鬼舞辻無惨には、弟至上主義の兄上がいる   作:ふるふる

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鬼滅を通しで一回しか読んでいない。
単行本も持っていない。
そんなヤツが思いつきで書いちゃった話なので、お察しくだせえ


千年前

 

 人間だった頃の無惨にとって、父と兄は憎悪をたぎらせる対象だった。健康体なだけでも腹立たしいというのに、二人の男は輝かしいほどに恵まれた肉体を有していたからだ。

 人より飛び抜けて大きく、頑丈で、病一つせず、健やかな身体。

 無惨が欲しくて欲しくて堪らないものを、よりにもよって身近な血縁者が見せびらかしてくる。毎日、気が狂わんばかりに憎悪した。

 母の事も、憎んでやまなかった。

 無惨が弱々しい身体となった原因だったからだ。出自だけが高貴な、病弱な女。

 あんな者の腹から生まれてこなければ、無惨だってこんなにも病弱ではなかったはずだ。

 無惨を産んでからより一層身体を弱くして、無惨が十歳になる前に死んだ女。彼女と無惨は、よくよく似た容姿に、気質もそっくりで、虚弱な体質まで同じだった。そんなだから、お互いがお互いを嫌っていて、同じ屋敷でも離れて暮らし、顔を合わせる事もそうなかった。

 なのに、いざ女が死んだと聞かされた時には、無惨は泣き暮れて明かした。自分自身の死を見たとしか思えなくて、声が枯れるほど嘆いた。

 全てが憎くて、腹立たしくて、死ぬのが怖くて仕方なかった。

 死にたくなかった。生きていたかった。

 全ての望みが生に向かっているのに、何故誰も叶えてくれないのかと憤った。

 無惨の日々は、憎悪と怨嗟で支えられていた。

 

 残った血縁者二人のうち、無惨は兄である男の方がより憎かった。どれだけ罵っても物を投げつけても、ケロッとして現れる男である。

 奴への憎しみは筋金入りだ。

 なんせ、無惨の視界が明瞭になって、はじめて見たものが、幼い奴のクローズアップされたデレ顔である。

 無惨が懸命に乳を吸っている最中だというのに、眉も目尻も垂れ下がった締まりのない表情で「むざん〜うまいか〜?」と迫られ、頭を撫でられたのだ。

 赤子ながら、無性にイラッとしたのを覚えている。

 それ以降も、無惨の人間時代の記憶のほとんどは、兄との事象で占められている。

 誠に腹立たしいことだった。

 年がら年中死にかけだった無惨は、重い重い不調に耐えながら、兄という男の存在にも耐えねばならなかった。

 奴は存在自体が忌々しいのだ。

 無惨が欲してやまない健やかで恵まれた肉体を有している事実だけでも、百回地獄に堕ちて然るべき存在であるのに、その性質自体がまずもって無惨が毛嫌いする類いのものだった。

 奴は底抜けに明るく、前向きだった。喜怒哀楽の喜楽のみを詰め込んで出来たような男で、その感情の発露も大袈裟で、顔で喋っているような有様なのだ。

 無惨が「いや」と喋れば「しゃべったあ!」と喜んで、立って拒絶すれば「立っているぞ!」とはしゃぎ出す。歩いて避けたら「歩いた歩いた!」と有頂天で、死ねと文をしたためれば「もう覚えたのか!」と踊り出した。体調が良く、はじめて屋敷から出られた時など「無惨……! 無惨……!」とだけ笑顔で繰り返し、涙と鼻水をズルズルさせながらベッタリ側に張り付いてくるのだった。

 うるさい。うざったい。存在そのものが煩わしい。憎しみが内側から延々湧き上がり、毎回毎回、消えろ、死ね、とだけ無惨は願った。実際そう主張もした。

 奴は「可愛い弟がいる限り兄は消えん!」だとか、「愛する弟がいる限り、この兄は死なん!」だのとのたまうだけだった。

 男は、兄弟という関係に強いこだわりを持っていた。ことさら兄としての振る舞いに熱心で、兄である事がひどく誇らし気だった。兄弟という単語に、なにがしかの勝手な価値を見出し、それを無惨に押しつけて来た。

