ビヘイリル戦後の日常回です。
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ある日の昼下がり。
俺は書斎で仕事をしていた。
仕事と言っても、制作中の自動人形の構想を練ったり、前世の便利そうな日用雑貨を実現させるためのメモ書きをしたりしているだけだが。
まあだから、趣味の比重が大きめだな。
家事を頑張ってくれているシルフィやアイシャの仕事を減らしたいという考えもある。
掃除機とか食洗機とかあるときっと楽だし、喜んでくれるだろう。
さて、そうやって机に向かっている俺の膝の上には、資料をじっと見ている四歳児の姿があった。
「ララ、見てて面白いか?」
「……ちょっとだけ」
ララはその眠たげな表情を除いたら、完全にミニロキシーだ。
髪の毛も綺麗な青色だし。
その見た目にムラムラはしないが、「ああ、愛する妻との子供だなぁ」と嬉しくなる。
普段、この時間なら剣術の練習をしているはずなんだが、今日はエリスが魔術大学で剣術を教えに行っているから、おサボりしているのだろう。
さっき、ルーシーがララを探すようにこの部屋を覗いてキョロキョロしてたしな。
俺の身体に隠れて見えなかったようだが。
ルーシーも俺が仕事中だと思ったようで声まではかけてこなかった。
声をかけられていたら、ルーシーとララのどちらかを裏切らなければならなかった。
危なかった。
俺は愛する娘二人の味方で居たいのだ。
まあルーシーは賢いから、どこにもララが居ないとなると、もう一度ここを探しに来るかもしれないが……
そうなったら俺どうしたらいいかな。
ララは裏切られても何も思わなさそうだが、ルーシーは多分悲しむ。
いや、最近は姉としての自覚が出てきたから理解してくれるのだろうか?
それに、ララがどうも思わないからと言って、俺が裏切っていい理由にはならない。
どうしたもんかなと思いつつ、ララの方に目を向けた。
じっと一つの資料を見ている。
魔法陣も何もかもが難しいのに、本当に見て面白いものなのだろうか。
そもそも読み書きってララ、もうできるのかな?
シルフィ達はできるよう教えたらしいけど。
俺はあんまり見れてないから、ちょっと気になる。
「ララは文字はもう読めるのか?」
「読める……」
そう言いつつも、ララは資料を見て難しそうな表情をしていた。
分からない言葉が多いのかな?
なんだかんだ大人が読むものだからな。
仕方ないさ。
そう言おうとした時、扉が開く音がした。
なんと早い二度目の登場だろうか。
我が愛すべき長女、ルーシーだ。
その登場はちょっと怒った時のシルフィを思い出す、手を腰に当てての仁王立ちだ。
やっぱり親子だなあ。
可愛いなあ。
と微笑ましく思っていると、後ろから白いわんこが申し訳なさそうに部屋に入ってきた。
俺は察した。
「ララ、剣術の練習するよ!」
ルーシーのその堂々たる姿に、俺はララを庇ってやることも出来なかった。
というか、ララはさっさと俺の膝を降りて大人しく投降した。
「ルーシー姉、分かった」
ララは逃げなかった。
サボるために追いかけっこするほどではないのだろう。
そもそも体力的にもルーシーには勝てないだろうし。
だが、ララのその寂しげな背中を見ているとつい甘やかしたくなってしまう。
二人とも今日くらい休んで、パパと一緒に遊ぼう。
そう言おうとして、椅子から立ち上がった。
そして、膝から何かが落ちた。
「うん?」
膝より少し下の方で冷たい感覚があった。
下を見ると、俺のズボンには黒いシミが、そして床には真っ黒な水たまりが出来ていた。
そして、転がったものが目に入る。
インクの小瓶だ。
ルーシーと俺は口を開けたまま固まった。
そして、ララの肩は小刻みに震えていた。
きっと笑っているんだろうな。
俺の膝にインクの小瓶を載せた犯人はララだったのだ。
本当にイタズラが好きだね。
「ママー!ララがまたイタズラしたー!」
静寂はルーシーの声によって破られた。
少ししてからシルフィの足音がこちらに向かってくるのが聞こえる。
そして、それと同時にララはレオの背中に乗った。
「レオ、散歩しよっか」
「わふ」
シルフィが来る前に逃げてしまおうとそういうわけか。
でも、それは成功しない。
多分生まれる前だったし、ララは知らないのだろうな。
「レオ、動くな」
俺がそう言うと動こうとしたレオの身体は止まった。
普段はペットのように扱っているが、召喚の時の契約でなんだかんだ俺の命令に逆らえないのだ。
「くぅーん」
「……どうして」
ララは眉を寄せ、動かないレオに疑問をぶつけるも、すぐに納得したような顔になった。
念話ってほんとに便利だな……
そんなことを思っていると、シルフィが到着した。
