無職転生二次創作SS   作:早崎いるか

4 / 9
Web版本編259話「戦いの終わり」と蛇足編の間の話です。
ビヘイリル戦後の日常回です。
ルディがビヘイリルから帰ってきて、2~3週間後の話です。
感想等頂けると励みになります。


エリスと人形(259.3話)

ある日のこと。

エリス・グレイラットはある行商人の前で仁王立ちしていた。

 

「あの、何か買っていかれますか?」

 

行商人は今すぐ逃げ出したいという気持ちに駆られながらもそう聞いた。

彼はシャリーアには住んでいないものの、狂犬王のことを知っていた。

そもそも北方大地において彼女のことを知らぬものは居ない。

それは武術家として高名だからという理由だけではない。

悪即斬で、奴隷商の何人かは言い訳も言えずに切り捨てられたという噂もあるが、それもさして重要ではなかった。

行商人は山賊にだって襲われることもあるのだ。

今更そんなことでたった一人を怖がってなど居られない。

 

では、なぜ有名なのか。

あのルーデウス・グレイラットの妻であることが大きな理由である。

昔はただのグレイラットという姓など有り触れていて、ただの箔付けくらいにしか思われてなかった。

しかし、ここ数年でただのグレイラットであるルーデウスの名は世界中に広まった。

 

曰く、アスラ現国王の恩人。

曰く、龍神の配下。

曰く、七大列強。

曰く、ルード傭兵団の会長。

曰く、愛妻家であり、3人の妻を悪く言う者に死より酷い目をあわせる。

 

だから、この商人もエリス・グレイラットのことは知っていた。

そんな人物が自分の店の前で、何やら怖い顔をして商品を凝視している。

チビりそうになっていた。

 

さて、そんな怯えきった商人とは裏腹に、エリスは商品の一つをじっと見つめながら珍しく考え込んでいた。

 

視線の先にあるのは小さな人形。

かつてルーデウスが家庭教師をしていた時、部屋に置いてあった人形によく似ている。

転移事件で物は無くなったと聞いていたが、その時誰かが持っていたのかもしれない。

だが、分からない経緯などエリスにはどうでもよかった。

これが誰であるか自分が気づいてしまったことが問題だった。

 

(シルフィよね、これ)

 

彼女が昔短髪であったことは聞いていた。

それに何となく面影がある。

 

シルフィは昼間買い物をする。

こんな人形が置いてあれば人だかりも出来るかもしれない。

これが売られているところを目にしたシルフィはどう思うだろうか。

 

きっと嫌だろう。

シルフィやロキシーのことは家族として好きだ。

だからこの人形を見て見ぬふりはできない。

そう思い至ったところでエリスは行商人に告げた。

 

「これを買うわ!」

 

ーーールーデウス視点ーーー

 

私、ルーデウス・グレイラット。

昼間から可愛い可愛いルーシーたんと遊んでたら、散歩から帰ってきたエリスに話があるといきなり呼び出されたの。

告白でもされるのかしら。

 

とまあ冗談は置いといて。

エリスの方から話があるとは珍しい。

基本的に彼女は言葉より先に手が出るタイプだ。

何かに怒っているなら既に殴られているだろうし、ムラムラしているなら既に襲われているだろう。

 

そう疑問に思っている間にテーブルに、ある物が置かれた。

俺はそれを見て目を大きく見開いた。

目の前にあるそれは、かつて俺が作った1/8シルフィ人形だった。

転移事件に巻き込まれてもう無くなったとばかり思っていたが、まさかまたお目にかかれるとは……

 

「街で売られてたわ」

「エリスが買ってきたのか?」

「そうよ」

 

エリスは胸を張って少しドヤ顔になった。

彼女のドヤ顔は口角がよく上がるので見ているこっちも嬉しくなる。

あの懐かしきダンスお披露目の時のことを思い出す。

 

なんだかんだ、エリスの10歳の誕生日は思い出深いものだった。

彼女のためにダンスも一緒に頑張った。

16年も前になるのに未だに覚えている。

 

「そう言えば10歳の誕生日の時欲しいって言ってたよね、エリス」

 

あの時はギレーヌを見て、杖を取ったが、実のところこちらも欲しかったのだろう。

 

そう思っていると、エリスの口がへの字へと変わった。

むっ、という感じだ。

あれ?なんか変なこと言ったかな?