 無惨には理解出来ず、理解したくもない考えだった。

 先に生まれたから何だというのか。ただの血縁関係における位置付け、ただの名称だ。石ころほどの価値もないのに。

「価値はある! 絆だ! 俺とお前には、父と母から受け継いだ、切っても切れぬ兄弟の血の絆があるのだぞ!」などと気持ち悪く言い募られた無惨は、至極冷静に「そもそも先に生まれた貴様が母の腹の中で滋養を余さず吸い取ったから、後に生まれた私がこんな状態なのだ。兄弟の絆とやらを主張したければ、まず責任を取って死ぬべきだ」と道理を諭してやったのだが、阿呆の返答は飛び抜けていた。

「死んでしまったら、可愛い無惨は俺という兄を失ってしまうではないか……」と眉をハの字に下げ「──だから俺は死ねん! この兄は、弟を寂しがらせたりしない! 無惨、我ら兄弟は、共に百年生きるぞ!」と白い歯を見せつけてくる。「……俺はその百年の間に、いつかお前を喜ばせてやりたい」というおまけの呟きには、吐き気と鳥肌が止まらなかった。

「私を喜ばせたいなら死ね」と何度教えてやっても「ハッハッハッ! それではお前の喜んだ顔が一度しか見れないではないか! この兄は強欲なのだ!」だとか「何だ無惨、照れておるのか? 可愛いなあ!」である。

 全くもって会話が通じない生き物だった。

 頭が弱い以前の問題だ。異常者である。

 もはや無惨にとって、兄という奴は妖怪変化の類いであった。自分の主張なぞ無力なのだと分からせられる、おぞましい存在だ。

 父はまだマシだった。女が死んでからは足が遠のいている。

 

「無惨、菓子を持って来たぞ!」

「出て行け」

 だが、この男は違った。女の死後はそれにも増して構い倒してきた。

「無惨、今日は雨だなあ!」

「顔を見せるな」

 ゆるんだ阿保面を下げては、どうでもいい事ばかりを勝手に話して、自由気ままな振る舞いをする。

「無惨、梅の枝を飾ってやろう!」

「死ね」

 屋敷から殆ど出たことのない無惨に、外の世界を見せつけるだけ。この病弱な身体を治してくれるわけでもない。

 うるさく、役立たずで、身勝手で、理解の及ばない憎むべき敵だった。

 父という人間の血筋に沿った男の恵体が、喉から手が出るほど妬ましい。兄として気遣いを見せたいなら、そもそも生まれてくるな。弟を喜ばせたいなら、真実今すぐ死んでくれ。

「私がこんなナリなのは、貴様のせいだっ!」

 成人して史官したので遠出が増えた、見舞いが減ってしまう──そんなふざけた謝罪を吐かれた時にも、無惨は体力の許す限り男を罵倒した。

 頼んでもいない報告などいらないのだ。成人すら出来ないと判断された無惨をあざ笑っているのか。差を見せつけて悦に入っているに違いない。

「貴様のせいで! 貴様さえいなければっ!」

 男が居なければ、無惨はもっとマシな人生を送れたはずだった。

 

 それ以降、宣言通り、兄という男の訪れは徐々に減っていった。無惨は清々した気持ちで日々を過ごした。

 男から届く細々した見舞いの品を投げつけたり、家の者らが男の出世話に花を咲かすのを耳にする度に怒り狂いはしたが、アレ本人が顔を出すよりかは遥かにマシだ。

 無惨はなんとか成人を迎えた。少しは心穏やかになったお陰だろう。敷地内から出る事も出来ず、職にも就けず、妻も娶れていないが、死ななければそれでいい。

 延々と沸き起こる憎悪と憤怒を抱えながらも、無惨はなんやかんや病弱な人生と向き合っていた。

 

「役立たずども……」

 しかし、二十代半ばに、死の気配がより強くなった。足元にヒタヒタまとわりついていた死の気配が、ベッタリと背中に這い上ってきていた。

 ひんやりと冷たい不吉にのし掛かられて、身体を起こすのも億劫だった。いっそ恐怖に狂えればいいのにと涙した。

 その涙すら拭えなくなって、無惨はやがて死体同然になった。起き上がることすら出来ないのに、無惨の弱った身体は苦痛だけを拾う。

 辛い。苦しくて、痛い。ひどく寒い──なのに、無惨の精神だけは燃え盛っていた。

 死にたくない。死にたくない。生きていたい。生き続けたい──生を希求する精神が、ごうごうと火炎を上げていた。

「役立たず……貴様らは、役立たずだ……」

 医師も、祈祷師も、陰陽師も、家の者らも、あの男も。ありとあらゆる人間が、皆等しく役立たずで、無能である。

 無惨のたった一つの望みさえ叶えられないのだから。

 

