洞窟でルディが、フィッツ先輩の正体を知ったすぐ後です。
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洞窟での一夜は明けた。
元々魔術で降らせた雨だったからか、朝には雨雲1つ見当たらない。
昨夜は毛布に一緒にくるまり、シルフィと身を寄せあって過ごした。
愛の後に来るはずのものは来なかったが、やわらかい身体を抱きしめたり、キスしたりするたびに俺の剣はちゃんと反応してくれた。
シルフィはくすぐったそうにしていたけれど、同時に嬉しそうだった。
彼女は嫌がらずに受け入れてくれる。
そんな事実が、この病の完治を予感させた。
焦らなくても、彼女と愛を育んでいればいつか自然と治るんじゃないかと、そう思った。
さて、8年ぶりの幼なじみとの再開。
シルフィの話には色々驚かされた。
俺自身、怒涛の8年間を過ごしていたとは思うが、シルフィも中々に大変な日々を送っていたのだ。
そして、そんな日々を乗り越えられるくらい彼女が成長していたことが俺は嬉しかった。
ブエナ村で俺にずっとひっ付いていた彼女が、俺が居なくなってからもひた向きに頑張り続け、アスラの王女様を救い、その護衛にまでなった。
そして、俺が頼りにできる存在にすらなっていたのだ。
素直にすごいことだと思う。
俺と彼女がずっと一緒だったら、彼女はこんなにも成長しただろうか。
離れずともシルフィとは好き合っていただろうし、恋仲になっていたかもしれない。
けれど、彼女は俺が尊敬するような存在になってはいなかっただろう。
パウロの判断は英断だったのだ。
俺は今のシルフィが好きだ。
昔のように甘える一面を残しつつも、芯の通った頼れる彼女が好きだ。
そんな彼女が俺のことをずっと好きだった、今はもっと好きだと言う。
つまり、両想いだ。
叫んで誰かに自慢したい気分だった。
踊り出したい気分だった。
前世に何の徳も積んでいないのに、こんなに幸せなことがあっていいのだろうか。
そんな風なことを考えていると、俺の頬に指でつんと押される感覚があった。
「えへへ、ルディだぁ」
俺に幸せを運んでくれた女の子はまだ寝ぼけているようだ。
可愛いなあ、もう。
シルフィへの気持ちが抑えられなくなり、頭を撫でそっと頬にキスをした。
ーーーシルフィエット視点ーーー
目覚めたら、ルディが隣にいた。
ずっとずっと夢だった。
想いを伝えあって、こうやって一緒にいることが。
ちょっと無理やりな作戦だったけど、恥ずかしいことも言っちゃったけど。
でも、ルディに正体を明かせて本当に良かったと思う。
今まで抱えていた気持ちを吐き出したら、とてもスッキリした。
言葉に出してみると、ボクってルディのことこんなに好きなんだって改めて実感した。
こんなに激しく感情を吐露して、引かれないかなって少し不安になったけど、ルディは受け入れてくれた。
ボクのことを好きだって言ってくれた。
嬉しい。
好きな人に好きだって言ってもらえることがこんなに嬉しいなんて。
多分ボクの顔はだらしなくニヤけていると思う。
でも、しょうがないよね。
幸せなんだもん。
ーーールーデウス視点ーーー
さて、2人とも完全に起きたところで、朝食を摂りながら、これからどうするか話し合うことにした。
「それで、シルフィ、フリーズフリンジドはどうするんだ?」
「どうするって?」
「アリエル様に頼まれたことじゃないんだろ?」
「あー、そうだね。確かに無理に取りに行く必要はないかな」
そう。
これは俺にシルフィの正体を明かすために作られた嘘の依頼だ。
もう正体は明かしたわけだから、当然この依頼を続ける必要は無い。
このままシャリーアに帰ってしまうのも別に構わないわけだ。
もうフリーズフリンジドの生えている崖は目と鼻の先ではあるが、それも関係のないことだろう。
俺はどちらでも構わないが、シルフィは耳をピコピコさせて考えている。
何か考えている時、彼女はいつもこんな風に耳を往復させる。
長耳族のこういうところはかなり可愛い。
ちょっとした小動物っぽさがあるのだ。
そーっと耳を触ろうとすると、ピタッと耳の動きが止まった。
それと同時に俺は伸ばした手を素早くしまう。
別に触っても嫌がらないと思うが、反射的にそうしてしまった。
「ルディがもし構わないなら、もうちょっと付き合ってもらってもいいかな?」
シルフィは少し上目遣いをしてそう聞いてきた。
何か理由があるのだろうか。
ただ、そんな表情をされてダメだなんて言えるわけがない。
「いいよ。じゃあそうしよう。ここからなら昼頃には取ってこられるだろうし」
「良かった。じゃあ出発する準備するね」
好かれていると分かってから、特に甘く接しているような気がする。
こういう判断のせいで足元をすくわれたりするのだろうか。
バカップルが犠牲になる映画は多い。
これが、フラグなら良くないことが起こるかもしれない。
とは言え、元々2人で取りに行けるような準備はしていたわけだから、そんなに危なくもないと思うが。
俺もシルフィも無詠唱を使える。
シルフィにいたっては治療魔術も無詠唱だ。
大抵のことはなんとかなるだろう。
そうだな、たまたま七大列強と出くわしたりしない限り問題はないはずだ。
……
出くわしたりしないよね?
