────いのちきらきら まいおひいて
つむぐあしたは そはしりえたもう
まよいまよいひて ゆくはかたわれ
みちゆきふさぐは さをざしのとげ────
当たり一面に白い毛玉が埋め尽くす。
異形の鬼から放たれた毒の鱗粉。吸い込めけばもちろん、肌からも浸透する強力な猛毒だ。たちどころに身体の制御を奪い、やがて内臓を溶かす。
女剣士は少し考える。背後の少年たちをどうするか。護るか無視して鬼と戦うか。後者ならば少年たちは死ぬ。
墨色の髪の少年が背負う木箱から何かが勢いよく飛び出す。
「!? 禰豆子っ!!」
"血鬼術 爆血"
黒髪の竹筒を咥えた少女が躍り出て自らの血を振り撒いた。
少女の血を浴び、たちどころに鱗粉はことごとく燃え尽きる。
毒鱗粉はすべて焼かれ消えて阻まれ届かない。
「なっ! 鬼!? 何処からっ!? どうして鬼がっ! 私の鱗粉をっ!? くっ、ならこれはどうっ!?」
"血鬼術 毒蛾爆刧燐"(どくがばくごうりん)
再び羽ばたく異形の鬼。辺りに舞う埋め尽くす鱗粉が次々と爆破する。ひとつの鱗粉の爆発が誘爆を引き起こし多段発破し威力が倍増する強力な血鬼術。しかも強力な猛毒を撒き散らすオマケ付き。同族の鬼ですら即死させる。
"虚の呼吸 弐ノ型 影菱夢幻"
太刀を構えた白衣(びゃくえ)の女。黒刀の刀身から黒塗られた陽炎が拡がり波紋を描き出す。
鳴り止まない爆撃と閃光が山間を包み込む。
やがて止み鎮まり、徐々に粉煙が薄まる。
「…………派手な花火だったが、季節外れのしろもの。大したものではないな」
女剣士は平然と刀を構えて佇む。しかもまだ動けない三人の少年たちと鬼の少女を庇うように前へと。彼らの周囲の地面だけが大きく抉られ無数の穴だらけであることから先程の攻撃は相当な威力であったと窺い知れる。
「俺たちを、護ってくれた…………?」
「…………わ、私の血鬼術を受けて無傷? そんな…………っはっ!? まさか柱っ!?」
驚愕の表情の鬼。
上弦に血戦を挑むべく人間を喰らい続けて力を蓄えていたのに。
こんなヤツがいるなんて聞いていない。
逃げねば。逃げ出さねば。
鬼が撤退行動を直ぐに考えたが、視界が上下逆様にいつの間にか変わっていることに気が付いたのは自分の身体が塵となり消えていくのを見たからだ。
斬り落とされた首をなんの感情も無い氷の目で見下ろす剣士の女。
怖い。
怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。
あのお方も恐ろしかったがこの女はもっと恐ろしい。
鬼は最後まで恐怖に震えながら風に混じり消え去った。
「…………この鬼でもなかったか。多少なり血が濃かったようだが」
女は太刀を鞘に納刀し塵芥となり散った鬼を眺めて呟く。
「あ、あのっ! 俺は竈門炭治郎と言いますっ! 助けてくれてありがとうございますっ! あなたは鬼殺隊の方ですかっ? 何処でその剣技を習ったのですかっ!! 教えてくださいっ!!」
墨色の髪の少年が這いながら問う。鬼を容易く屠る。凄まじい剣技。煉獄さんの技にも引けを取らない威力と正確さ。そして気付いた。太刀筋が似ていたこと。ヒの呼吸と。この人は何か知っているのかもしれない。そう思ったら言葉が口から出ていた。
「…………私は鬼殺隊というものではない。剣の技は我流だ。誰かに師事したわけでは無い。戦いの中で憶えたものに過ぎない」
白い女剣士が興味なさげに答えて立ち去ろうとする。
「あっ! ま、待ってくださいっ! 名前をっ!」
炭治郎がまだ幾ばくか痺れが残る身体を必死に動かす。この人の匂いを憶えないと。
ギュッ
女剣士の白衣の裾を掴んだ鬼の少女、禰豆子。
涼やかな眼差しで女剣士を見つめる。
「妙な気配を感じたのはこの鬼混じりの少女か………………幽螺魏。私の名だ」
女剣士はスルリと袖を払うと、振り向くことなく闇中に消えた。
何処か日本家屋の屋敷。
反物の単着物(ひとえきもの)を纏った妖艶な女が空に浮かぶ月を眺めていた。
傍らには美しい音色で琵琶を引く女。
「…………また一匹、斃された。なんだコイツは。何故私の支配下に置かれていない? この『鬼』はなんなのだ…………」
ビキビキと血管の筋を整った美貌に隆起させ牙を剥き出す。その姿は恐ろしい鬼という存在そのもの。
「鳴女。上弦の月をすべて呼び集めろ」
「承知しました。無惨様」
ベンッ! べベンッ!
琵琶の音が高く響く。
襖が閉まる。
障子が閉まる。
扉が閉まる。
すべてが掻き消えた。