無職転生二次創作SS   作:早崎いるか

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Web版本編259話「戦いの終わり」と蛇足編の間の話です。
ビヘイリル戦後の日常回です。
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女子会の裏で(259.6話)

ルーデウス・グレイラットはよく家を空ける。

しかし、グレイラット邸は主人が居なくとも、いつも賑やかだった。

奥方が三人に、子供は四人。

そして、主人の身内が四人に、ペットが三匹。

静かな時間がないほど、音の多い家だ。

 

そんな賑やかな家の大部屋で、ここ数年で何度も行われたであろう会議が、今一度再開されようとしていた。

 

「それでは、グレイラット家、定例会議を再開します!」

 

シルフィエットがそう言うと、ロキシーとエリスがいつものようにわぁーと拍手した。

 

この定例会議は、ギースの一件が終わるまで長らく取りやめとなっていた。

シルフィエットは基本的には家にいたが、ロキシーとエリスは魔大陸に行ったり、中央大陸の紛争地域に赴いたりと妻三人が家にいる時間が極端に少なかったのだ。

 

それに会議などせずとも、三人の仲は非常に良好であった。

シルフィエットが外に出ていて、エリスが無理に料理して焦がしてしまったときは、ロキシーが代わりに作ってあげたし。

シルフィエットがジークのことで落ち込んでいた時は、ロキシーとエリスが支えた。

普通なら仲違いしてもおかしくない関係性にも関わらずそうしてこれたのは、ここ数年でルーデウスを共に支えてきた結果だろう。

気の置けないちょっとした女友達的な感覚だった。

 

しかし、だからと言って定例会議を無くしてしまうことには抵抗があった。

仲が良いからこそ、こないだはルディにこんなことされちゃったとか、またララがイタズラしたとか、最近ルーシーの剣の筋が良くなったとかそういう話で盛り上がるのが、楽しいのだ。

 

「で、今日は何の話をするのよ?」

 

少し口調は強いが、エリスもノリノリであった。

エリスがこの定例会議に参加し始めた頃は、三番目の妻ということで少し居心地が悪く感じていたが、二人と話す内にその気持ちも霧散していった。

むしろ、ルーデウスやルイジェルドと一緒に作戦会議をしていた時のことを思い出して、ワクワクするようになっていた。

 

「うーん、どうしよっか?やっぱり近況報告とかかな?子供も四人で、ボクも一日中見てられるわけじゃないし。エリスとロキシーから見て、どうなのかなって」

「そうですね。まずはその辺でしょう」

 

シルフィエットの提案にロキシーが頷く。

 

「そ。なら、私から先に報告するわ!」

「じゃあ、エリス、ロキシー、ボクの順番で報告しよっか」

「分かりました。そうしましょう」

 

そうして、会議は進んで行った。

もちろん、お酒も進む。

そして、徐々に話が変な方向にズレていくのが、この定例会議のお約束だった。

 

ーーールーデウス視点ーーー

 

夕日が沈みきって少しした頃。

俺はシャリーア郊外にある事務所を出て、帰路に就く。

 

今日は、夕方に出張から帰ってきて、その報告をオルステッドにしていた。

最近は俺の書く報告書も読みやすくなったようで、オルステッドも眉間に皺を寄せなくなった。

怖い顔が心做しか優しくなった気がする。

ほんのちょっとだけだが。

 

それでも、字を綺麗に書く練習の成果が出ているとは確信できた。

練習に付き合ってくれたシルフィには感謝しないとな。

これならクレアさんに手紙送っても怒られないで済みそうだし。

 

それにしても思ったより早く仕事が終わってしまった。

シャリーアを発ってからまだ三日も経っていないのだ。

オルステッドから聞いた話だと、本当なら一週間くらいかかる出張だったはずだ。

聞いていた状況とは少し違っていたし、やはりこれも転移事件の余波のようなものなのだろう。

 

こういうことはよくあるが、対応できないレベルにまで変化していたことは無かった。

所謂、運命の力というものなのだろう。β世界線にでも収束しているのかもしれん。

まあ、なんであれ、ヒトガミが倒されるような収束の仕方だったらいいけどな。

オルステッドが俺のいない世界線に流れ着いてしまうのも寂しいし。

 

さて、そんなことを考えていると、ちょうど我が家が見えてきた。

窓から漏れる明かりが温かみを感じさせる。

門まで近づくといつものようにビートが開けてくれる。

こいつも飼い始めて五年くらいか?