「もう、ララ、何したのさ……」
シルフィは惨状を見て、だいたい理解したようだった。
それから小一時間、ララはシルフィに怒られた。
その間、俺はズボンのシミを落としたり床を拭いたりした。
ルーシーも手伝ってくれたので、無事ズボンにも床にもシミは残らなかった。
ーーー
怒られた後、ララはレオと散歩しに行った。
次は上手くやる、などと息巻いていたが、イタズラに上手くやるも何もないだろう。
あまり反省はしていなさそうだった。
「ララ、どんな大人になるんだろうな」
「ボクは大人になっても今と変わらない気がするよ。……心配だなぁ」
俺とシルフィはため息を吐きながら、ララの今後を憂いた。
イタズラをして、誰かに殴りかかられる可能性もあるのだから、気をつけて欲しいものだ。
もしそんなことになったら、殴ったやつの未来が無くなってしまうじゃないか。
なるべく俺の手を汚させないでおくれ。
でも、ララはなんかちゃっかりしてそうだし、上手く生きていきそうな気はした。
今思い出したけど、結局、剣術もサボれてしまってるしな。
ここまで読んでいたわけではなかろうが、大したものではある。
好きなことをして嫌いなことから逃げおおせたのだ。
それにサボったって構わないしな。
そりゃ自分で身を守れないと困るからちゃんと練習はして欲しいが、エリスが居ない時にサボったからってそんなに変わりはしないだろう。
そもそも面白くもないことを先生もいないのに頑張り続けられる方が珍しいのだ。
そう考えると本当にルーシーは頑張り屋さんだなぁ。
今も木剣が振れなくなるまで素振りをしたり、型の練習をしている。
「ルーシーはシルフィに似て頑張り屋さんだな」
「ボクは……まあ頑張ったけど、ボクらの子供だよ?ルディにも似たんだよ」
「……確かに一年も禁欲するなんて俺もよく頑張ったなあ」
「んふふ、最初に挙げるのがそれなの?」
「最近頑張ったことと言えばそれかなって」
「その前も、今も、ずっと頑張ってるよ」
否定はしない。
シルフィが褒めてくれてるのだ。
ちゃんとその気持ちを受け取らなくてはな。
それに、シルフィの言う通り、色んなことを頑張ってきたと思うし。
「いつもボクらのために動いてくれてありがとうね、ルディ」
頬にキスをされた。
「みんなを愛してるからな。シルフィこそ、いつも俺を支えてくれてありがとう」
お返しに俺もキスをした。
シルフィは嬉しそうにはにかむ。
「えへへ、どういたしまして」
何年経ってもウチのシルフィは可愛いなあ。
肩を抱き寄せると、シルフィも頭を俺の肩に乗せ、体重を預けてくれた。
温かいその身体が腕の中にあると、ちょっとムラムラしてくる。
腕が勝手に下の方へと向かう。
肩から脇腹、脇腹から腰まで回し、そして……
その下は触らなかった。
俺は我慢した。
今日はみんな仕事に出てるし、レオも外に出てる。
そんな家には子供が三人いるのだ。
シルフィとくんずほぐれつやってる間に何かあるとも限らない。
夜までの辛抱だ。
俺がちょっと悔しそうにしていると、シルフィが苦笑していた。
「ルディ、ボクの身体触るといつも興奮してるよね」
「そりゃ温かいし、触ってて気持ちいいし、いい匂いもするし、最高の身体だもの!」
「なんか言い方がすごく卑猥だなあ」
そうは言いつつもちょっと嬉しそうなシルフィであった。
ーーー
それから頭を撫でたり、耳を舐めたり腰をさわさわしたりして、シルフィの身体を堪能した。
心も満たされたし、そろそろ仕事に戻るかな。
そう思い立ち上がろうとした時、思い出したことがあった。
「あの、シルフィエットさん」
「なぁに、ルーデウスさん?」
「字を綺麗に書く練習、付き合って頂けませんか?」
「……いいけど、急にどうしたの?」
「そろそろ綺麗に書けるようになれって言われててさ」
「誰に?」
「オルステッドに」
そうあれは、出張から帰ってきていつも通りオルステッドに報告した時の話。
オルステッドが、いつものように怖い顔をして言ったのだ。
お前の報告書は読むのに時間がかかりすぎる。
と。
確かに以前にも字が汚いと言われたことはあった。
それに、俺としても字は綺麗にしておきたい。
これから先、王族やら貴族やらとやり取りすることもあるだろうし、字が汚いままでは心象的にもあまり良くないだろう。
仕事とは別だが、クレアさんに手紙を書くことだってあるのだ。
子供の前でお小言なんか貰いたくない。
そして、誰に教えてもらおうかと考えた時、一番最初に浮かんだのがシルフィだった。
シルフィの字は可愛らしく、なおかつ綺麗な字だ。
王族であるアリエルに勉強を教えていたのだから当然と言えば当然かもしれない。
それにしても俺の字を見て勉強したはずなのに、何故シルフィは綺麗な字で書けるのだろうか?
