を練ります」

 

 間違いない。この子と俺は相性が悪い。でも嵐山さん任せてください。この子はちゃんと成長しますよ。

 正解だと言ったらちょっと表情明るくなった。もしや心中を吐露して知能指数下がったか? いつもの仏頂面よりも、そうやって分かりやすくコロコロ顔を変えてる方が愛嬌あっていいぞ。

 

「木虎は賢いな。ちゃんと自分の力でも成長できるよ」

 

「え、何ですか急に……。怖いんですけど」

 

「言ったろ? お前の視野を広げてやるって。今の質問への俺の解答は、()()()()()()()()()だ」

 

「なっ! 今2人が戦ったらって言ったじゃないですか!」

 

「うん。実際ランク戦でも、味方と合流する前に接敵したら1on1だな。木虎が言ったように、そこで策を使って戦うのもいい。でもな、味方と協力した方が勝てるだろ? 自分がダメージを負うリスクも減る」

 

「前提条件を有耶無耶にしないでください」

 

 木虎の文句ももっともだ。でもここで折れてやらない。

 

「その前提条件、つまりは思い込みだな。そこが視野を狭めるんだよ。木虎が1on1だと思ってても、相手が同じことを考えてるとは限らないだろ?」

 

「っ!! それは……」

 

 思い当たるものがあるはずだ。C級とB級の違いはまさにそこなんだから。

 集団戦というものを根本的に理解できているかいないか。そこを分かっていなければ、相手にとってこれほど楽な相手もいない。嵌めやすいからな。

 

「味方と協力するってのはそういうこと。んで、木虎の言った正解の方も具体的に言ってやろう」

 

「相手より優位な状態で戦いをする、ですよね?」

 

「分かってんじゃん。相手が強いなら、その強みを抑えてやればいい。勢いを一旦削ぐのでも十分。んで、トリオン量の少ない木虎にオススメなのがこれ! スパイダーちゃんです!」

 

「トリガーにちゃん付けしてる人初めて見ました」

 

 うるさいですね。だってこのトリガーの考案は俺なんだからな。俺が作ったと言ってもいいトリガーなんだからな! 使ってくれる人全ッ然いないけど! 別に悲しくて木虎に刷り込んでるわけじゃないからな!!

 

「スパイダーって地味じゃないですか?」

 

「スパイダー舐めんなよ? 敵には見えにくく、味方には見えやすいという設定が可能。ワイヤーの太さもある程度変えられる。罠張り放題だ。レイジさんはメテオラと組み合わせて使ってくれてます!」

 

 リアルにある地雷と同じ原理。ワイヤーで足を引っ掛けてそれでメテオラが爆破という仕掛け。地形も利用すれば強力です。メテオラが強いだけ? 引き立て役を舐めんな!

 

「スパイダーはどう活用するか、それは木虎次第だ。木虎なら、これを組み合わせて戦えるさ」

 

 スパイダーの紹介。俺がやるのはそれだけでいい。あとは木虎自身がどうとでもするさ。

 

「そうそう。A級になったらトリガーを改造できる。上がったら木虎のトリガーも改造してやるから頑張れ!」

 

「ありがとうございます。流川さん以外に頼みますね」

 

「なんでだよ!」

 

 爽やかな笑顔で言いやがった!

 

「錬くん」

 

「ん?」

 

「ありがとう」

 

「これぐらいいいよ。遥の頼みなんだから」

 

「……うん。それはそうと、さっきのセクハラ発言なんだけど」

 

 おっと用事があった気がする。私はここいらで退散させてもらいま──

 

「木虎ちゃん。銃トリガー貸してくれる?」

 

「ひっ! ど、どうぞ」

 

 洒落にならんよ!?

 

 

 

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