随分とツタも伸びたものだ。

 

「ただいまー」

 

玄関扉を開けて、しばらくするとドタドタと走る音が聞こえた。

この音は……ルーシーだな。

 

「パパー、おかえりー!」

 

案の定、可愛い寝巻きに身を包んだ小さな妖精さんがやってきた。

そして、思いっきりダイブするように抱きついて来る。

 

おうふっ!

六歳になった我が娘、ルーシーは決して軽いわけでもなく、健康的にちゃんと重量があるわけで、走ってダイブして来れば相当な威力になるのだ。

ルーシー砲、恐るべし。

 

だが、俺だって日頃鍛えている身。

これくらいでは痛くも痒くもない。

ルーシーが逆に怪我しないように少し後ろに下がるが、決してよろけたわけではないのだ。

 

俺は抱きついてきたルーシーに頬ずりをし、ちゅっちゅっとキスする。

本当にルーシーたんはいつも可愛いね。

 

ビヘイリルから帰ってきてからというもの、ルーシーは以前にも増して俺に甘えてくるようになった。

甘えて欲しいと俺が言ったのもあると思うが。

ノルンから聞いたところによると、親が四人とも出払っている間、ルーシーは時折膝を抱えて泣いていたそうだ。

 

愛してやまない娘を泣かせてしまったのだ。仕方なかったこととは言え、本当に申し訳ないことをした。

俺がシルフィに怒られても、仲裁をしてくれた聡明な我が子はまだ六歳なのだ。

前世で言えば幼稚園に通ってるくらいの年齢だ。

そりゃ俺とシルフィどころか、ロキシーもエリスも居なかったら寂しいだろう。

 

ノルンからそのことを聞いて、俺とシルフィは青ざめた。

すぐにルーシーにごめんよと謝り、二人で抱きしめると、ルーシー本人は笑顔で「いいよ」と言って許してくれた。

あっさりしたものだ。

この辺はママに似たのかもな。

 

懐いていたノルンをビヘイリルに送り出したのもルーシーだそうだし、ここ数ヶ月で精神的に成長したのかもしれない。

嬉しいような、悲しいような複雑な気持ちだ。

 

ただ、少し成長したと言っても、やはり甘えたい盛り、パパウザいなどとは言わず、ちゃんと甘えられる時は甘えてくれる。

 

俺もちゃんと甘やかす。

頭を撫で回し、可愛いお耳をモミモミし、ギュッと抱きしめる。

ルーシーはくすぐったそうに身じろぎする。

 

そうやってルーシーを愛でていると、ノルンが玄関までやって来た。

ルーシーを追いかけて来たのかもしれない。ノルンはルーシーのことを特に気にかけてくれてるようだし。

 

「兄さん、お帰りなさい。今回は一週間くらいじゃなかったんですか?」

「ただいま。ちょっと早く終わっちゃってな」

「そうなんですか」

 

ノルンも寝巻きだ。この感じだと、もう皆風呂入り終わってそうだな。

今日は寂しく一人でお風呂か。

ぐすんと心のうちで涙ぐむ。

 

ところで、いつも俺を出迎えてくれる女の子たちはどこに行ったのだろうか。

 

「そう言えば、ルーシー、ママたちは?」

 

ルーシーは不思議そうな顔をして階段の方を見る。

 

「みんな、もうお部屋だよ?」

「え、もう寝てるの?」

 

ちょっと早くないだろうか?