 

「そんなんだから、シルフィにデリカシーがないって言われるのよ!」

 

デリカシーがない。

昔から時々言われていた上、つい先日もシルフィに言われた言葉だ。

グサッとくる。

今回も俺が悪いのだろう。

だけど何が悪いのか分からない。

エリスは言葉が上手くないから、聞いても答えてくれないかもしれない。

でも、一応聞いてみよう。

 

「えと、何が悪かったのでしょうか……」

「……売られてたのよ?」

 

さきほど聞いた言葉である。

本当に分からないの?という顔だ。

かっこいいエリスにそんな顔をされると傷つく。

 

少し考えてみよう。

考えることは重要だ。

答えを聞いてばかりじゃ、成長はしない。

俺はそろそろデリカシーとは何たるかを理解しなければならない。

 

エリスの反応を見るに、売られていたことが問題らしい。

 

さて。

シルフィのフィギュアが売られていた。

その言葉を脳内で反芻してみる。

 

……

 

いや、当たり前にそれはダメだろう。

考える必要など無かった。

俺はシルフィのフィギュアがまた手元に戻ってきたことが嬉しくてあまり状況がよく分かってなかったが、嫁のフィギュアが知らない誰かの手に渡って嬉しい人間など居ない。

 

しかもこれは色々着脱可能なフィギュア。

全裸にだってできる。

俺の可愛いシルフィが他人に貶められる。

到底許されることではない。

 

つまり、エリスがドヤ顔してたのはシルフィ人形を守ったわよってことだったのだろう。

それなのに俺は、ああ昔欲しがってたよね、と言ってしまったのだ。

完全に俺が悪い。

 

「シルフィ人形の身を守って下さりありがとうございました」

「分かればいいわ」

 

そう言って、エリスはふんっと顔を背けた。

少しホッとしているようにも見えた。

 

これで分からなかったら、俺にとって大事な何かが失われていたのかもしれない。

信頼とか。

まだ残っているのかも怪しいが。

 

フィギュアに関しては多少感覚が狂っていたのかもしれない。

ペルギウスやザノバと共に俺はフィギュアを芸術作品として見ていることが多い。

実際そういう人も多いとは思うが、そのフィギュアが現実にいる人間となればやはり話は別だ。

 

昔売ったロキシー人形にしたってそうだ。

今も変わらず彼女は俺の神だが、今は嫁でもあるのだ。

今ロキシー人形を売りたいとは思わない。

 

そろそろもう少し色々なことに気配りできるような人間になりたい。

妻たちにデリカシーがないと言われるのは堪えるし、何より彼女らに嫌な思いをさせていること自体が辛い。

 

それにしても、最近、彼女らに怒られてばかりな気がする。

実際結婚して数年経てば、こんな家庭いくらでもあるのだろうが、なんか嫌だ。

彼女らとはずっとキャッキャウフフとしていたい。

ずっとおしどり夫婦でいたいのだ。

 

それに子供たちに怒られている姿を見せるのも嫌だ。

尊厳も何もあったもんじゃない。

ただでさえ、子供たちと触れ合える時間は多くないというのに。

家にいる時はいつも怒られているなんて情けなさすぎる。

 

怒られる頻度を減らそう。

そんな少し情けない決意を固めた。

 

ーーー

 

その後シルフィのフィギュアは俺の研究室に飾られることになった。

もし、シルフィが見つけたら、最近作ったことにしておく。

経緯もあんまり分からないし、彼女を不安にさせても仕方がない。

こういう嘘は悪いことではない。

 

エリスは俺の研究室に初めて入ったのか部屋の中を物珍しそうに見ている。

魔導鎧の改良案とか魔術の研究とか魔道具の開発案とか、そういった書類が積んであるからな。

剣士であるエリスには珍しいのだろう。

まあエリスは読み書きがまだ苦手なようだから、見ても楽しくはないと思うが。

 

