鬼を滅する者たちあり。
ある者は愛する者を奪われた憎しみと悲しみを糧に。
ある者は愛する者を守るために刃と力を手に。
ある者は愛する者を人の身に戻すために優しさと慈しみを胸に秘めて。
彼の者たちは『鬼殺隊』と呼び、日夜、鬼と戦い続ける。
「あ〜飲んだ飲んだしこたま飲んだぞ〜」
「確かに飲んだな〜こりゃ明日は間違いなく二日酔いだな」
二人の赤い顔した男たちがランタンを手に暗い夜道を千鳥足で歩く。
「おい、知ってるか?」
「んん? 何をだ?」
片側のほろ酔い加減の男が語りかける。
「こういう月が出ない夜には、出るんだってよ〜」
「は? 出るって何が?」
訝しげに相方に問う男。
「鬼だよ。お、に。人を喰らう恐ろしい鬼が出るんだそうだ。頭からバリバリ食べられちまうんだとか」
「鬼〜? こんな大正の世にか〜? 幽霊ならまだしも鬼ねえ〜」
鬼、と言われてもピンと来ず首を傾げる。まだ幽霊なら話として定番だが。昔話にしかぐらいにしか知らない。赤鬼とか青鬼とか。
「ま、噂だ、噂。そんな話をこの間ちらっと聴いたんだ。何処でだかは忘れちまったが.…………ん?」
「どうした?」
赤ら顔で話しながら歩く男が不意に立ち止まる。
「おい、前を見てみろ。誰か蹲ってるぞ」
「あ? あ、本当だ! なんだ? 女か? こんなところでどうしたんだろうか」
ランタンを前方にかざすと炉端の暗がりに着物の女と思しき姿が確認出来る。
胸と腹を抱えて苦しげに蹲っている。具合が悪いのか。こんな夜更けに。
酔いがあってか多少気が大きくなっていた男らは義憤に駆られて足早に駆け寄る。
「おいっ! あんた大丈夫かっ!? 何処か具合いが────」
慌てて駆け寄りランタンをかざすと闇夜に白い綺麗なうなじが映える和服の俯いた女が浮かび照らされた。
「ああ…………えろうすまんへんなぁ…………急に胸が…………」
ランタンの灯りに照らされた女が顔を上げた。
男らはハッと目を見開いた。
美女。それも極上の。
悩ましげに甘い息を吐いて苦しそうに頬を赤らめ、上目遣いで見上げてくる仕草はまるで遊郭の高級な売り女(め)のようだ。
「い、医者ならこの近くに…………あぁ、でもこの時間じゃやってないか…………」
女は頭(かぶり)を振ると、着物の胸元を広げ緩めて白く豊満な乳房を揺らし大胆に男らに覗かせ見せつけてくる。
「…………あんさん方、ちいっとばかし、あちしの胸を見てくれないやろうか? 苦しゅうて苦しゅうて、なぁ?」
ゴクリと生唾を飲むふたりの男。
夜の帳も遅い深夜、周りには人っ子ひとりいない。月の明かりもない。照らすは手元にあるランタンの灯りのみ。
女は妖艶に微笑み、ゆらりと立ち上がると惚けた男らに見せつけるように着物の胸元をゆっくりはだけた。シュルリと半身を脱ぎ、己れの真っ白な大きな乳房を惜しげなく外気に曝け出した。
「…………苦しゅうて、苦しゅうてなあ。腹が空いて空いて堪らんかったや。でもいっぺんにふたりも餌が釣れて収穫や」
着物から束縛から解放された女の大きな膨らみが、たゆんたゆんっと弾力さと柔軟さを伴いたわむ。白くきめ細かい人の身にしては白すぎる、青白い肌。
まろび出された白磁の双乳。そこにはまるで人間のような大口が開いており、舌舐めずりをしていた。
赤らの酔い顔から青醒める男ら。
そのふたつの口がガバッと広がり長い舌をニュルルンと伸ばしてふたりの男の首に巻き付くと、女は自分の自慢の柔らかで大きな豊乳に引き寄せ────
────咀嚼した。
落ちたランタンの傾いた灯火が揺らぎ暗がりを僅かに照らす。
バキ、ゴキ、グシャ、グシャリ。
闇の奥に半身、裸の着物の女が白すぎる肌を真っ赤に染めて横たわる肉塊に夢中にむしゃぶりつく。
飢えた獣が腹を満たすように。
「…………どうやら、餌の時間だったようだな」
血臭が漂う昏がりに足を止め屍肉を喰む女を見据える何者か。
「誰だっ!? あちしの食事を邪魔するヤツはっ!!」
鉄臭い饐えた臭いを放ちながら、四肢を血塗れた女が『鬼』の形相で振り返る。
鬼。
女の姿は異形の化け物、醜く歪んだ牙を剥き出した裂け広がる口。大きなふたつの胸にも牙がぞろりと生えた口が。
まさに鬼そのものであった。
「…………上位の鬼ではなかったか。ハズレか」
長衣の袖を軽く振り、軽く腰に帯びた太刀に手をかけ、ぴんと背筋を伸ばして立つ姿は、他を寄せ付けない力強さに満ちている。
消えかかりそうなランタンの淡い灯火がゆらりと照らす。
真白な麗髪が腰先まである、まるで御伽草子に出てくる遮那王のような見まごうほどの美丈夫。いや、白を基調とした藤色の行灯袴の長衣のという出で立ちだが胸元を大きく押し上げる豊かな膨らみがあることから紛れもない女であることが窺える。
「…………女? あちしは女は嫌いさ。食うなら男が美味いね。女は要らない。それにもう腹は満腹なん、よっ!」
女は血染めの耳まで裂けた口角と豊満なふたふりの乳房に開いた大口から長く太い鞭のような赤い舌を食事の邪魔をした闖入者を拘束するべく伸ばした。
いきなり殺しはしない。腹が満たされて気分が良い。食事の後の余興に手足をもいでたっぷり痛ぶって泣き叫ばせて弄んでから殺す。
男は遊んでから殺す。激しく行為をしながら昂ぶるまま血肉を貪るのも好きだ。女は散々痛めつけてから殺す。特に見目いい女は念入りに。
今までそうしてきたように。
────"虚(うつほ)の呼吸 壱ノ型 影楼正鵠"(かげろうせいこく)
玲瓏と言葉を紡ぐ白い長衣襦袢の女。
一瞬の迷いも見せず、腰に刺していた鞘から太刀を抜き放った。
その力がほとばしるかのように、刀身に黒い陽炎が揺らいだ。
吹きつける風が長い白銀糸の髪を一文字に後ろへと靡かせる。
異形の女化け物の伸ばした舌が横一線に水平に斬り裂かれ、耳元まで裂けた大口を開けたまま女の首が横にズレて落ちると、半裸の肉体が順番に細切れた。
血溜まりの中、異形の切り断たれた腕を拾い上げる女。
その血が滴る肉塊に紅い唇を寄せ開くと、鋭い牙が見え、
────齧りつく。
「…………違う………この鬼の血ではない………薄すぎる。此奴ではない………また狩るか」
女が食らった腕片を放り捨てると、燃えるように異形の骸が塵芥となり霧散していく。
すでに女の姿は影形なく、残されたランタンの灯火も徐々に小さくなって、やがて消え、すべては闇に包まれた。
アニメ第2期おめでとう