いや、別に夫が帰ってきたというのに玄関まで駆けつけないとは何事か、なんてそんな亭主関白的なことは思ってないが。

彼女らも家事とか大変なのに、出迎えてくれることに感謝してるくらいだからな。

 

しかし、いつも出迎えてくれる彼女らが居ないとなるとやはり違和感はあるものだ。

もしかして体調でも優れないのだろうか。

そんな不安が過ぎるが、即座に否定する。

今はシルフィも聖級まで治癒魔術使えるし、王級のスクロールだって量産して地下に置いてあるのだ。

そこらの治療院よりも万全な体制だと自信を持って言える。

その辺の心配は要らないだろう。

 

まあ、深い理由はなくて、単に疲れたから早めに寝てるだけなのかもしれないな。子供が四人も居れば親が三人いても大変なものは大変だ。

アルスがドタバタ走り回って家で転けるわ、ララが魔術で部屋を水浸しにするわ、ジークが周りの物壊しまくるわとハプニングには事欠かないのだ。

 

せっかく早く帰ってきたのだから、妻たちに一言二言、愛を囁きたかったが、仕方ない。

寝顔を見て、キスして胸と尻をひと触りして、我慢するとしよう。

 

「あ、お兄ちゃん、おかえりー」

 

そんなことを考えているとキッチンの方からトレイを持ったアイシャがやってきた。

トレイの上には、美味しそうな料理が乗せられている。

 

「ただいま。……アイシャ、それは?」

「お姉ちゃん達のお夜食だよ」

「夜食?」

「うん、今、お姉ちゃん達、会議中だから」

 

会議?

……あ、時々、開催されてる女子会のことかな?

そっか。寝てるわけじゃないのね。

 

女子会は、基本的には俺の居ない日に開催されていたみたいで、あんまり見かけなかったけど。

でもどんな話をしてるんだろうか。

俺の話か子供たちの話であることには違いないんだろうけど。

寝る順番とかもそれで決めてるみたいだし。

 

「気になるなら、お兄ちゃん、覗いてみる?」

「え、いいの?」

「いいんじゃない?帰ってきたこと伝えてあげた方がお姉ちゃん達嬉しいと思うし。それに、きっと凄いことになってるよ?」

 

俺が居ないところで話してるから、てっきり聞いてはいけないんじゃないかと思っていたが……

 

それにしても、凄いことか。気になるな。

アイシャはイタズラっぽくニヤニヤしてる。よほど可愛い嫁たちが拝めるのだろう。

 

俺はルーシーを抱いたまま、アイシャと一緒に我が家の愛の巣へと向かった。

 

「奥様方、お夜食をご用意しましたよ」

アイシャがそう一声かけ、愛の巣の扉を開けると、そこには……

 

「んへへ、それでね。五日目の夜に、ルディとボク、もう凄いことになっちゃってね、挿入れただけで……」

 

あ、これ、子供に聞かせたらあかんやつや。

そう思って俺はすぐさまルーシーのぴょこんと飛び出したお耳を塞ぐ。

ルーシーはよく分からないような顔でこちらを向く。

ごめんねー、ルーシー?

この話はまだ早いの。

 

シルフィは目をトロンとさせ、新婚時代のエッチな生活を楽しそうに語っていた。

実に上機嫌だ。

そして超可愛い。

そのお口を今すぐ俺の唇で塞ぎたい。

 

「なんですか、そのポリなんたら、とか言うの!初耳ですよ!私もしてみたいです!」

 

とこれは酔っ払ったロキシー。

こちらも瞼が半分落ちている。

小柄な身体で可愛らしく、ボフッとベッドに両手を叩きつけていた。

 

「私もやってみたいけど、四日間もそんな風に我慢するのは難しいわ……」

 

エリスはお酒とは別の意味で顔を赤くしているように見える。

エリスはお酒に強いので、呂律は回っている。

しかし、多少は酔っているのか、目の焦点は合っていなかった。

 

アイシャがこっちを向いて、凄いでしょ?と目で訴えかけてくる。

確かに凄い可愛い。

もしかしたら、外で飲んでる時より飲む量が多いのかもしれないな。

 