案の定、一瞬で興味は失せていた。

それよりも研究室に飾っている様々なフィギュアの方に目が惹かれていた。

フィギュアはかっこいいものから可愛いものまでそれなりに置いてある。

 

嫁のフィギュアはだいたい数体ずつは飾っている。

カッコよかったり、可愛かったり色々だ。

シルフィとロキシーは主に可愛い系のポーズで、エリスはかっこいいポーズが多めだ。

想像でも作れなくはないが、実際にポーズを取ってくれる方が断然作りやすいから、こうして偏ってしまう。

カッコいいフィギュア。

その内の一つにエリスの目が止まる。

 

オルステッドから俺を守ってくれた時のエリスのフィギュアだ。

めちゃくちゃ格好よく作れたと自負している。

実際、あの時のエリスは今までで一番カッコよかった。

惚れ直したきっかけでもある。

 

フィギュアを見て、エリスは少し嬉しそうだった。

昔はルイジェルドのフィギュアを見せて、隙だらけだと言われたが、今回はそんなことはあるまい。

忠実に再現したからな。

 

「エリスが気に入ったのあったら自分の部屋に持ってってもいいよ」

「いいの?」

「もちろん」

「じゃあギレーヌとレオの人形が欲しいわ」

 

あれ?

てっきりカッコいい自分のフィギュアを欲しがるかと思ったが。

 

「エリスの人形はいいの?」

「それはいいわ。ルーデウスのところで飾っていて欲しいもの」

 

おおう。

可愛いことを言うじゃないか。

エリスも恥ずかしかったのか、頬が少し赤い。

 

「じゃあ俺の部屋でずっと大切にしてるよ」

 

エリスの顏はまた少し赤くなった。

 

「当然よ」

 

こういう所は昔からあまり変わっていない。

ちょっとしたツンデレと言うやつだ。

 

ご所望のフィギュアを渡された後も、エリスはまだ興味ありげにフィギュアを見ていた。

ロアに居た頃はこんなに興味を持っていなかったように思う。

そりゃ珍しそうにしてたし、欲しいとも言ってくれたけど。

こんなにまじまじと見ていた記憶はない。

エリスも成長して芸術がなんたるか分かってきたのだろうか。

 

「ねえ、ルーデウス」

「なに?」

「私にもこういうポーズして欲しいの?」

 

エリスが指し示すのは可愛いポーズをしたシルフィやロキシーのフィギュアだ。

このポーズを作りたいからという名目で、夜な夜なポーズをとって貰ったことがある。

もちろん裸で。

裸でなくとも、触りつくした彼女らの身体はいつでも再現できるが、やはり実際に見た方が再現度は高い。

シルフィたちも恥ずかしいと言いつつ、「もうルディはエッチなんだから」とプレイの一環として楽しんでくれているようなので、まあ問題はないだろう。

 

しかし、エリスにはこういうのを頼んだことはない。

絶対断られると思っていたし、裸になったら俺をすぐにベッドに押し倒そうとするからだ。

それはそれで嬉しいんだけどね。

 

さて、そんなエリスが、私にもこういうポーズして欲しいかと聞いてくる。

これは絶好のチャンスではなかろうか。

 

「エリス、してくれるの?」

「ルーデウスがどうしてもって言うならしてあげてもいいわよ」

「どうしても、エリスの可愛いポーズが見たいです!」

 

即答した。

機会を逸してはならない。

エリスは気分屋だからな。

即答する俺を見てエリスは一瞬キョトンとするもすぐに嬉しそうな顔をした。

 

「分かったわ!」

 

やったね!

