ホロライブラバーズ トロフィー「夢覚めぬ者」獲得RTA 作:うろ底のトースター
ずっと俺のターン!
肉を裂く鋭い爪、骨を穿ち貫く大牙、躍動する巨大で高密度な筋肉、全てが彼女を昂らせた。上がった口角が下がらない。興奮が、冷めない。
あの巨体にあの敏捷。何度その肉を斬っても、何度その水銀弾を撃ち込んでも尚暴れ続けるタフネス。
今までの獣とは一線を画す、間違いなく最高の強敵。
千景を振るう。どちらのものとも分からない血が舞う。しかし浅い。分厚く強靭な筋肉に阻まれ、大したダメージを与えられない。そして爪が襲い来る。避ければ牙が、あるいは別の爪が。一撃必殺が、連撃となって迫り来る。
この死闘の中で、叶不玲香は、この上なく幸せだった。
(足りない、足りない、足りない、足りない!)
何もかも忘れられ、ただ血と快楽を享受する。その様は、まさに狩人の皮を被った1匹の獣。
(もっと血を!溺れるほどの血を!)
獣性の発露。獣特有の怪力が、千景の柄をミシリと軋ませた。そして振るった一撃は、硬い肉を容易く斬り裂いていく。しかし、巨獣はそれを無視した。深いダメージも、傷口を蝕む劇毒も、脳に響く激痛も、全て意に返さず、攻撃する。
怯まず、狼狽えず、ただ己の武器を振るうのは、獣以前の勇敢さが故か。もしくは、この獣も死闘に酔っているのか。
暴れる、暴れる、暴れる。
足下の血溜まりから飛沫が跳ね、少女の美しい銀髪と獣の体毛を濡らた。少女は笑った、獣は吠えた。
そして、狂ったように暴れる獣のその豪腕が、攻め込んだ少女を捉えた。この獣は学習した。女は隙を突いて攻撃してくる。ならばわざと隙を見せよう、と。然して少女は獣の罠に落ち、そして
(?)
手応えが、ない。肉を潰し血が溢れ出す感触が伝わってこない。混乱する獣。
「あははァっ!」
獣の右眼は、最後に深紅を見て、潰された。
「クギャ!!??」
獣は、[加速]の業を忘れた。たった一瞬世界の理を歪めるその歩法を、理性と共に脳髄の奥底へと押し込んだ。だから消えたと錯覚した。
恐るべきは少女の策略。理性を失いながらも、狩りへの執着心によって練られたそれは、見事に獣の視力を奪ってみせた。
そして、視力を失ったということは、死角ができたということ。少女の姿が右へと消える。急いで左眼で追った先に、少女はいない。
ひゅんと音がして、肉体に傷が刻まれる。攻撃を受けた方向に向く。いない。また傷が刻まれる。向く。いない。斬られる。向く。いない。斬られる。向く。いない。いない。いない。いない。いない。
どこにも敵が見えない。されど傷が増えていく。
獣は初めて恐怖を抱いた。本能のままに血肉を求めた醜い獣の何でもないその本能が、恐怖を抱いた。矮小な生命だと思った。多くの屍と同じ様に、蹂躙の対象だと思っていた。
しかし今は?
蹂躙されているのは己なのだと、獣は理解した。
同時に少女は、自身の勝利を確信していた。されど油断はせず、死角に隠れ、あるいは[加速]し、少女は獣の視界から消え続け、斬る。斬る。斬り裂く。
血を浴びる度、獣性は引き出され、更なる力と快楽を少女にもたらした。より深く、より大きく、より多く。何度も、何度も。
この獣が倒れるまで。この獣を狩りとるまで。
「はははっ」
「ははははははっ!」
「あっははははははははははははっ!!!」
少女の興奮は、血欲は、狂気は、獣性は、最高潮に達した。
そしてついに、
「ギッ!?」
獣が膝をつき、その頭が垂れ下がる。
少女は弾かれたように駆けた。速く、速く、速く。狂った笑みは深まり、込められた力は最早獣と遜色ない。
加えて言うならば、メインディッシュを目の前に我慢できる理性を、
「いただきまーす♡」
脳髄に向けてその華奢な右腕が指し込まれ、勢いよく引き抜かれた。その衝撃に獣の上体は大きく吹き飛び、倒れた。
少女は、決着を悟った。体の熱が冷めていく。興奮が霧散していく。手に残る余韻はあれど、獣の血はもう味わえない。最高の獣を、倒してしまった。
だから、更なる血と死闘を求めて、先へ進もうとした。
「ああずっと、ずっと側にいてくれたのか」
獣の瞳に、英雄が宿る。
「我が師」
姿を消し、獣と堕ちたはずの英雄が、それでもなお背負い続けた大剣を、再度その手に持ち、掲げた。
「導きの月光よ」
細い月明かりは言った、かの少女を、獣を止めろと。ならば先達として、狩らねばならぬ。
かくして英雄、聖剣のルドウイークは、少女に月光の聖剣を向けた。
あれだけ緑に溢れていた森の一角が、雨の中にも関わらず、焼け野原と化した。原因は魔力切れで立てない私と、