それにしても、二人ともそんなにあれが羨ましいのか。

あの頃は時間があったから、シルフィと色んなこと試したもんなぁ。

俺も色々止まらなかったし。あと、なんと言うか、シルフィへの愛がいつもの何倍にも膨らんだような、そんな感覚になるプレイだった。

 

欠点としては五日もかかってしまうことと、その間少し我慢しなきゃいけないことくらいだろう。

最近は出張も頻繁じゃないから、一週間ずつ時間を取るのも悪くないし、明日酔いが覚めた三人に提案してみるか。

 

技巧派ロキシーと体力派エリスが、最終日にどうなるのか楽しみだ。

もちろん、最近色々と吹っ切れたシルフィとも、もう一度してみたい。結婚したての頃とはまた違った良さがあるに違いないからな。

 

そんなエロい計画に思いを馳せていると、シルフィ達がこちらに気づいた。

 

「……あれー?ルディ、帰ってたのー?」

「うん、シルフィ、仕事がたまたま早く終わってね」

「そっかぁー、じゃあ、ちゅーして?」

 

何がじゃあ、なのか分からないけど、求められれば応えるのが夫というもの。

俺はシルフィの唇を口に含み、その呂律の回らない舌を味わうことにした。

うーん、美味しい。

 

「……ぷはぁ!んふふ、ルディったら舌入れてぇ」

「お姫様が可愛く求めてきたんだから仕方ないだろ?」

「んへへ、ボク、可愛い?」

「世界一可愛いよ」

 

頭を撫でると、シルフィの顔はこれ以上なくにやけていた。

 

「ずるいですよ。ルディ、私にもしてくださ……んっ……」

 

言い終わる前に唇を塞ぐ。

もちろん忘れたわけではない。シルフィにしたんだから、ロキシーにもしないとね?

キスし終わるとロキシーも満足したように頬が緩んでいた。

 

当然、エリスにもキスしようと思い、そちらを向くと、エリスの顔は既に眼前にあった。

そして、強引に唇を奪われる。

まさにズキューンって感じだ。

 

やだ、子供が見てるって言うのに、乙女にされちゃう!

負けじとエリスの唇を奪おうとするが、背中に手を回された段階でマウントは取られてしまった。もうひっくり返せない。

俺の唇はエリスに蹂躙されてしまった。

 

俺を解放するとエリスはそれで満足したのか口元をだらしなく歪ませて、お酒をまた飲み始める。

 

三人とも幸せそうな顔をしている。

ここで混ざってあわよくば4P。なんて考えたが、女子会に俺が混ざってはならない。

三人だけの絆というものもあるだろうからな。

まだ、ルーシーも起きてるし、今日はせっかくだから子供たちと一緒に寝よう。

 

「じゃあ三人ともお休み」

 

各々妄想でもしているのか、それとも酔っているからか、もう俺の声は聞こえていないようだった。

俺はルーシーを連れて一階へと降り、夜食の余り物とご飯を食べて、風呂に入った。

久々の一人風呂はちょっと寂しかった。

 

今度から早く帰れるなら昼までに家に帰れるようにしよう。

そう思った。

 

ーーー

 

さて、風呂から上がって子供部屋に向かうと、ルーシーがノルンと一緒にお喋りしていた。

その横でレオに埋もれるようにしてララは寝そべっていた。

まだ起きているようだ。

昼間寝すぎて、この時間はまだ寝れないのだろう。

 

今、子供部屋にいるのはジークを除いた三人だ。

ジークはもう乳離れしてきているものの、夜泣きもたまにあるので、いつもはシルフィの部屋で寝ている。

シルフィが俺と寝てたり、今日みたいに女三人でわいわいしてる時は、リーリャとゼニスが面倒を見てくれている。

 

ちなみにアルスは、それはもうすやすやと寝ていた。

だいたい朝になるまで周りでどんなことが起きてようとなかなか起きない。

昼間、活発に動き回るからだろう。スイッチが切れるようにいきなり寝てしまうのだ。

居間でスイッチが切れることも多く、その時はベッドまで運んでやる。

 

