鬼舞辻無惨には、弟至上主義の兄上がいる   作:ふるふる

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響凱 下

「久しいな、響凱」

 琵琶の音が鳴り、響凱の興奮を一気に冷やす声がした。

「──っ、は!」

 響凱は即座に跪き、心からこうべを垂れた。治まり始めていた汗が吹き上がる。

「食えないままか?」

 鬼の始祖、無惨の軽やかな問いに、響凱の全身がムチ打たれたように震える。数字を剥奪された前回とは打って変わって、無惨はいやに機嫌良さげだった。怒りを抱く価値すらない、と言われたも同然に思えた。

「申し訳、ありません……もう少し……あと少し……っ」

 忸怩たる思いが押し寄せる。死を賜るよりも、御方からの失望が底を尽く方が、恐ろしかった。

 ──稀血さえ食えば……っアレさえ数を食えば……っ。

 恐慌に駆られながら、鮮血の瞳にすがる。感情の読めない冷たい色が、怯える響凱をつかの間見つめ、フイ、と離れていった。絶望が響凱を襲う。

「何をやっている。さっさと出てこい」

 だが、無惨は視線の先──仕切りが吹き飛び、二間続きになった板間と畳の残骸の中──へと呼び掛けた。響凱は「……ああ」と虫けらの存在を思い出した。そういえば、そんなのも居た。

「チッ」

 無反応に苛立った無惨の鬼腕が伸びた。虫けらが残骸の海から一本釣りされる。「ぁわ〜〜」と奇声を上げて、無惨の側に顔からベチャッと落ちた虫けらは、大の字に寝そべったまま、ピクピクと四肢だけ痙攣させた。

「私を無視するとは良い度胸だ」

 無惨が、虫けらの頭部を爪先で蹴り上げた。凄まじい衝撃波が立ち、害虫の腰までがちりぢりになる。響凱は、鼓に掛かりそうになった脳漿をギリギリではたき落とした。

 爆散した虫けらの身体は、驚きの速度で復元した。緩んだ顔は、二日酔いの人間のように青ざめていたが。

「うぇっぷ……ひどい目にあったぞ……」

 口元に手を当てて、虫けらがこぼす。無惨は口だけの微笑みを浮かべた。

「中々に楽しそうだったな」

「散々だ……。今度は座って演奏を聴きたいものだなあ」

 いやに無惨と親しげな虫けらは、あぐらを掻いて臆面もない言い草である。響凱の怒りがカアッ! と再燃した。この屋敷への不法侵入、並びに土足が許されるのは、尊き御方ただ一人。

「……何故か響凱に嫌われてしまったようなんだが」

 射殺さんとギラギラ睨み付けると、虫けらがのたまった。能天気に頭を掻く図太さに、響凱は憤死しそうになった。「貴様がっ……!」と、御前であるにも関わらず、声を荒げてしまう。

「貴様が小生の屋敷にづかづか入り込んで、のうのうと寛いでいたのが悪い……っ! 礼儀知らずにもほどがあるっ! まずは家主に挨拶し、それから上がり込んで良いかと許可を貰うのだ! それがなんだ! あろう事か靴のまま……っあげく椅子まで持ち込むとは……っ! 礼を失するにも程度がある! 恥を知れ、恥をっ……!」

 怒涛の叱責に、虫けらはエッ、という顔で無惨を振り仰いだ。まるで、そそのかされた被害者のような素振りである。響凱の臓腑が焼き切れんばかりに沸騰した。

「なんだその面は……っ! 自分の責を逃れようとでもしているのかっ……!? まずは謝れ! 小生の前に頭を付けて、心底悪かったと謝らんか……っ!!」

「そうだ、謝れ。全て貴様の自業自得だ」

「!?」

「?!」

 無惨からのまさかの同意に、響凱は大変に驚いた。騒がしい、と叩き潰されるのを覚悟していたからだ。問題の虫けらなぞ、大口を開けた上で、抜け抜けと裏切られた者の目をしている。どこまでも忌々しく、狂った害虫である。厚顔無恥の体現者だ、と響凱は確信した。