俺はエリスの可愛いポーズを目に焼き付けようと目をカッ開く。

だが、エリスが脱ぐ気配はない。

そんな視線に気づいたのか、エリスは少し眉を寄せた。

 

「夜だけよ」

「あ、はい」

 

ですよね。

でも、今夜が楽しみになってきた。

いつも夜はお楽しみではあるが。

 

「でも、急にどうしたんだ?」

 

エリスの方からこんなことを言ってくれるとは俺も思いもしなかった。

昔の彼女だったならばあり得たかもしれないが、再会してからと言うもの、彼女は以前にも増して口下手になっていた。

こういうことは俺からお願いするしかないんだろうなと思っていたんだが。

 

エリスは頬を赤らめて、顔を少し背けた。

 

「私だって可愛いって言ってもらいたいわ」

 

破壊力抜群である。

 

正直、俺はエリスだって可愛いと思ってる。

彼女は普段カッコいいけど、ベッドの上とかでは甘えてくれたりもする。

ボレアスの家で仕込まれた獣族の真似も時々してくれるのだが、顔を赤らめ、少し困った顔でするその仕草にはいつも興奮する。

そして、その時おり見せる可愛さにギャップ萌えを感じるのだ。

 

だが、エリスとする時は基本的に獣のような夜になるというか。

彼女自身もピロートークとかあまり楽しむタイプではないというか。

俺も絞りとられてしまうし、二人して満足したらいつの間にか寝てしまってることが多い。

可愛いとは伝えられてなかったかもしれない。

 

「別にそんなポーズ取らなくたってエリスは可愛いさ」

 

だから、今ちゃんと伝えておく。

エリスにポーズを取らせる話はなくなるかもしれないが、そんなのは俺の想像で補ってしまえばいい。

俺の楽しみよりも大事なことがある。

 

愛おしさを覚えた俺はその場でエリスにキスをした。

エリスからの抵抗は無い。

むしろ腰に手を回してくる。

しかし、ここで胸を揉むと殴られるだろう。

さっき怒られないようにしようと決めたばかりなのだ。

自重せねば。

 

「愛してるよ」

「私も愛してるわ、ルーデウス」

 

部屋に2人きり。

いい雰囲気になってきたし、俺もムラムラしてきた。

しかし、なし崩し的にベッドに連れ込むことは出来ない。

エリスは基本的に昼間はちゃんと断ってくる。

意思が強いのだ。

 

もし、昼間に彼女としたいなら、面と向かって真剣な顔で宣言して連れ込まなければならない。

意思は強いが、俺が押しに徹すれば折れてくれるのだ。

夫想いのいいお嫁様だ。

 

だから、真剣な顔で言う。

 

「エリス、しよう」

「ダメよ」

 

即答だった。

なんでだろう。

と思っていたら、エリスは扉の方を見ていた。

 

扉の隙間からはルーシーのぱっちりお目目とララの眠そうなお目目がちらりと見えていた。

さて、時計を見るとエリスがいつも剣術の教育をしているような時間になっていた。

 

ルーシーはエリスを探しに来たのだろう。

ララは剣術をいつも面倒がっているのだが、何か面白そうな気配を感じたのかもしれない。

ララは好奇心が旺盛だからな。

 

まあ、これではベッドに連れ込むことも出来まい。

 

エリスがルーシー達に剣術を教えているのを見ていよう。

子供の頑張りを目に焼き付けるのもパパとしての幸せだ。

 

いや、せっかくだから、俺も剣術を一緒に教えるのもありか。

せっかく休みの日なのだから、子供たちと触れ合わないとな。

 

「パパも一緒に剣術を教えてあげよう」

 

そう言うとルーシーは、ぱーっと顔を輝かせた。

ああ、そんな眩しい笑顔を向けられると俺の目は焼けてしまうよ、ルーシー。

 

ララはあからさまに嫌そうな顔をしていたが、逃げる気配は無い。

まだ幼いが、逃げたらエリスが怖いことは分かっているのだろう。

誰だって剣王の尻叩きは嫌だ。

 

模擬戦はよくやってるけど、剣士としてエリスと一緒にやるのは久々だ。

もしかしたら、「ルーデウスもまだまだね」と昔みたいに言われるかもしれないが、その時は子供たちと一緒に学ぼう。

子供たちの気持ちになるのも重要だ。

 

ーーー

 

その日、俺はエリスにめちゃくちゃダメ出しされた。

 

あと、ルーシーがあれだけやって元気なことに驚いた。

そして、ララが嫌そうな顔をすることには頷けた。

無事に、子供の気持ちが分かった。

 

俺は今度から見てるだけにしよう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。