それにしてもルーシーは本当にノルンに懐いているなあ。

俺たちが各地を飛び回っていた時も、ノルンはルーシーと釣りとかして遊んでくれていたみたいだし。

当然と言えば当然か。

 

「あ、パパ!」

 

ルーシーは俺の視線に気づいたのか、バッと振り返る。

 

「ルーシー、今日はパパもこの部屋で寝るからなー」

「そうなの?」

 

ルーシーは可愛いらしく小首を傾げた。

その仕草にはシルフィの面影がある。

ママの可愛さはちゃんと遺伝しているようだ。

 

「ルーシーちゃん、良かったね」

 

ノルンはそう言って、ルーシーに微笑みかけた。

 

「うん!」

 

ルーシーは満面の笑みだ。

いつも嫁とばかり寝ていたし、たまには子供たちと寝るのもいいだろう。

三人並んで川の字で寝ることはあったが、ルーシーが子供部屋を使うようになってからは、そういうことはとんと無くなっていたからな。

 

子供の成長は早い。

各地に転移魔法陣を設置してはいるものの、俺が家を留守にすることは多いだろう。

いつの間にか子供は成長してしまって、パパとも呼んでくれなくなるに違いない。

そうなってから甘やかそうとしても遅いのだ。

甘えてくれるうちに、添い寝とかしてあげよう。

 

当然、ルーシーだけのことじゃない。

 

「ララも一緒にで、三人でごろんだな」

 

そう言うと、ララが眠たげな顔をこちらに向けて、ちょっとだけ嬉しそうにした。

ララもなんだかんだ甘えたがりではあるからな。

魔大陸で一緒に居たいって言われた時はウルッとしたものだ。

 

俺はララとルーシーの間に挟まるように座って二人の頭を撫でる。

ルーシーもララも逃げないで撫でられている。娘二人に囲まれてハーレム気分だ。

 

「パパ、寝る前に何かお話して?」

「お話かー、どんなのが聞きたい?」

「んーと、ママたちと出会った時のこと聞きたい!」

 

あー、そういうの気になるお年頃かー。

俺が前世でこのくらいの頃は遊んでばかりいて、そんなこと聞きもしなかったな。女の子の方が早熟だというのは本当なのだろう。

 

「それ私も聞きたいです。シルフィ姉達とどうやって出会ったんですか?」

 

ノルンも気になるようだ。

そう言えば、ノルンはシルフィが俺の幼なじみで、ロキシーが俺の先生で、エリスが俺の生徒だったということしか知らないのか。

隠してたわけじゃないし、いい機会だ。話してあげよう。

 

「ルーシーは行ったことあると思うけど、俺はアスラ王国で育ったんだ」

 

ルーシーはアリエルの戴冠式の時のことを思い出したのか、びっくりしたような顔をした。

 

「と言っても、北方大地に近い、北の方にあるフィットア領ってところだから、あんなに人も建物も多くはないよ。畑が広がるのんびりした田舎さ」

 

ノルンは当時のことを思い出したのか、目が潤んでいた。

転移事件があった時、ちょうどノルンは物心が付き始めて来たところだったろう。そんなに多くの思い出はないかもしれないが、それでも懐かしいのだろう。

 

「パパが三歳の頃、母さんが……ルーシー達のおばあちゃんが家庭教師を募集したんだ。俺に魔術を教えるためにね」

「ゼニスおばあちゃん?」

「そうそう。あの頃はおばあちゃんもよく笑っててさ。ちょうど今のルーシーみたいにね」

「おばあちゃんなのに、ルーシーみたいなの?」

「うん。……無邪気な人だったんだ」

 

あ、ダメだ。目頭が熱くなってきた。

でも、我慢だ。まだロキシーの話にすら入っていない序盤なんだ。ここで泣いてたら一生話し終わらない。

深呼吸をして、心を落ち着ける。

よし、大丈夫!

だいたい今だって心の中では笑顔の絶えないゼニスなんだ。何も泣くことはない!