「口ではいくらでも謝れる。誠意を見せろ」

「誠意」

 ボロボロの屋敷の下、始祖が響凱側に寄り添った発言を続けた。ポカンと繰り返すだけの虫けらに、淡々と頷いてやっている。

「異国かぶれ極まった貴様でも分かるよう言ってやる。謝罪には菓子折りだ」

「菓子折り」

「そうだ。水菓子にしろ」

 響凱もポカンとした。あまりに人間臭い発言だった。

「──おお! そうか! この兄は理解したぞ!」

 自称兄の妄言を吐く虫けらが、バッ! と勢い良く立ち上がった。「鳴女、あの薬を送ってくれ! 俺の部屋の菓子もだ! 珍しいやつを頼むぞ!」と騒げば、ベベンと琵琶の音が響いた。虫けらの腕の中目掛けて、虚空から液体の入った瓶と、異国の様々な菓子がバラバラ降ってくる。

「ハッハッハッ! この兄が作った薬のお披露目を企てるなど、ほんにお前は可愛いこ──とぼあ‼︎」

 菓子も内蔵も撒き散らしながら、虫けらが奥へと飛んでいった。辛うじて残っていた壁を突き破られて、響凱は固く復讐を誓った。御方がお帰りになってからが本番だ。

「私は誠意を見せろと言ったはずだ。どうでもいい物は償いに値しない」

 瓶だけ抱き込んで戻ってきた虫けらに、無惨が青筋を立てて言った。

「そう酷いことを言うな。ほおら、これは中々に良い薬だぞお。それにせっかく送ってもらった菓子が無くなって──」

「菓子なら、貴様が作ればいい」

 無惨が、瓶をガシャンとはたき落として冷たく返した。虫けらのハの字眉毛が、殊更にしょげかえる。

「あー……でもだな。ほら、ここには菓子を作る道具がないから、一旦帰って──」

「くどい。今すぐだ。分かりきったことを言わすな、往生際の悪い」

「………………嫌だ」

 声を尖らせて被せる無惨に、虫けらは、あろう事かムスッとして反論した。始終浮かべていた腹の立つ笑顔を引っ込めて、破れたふすまに視線を逃している。

「あれはお前の為の菓子だぞ。何故余所の子にやらんといかんのだ」

 虫けらは、大きな身体をした良い年の外見で、子供のように口先を尖らせる。無惨は、せせら嗤った。

「そうやって惜しむものをくれてやるのを、誠意というのだ」

「……お前が椅子まで持って行けと勧めたのではないか」

「そうだ。──響凱、私がコレにああしろと言ったのだ。私の言ったことは間違っていたか? お前を怒らせた原因か?」

 無惨にぐりんと顔を向けられて、響凱はハ? と言い掛けたが、すんでの所で飲み込んだ。もう謝罪も何も要らぬから帰ってくれ、という本音も嚥下する。

「いいえ、いいえ……。小生を怒らせたのは、此奴の口笛です……。聞くに耐えない怪音を屋敷中に吹き鳴らしておりました……」

 響凱の暗い申告に、ほれ見たことか、と無惨が嗤う。虫けらは、盛大に叱られた大型の畜生のようにプルプルと震えて、うつむいて黙った。

「私の言うことは全て正しい。何も間違わない。悪いのは貴様で、間違っているのも全て貴様だ。なのに誠意を込めて詫びることも出来ないのか? 礼儀を異国に置いて来たのか? いや、貴様は元よりそうだったな。人の心の機微を無視して我を通すのだ。自分が良ければそれでいいと──」

 黙り込んだ虫けらを、無惨が滔々と責め上げる。無関係である響凱の心すら沈ませるトゲトゲしさにも、虫けらは決して諾とは言わない。よほど嫌なようだが、響凱も嫌だった。虫けらからなど、その首以外、何も貰いたくはない。