「少しは落ち着いた?」
息切れすらしていないこの女だ。
あれから殺す気で戦った。罠を張り、熱を放ち、炎を投じ、あらゆる魔術で焼き殺そうとしたのに対し、この女は逃げ続けた。おちょくり続けたと言ってもいい。
傘をさして、優雅に、踊るように炎を避ける様はまるで劇場でオペラを見ているような美しさがあった。最も、私にとっては忌々しいだけだが。
とにかく、これ以上私にできることはないので、今は大人しく話を聞く他ない。
「それじゃあ、お話しましようか」
女は、近くの焦げた切り株に座った。
「まずは悪夢について。玲香やあなたたちが頻繁に訪れ、狩りを行っている悪夢は、【上位者】と呼ばれる存在が見ている、いえ、作った世界」
「【上位者】?」
「ええ、そう。詳しいことは分からない。分かっているのは、それが【宇宙】から来ること、そして【赤子】を求めていることだけ」
「【赤子】・・・」
「彼らがこの星に訪れたのははるか昔、【トゥメル人】の時代。【トゥメル人】っていうのは、そうだね。神に近い人種、とでも言えばいいのかな。彼らは特殊な血を持っていて、その血が最も濃い者を女王とした。その女王の名は【ヤーナム】。彼女は血を操り、トゥメルの血族を統治した」
「何の話しよ」
「言っただろう?悪夢の話、あるいは、そうだね」
「?」
「
「それって!?」
「玲香自身が求めてやまない情報だよ。でも教える気はないし、今の彼女に聞ける余裕があるとは思えないな」
「どういう意味?」
「狩りに酔ってるって意味」
「そんな・・・」
「でも大丈夫。続く悪夢の先で、いつかあの子は真実を知るから」
「・・・」
「続けるわね?トゥメルが統治されて数百年、【ヤーナム】は子を、【メルゴー】を授かった。そして、【メルゴー】が産まれると同時期に、最初の【上位者】が降りてきた。名を【ゴース】、あるいは【ゴスム】。赤子を求めて降りた【ゴース】だけれど、彼女もまた子を孕んでいた。と言っても、結局【ゴース】は死んじゃって、その子もお腹の中で流れちゃったのだけど」
「それで?」
「あとを追うように【メルゴー】も死んでしまった」
「何故」
「今となっては分からないよ。けれど、死んだのは確か」
「どうしてそんなことが言えるの」
「見つかったからだよ。全ての狩人の起源である、【ビルゲンワース】に」
「狩人の起源・・・」
「最初期の狩人の多くは、【ビルゲンワース】という学校の研究員だったの。その活動内容は、トゥメル人の残した地下遺跡の調査であり、その最中で見つかったのが【メルゴー】の遺体」
「持ち帰ったの?」
「持ち帰ったどころか、刻まれて血を搾り取られたよ」
「え」
「そのまま輸血液にされたの。そして、人々にそのまま輸血された」
「そんなのって・・・」
「惨いよね、分かるよ。でも当時はそれが普通で、研究のための犠牲だったの。そしてもちろん、彼らはそれで終わったわけじゃない。彼らは代償を、天罰を与えられた」
「天罰?」
「【獣の病】。人を獣に変える不治の病よ」
「それって、つまり私たちが戦ってきた獣って」
「あなたたちは一部がって思ってたみたいだけど、実際は全部ってこと」
「そん、な・・・」
「でも、獣になった時点で人として死んでるの。狩ったとして、それは元の人のための行為。気に病まないで」
「・・・」
「ともあれ、獣の原因はその病。でも、さっき私は天罰って言ったけど、急に蔓延しだすのはおかしいと思わない?」
「確かに・・・。何か原因が・・・まさか!」
「そう、【メルゴー】の血。死してなお、血に意志を残して人々の体の中を巡っていた」
「復讐のため?」
「
「は?」
「というより、自分とは別のトゥメルの命を宿らせるためと言ったほうが正しいかな」
「そんなこと!」
「できるよ、血の濃い【ヤーナム】の子なんだから」
「血の、濃い・・・」
「【メルゴー】はトゥメルを残すために、人々の血から働きかけた。体が、血が適さない人はそのまま獣となり、そして血が適した女体を」
「孕ませた」
「そういうこと。その適した人は、トゥメルの血を継いでいる人なんだけどね?」
「生き残りがいたの?」
「もちろん。とは言っても、ほぼ全員が【穢れた血族】として排斥、処刑されたけど」
「処刑・・・」
「そう、処刑」
「だからね、
「・・・は?」
「あー、自己紹介がまだだったね」
女は切り株から立ち上がり、丁寧にお辞儀をして、言った。
「初めまして、不知火フレアさん。
そろそろ玲香ちゃんの正体が分かった人現れそう。答えは本編で書くまで教えないけど。
Othuyegさん
誤字報告ありがとうございました。