 

そう言い聞かせて話を続けた。

ちなみに、ノルンはもう泣いていた。

 

「それでね。その募集を見てやってきたのが、ロキシーだったんだ」

「青ママ?」

「そう……パパの師匠で、ララのママの、青ママだよ」

 

ララがぴくりと反応した。

言葉は少ないが、実はルーシーくらい好奇心旺盛なのは知っている。

相変わらず表情の起伏は少ないけど、きっと興味津々に話を聞いてくれているんだろう。

 

「ロキシーは最初、パパが無詠唱で魔術使ってるの見て驚いてたんだ」

「そうなの?でも、ルーシーもララも無詠唱できるよ!」

「実はかなり凄いことなんだぞ?ルーシー達が産まれるまでは、ちゃんと無詠唱ができるのは、それこそ、パパとシルフィと、あとジュリくらいで、治癒魔術ならシルフィしか使えなかったんだから」

「じゃあ、ルーシーもすごい?」

「もちろんさ」

 

それを聞いて、ルーシーはちょっとニヤけた。素直でよろしい。

 

「でも、ルーシーが大人になる頃には無詠唱ができる人どんどん増えてくるかもしれないから、あんまり威張っちゃダメだぞ?」

「うん!」

 

凄くても慢心はしない。

人生において重要なことだ。

 

「じゃあ、話戻そうか。そこから二年間、青ママから色んなこと教わって、ある日、卒業試験をすることになったんだ」

 

ルーシーもララも卒業って何?って顔をしている。

 

「えっと、青ママと別れなきゃいけない日が来たんだ」

「そうなの?」

「うん。でもその試験はね。庭じゃできなくて、広い野原まで行かないと出来ない試験だったんだ」

「ふーん」

 

よく分からないけど、分かったという顔だ。エリスの「分かった」よりは信頼出来る顔だった。

 

「でも、パパはその頃、お外がこわくてね。どうしても庭から先には行けなかったんだ」

「どうして?」

「……うーん、これは何とも説明しづらいな」

 

前世の話なんかしたくないし、したところでよく分からんだろうからなあ。

悩んでいるとノルンが助け舟を出してくれた。

 

「えっとね。何か周りが悪い人ばっかりって気持ちになるんだと思う。ルーシーちゃんもそんな人に囲まれてたら怖いでしょ?」

「うん。怖い!」

 

ああ、そうか。

ノルンも一度引きこもったことがあったな。

 

「まあ、そういうわけで試験が受けられないって思ったんだけど、青ママはパパを連れて外に出て、外の世界はそんなに怖いものじゃないって身をもって教えてくれたんだ。挨拶をすれば皆挨拶を返してくれる。パパを虐める人なんか居ないんだって」

「青ママはパパの救世主なんだね!」

「おっ、難しい言葉を知ってるな、ルーシー。そう、救世主さ。だからパパは今でもロキシーのことを尊敬しているんだ」

「そうなんだー!」

そうなのだ。これからもきっと尊敬し続けることだろう。

 

「それで、青ママと別れた後、外に出れるようになったパパは、シルフィと出会ったんだ」

「ママだ!」

「そう、ママだ。最初はママ、同い年の子供たちに嫌がらせされててね」

「ママが嫌いな、弱いものいじめ?」

「そう、あの頃のママは魔術も知らなくてね。そこから逃げ出すことが出来なかったんだ。そこでパパの登場だ。ママをいじめてた奴らを、えいっえいっと追っ払って、ママの初めての友達になったんだ。パパにとっても初めて友達だった」

 

それで今では二人も子供を産んでもらってるんだ。自分で話しといて何だが、運命的な出会いだなあと思う。

 

それから、シルフィに魔術を教えたけど、ずっと男の子だと思ってたことや脱がしちゃって嫌われるかもと思ったことも話した。

ルーシーにもノルンにも「さいてー!」と言われたが、俺でもそう思う。

あんなに可憐な美少女を男と見紛うなんて……

 