「大体、相手に謝れもしない者が兄を称するなど──」

「──分かった! この兄が悪かった! 菓子をやって謝る!」

 しぶとかった虫けらが、ついに白旗をあげた。無惨は汚物を見る目付きだ。

「最初からそう言っている。さっさとしろ。無駄な時間を取らせおって」

 虫けらは悔しそうに唇を噛んだ。「お前のために苦労したのに……」とか「広い大陸で稀血を探すのは大変なんだぞ……」とか「いつもこうだ……」とかブチブチ言いながら、まず左手で受け皿を作り、その上で空の右手をギュウギュウと握り込んだ。

 ──大陸の稀血? それにこの虫けらは一体何を……、っ! 

 戸惑う響凱の前で、虫けらの握りこぶしがゆっくりと開かれた。

 手のひらから、赤黒いものが現れている。それ程大きくないのに、ずるり、ずるるる……、と重たい落ち方だ。

 同時に、響凱は濃厚な血の匂いを嗅ぎ取った。手のひらの赤黒いものの先端から、ぽたぽたと赤い雫が滴っていた。鬼の嗅覚が、人の血だと認識する雫だ。

 けれど、響凱は「うっ……」とうめいて、鼻から下を手で覆った。

 ──何という臭い! 鼻が曲げそうだ! 腐っている……っ!! 

 その雫は、酷い腐敗臭を放っていた。夏場の腐乱死体から抜き取って、百日間も煮詰めたような、強烈な異臭だ。

 ──こんなものを小生の屋敷で出すなどと……っ! 

 

「この子はどんな菓子が欲しいのだ?」

 世にもおぞましい物体を出現させながら、虫けらが無惨へと問う。

「此奴は食が細い。食べたくとも食べられない体質だ」

「……そうか。それは、辛いなあ」

 虫けらの黒い瞳に見下ろされる。響凱の殺意が天元突破した。

 ──哀れんでいるのか! 小生を……っ! 

 響凱は屈辱に駆られ立ち上がった。御前だからと、三人の中で響凱だけが膝を付いていたのだ。

「貴様ぁ……っ!」

「ん? もう少し待ってくれるか。中々時間が掛かってなあ」

 虫けらは、響凱の怒りなどお構いなしだ。眉根を寄せて、間抜けにうんうん唸っている。響凱の両腕は、憎らしい首根っこへと伸びたが、無惨の冷たい一瞥で忌々しく宙を掻いた。

「よし。待たせたな」

 晴れやかな笑顔で虫けらが宣言すると、赤黒いものが、右の手のひらから、左の手のひらへ、ぼとり、と落ち切った。耐え難い腐臭が、屋敷中に充満する。

 それは、一切れの水菓子だった。

 りんごや梨の果実を切り割ったように、ころんとした形で、中心に小粒の種がある。表面はつややかで、妙な光沢があった。色と相まって、鉱物のようにも見える艶だ。腐臭さえなければ、美しいと評せるだろうものだった。

 ──これが、この虫けらの血鬼術……。

 響凱は一時、憤怒も悪臭も忘れて、それに魅入った。赤黒い菓子の一切れには、見る者の視線を吸い込む凶々しさがあった。

「響凱、今日は悪いことをしたな。さ、これを食べて元気を出してくれ」

 腐臭の元を差し出しながら、虫けらがあっけらかんと言う。響凱は全ての罵声をようようの事で鎮めて「御前だ……御前だから堪えるのだ……」とブツブツ唱えた。

「……っ!」

 渋々片手で受け取った赤黒い菓子は、大きさに似合わぬ重みと、ほのかな温かさがあった。えも言われぬ嫌悪感が湧いて、響凱の肌がブワッと泡立つ。

 ──御方がお帰りになられた後で、遠くの川に捨てよう……。

「今、食え」

 無惨の命令だ。嫌々着物の袂に包もうとしていた響凱の全身が、雷に打たれたように震えた。

「…………これは……食えるものなのでしょうか……」

「勿論だ」

 蚊の鳴くような声で哀れを誘えば、強い肯定が返ってきた。なのに無惨は、露骨に鼻に皺を寄せ、後ずさって赤黒い水菓子から距離を取っている。やはり臭いのだ。どうしたって強烈な腐臭である。