もし、出くわしてもシルフィを抱えてすぐに逃げよう。
今は乱魔も使える。
逃げ切るくらいはできるはずだ。
そう思いつつも、あの時の恐怖は今でもはっきりと思い出せる。
あれだけ強いルイジェルドやエリスは歯が立たなかった。
俺の魔術も封じられ、呆気なく心臓を貫かれた。
為す術もなく殺された。
「ルディ、大丈夫?」
「え?」
「いや、なんだか怖い顔してたから」
心配させてしまったようだ。
さっきまでの想像は最悪の場合の話だ。
何度もあるようなことじゃないんだから、もう少し気楽に行こう。
その時になってからちゃんと動ければそれでいい。
今はシルフィと昔の話にでも花を咲かせながら、冒険を楽しもうじゃないか。
「なんでもないよ。今が幸せすぎて不幸なことでも起こるんじゃないかってちょっと不安になっただけだよ」
「そっか。なんか昔話とか詩とかでもよくあるもんね、そういうこと」
「この森自体はそんなに危険でもないし、大丈夫なはずだ。もし、何かあっても俺がシルフィを守るから安心してくれ」
「う、うん」
シルフィの耳と頬は真っ赤に染まっていた。
可愛い。
ーーーシルフィエット視点ーーー
洞窟を出発して1時間ほど経過していた。
ルディは絶妙に調節した魔術で雪を溶かして、ボクを先導してくれている。
本当に器用だ。
頼んだら昔みたいに魔術の練習に付き合ってくれるかな。
そんなことを思ったが、今のルディはザノバ王子やクリフ君、ナナホシと色んなことをしているし、そんな暇はないかもしれない。
少し寂しい。
今思い返してみると、ブエナ村で一日中ルディと一緒に過ごしていたあの頃は贅沢だったのだ。
ルディを独り占めできていたこと自体奇跡だったのだ。
アスラ王宮でもルディのことは噂になっていた。
まだ10歳だったのにだ。
ブエナ村の外に出たことがなかったから分からなかったけど、ルディはすごいなんてものじゃなかったのだ。
ルディはボクのことを好きだと言ってくれたけど、今更ながらボクとルディじゃ釣り合いが取れていないのではないかと心配になる。
ルディはそんなこと気にしないんだろうけど。
とルディの方をちらりと見ると、目が合った。
「シルフィ、疲れてない?」
ルディはこうやって時々ボクの調子を確認してくれる。
なんでも、パーティではお互いのことを逐一確認しておかないと、いざという時に危機的な状況に陥ることがあるんだとか。
「うん、大丈夫だよ。毎朝走り込みしてるし、これでも体力には自信あるんだよ?」
そう言ってボクは胸を張る。
張る胸は無いけど。
「シルフィも朝走ってるの?」
「もっ、てことはルディも?」
「まあね。魔術師も動けなきゃ冒険者としてやって行けないからな」
ルディならそうするかなって思ってたけど、まさか本当にしているとは。
なんかちょっと嬉しい。
「朝のひんやりした空気って気持ちいいよね」
「ああ、北方大地特有のあの感じ。頭がすっきりするんだよなー」
「うん!うん!分かる!」
昔だったらこんな風には話せなかった。
やはりどこかでルディのことを目上の人のように思っていたんだと思う。
分からないことはルディに聞き、ルディの言うことを疑いもせず実行していた。
でも、今は違う。
ルディと別れてから、自分で考えるということを覚えた。
自分の考えを言うことが出来て、そのことでルディに共感してもらえる。
ルディと対等な立場で話せている。
そんな些細なことが嬉しかった。
ルディと別れて、寂しかったけど、今ではあれで良かったんだと思えた。
そう言えば、ルディはどうしてロアに行ったんだろ。
お父さんもお母さんもルディの家族もみんな詳しく教えてくれなかった。
アスラ王宮に居た時に、ルディがロアで家庭教師をやっていたことを初めて知ったくらいだ。
そもそも昨夜はボクの話しかしていない。ルディの今までのことはまだ聞いていない。
聞いてみてもいいよね?