「で、今まで以上にママと仲良くなったんだけど、ちょうどその頃に、ノルンとアイシャが産まれたんだ」

「お姉ちゃん達だ!」

「そうそう、二人とも可愛くってさ。尊敬されるお兄ちゃんになろうって、あの頃は思ったもんだよ」

 

正面に座るノルンは少し顔を赤くしていた。自分が生まれた頃の話を姪っ子に聞かれるとは思っていなかったのだろう。

 

そこからは、シルフィと俺が相思相愛で、シルフィが離れたくないって抱きついてきたから、魔法大学に二人で入るため、金稼ぎに家庭教師を始めたと。

 

我ながら思い切ったこと提案したものだ。そんなの、あの子を嫁にしますって言ってるのとあんまり変わらないからな。

まあ、実際、嫁になってるわけだけど。

 

「で、その家庭教師先ってのがエリスの実家だったんだ」

「赤ママ?」

「そう、赤ママだ。エリスは今もあんまり変わんないけど、喧嘩がすごく強くてね。色々と大変な家庭教師生活だったよ」

 

あの頃に色んな言語も習得し、俺の剣術の基礎も出来た。

実際のところ、あの三年間はロキシーに教わった二年間と引けを取らないくらい充実したものだった。

獣族のもふもふ具合も知ることが出来たしね!

 

「それで、赤ママがパパの十歳の誕生日に、アクアハーティアをプレゼントしてくれたんだ」

 

ここでララがまた反応した。

 

「……あの杖、赤ママがくれたの?」

 

ララ、アクアハーティアのことよく見てるもんな。

いつか「譲って欲しい」とか言ってくるかもしれない。

 

「そうそう、赤ママの家はお金持ちでね。それを差し引いても凄く高い杖だったろうに、それをプレゼントしてくれたんだ」

「……そうなんだ」

 

ララは自分の興味が惹かれるものに対しては人一倍敏感だな。

将来、研究とかで大成しそうだ。

 

さて、ここから話はガラリと変わる。

あの悪夢の転移事件だ。

一夜にして一つの領土を更地にしてしまった大災害。

子供に話すには重すぎる話も多い。

エリスとルイジェルドとの旅の話は面白いだろうけどな。

 

でも、もういい時間だし、そろそろ話を終わらせて寝させた方がいいかもしれない。夜更かししたら成長に良くないからな。

 

ルーシーもさっきから目をゴシゴシと擦っている。

ああ、ダメだよ。綺麗なおめめが傷ついちゃうよ。

 

「とりあえず今日はここで話はお終いにしようか」

「……うん」

 

ノルンもララも眠そうだ。

 

「兄さん、じゃあルーシーちゃんとララちゃん、お願いしますね?」

「おう」

 

というか、どちらも我が娘なのだから、任せるも何も無いと思うのだが、俺よりもノルンの方がルーシー達と遊んでる時間は長いから仕方ないのかな……

 

「ノルンお姉ちゃん、お休みなさい」

「ルーシーちゃんもお休み」

 

部屋には子供たちとレオ、俺が残った。

 

「じゃあ寝よっか?」

「……うん」

 

明かりを消して、横になる。

ルーシーとララは俺の横でころんと寝転がる。

いつだったかノルンとアイシャと一緒に寝たときのことを思い出す。

 

「……パパ、お歌歌って?」

 

眠そうにルーシーはそう言った。

 

「よし、任せろ」

 

嫁たちと寝てる時とは違う意味で、幸せな夜だ。

たまにはこういう日があってもいいな。

そう思えた。

 

ーーー

 

その後、張り切って子守唄を歌ったのに、ルーシー本人から「パパ、下手ー」と言われ、あえなく撃沈した。




次回予告!
peingからのリクエストがあったので、
いつか書くつもりだった、ルディがフィッツ先輩の正体を知る前の話を書こうと思います!

次々回は少し話が飛んで、ジークが家を出て行った後のルディたちの話を!

その次は、また戻って、ビヘイリル戦後と蛇足編の間の話を書こうと思います!

お楽しみに!!
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