「その菓子は、〝コレの血や食った稀血やら〟を凝縮して出来ている。口にした者の能力向上や体質改善をもたらす〝可能性〟がある付与系の血鬼術だ。一時〝理性を飛ばす〟事になるが、〝いつか〟は戻るから気にするな。反動に耐え切れず〝死ぬ〟鬼もいるが、元十二鬼月のお前なら、〝まずは〟大丈夫だろう」

 言う事が聞けないのか、とキレないだけでも驚きなのに、ご丁寧な説明まで頂けるとは。響凱は、有難さと聞き逃せぬ言葉尻に、畏まって震えが止まらなかった。

「分かっているなら、お前こそが食ってくれよ」

「こんなもの食えるか。この臭いをどうにかしてからほざけ」

「ん〜? そんなに臭いかなあ」

 虫けらが、大きな図体を丸めて響凱の手のひらに顔を近付けた。自身で作り出した菓子を、クンクンと匂っている。響凱は避ける事もせず、固まったままだ。彼の脳味噌は、無慈悲な命令に支配されていた。

「……う〜ん、やっぱり臭わんぞ! 大丈夫だ!」

「術の主だからだ。例え臭わなくなったとしても、貴様が出したものなど気色悪くて触りたくもない」

「ハッハッハッ! 出したと言うな、作ったと言ってくれ! そうやって憎まれ口を叩く無惨も──あわげ‼︎」

「早く食え、響凱」

 虫けらを吹っ飛ばした無惨が急かしてくる。

 響凱は、絶句して己の手のひらの上のものを見つめた。震えに合わせて、血鬼術の水菓子も微細に揺れる。キラキラした赤黒い輝きだ。食い物にあるまじき光彩である。そもそも、血鬼術で作ったものを食うなど聞いた事もない。おぞましい腐臭は、酷くなるばかり。鼻が麻痺するどころか、鼻腔を伝って脳髄まで腐らせてくる勢いだ。身の毛もよだつ物体である。放り出さないだけで、もう限界だった。

 ──食わなければ、御方の命だ……。食いたくない……だが、食わねばっ……! ……食いたくない……っ! こんなものっ……だが……っ! 

 決裂した理性と本能の狭間で、響凱はどうにも選べなかった。

 

「響凱、お前には何度も失望させられる」

 冷淡な声音が、迷う響凱を打ち据えた。

「あ……」

「限界を越えるまたとない機会も掴み取れず、私の言葉にも従えない。結局お前は、何者にもなれぬゴミ屑として終わるのだ」

 凍った赤眼に見下ろされる。響凱の心はぐちゃぐちゃに引き裂かれた。

「あ、あ……──ああぁぁあ!!」

 響凱は、獣のような咆哮を上げ、おぞましい菓子をその口へと放り込んだ。ごくり、と喉が動くと、ぞっとする食感が管を通っていく。

「ぐっ……」

 吐き出せ──込み上げてくる本能に、響凱は慌てて蓋をした。多量の人肉を食おうとした時より、拒絶反応が大きい。嘔吐感を両手で押さえ、涙を流しながら全力で飲み下した。

 響凱の全身が、おこりのように震える。脂汗が鳥肌を伝うのが気持ち悪い。ゼイゼイと肩で息をすると、呼吸にも腐臭があった。脆弱な人の身に戻った心地だ。頭痛、吐き気、目眩、悪寒が止まらず、胃液がダラダラと口から溢れている。