リーリャかゼニス辺りが教えたんだろうか。
いや、可愛らしい性格をしていると自然とこうなるものなのかもしれない。
なんにせよ、シルフィから教わればそれなりに綺麗な字で書けるようになるだろう。
「えーと、じゃあお風呂上がってからする?そろそろ夕飯の支度もしなきゃダメだし」
「うむ、そうしよう」
風呂上がりなら、教えて貰ってそのままベッドにインでも問題ないしな。
昼間、ムラムラを抑え切った分、夜は激しくなりそうだ。
今日はどんなプレイがいいかな。
とか考え始めていると、シルフィが何やら嬉しそうにしていた。
「どうしたの、シルフィ?」
「ルディから何かを教えてって言われるの初めてだなぁって」
「あれ?無詠唱の治癒魔術とかはシルフィに教わったような」
「あれはボクから提案したでしょ?ルディから言われたことは多分ないよ」
あー、確かに。
シルフィに乱魔教えてって言われて、シルフィが自分から代わりに治癒魔術教えてあげるってなったんだっけ?
「そっか、確かに初めてか」
「うん。だからなんか嬉しいなって」
シルフィははにかみながらそう言った。
可愛いなあ。
今夜、目いっぱい可愛がろう。
そう心に決めた。
ーーーシルフィエット視点ーーー
夕飯も済んで、風呂からも上がった。
お風呂から上がると子供たちはもうおねむだったみたいで、みんな寝てしまった。
ジーク以外は一日のほとんどを訓練に費やしているんだし、そりゃ疲れるはずだ。
ララは剣術を今日サボってたけどさ。
それでも魔術の練習はしてたし、やっぱり疲れてはいるんだろう。
リーリャさんとゼニスさんももうお休みだ。
ロキシーは明日の授業の準備で、エリスも今日はやることがないわね、とか言って部屋に篭っちゃった。
今夜はボクの日だから気を使ってくれたのかもしれない。
居間に残っているのはボクとルディ、ノルンちゃん、アイシャちゃんだけだ。
四人で紅茶を飲みながら、今日あったことを話してる。
なんか、結婚したての頃を思い出すなぁ。
ノルンちゃんとアイシャちゃんが来て、アイシャちゃんはボクのこと覚えてたけど、ノルンちゃんはボクのこと覚えてなくて。
でも、ノルンちゃんはボクとルディがイチャついてるの見て、だんだん憧れのような視線を送って来るようになって。
二人の可愛い義妹に姉として思ってもらえたのがすっごく嬉しかったの今でも覚えてるや。
色んなことあったけど、幸せだなあ、ボク。
心地の良い気持ちになって、紅茶の最後の一滴を飲み、ルディの方を向く。
「それじゃ、ルディ、やろっか?」
「そうだな」
ルディは最初、寝室でやろうとか言ってたけど、そんなの絶対集中出来ないからってことで諦めてもらった。
ルディ、エッチだもん。
ボクが隣で教えてるだけで、きっと色んなところまさぐるに違いないし。
以前そういうプレイ、立場は逆だったけど、やらされたし。
楽しかったから別にいいんだけどね。
紙束を机に出して、勉強の準備をする。
綺麗に字を書くようにとはリーリャさんに言われた。
それから自力ではあるけど、ちょっと練習したら、それなりに綺麗になったと思う。
だから、ルディにどうやって練習させればいいかもだいたい分かってる。
「シルフィ姉と兄さん、今から何かするんですか?」
ノルンちゃんが不思議そうにそう聞いてきた。
「ルディがね。字を綺麗に書けるようになりたいって言ってきてね」
「ああ、兄さんの字ちょっとあれですもんね」
その言葉にルディはちょっと傷ついたような顔をしていた。
「ノルンも字が汚いって思ってたのか……」
「まあ……」
「ア、アイシャは?」
「え?えーと、伝言とかでちょっと困ったことはあったかな」
アイシャの一言がトドメになった。