「これをお飲み下さい」

 その薬は、見慣れぬ医師から差し出された。父という役割の無能の話によると、兄である件の男が、無惨の為にと、何処ぞから探し出して来た者の一人だという。

 恩着せがましさをたっぷり呪ってから、無惨はその薬を飲み干した。死なない為に、藁にもすがる思いだった。

「これは……!」

 数日して、無惨は薬の効果を実感していた。

 身体から寒さが遠去かったのだ。床から起きられるようになり、息苦しさが薄れ、痛みや辛さが激減した。ここまでの劇的な効果は、無惨の長い長い闘病生活においても類をみない。

 これなら、もしかしたら。

 待ち望んだ希望を鼻面に垂らされ、無惨は明日を待ち侘びるようになった。今日よりも明日。明日よりもその先。これからの未来。

 目に見える結果に、無惨は可能性を見出した。

 

 けれど、それも少しの間だった。薬の効果が滞りはじめたのだ。

「これでは前と変わらない……!」

 起き上がれても、屋敷から出られるほどではない。調子が良くても、常人よりも遥かに虚弱。死の気配は、相変わらず無惨の足元にはべり、すり寄ってこようと待ち構えている。

「これで、この薬は最後です。これからは──」

「──これからなど、あるものか!!」

 無惨は激昂のまま医師を殺した。見せつけられ、取り上げられたことが許せなかった。他と変わらぬ無能の分際で、よくも希望を見せたと呪った。よくもよくもよくもよくも──

 してやられた。その考えで無惨は一杯だった。

 結局、たった一つの望みは、手をすり抜けていく。

 今回は期待が大きかっただけに、酷い無気力に襲われた。

 

「……腹が減った」

 うだうだと腐っている間に、無惨は人間から鬼へと変化し終えていた。人間に対してのみ食欲が湧き、太陽の光を浴びると焼け焦げる生き物に再誕していた。

 苦痛から逃れられることが出来たことに、無惨は無邪気に喜んだ。身を苛んでいた病弱さが消え、頑強になったのだ。傷だってすぐに癒える。あんなに妬んでいた恵体より、よほど優れた肉体である。

 ──これで日の光さえ克服出来れば完璧だった。死の気配が完全に消えてないとこだけが不満で、屈辱だった。あの医師を殺してしまったことが悔やまれる。青い彼岸花など、聞いたこともないのだ。

 どうしても最後のひと欠片が手をすり抜ける────生への執着は鬼となっても燃えさかり、炎となって無惨の身を焦がし続けた。

 

 ともあれ、無惨は鬼として過ごした。人間だった頃には出来なかった暴飲暴食にも励んだ。近場の家々から人を攫って、腹一杯食らいまくったのだ。

 都には人喰い鬼の噂が流れ、程なくして無惨の正体は鬼舞辻家に露見した。そこまで真剣に隠してもいなかったので、なるべくしてなったことだった。

「人を喰らうなど……っどこまでも忌み子よ!」

 父であった人間が襲いかかってきても片手でひねり殺せる。羨んだ恵体の血肉を貪ってみれば、中々の美味さだった。苛立ちも徐々に収まり、母だった女も生きていれば食べたのにと、無惨は残念に思った。

 夜な夜な移動を繰り返し、無惨は国中を食い散らかしていく。

 やがて討伐隊と戦ううちに、血を与えれば自身と同じ鬼を作り出せる事実も判明した。

 無惨は自身の万能感に酔いしれながら、望んでいたものを大いに享受した。

 明日への不安なき人生──いや、鬼の生を、我が世の春を満喫した。

 

