ホロライブラバーズ トロフィー「夢覚めぬ者」獲得RTA 作:うろ底のトースター
三人称視点が苦しくなってきたので失踪したいです。
同じ一日を2度繰り返したあの日。
玲香が初めて死んだあの日。
私は、獣を知り、狩りを知り、悪夢を知り、
自分の、無力さを知った。
玲香が死んだのは、私のせい。だから今度は私が玲香を守ろうって、そう思って強くなった。
いや、強くなったのだと誤解していた。
私はなんにも変わってないのかもしれない。
血を流す玲香を見て、そう思った。
「────ゲホッ」
腹から登った血が溢れ出す。足の先から少しずつ消えていく感覚に、百鬼あやめは悔しさを覚えた。
全力を発揮したかと問われれば、違うと彼女は言うだろう。そして、油断したかと問われたら、それも違うと首を振るだろう。
下級生でも相手は優勝者。組んでいた残りの3人も、相当な猛者であると把握していた。そも、油断などできる相手ではなかった。
では、敗因は?
叶不玲香の認識を誤っていたことだ。力はなく、強靭な肉体も持っていない、だが技量に特化している、それが玲香への認識だった。
しかし、現実は違った。
玲香は、刺されてなお動き、あやめを怪物じみた力で押さえつけ、その腹を刀と腕で貫いた。
「余が甘かったか」
この力が血への執着に起因することを、彼女は知らない。
それでも、何らかの狂気を抱えているということは、理解していた。
「叶不玲香、次は斬るぞ。瞳の奥の、狂気ごとな」
────百鬼あやめ、敗退。
「ふぅ・・・」
湧き上がる歓びを抑えながら、目を瞑り、深呼吸をひとつ。それでも高揚は治まらない。鬼の血のなんと甘美なことか。貫いた右腕の震えている。
「玲香!」「玲香たん!」
フレアとマリンが駆けつけてくる。それを見て、そう言えば私は刺されたのだったと、玲香は思い出した。どうやら随分と心配をかけてしまったらしい。
「傷は!?大丈夫!?」
「問題ないわ」
オドオドとするマリンにそう言ってやる。事実、刺された胸はもう痛くない。
それどころか傷すら
そう考えていると、フレアに左手を握られた。そのまま胸まで持ち上げられ、血にまみれることも顧みず、ぎゅっと抱きしめられる。
まるで、病床の人間の手を握るようだった。
「このバカ!ほんっとバカ!こんな無茶して!」
顔を伏せて、そう言われた。
「ごめん、なさい?」
「謝っても許してやらないから!」
じゃあどうすればいいのよ、と困り果てた玲香は、フレアの身体が震えているのに気がついた。
これは、恐怖しているのだろうか。
「フレア、もう大丈夫だから」
フレアに、優しく声をかける。顔を上げた彼女の瞼は、赤く腫れていた。
「次無茶したら私が殺すから」
「肝に銘じておくわ」
彼女の目元に浮かぶ涙を払いながら、困ったように笑った。
しかしまぁ、相変わらず綺麗な顔付きだと思う。
こうして向かい合っていると、そう言えばエルフの血はどんな香りがするのだろうかと思って───
「・・・まずいわね」
誰にも聞こえない呟きを零した。
先程の怪力、今の思考、震え続ける右腕。なるほど、あの老人の言っていた獣性とはこのことか。
着実に、あの悪夢の狩人共に近づいている。
少し、落ち着こう。せめて2人の前では正常でいようと心に誓ったのだから、今は血に酔ってはいけない。
「ねぇ、玲香ちゃん」
ゾクッと、寒気がした。
呼んだのは、それまで無言だったノエル。
「今の、なに?」
今の。おそらく内蔵攻撃の話をしているのだろう。
「ノ、ノエル?今のって」
「団長、今玲香ちゃんに聞いちょるんよ。だから静かにしてて、ね?」
話を遮る彼女の背に、玲香は修羅を幻視した。1歩踏み出す度に地面が軋んで見える、それほどの威圧感。
これは質問でなく尋問であると、そう示しているようだった。
「で、なに、あれ?」
「内蔵攻撃、敵を内側から破壊する業よ」
「ふーん、なんでそんな残酷なことするのかな?」
「臓腑を傷つけ血も掻き出せる。殺すには最適でしょう?」
「そっか」
ノエルから、一切の表情が消えた。
「やっぱり危険だよ、君」
「───いいわ、元々
開戦の狼煙が上がった。
メイスが振り下ろされ、地面が砕ける。手応えはなし。そんなもの予測済みだ。既に視線は避けた玲香を追っている。
刃に血は纏っていない。パリィを狙っているのだろう。
「思惑が見え透いちょるよ」
「そうかしら」
ノエルは、前回大会の玲香戦を思い出していた。あのときの彼女の戦い方は、リーチの長い武器で体力を削り、不意をついてパリィ、気絶させるというもの。
今は武器が変わっていたりさらに攻撃的になっていたりと違いはあるものの、強敵相手はパリィ頼りという根本は変わっていないらしい。フレアの情報だ、まず間違いはないだろう。
であるなら、先の一戦における玲香の戦い方は、歪だ。
「ところでさ、なんであやめ先輩と戦ってるとき、パリィしなかったの?」
パリィのタイミングなど、いくらでもあったはずだ。なのに、その古式銃であやめの攻撃を弾くことはなかった。
「もしかしてさ、強すぎる攻撃は、パリィできないんじゃないの?」
両手で握ったメイスを振り上げる。
「例えば、こんな風に!」
振り下ろす。やはり、玲香は回避した。
「図星みたいだね」
顔を顰める目の前の敵を見て、百戦錬磨の聖騎士は不敵に笑った。
「なら、勝てる」
再び、メイスは振り上げられた。
───────────────────────
「始まっちゃった」
フレアがそう言葉を零した。
「いいんじゃないです?どうせこの後すぐに戦う予定だったんですから」
「いや、そうなんだけど。こう、戦う理由?みたいのがちょっと納得いかなくてさ」
「あー、玲香たんの内臓ドーンのあれですか」
うーん、別になんとも思わないのは、船長たちが慣れすぎたからでしょうか?
「ノエルの言い分も分かるんだよ。あの攻撃、見た目がゴアすぎるから、自警団的になんか引っかかったんだと思うけど」
「正義感が働いたのかな?」
「そんな感じ、に見えた」
言葉の最後が濁っていた。
「見えたって、なんか含みのある言い方しますね」
「こう、なんて言うのかな。それ以外になんかありそうに思えてさ」
「なんか、ですか」
確かに、フレアの言う通りだと思う。
玲香の攻撃は、まぁ、常人が見れば少々過激が過ぎるのだろうけど、戦闘自体は正々堂々の真っ当なもの。この程度を残忍だ悪だと言うのは、納得がいかない。
それでも危険と断念するのは、別な理由があるから。
「いや、考えても仕方ないか」
分かんないや。
「え?」
「2人で首を捻ったところで答えが見つかるわけでもないじゃないですか」
「いや、そうだけど」
「なら、別なことしないと。例えば───」
腰のサーベルを引き抜いて、フレアに突きつけた。
「───バトロワの続き、とかどうです?」
「へー、いいんだ、こんな早々に負けても」
「むしろいいんですか、そんなこと言って。それで負けたら大恥ですよ?」
「ははは」
「ふふっ」
「「あっははははははははははははは!」」
「燃やす!」
「斬る!」
海賊を舐めるとどうなるか、思い知らせてやる。
一人称が書きやすすぎて疾走しました。