「ねぇ、ルディ」
「ん?」
「8年前どうしてロアに行ったの?」
「あー、あの頃、魔術にも行き詰まり感じててさ。魔法大学の学費を貯めたいから仕事斡旋してくれって、父さんに相談したんだ。それで、父さんの親戚のツテでエリスってお嬢様の家庭教師やることになったんだ」
「家庭教師やってたのはボクも知ってるよ。アスラ王宮でもルディ、噂になってたし」
「噂?」
「うん。天才魔術師がボレアスの家に招かれているって」
「天才とは恐れ多いな」
「ルディは天才だよ」
「いや、俺は凡人さ」
ルディはいつも謙虚だ。
そういうところがルディの優しさに繋がってるんだと思う。
でも、もう少し堂々としてもいい気はするけどね。
堂々としてる時のルディかっこいいし。
「それよりも魔法大学の学費くらいなら、ルディの家だったら払えたんじゃないの?」
「いや、2人分は無理だって言われたよ」
「2人分?」
ノルンちゃんとアイシャちゃんの分も稼いで来ようとしたのかな?
「シルフィが俺と離れたくないって言うから、シルフィの分も俺が稼ごうと思ってさ」
「ふぇ?!ボク?!」
思いがけず変な声が出た。
何を言っているのか理解するのに数秒ほど必要だった。
「ちょっと待って。じゃあ、ボクと一緒に魔法大学に入るために家庭教師しに行ってたってこと?!」
「そういうことになるな」
整理してみよう。
「なんでボクの前からいなくなったの?」の答えが、「ボクと一緒にいるため」だった。
そういうことだ。
ボクの顔は今すごく熱い。
きっと耳まで赤くなっている。
今なら一日中ベッドの上で転がり回っていられる気がした。
それから目的地に着くまでドキドキが止まらなかった。
ーーールーデウス視点ーーー
正直、やりすぎたと思っている。
適当にぼかして言っても良かったはずだ。
俺だって、あんなことを言えばシルフィがどんな反応するかなんて想像がつく。
しかし、彼女は俺のことを好きだと言い、俺は彼女を好きだと言った。
なら別に伝えても構わないのではないかと思ってしまった。
シルフィが照れる姿を見たいと思ってしまった。
結果、もう茹でダコ状態だ。
雪を溶かさなくてもいいのではないかと思ってしまうほど、シルフィの顔は真っ赤だった。
耳はしきりにパタパタと動き、俺の方をちらちらと見ていた。
可愛い。
こんな姿、他の誰にも見せたくないし、ここで言ったのは正解だった気がする。
そんな風なことを考えているうちに崖にたどり着いた。
崖と言ってもかなり広い崖だ。
犯人が涙ながらに自供するような小さな崖じゃない。
そして、そんな崖を埋め尽くすようにして、白い花が咲き乱れていた。
フリーズフリンジドだ。
冒険者をやっていた頃は時々採取しに来ていたが、こんなに綺麗な景色だっただろうか。
エリスのことを引きずっていたからか、それとも今好きな娘と一緒にいるからか。
どちらにせよ、来てよかったと思える景色だった。
さっきまで真っ赤になっていたシルフィも目を丸くして、わぁと小さな声を上げていた。
彼女も気に入ったようだ。
さて、花を採取しに来たはいいが、1つ疑問が残った。
「シルフィはなんでこれを取りに来ようと思ったんだ?」
取りに来るのはそれなりに大変だからお金にはなる。
だが、シルフィはアリエル様の護衛だ。
お金には困っていないだろう。
アリエル様の体調が優れないから取りに来たのだろうか。
それでもおかしい。
少し高いかもしれないが街中でも探せば強壮剤くらい売っている。
そんな俺の疑問はシルフィの一言で片付いた。
「ルディと二人で、1つのクエストをやり遂げてみたかったんだ」
「……なるほどな」
単純な話だ。
シルフィはアリエル様の護衛。
俺と二人で冒険なんてそう簡単には出来ない。
今回が最後かもしれない。
嘘の依頼でも、フリーズフリンジドの採取クエストはどこかにあるだろう。
ならば花を冒険者ギルドに持っていけば、クエストをクリアしたことにはなる。
冒険をしたことが認められる。
そして、多分だが、俺とシルフィの再会の記念のつもりでもあるのだろう。
そんな理由かなんて思わない。
むしろシルフィらしい理由だ。
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その後、二人でいくつか採取し帰ることにした。
帰るまでが冒険だ。
この可愛い娘と楽しい学園生活を送るためにも気を抜かないで帰ろう。
それと帰りは俺の今までの事を聞いてもらおう。
話すことは沢山ある。
なんせ、8年分だ。
三日間じゃ話し切れないかもしれないが、それもいいだろう。
もう離れないとシルフィと約束したのだから。