「無惨……っ!」

 そんな絶頂期の夜のことだ。

 見たくもない顔を見てしまって、無惨は顔をしかめた。兄である男が討伐隊に混ざっていたのだ。

「遠路遥々、ご苦労なことだ。もう鬼舞辻家はなくなったぞ」

「無惨……無惨……っ!」

 男はキリッとした眉をハの字にして、無惨の名を繰り返すだけで無防備に突っ立っていた。

 無惨は群がってくる人間どもを片手間に狩りながら、首を傾げた。

 あれだけ憎悪していたのに、男になんの感情も湧いてこなかった。

 コイツを食ったら舌が腐りそうだな、と思っていたのに、実際見れば、ただ美味そうだなと感じる。涎が勝手に湧いてきた。

 この男を憎むいわれが消えていた。

 無惨は男以上の素晴らしい肉体を手に入れ、思うままに力を振るえる存在となったのだ。無力で、すぐ死んでしまう下等な生き物に嫉妬する理由がなかった。

 焼け落ちた村で、兄弟は死体の山に囲まれて向かい合った。

「無惨……元気になったんだなあ」

 男は雲間の三日月に照らされて、記憶より老けた顔をへちゃりと歪めた。泣き笑いだった。

 この再会を喜んでいるのだと気付いて、無惨は心底呆れた。現状を理解出来ていないのだ。男は得体の知れぬ生き物であったが、阿保もここまで来ると憐れみすら感じた。

「ああ、貴様が寄越した医師のお陰で、私はこうして元気な人食い鬼となった。礼を言うぞ」

 丁度腹も空いていたことだ。無惨は阿保でも分かるように、側の死体を食らってやった。音を立てて血を啜り、骨を噛み砕き、肉を咀嚼する。

「美味いのか?」

 男は平然と聞いてきた。

「この人間は、まあまあだ。ああ、父上は美味かったぞ。貴様の味にも期待している」

「──そうか、任せておけ! 若い分、この兄はもっと美味いはずだ!」

 挑発の笑顔で返せば、男は誇らしげに胸を張ってから、ニカッと嬉しそうに笑った。

 さっさと殺そう、と無惨は思った。こいつと喋ると疲れを感じるのだった。久々過ぎて忘れていた。

 無惨は殺して、食べずに捨て置こうと決めた。奴の望みを叶えるのは癪だった。

 鬼の速さで踏み込んでいく。

 振り上げた腕が逞しい胸へ吸い込まれるように入って、あっさりと貫いた。

 長いこと妬み続けた活力あふれる恵体も、鬼の膂力の前では形なしだ。

「何故、抗わない」

 土壇場で無様を晒すだろうと期待していたのに、男は抵抗する素振りもなかった。無惨は訝しんで貫通した腕を引き抜くのを止めた。

 人間だった頃には支えきれなかった体重が、無惨にずしりとのし掛かってくる。臓腑を巻き込んだ腕が温かい。恵体の脈動を感じた。

「父上は顔を真っ赤にして襲いかかってきたぞ? 私は鬼舞辻家に掛けられた呪いの証し、生まれた時から鬼子で、母上が死んだ原因なのだそうだ」

 馬鹿な戯言だ。どれもこれも後付けである。そも、無惨が鬼になったのは、目の前の男が寄越した医師のせいだった。

「それ……は、父上が、悪い、なぁ……。可愛い、無惨よ……兄は、お前が……、健やかに、な、って……嬉し、ぞ」

 男はゆるみ切った顔で言った。死んでいくというのに、ひどく幸せそうである。異常者は死の間際でも異常なのだな、と無惨は妙な感慨を覚えた。

「……でも、おれも……悪、い……兄上、だった……」

「──ほう、ようやく認めたか」

 男の言葉に、無惨は赤眼を細めて嗤った。男への憎しみは消えてしまったが、弱者をなぶるのは楽しい事だ。

「私より先に生まれてきた、それが既に悪なのだ。何度もそう教えてやったろう?」

 もう満足に呼吸も出来ないだろう男の耳元で、無惨は優しく囁いた。

「まだ目は見えるか? 私が喜ぶのが見たかったのだろう。ほら、可愛い弟の姿を見ると良い──」

 無惨は生まれて初めて自分に弟という名称を使った。

「──弟は、兄が死ぬのが、とても嬉しいぞ」

 男の焦点のボヤけた瞳に、ニンマリ嗤う無惨が映り込んだ。胸を貫かれても幸せそうだった兄は、もう笑っていない。弟が待望の喜びを見せたというのに、表情を硬く凍らせている。

