──まるで童女のように、少女は歌い踊る。
それはアイドルとは思えないほど未熟で稚拙で、素人が
「──どうでした? 私、いけてました?」
息を乱しやり切ったと言わんばかりの彼女に対して、私はどう返せば良いのだろうか。
これが何かの試験で私が審査員なら、百でも二百でも指摘すれば良いだけの話。もしアイドルに憧れるだけの少女であれば、出来得る限りの笑みで優しく褒めればそれで済むことだ。
──だが違う。彼女はそのどちらでもない。少なくとも、今はまだ星を追う者ですらなく、見上げるだけの存在でもないのだ。
「……まあ最初なら上手い方なんじゃないか? それにしても……随分と懐かしい曲だなそれ」
「──夢唯さん。もしかしてなみちゃんのこと知ってるんですか!?」
私にしては珍しく言葉を取り繕ったが、七草は予想とは違い、曲に触れたことに興奮していた。
「なみちゃん……ああっ、八雲なみか。歳に合わず古いの知ってんなぁ」
「そうなんです! 今はあんまり話題には出ないけどすごかったんですから!」
八雲なみ。それは二十年程前に煌めいた星ある界隈では“かみさま”なんて呼ばれている伝説に名を連ねる一人。今でさえ時々聞くことのあるお茶の間でも伝わる名前だ。
今では考えられないくらい陰りを見せていた当時のアイドル文化。最早過去の遺物に変わりつつあった灰色の時代に一石を投じたアイドルで、僅かな期間しか活動してなかったこともあり知る人ぞ知る人となった過去の星なのだ。
また、八雲なみは経歴もそうだが技術面も素晴らしいものだった記憶がある。
私が過去のアイドルに調べた際に目を引くものがあり、そのパフォーマンスに関しては思わず息を呑んだほどの完璧──まさに黄金比というべき存在だった。
……まあ日高舞の究極自然体に憧れた私にとって、八雲なみは酷く歪な存在に思えてしまったというのが本音なのだが。
ともかくそんな実力のある人ではあったが、流石に今はあまり名は聞かず殆ど過去になってしまっていた。
このアイドル飽和時代。過去に目を向けなくても自分に合う輝きを見つけられる今、日高舞と同じように過去の偉人と化してしまっているのだ。
「やっぱりなみちゃんはすごいんだなぁ! 夢唯さんみたいな人も知ってるくらいの人だし!」
「……好きなのか?」
「もちろんですよ!! だって、私がアイドルを目指すきっかけですし!」
八雲なみについて話す彼女の笑顔は酷く見覚えのあるもの。鏡の前で散々見続けて来た懐かしく忌々しいあの表情。
──ああなるほど。八雲なみについて話す七草を見ていたら、どうして彼女に懐かしさを感じたのか少しだけ理解できた気がする。
大好きなものに憧れ、その姿こそ至高だと誰よりも盲信する様。
──ああ、まるで過去を見ているよう。かつての折れる前の私──音無夢唯が日高舞を超えようと足掻いていたあの頃を呼び起こすのだ。
……まあただの推測と想像だ。和たちと違って
けれどきっと、この少女も私と根本は同じ。限りなく遠い夢の果てに手を伸ばし歩き続ける──輝きに魅入られた少女なのだろう。
──ま、頑張れよ。この道は地獄だが、それを覚悟で歩くのが私たちアイドルの業という奴なのだから。
「……まあ頑張りな。何かあれば相談くらいは乗るからさ」
「──あ、ありがとうございます! あ、あのー……もし良ければなんですけど……」
話はゆっくりと恙無く進んでいく。
結局途切れたのはプロデューサーが戻ってきた頃。丁度サインをねだられて、何処に書こうか迷っていたときだった。
これはまだ七草にちかが『W.I.N.G』にエントリーする少し前──緋田美琴が283プロに入るちょっと前の些細な一幕。
靴を履くために身を削る凡人に対して私が感じた──どうでも良い第一印象だ。
これで終わりです。
一応美琴さん実装前に書き始めたのにこの遅さ。本当にどうにかしたい。
あと一応アンケート取るので答えていただけると嬉しいです。
今更だけどプロフィール載っけた方が良い?
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