ホロライブラバーズ トロフィー「夢覚めぬ者」獲得RTA 作:うろ底のトースター
初配信を終えたので初投稿です。
殺意の込められた一撃が、大地を抉る。
動き自体は遅くて単純だから直撃を避けるのは簡単だ。それでも瓦礫は飛んでくるため、少しずつ傷が増えていく。
「チッ」
全くめんどうなことだ。
対して、あちらは私の攻撃を気にする様子はなし、か。
ま、そうよね。ノエルが警戒しなければいけないのはパリィと内臓攻撃だけ。なら、他の攻撃はわざわざ避ける必要もない。
正直な話、互いに決定打のないこの状況は不快極まりない。けれど、さっきみたいな恥を、醜態を晒すわけにはいかない。
この獣性は、隠さないと。今後、狩りを続けるためにも。
とはいえ、このままでは打つ手がないのも事実。この単純なステイタス差を埋めるほどの戦闘技術を、あいにく私は持ち合わせていない。
なら、どうにか足元を掬うしかない。
「そういえば、あなたはフレアとどういう関係?」
「言う必要ある?」
随分と無愛想な返しだこと。
「いいえ、ちょっと気になっただけよ」
横薙ぎのメイスを最低限の動きで避け、そのまま距離を置いた。
「まぁ、バトロワで組むくらいの仲なら気づいてるんじゃないかしら?」
「・・・」
無言の圧力が、言葉の先を催促してくる。
「あの子の変化について」
「っ!」
掛かった。
「今までフレアと一緒に戦ってきて、何か感じたことはある?」
「・・・」
「あるわよね」
「・・・ないよ」
「嘘はいけないわ。メイスの柄、軋んでるわよ」
「シッ!」
また1つ、地面にクレーターが増えた。
心が乱されているのか、先より幾分か雑な攻撃だ。格段に避けやすい。
「話は最後まで聞きなさい」
「ハァッ!」
「だから、いや、もうそのままでいいわ」
ここから重要なのは、言葉選びだ。どう煽るか、どう乱すか、どう崩すか。勝つには、これしかない。
ごめんなさい。私は今から、あなたの善意を利用する。
「フレア、加減がないと思わない?」
メイスが振るわれる。
「付き合いの短い私でも分かるくらいの変化よ」
振るわれる。
「一回目のバトロワのときは、まだ手心が感じられた」
振るわれる。
「でも今回は違う。完全に燃やし尽くす魔法だった」
振るわれる。
「それはこのバトロワで死人が出ないように設定されているから?」
振るわれる。
「それとも」
振るわれる。
「彼女が無慈悲に変わってしまったから?」
ブチッと何かが切れる音がした。
「もう黙ってッ!!!!」
怒声が、耳朶を殴った。
「フレちゃんが変わったとかどうとかうるさい!無慈悲になった?そんなわけないでじゃん!フレちゃんはいつも優しくて、頼りになって、とっても強い団長の友達なの!何も知らないあなたがフレちゃんを語らないで!!」
今までと比べ物にならないほどの連撃。一撃一撃が私にとっての必殺で、全身全霊でもって回避せざるを得ない、正しく悪夢のような攻撃だ。
誰しもこの圧に晒されれば、死を覚悟するだろう。
「本当に良かった、あなたが友達のために本気で怒れる人で」
1歩、身を引く。
「確か、最初にあなたと戦ったときもこんな勝ち方だった気がするわ」
私を追うためか、ノエルは振り切ったメイスを握り直していた。
「両手でしっかり握ったところで変わらない」
下げた足に力を込めているようだ。おそらく次の動作は、
「溜めのない攻撃の振り始めなんて」
蹴られた地面が、文字通り爆ぜた。
でもね、
「パリィの、格好の的よ?」
私の勝ち。
「────あ」
彼女の小さく零れた声が、放った銃声と重なって消えた。
私は、[当身]を首元に叩き込んだ。
「許してほしいとは言わないわ。でもそうね、贖罪がてらに教えてあげる」
[千景]を鞘に納め、腰を低く据える。所詮、居合の構えだ。
