俺と三上ちゃんは友達なわけだけど、関係性がいろいろある気がする。辻とは対等な友達で、お互い助力したりしてもらったり。学校ではよく一緒にいる。仁礼の場合は男女間の友情ってやつを実現してる感じ。ノリで言えば一番息が合うのかもしれない。辻はクールな方向性だから。
そんな中、三上ちゃんはちょっと特殊な気がする。元先生と教え子。頼りにされたり世話してもらったり。上下と対等が場面ごとで違う感じ。不思議とどれも心地良い。
「時間通りに来ると思ってた」
「三上ちゃんなら早く来るだろうなって思ったから。仁礼が相手なら時間通りだよ」
「わかられてるのは嬉しいけど、女の子と2人なんだから別の子の話はよくないよ?」
「仁礼と仲悪かったっけ?」
「そうでもないけど、そういう問題じゃない」
これが女心というものだろうか。共通の友達の話ならいいんじゃないかなって思うんだけど、違うのだろうか。
「男女2人で出かけるのを、一般的になんて言うでしょうか」
「デートだね。……ふむ、どのラーメン屋行くの?」
「今日は本屋さんだよ」
「頭が良さそうなラーメン屋」
「ラーメンから離れてよ。今日は流川くんとデートしようかなって」
そんな馬鹿な。いや、この前そんな感じのこと呟いてたけどさ。まさか本当にやるとは思わないじゃん。
「三上ちゃんって落ち着いた人のほうが好きだよね? あと甘えられる相手」
「んっ!! な、何を言ってるのかな……!?」
「いや見てたらわかるから」
「……それくらい見てくれてるんだ?」
「教え子のことをわかってる方が、教え方とか決められるじゃん?」
揶揄おうだなんて10年早いよ。
「三上ちゃんの好みって、俺みたいなタイプとは反対だよね。自分で言うのもなんだけど、俺落ち着きない方だし」
「自覚してる分マシだけどね。それに、流川くんは良い人だってこと知ってるもん」
もんではない。そこで少し不機嫌そうにされても。
いや、気持ちを汲み取れなくはない。自分を卑下にするなってことだ。
「それはひとまず流川くん。これはデートです」
予行演習だな。花の女子高生にもなって、デートを1回もしたことがないっていう「さらば青春」なことにならないためのやつだな。
指摘したら顔が赤くなってる。当たったみたい。
「デートなんだから──」
「可愛いよ三上ちゃん」
「ぁぇっ!?」
間違えた。似合ってるよって言うんだった。
でも三上ちゃんは可愛いから訂正しなくていいよな。
「ありがとう」
「どういたしまして」
気を取り直して三上ちゃんの目的の場所へと移動する。デートっていう体らしいけど、いかにもなデートコースにはしないらしい。変な噂が立っても面倒だからね。俺のことを気遣ってくれてるっぽい。三上ちゃんは良いお嫁さんになるよ。
「何の本を探すの?」
「気になる本ないかなって。あと、流川くんが好きそうなやつ」
「トリガーの参考になるものが出てくる作品は好き」
仁礼がよく貸してくれる。っていうのは黙っといたよ。デートということらしいからね。三上ちゃん、漫画のこととなるとなんか仁礼にライバル意識出すからね。
それぞれ好みのジャンルズレてるのに。
「三上ちゃんって結構純愛モノ好きだよね」
「読んでてどきどきするから」
「壁ドンとか妄想するの?」
「し、しないから! そこまで夢見てないから!」
「でも顎クイは想像してるでしょ」
「ふぇ!? ……してません!」
揶揄い過ぎた。三上ちゃんが若干涙目になってる。
「流川くんはコメディ要素ある方が好きだよね」
「純愛100%だとキツイ」
「作品によっては私もそうだね。コメディでも、その……えっちなこと言うやつあって、それ苦手……」
「へー。女子でも下ネタ話すもんだってクラスのやつから聞いてたけど」
「人によるよ! 男の子でもそうでしょ!?」
「それはたしかに。……そこまで必死にならんでも」
「嫌なレッテル貼られたくない」
「それは大いに同意する」
俺は三上ちゃんがそういう話するとは思ってなかったけど。
「……流川くんも、……大きい子が好きなの?」
「タッパか胸か尻か?」
「うわー、その返しは予想外」
肝心の部分をぼかされたからね。
「三上ちゃん。俺は生身の女性の体よりもトリオン体の女性の体の方が好きだよ」
「研究材料として見てるよねそれ」
「もちろん」
自分のトリオン体は男性体だからな。女性体のやつにしたらいいじゃんって犬飼先輩に言われたことあるけど、既存のものを把握してなかったら同じようなものを作れるか不明だ。
男性体のトリオン体と、女性体のトリオン体。その差をデータだけでなく、実際に触ったりして確かめたい。女性用のトリオン体は女性エンジニアが作ってるからなー。教えてって言っても教えてくれなかったし。
「遥のは触ったことあるけど、生身だったしなあれ」
「聞き捨てならない話なんだけど!」
「事故だよ事故。でもどうせならトリオン体がよかった。……三上ちゃん触らしてくれる?」
「トリオン体でもいや」
「だよね」
こういうのを考えると、彼女を作ったほうが早いのかもしれない。
「真衣ちゃんのやつは特殊なやつだよね」
「オーダーメイドらしい。俺は関われてないし、データも貰えないけど」
「そういうデータ管理してくれてるのは女性として安心できるよ」
「信用は大事だから」
「そうだね。私も流川くんのこと信用してるよ」
手伝ってくれないやつもあるのに。
それはそれ、これはこれってやつだ。
「流川くんがちゃんと責任取ってくれるなら、考えてもいいよ?」
「……じゃあ無理だなー。俺、誰かを幸せにすることなんてできないし」
「私は今幸せだよ。流川くんのおかげ。ほら、もう1人幸せにできてる」
そう言う三上ちゃんの笑顔は慈愛に満ちてて、この手の話で後ろ向きになる俺の心をそっと掬い上げてくれる。
幸せになってほしいと、心の底から思った。