天内さんに拾われました 作:ファンリル821
一年が経った。
未来の呪術は下手な呪術師より扱いが上手くなっていた。
「うあああはははははっ!!」
「ちゃんとつかんでくださいね、おじょう」
回転の向きや、強さの把握。
向きを変える事で、風を下から上へと上げ、上昇気流で空も飛べるようになった。
それが出来るようになった事を報告すると、お嬢が「妾も飛びたいのじゃ!」と言ってきたので現在、手を繋いで人目のつかない場所で空中散歩を楽しんでいる。自由度が意外と高い事に未来自身も驚いていたが、回転は中々便利な力だ。
未来は天内の事をお嬢と呼ぶようになった。
一応、拾い主と言う事と如何なる時でも守れるようにと、黒井の真似をしてそこに収まった。
「ただいま、くろいさん」
「ただいまなのじゃ!」
「お帰りなさいお二人とも。手を洗ってきてください」
「はい」
「了解なのじゃ!」
今は三人で暮らしている中で、母親代わりは黒井さんがやってくれている。いつも勉強だったり、常識を教えてくれる事に感謝している。
呪術については他にも、パチンコの玉を回転させる事で下手な銃より威力を出せるようになった。流石に殺傷能力大なので、威力の調整は加減を覚えたけど。
回転のスピードは多分ヘリコプターのプロペラと同じくらいの速さまで上げられるし、「呪術師の中でもかなり強いんじゃ……」と言質を頂いた。
未来が手にする事の無かった幸せな家族の団欒。それがずっと続けばいいのにな、と未来はいずれ消えてしまう天内の手を繋いだまま、心の中でそう呟いた。
★★★★
Qと言う組織に天内が追われている。
黒井から連絡が来た時、未来は風の強さを最大にして空を駆け抜けた。天内の居場所を黒井に送られたのを確認し、目指していたビルが爆発し、落下していくのは……
「おじょう!」
「何っ!?」
昇り風によって天内を浮かせ、短い腕で抱える。
気を失っているだけのようだ。その事実にホッとしながら、天内を落とそうとした男を精一杯睨みつける。
「餓鬼、ソイツを渡せ。殺すぞ」
「……おまえか?」
––––おじょうをころそうとしたのは?
バチュン!と音がした。
超高速で回転させたパチンコの球を男の両肩に二発撃つ。銃弾より早いその球は見事に男の両肩を貫通し、鮮血を撒き散らした。
「う、うわああああああああああああああっ!?」
変な帽子を被った男の悲鳴を無視し、屋上まで天内を運ぶ。
ゆっくりと地面に下ろす。反転術式で念のため回復を促すが、傷は大したものはないらしい。
「凄いね、呪術といい手際がいい」
「!」
「ああ待って、私は味方だ。高専の依頼、と言えば分かるかい?」
「……あなたがごえいさん?」
「夏油傑だ。お嬢さんの事も聞いてもいいかい?」
「神崎……未来」
「……未来……ああ、君が星漿体に拾われた護衛か」
間違ってはいないが、護衛すると同時に家族だ。
少し怒った口調で話す未来が夏油にそう伝えるとごめんと謝罪する。乗ってきた呪霊から降りて、先程の男を呪霊で縛っている。
「あっ、Qとかいうそしきは?」
「それなら、最高戦力の呪詛師を倒したって悟…私と同じ護衛の人から連絡もらった。ほら」
携帯の写真を見せてもらった。
写真を見るとボコボコにされた人の近くでピースしている人がいる。サングラスで銀髪でチャラめの人。未来は夏油を見てこの人の第一感想を述べた。
「ごえい……?……ヤンキーのまちがいじゃ?」
「ぶふぉw」
夏油はたまらず吹き出した。
★★★★
もう一人の護衛、五条悟と合流した未来と夏油。
未来が天内を運ぼうとしたが、地面に近いと術式によって浮かすために回転を挟む距離が短くなるため、夏油にお願いし、未来の案内で屋敷まで向かう。
「ふーん。歌姫よりは強そうだなオマエ」