 無惨は心底愉快になった。

「どうした? 兄弟の絆とやらがあるのだろう? 弟が喜べば兄も嬉しくなるのではなかったのか? さあ、いつものように笑え、兄上よ」

「……すぁ、ない、なぁ……むざん」

 男の目尻から一筋の涙が流れた。

「……すまな……兄……いな、れば……よかっ…………」

 ひゅーぅ、と男の陥没した胸元から奇妙な音がして、大きくたわんだ。無惨の腕をキツく締め付けていた脈動が絶える。目の光も完全に消えた。

「チッ、あっさりと逝ったな……」

 それきり、夜の静寂が無惨を包んだ。ピンと張り詰めた静寂だった。空を見上げれば、三日月が薄雲に覆われるところだった。

 死んだ。

 男が──兄が死んだ。

 抗いもせず。

 自分が悪いと謝って。

 いない方が良かったと悔いて。

 自ら望んでいたとしか思えない最期を迎えて、あっさり死んだ。

 びゅお、と一陣の風が兄と無惨の間をすり抜け、雲が完全に月を隠した。

「────!!」

 その感情の昂りは、唐突だった。

 消えたはずの憎悪が、腹の底から噴き上がってきたのだ。

 燃え上がった炎が、生の希求にも似た熱さで無惨を駆り立てた。

 突っ込んでいた腕から、鬼の血を撒き散らす。たっぷりと血を注ぎ、片腕を兄の身体に埋めたまま切り離した。鬼の肉体を分け与え、胸の大穴を強引に塞ぐ。

 無惨はゴボリと血を吐き出した兄を地面に横たえた。鬼の血肉が不気味に泡立ちながら、兄の大柄な肉体を修復している。

 なのに、目の光が戻らない。

「ッおいっ、戻ってこい! 兄上!」

 無惨は思い通りにいかなかった結果に癇癪を起こし、復活した片腕を振り上げた。ドン! とこぶしを修復済みの胸元に打ち付ける。

 ──ゴボッ! ヒュッ、ヒューッ! 

 血の塊と、荒い息を吐き出してから、兄がカッと白目を剥いた。全身が跳ね、激しい痙攣を繰り返している。生き返りはしたが、今にも死に戻りそうな有様だった。

「チッ!」

 まだ足りないのかと、無惨は舌打ちした。手首の脈に爪を掻き立て、したたり落ちる血流を兄の口にぞぶぞぶと注いでいく。

 ほんの数滴でも、討伐隊の人間どもは鬼になったのだ。ここまでしてやれば充分だろう。

 痙攣は止まず、皮膚下も不気味に泡立ちっぱなし。人の形が崩れそうな有様だったが、無惨はジッとその推移を見守った。

 

「グ、オオォオオ!!」

 兄は五日後に鬼として再誕した。

「遅すぎる……」

 しかも何だ。目覚めたら目覚めたで、血に飢えた状態が早一月も続いている。理性は見られず、ケモノ同然である。

「はぁ……頭の中身は戻らないのか?」

 闇夜を縫って、四つ足で寒村に駆けていく兄を見送りながら、無惨は悩ましいため息を吐いた。

 明日は捨てよう、今度こそ捨てよう、そう思い続けて日が過ぎている。

 こんな筈ではなかった。サクッと生き返らせて、無惨の怒りをじっくりしっかり解らせてから、もう一度サクッと殺すつもりだった。

 なのに、兄はいつまで経ってもケモノのよう。

 簡単に死を望み、勝手に悔いて終わろうとしたのが腹立たしい。妬ましく思った恵体を抗いもせず手放したのが憎い。最期のいたぶりを聞いていたのかすら怪しいのが癪に触る。自分で兄だ兄だと主張しておきながら、生き続けたいと願う弟と真逆の行動をするなんて、見せつけるにも程がある。無惨は、阿保な兄に思い知らせてやらねばならなかった。あんなもので無く、もっと、盛大にだ。

 身も世もなく嘆き、血涙を流して悔しがり、無様に這いつくばって、死にたくないと赦しを乞われねば。

 そうでなければ、阿保の兄を死なせる気にもなれないのだ。

「明日……明日は戻るはずだ」

 鬼の始祖は、げんなりした様子で明日への希望を呟いた。この怒りと憎しみを解消するには、兄の正気が戻るのを待つしかないのだった。自ら苦行を背負ったことに、無惨は虚脱感すら覚えていた。

 月のない夜のことである。

 闇に沈んだ山間には、人間どもの阿鼻叫喚がこだましていた。

 




鬼舞辻 無惨

一年に一回はお医者さんとかを殺していたヤンチャな病弱少年。
鬼の始祖になった。
鬼に成り立てで、まだ痛覚も結構あったのに、頑張って腕を千切ったりした。
分け与える血の量も、多けりゃいいだろうと思っている頭無惨。
兄上が理性を取り戻すまで、たぶん100回以上捨てて拾ってを繰り返している


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