「お、遅くなって、申し訳、ありません……」

 しばらくしてから、やっと響凱は許しを乞うた。彼は己の不甲斐なさに恥じ入っていた。

「良くやった、響凱」

 思いもよらぬ言葉である。思わず顔を上げれば、無惨が唇の端を吊り上げていた。

「何度か試したが、どの鬼も私が直接食わせてやらねばならなかった。しかも直後に吐き出すのだ。お前はどちらも自力で達成した。見事だ」

 思ってもいなかった出来事で認められて、響凱ははくはくと口を動かした。やがて過酷な労役を果たした人足のように、ゆっくりと首を垂れる。喜びは思ったより少ない。ただ、ひたすらに疲れていた。

「……ありがとうござい、ま──」

 ひねり出した礼の言葉が、ふと途切れる。胃の腑が、身体が、何かおかしい。ひどく熱い。燃え上がるような感覚が、

「あ? ──あ、ぎぃ、ぃ……

 っ!?」

 響凱の身の内に、地獄の炎が顕現した。

「っ…………っっ!? ……っ!!!」

 灼熱の苦痛が噴き上がっている。声も出せず、もがく事すら出来ない。この世の全ての苦痛を足しても、まだ足りない痛みだった。死に勝る責め苦だ。全ての感覚がそれに乗っ取られている。

 響凱は、糸が切れた人形のようにドサッと倒れ込んだ。時折、わずかに痙攣するだけ。

 

「始まったな」

「……美味さに悶絶、という感じではないものなあ。いつもこれだ。何でかなあ」

 痛みに気絶し、痛みで覚醒する響凱の頭上で、のんびりした会話が流れる。

「貴様の性根の悪さが原因だろう」

「ハッハッハッ! 珠世と同じ事を言う──待て、この兄が悪かった!」

「ほお、その愚かな頭でも学習出来るのだな。では次は、口に出していいのか考えるようになれ。永遠に黙れるぞ」

 殺してくれ、と響凱は声なき声で叫んだ。そうでなければ、せめて意識を失わせてくれ。

「それは無理だな! 可愛い弟を見ると愛でたくて──いや待て! そうじゃない! いやそうだけれども! あれだ、珠世だ!」

「あの恨みがましい女が何だ」

「ほら、彼女ならこの菓子の臭いをなんとか出来ないかと思ってな! 珠世ほど腕の良い鬼の医師は、今も現れて居らんのだろう? 上手いこと探し出せれば、見事改善出来るやも知れん! お前にこうも臭い臭いと貶されると、流石に堪えるからなあ」

 会話が響く頭蓋は、割り開かれたような頭痛に見舞われている。生き地獄だ。

「ハッ、馬鹿も休み休み言え。蛇蝎の如く嫌っていた貴様の頼み事に、あの執念深い女が喜んで頷くとでも?」

「ん? お前は兎も角、この兄はそこまで嫌われてはいなかったぞ。何度か袖にされただけだ。亡き夫に忠実な、良い女だったからな。ま、頼めば何とかなるだろう」

「……そうか。そう思うのなら、貴様の中ではそうなんだろうな」

 絶え間なく襲ってくる苦痛の中で、二つの声が弾けては消える。痛い。苦しい。死に逃れたい。

「ん〜? 何だ無惨、自分だけ嫌われてしまったのが悔しいのか? ハッハッハッ、元気を出せ! 珠世は無理だが、お前を慕ってくれる女性だっていつか必ず現れる筈だ! その為には、まずはその短気を直さんといかんがなあ。あと選り好みし過ぎるのもいかんぞ。ま、繊細な女心は追々学べばいいだろう。子供のお前には少し難しいだろうが──ん? そう不安がるな! お前はやれば出来る子だ! 百戦錬磨の兄もいる! いつでもこの頼りになる兄上が相談に乗ってやるぞお! ハッハッハ!」

 気絶と覚醒の感覚が、じわりと開き始めている。落ちるのだ。

「…………いいだろう。捜索に長けた鬼を幾つかくれてやる」

「おお、急にやる気になったな!」

「やる気を出すのは貴様だ──」

 暗闇の底へと落ちている。悪夢に囚われる予感がした。

「──梅の枝でも作ればいい。あの鬼女を見つけたいのなら、な」

 嘲笑う響きを最後に、響凱はやっと意識を失った。

 

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