「あっ、悟もそう思うかい?」
「呪力の量が半端ねえ。総許容量だけなら傑より上だ。そんな餓鬼が捨てられたのか?」
「呪術について明るくなかったんだろ。あと本人の前で捨てられたとか言うのはやめとけよ」
そこら辺の思い出は明るくないのに結構ズカズカと言われた事に未来も未来でカチンと来たようで、全員に聞こえるように黒井に確認を取る未来。
「くちがわるい。このチャラチャラおみたいなひと、ホントにごえい?」
「あ"っ?なんつったクソ餓鬼」
「チャラチャラお」
「殴る。お尻ぺんぺんだコラ」
「止めとけ。今のは悟が悪い」
黒井の後ろに隠れて舌を出す未来。
クソ可愛くねえー!と愚痴を零し、未来は適当に無視を決め込んだ。そうぎゃいぎゃいと騒いでいる内に、天内が五条悟の腕の中で目を覚まし、即座に頬にビンタである。
「下衆め!妾を殺したくば、まずは貴様から死んでみせよ!」
「理子ちゃん落ち着いて、私達は君を襲った連中とは違うよ」
「嘘じゃ!嘘つきの顔じゃ!前髪も変じゃ!」
「おじょう、いいたいことはわかりますけどおちついてください」
「未来!」
激昂した天内を宥める未来。
流石に知らない人の腕の中で目を覚ましたのだ。混乱とかはあるだろうと未来は適切な説明をした。
「この人たち、みためははんざいしゃよびぐんとさぎしみたいですけど、こうせんのごえいであることはまちがいありません」
「うむ……未来がそういうなら」
「ちょっと待てコラ。俺らオマエからしたらそんな見た目なの?」
「犯罪者予備軍と詐欺師って……言い得て妙じゃな」
「泣かすクソ餓鬼」
「ぃいーやー!?」
天内が夏油と五条に足と腕を掴まれ伸ばされている。
未来と黒井がそれを止めるが、オマエも同罪だと言われて天内の足を離して次は未来の頰をつねられた。地味にヒリヒリして痛かった。
「ったく、同化でおセンチになってると思ったからどう気を遣おうか考えてたのに」
「フンッ!以下にも下賤な者の考えじゃ」
「あ"っ?」
「いいか天元様が妾で、妾が天元様なのだ!貴様のように同化と死を混合しとる輩がおるが、それは大きな間違いじゃ」
堂々と教えを説くように天内は二人に告げる。しかし、まるで興味がないのか二人は携帯を弄りながら待ち受けの話をしていた。
「同化により妾が天元様になるが、天元様もまた妾になる!妾の意思、心は同化後も生き続け––––聞けぇ!!」
「あの喋り方だと友達居ねえだろ」
「快く送り出せるのじゃ」
「学校じゃ普通に喋ってるもん!!あっ、学校!」
思い出したかのように天内は未来に確認を取る。
「未来!今何時じゃ!?」
「おひるまえですよ」
「それは良かった!未来、送ってくれんかの?」
「……めだっちゃダメなので、とおまわりでいいなら。でもホントにいくんですか?」
「行く!未来、頼む!」
「かしこまりました」
黒井がため息をつくが、残り少ない時間の天内の自由にさせてあげたいと言う気持ちは同じだ。未来は天内の手を繋ぎ、目立たない道を遠回りで学校に向かっていこうとする。
「おいおい、学校行く気か!?あんな事件あったのに」
「すきにさせてあげてください。じかんがたったら、もうあえないんですから」
「……ああ、行ってきなさい」
「傑!オマ」
「彼女の言う通りだ。好きにさせる為に私達が居るんだから」
「……チッ」
五条もその言葉に引き下がった。
確かに危険かもしれないが、彼女には天元となったあとの時間がない。そんな人間に我慢を強いるのは少し我儘と言ったところだ。
「………おじょう。つかまってください」
「うむ!頼むぞ未来!」
残り少ない時間。
天内が消えるその時まで、未来は命をかけてでも守りたいと同時に、居なくならないでほしいという願いに蓋をしながら、天内の手を少しだけ強く握った。
次回、呪詛師襲来