きっとオルステッド以外にも迷惑が掛かっているとは思っていなかったんだろう。
「俺の字ってそんなに酷かったんだな……」
ルディは少し悲しそうな顔をしていた。
「ボクはそんなことないと思うけど」
「シルフィは優しいな……」
「まあ、ボクはルディの字で読み書きが出来るようになったからね」
ボクはそんなに読みにくいとは思わなかった。
綺麗な字とはまた違うけど。
ルディらしい字だと思うし。
「でも、なんで俺の字、そんなに読みにくいんだろ……」
ルディはあんまり心当たりが無いみたい。
ルディってそう言えば魔法大学に入るまで学校に通ってなかったんだよね。
魔法大学でも特待生だったし。
皆がどんな字を書くのかってあんまり気にしたことなかったのかもしれない。
「ルディは我流の崩し方してるから、一般的な文字の崩し方覚えた方がいいかもしれないね」
「文字の崩し方?」
「多分、一文字、一文字書くだけだったらあんまり変わらないと思うんだけど。ルディ、結構走り書きするでしょ?」
「そうだな」
「でもその走り書き。誰かの真似たとかじゃなくて、何か楽そうだったから勝手にそう崩れたんじゃない?」
「皆そうじゃないのか?」
「ううん。それは多分ちょっと違ってて。普通、読み書きのために学校に入って、文字の崩し方もそこで自然と身につくんだと思う」
「あー、なるほど」
ルディは何か理解したようだった。
多分、ルディには読み書きの先生にあたる人はいない。
それにボクがルディに出会った頃には、もうルディ読み書きできてたし。
一緒に学ぶ人もいなかったんだと思う。
だから、一般的な文字の崩し方を学ぶことは出来なかったんじゃないかとボクは思った。
「練習としては、ボクとルディで同じ文を走り書きしてみて、どこが違うか見て、それを修正していくのがいいとは思うけど、どうかな?」
「シルフィエット先生、それでお願いします!」
ルディからそう呼ばれると恥ずかしい。
「先生なんて付けなくていいよ?」
「いえいえ、教えてもらうんですから、それはいけません」
「……ロキシーも言ってたけど、ルディって、先生って言う時だけなんか目が変だよ?」
「そんなことないですよ!」
すごくやらしい目だった。
そう言えば、ボクが生徒役でそういうプレイした時も、ボクに「ルーデウス先生」って呼ばせることに固執してたっけ、ルディ。
きっとルディは先生という言葉に興奮してるんだ。
今日も多分一時間も経たないうちにベッドに連れ込まれるんだろうなあ。
本当にエッチな生徒だ。
でも、今回はボクが先生役だし、ルディにやられっぱなしじゃなくてもいいんだよね?
ベッドに連れ込まれたら、今日はボクが、ルディにされたようにしていいんだよね?
……って、なんでボク、ベッドに連れ込まれること前提で考えてるんだろ。
ルディと再開してからはずっとこうだなあ。
もう結婚して六年以上も経つのに。
ルディの教え子だから、ボクも実はエッチなのかな……
いや、だとしても今そんなこと考えなくていいよね。
頭を振って、変な雑念を取り払う。
初めてルディが教えて欲しいって言ってくれたんだもん。
頑張らなくちゃ!
「じゃあ、ルディ始めるよ?」
「はい、シルフィエット先生!」
ーーー
まじめにやっていたのも束の間。
ノルンちゃんとアイシャちゃんが自室に戻ってから、ちょっとずつボディタッチが増えて、数十分後、ボクはルディにベッドへと連れ込まれた。
ルディに「ちゃんと言わないと分からないですよ、先生」等と言われ、すごく可愛がられちゃった。
ルディはほんとにエッチなんだから、もう。
そう思いつつ、ボクの顏はにやけていた。
ーーー
次の日から書斎にララが頻繁に出入りするようになった。
昨日までとは違い少し満足そうな顔をして。