「フレアは、あなたの思う不知火フレアのままよ。本当に、優しい人」
刀身が鯉口を切り裂く。
白銀ノエルの幕引きは、存外呆気ないものだった。
「ねぇマリン、バトロワ中の玲香はどんな感じだった?」
「あーっとね、あやめ先輩の他に1人、内臓をブスっとやっちゃってる」
「そっかぁー・・・ちなみに誰?」
「フブキ先輩」
「へー、フブキ先輩「の黒い方」はいぃ?」
「え、黒い方って、フブキ先輩の裏人格って言われるあの?」
「そう、あの。いや〜、見たかったなぁ玲香たんの戦闘シーン。船長そのときちょうどミオ先輩と戦ってたからな〜」
「玲香、まさか2人同時に相手してたの?」
「そういうこと」
「うわぁ、玲香だなぁ」
「褒めてるのそれは?」
「褒めてる、と思う」
「そっかー」
「うん。ところでさ」
「はい」
「そろそろ当たって?」
炎弾を繰り出す。
「いや」
ぴょんっと避けられる。
さっきからずっとこの調子だ。私は魔法を当てられず、かといってマリン攻められずの均衡状態。このままだと、魔法を放ち続ける私の魔力切れが先か、常に動き回らないといけないマリンのスタミナ切れが先かの泥仕合になる。
移動してない分私の体力は有り余っているから、最悪スタミナの少ないマリンに突貫するのもあり。だけどその後、玲香かノエちゃん控えてるんだよなぁ。そうなったら確実に負ける。
まぁ、そうならないように手は打ってあるのだけど。
「マリン、地雷って知ってる?」
「踏むと爆発するあれだよね、知ってるよ?」
「そうそう。罠としては便利そうだよね、地雷」
「えー、船長はちょっと・・・。そもそも、地雷を使うような相手と戦うことなんてなさそうだし、獣にはそもそも効かなそうだし。要らなくない?」
「まーそうだよね。実際の地雷なんて対戦車用でもない限り、そこまでの威力はないらしいし」
「ほら要らないじゃんって待ってなんで今急にその話したの?」
「ちょっと考えてみたんだけどさ」
「え、無視?」
「もし、地雷を魔法で再現できたら。それで、威力も調節できたら」
「嫌な予感がするんだワ・・・」
「丁度いいところにいるからさ、マリン」
「タンマしても」
「実験台になってくれない?」
対鬼人用地雷魔法が、大地を吹き飛ばした。
避けようとしても、受身を取ろうとしてももう遅い。これは元々あやめ先輩を倒すための魔法、人に向けることは想定していない超広域超高威力魔法だ。
しかも罠というその性質上、戦闘前に仕込んでおける。予め隠して設置した火種に少しづつ魔力を送って育て上げるだけで、地面に大輪の火の花を咲かせられるわけだ。
トータルの魔力消費で言えば決して無視はできないが、準備ができたのはあやめ先輩と闘っている間。休む時間は十分にあった。
つまり、私は万全に近い状態で最後の戦闘に挑めるんだ。
「と、言いたいところだけど」
マリンがこんなことで倒れるとは思えない。満身創痍だろうが、それでも、この爆煙に紛れて私の首を狙いに来るはず。
「だからわざわざ置いたんだけどさ。ねぇ、マリン」
背後で、爆音が鳴った。
「はぁー、それは無理ゲーなんだワ」
1回目の地雷。確実に避けたと思ったのに、とんでもない爆発範囲のせいでもろにダメージを受けた。
あれ、絶対にあやめ先輩に向けたやつでしょ。なんせ全力で回避した上で
それでもどうにかフレアを倒そうと、感覚頼りに背後に回って奇襲しようと思ってたんだけど。
「最初から、
威力は当然1回目に劣る。それでも、今の船長が倒れるには十分すぎる爆破だった。
地雷の位置に誘われたときから、負けは確定していた。
「ハー、悔し」
身体が消えていく。いやぁ、勝てると思ったんだけどなぁ。
「玲香たん、あとは任せた」
────宝鐘マリン、敗退。
やっぱり一人称のほうが書きやすいので失踪します。