ホロライブラバーズ トロフィー「夢覚めぬ者」獲得RTA 作:うろ底のトースター
(花開く)
惨い展開は、また書かれる。
(翼を広げて飛ぶ)
貴公は、おぞましいものを見るだろう。
腐れ!
私、宝鐘マリンには野望がある。いつか海賊団を率いて海に出る、そんな野望が。あとかわいい女の子とイチャイチャしたい。
そんなこんなで、バトルイベントと美少女が多いと噂のホロライブ学園の門を叩いた。運動は嫌いだったけど腕には多少自信があったので、強敵揃いと聞くあの高校は腕試しにちょうどいいと思った。
そして、入学初日に後悔した。
正直な話、レベルが違った。そこらかしこで魔法が飛び交い、銃弾が飛び交い、一部では人体が吹っ飛んでいく様まで見えた。
でもまぁさすがに適当な奴に負けたくはなかったので必死に戦った。戦って、勝って、また戦って勝って。
そして、あぁ、そうだ、玲香に負けたんだ。
隣の席の儚げ美少女。こんな華奢な子が戦えるのかと驚けば、今度はその強さに驚いた。華麗で流麗。器用にすぎるその戦闘スタイルであの場の全員を圧倒した。後に聞いた話、あのとき際立って強かった他の4人も倒してしまったらしい。
その日から私は、玲香に憧れた。憧れた
『その程度で船長なんて笑っちゃうね』
心に芽生えた劣等感を、認めたくなかったから。
やっぱり私は、弱い。
フレアみたいに魔術が使えるわけでもなく、玲香のように鋭く刃を振るえるわけでもない。ノエルほど力は強くなく、ぺこらほど素早くもなく、るしあのように頭数を揃えることができない。
総じて中途半端。それが私。
だからほら、今も攻め切れない。玲香の危機に足踏みしてる。
立ち塞がった二人の狩人は、きっと個々はそこまで強くない。ただ、連携が恐ろしく上手い。
一人は、戦闘用に改造された白衣のようなものを纏っている少年の狩人。武器は、青白い雷光が迸る銀の打撃棍。防ごうものなら刃を通じて雷撃がダメージを伝えてくる。
もう一人は、戦場に似合わない血のように紅いドレスを着ている少女の狩人。武器は、レイピア。変形後は刀身の変化により銃撃が可能になる。
少年が攻めて、その隙を少女が埋める。このオーソドックスな連携が攻め切れない最大の理由になっていた。
フレアなら、魔法で罠でも張って賢く殺せていたのかな。ノエルは戦闘経験が豊富だからきっと上手く立ち回れるんだろうな。ぺこらはその脚で逆に翻弄してたかも。るしあは数の暴力でいくらでもやりようがあるよね。
玲香は、きっとバトルロワイヤルのときみたいに蹂躙するんだ。
『で、
打撃棍が脇腹を殴打した。肋が折れる音がして、雷撃が肌を焼く不快な臭いが漂う。
きっと今のも、
想像するのは、常に私以外の誰か。だって『私の場合』は現実が嫌という程見せてくるから。
痛みを無視して駆け出した。少年に向けて曲剣を振るおうとして、少女の弾丸がそれを弾いた。
パリィ。そうだ、狩人ならこれくらいできるか。
無防備な腹を、雷光が打ち抉る。開けた空き地の端まで転がって、止まって、ちょうど曇天が視界を占めた。
「諦めた?」
少女が尋ねる。
いやだ、諦めたくない。勝って玲香を助けに行かないとならない。
反面、体は動いてくれない。
こういうとき、曲剣は少し不便だと思う。よくある剣を杖にするやつ。刀身が短い上に曲がってるせいであれができないから。
まぁ、そんなの立てない言い訳なんだけど。
『もう諦めたら?』
『凡才にすぎる
そうかなぁ、そうかも。私にしては、多分よくやったほうだよ。
元々フレアと玲香に着いて行ってるのがおかしかったんだ。着いていって、強くなった気でいたのがおかしかったんだ。
だから、そうだ。諦めてしまおう。そしたら、楽だから。
「せっかく助けに行こうとしたのに、お姉さんも不幸だね」
少年が言った。
「だってお姉さんが探してる人、多分もうすぐ」
「また、死んじゃうんだよ」
殺してやる、そう思った。
ぶちりと脚の筋が切れる音がして、有り得ない速度で走り出していた。ぐちゃりと腕の肉が歪む音がして、埒外の力で曲剣を振っていた。
その首に刃が届きかけて────視界を触手が埋めつくした。
玲香は、まず真正面に立たないことを徹底した。歴戦の英雄の眼前に立つなど自殺行為。更にその剣には光刃が伴う。正面から切り結ぶ利点は一切ない。
が、逆にルドウイークは獣を正面に捉えることを徹底した。醜い獣であった頃の記憶が、[加速]による翻弄を警戒させていた。
お互いがお互いの土俵に引き摺りこもうとする、長期戦のテンプレート。傷が増えていくのは、やはりルドウイーク。血刃が肉を削り続ける。
一見玲香が優先に見えるが、その実は一撃当たれば即死の綱渡り。ルドウイークの誇る高い耐久性が故に、その綱の終端は遥か遠く。
警戒は解かず、それでも玲香の口元は弧を描いていた。
月光が髪先を焼く度に頬に朱が差し、獣肉から吹き出した血を浴びる度に多幸感が心を満たす。さながらそれは、恋する乙女のように。
戦況を変えるべく、ルドウイークが動き出す。狙い澄ました突き刺すような攻撃から、広範囲を薙ぎ払うような大振りの攻撃へ。張り付く玲香を引き剥がし、回避に専念させる。
対して、玲香はルドウイークの想定通りに回避を優先した。やはり、無駄の多い大袈裟な回避。けれど少しずつ、その回避に余裕が現れていた。
浅かった踏み込みは深く、深く。無駄な動きを削ぎ落として。ゆっくりと、英雄の首に刃を刺し込もうと近づいていく。
やがて、玲香が月光に完全に慣れ、光刃を掻い潜り、攻めに転ずる。
その刹那に。
「ふっ」
小さく息を吐きながら、ルドウイークが切り札を発動した。
聖剣を夜月に掲げ、その力が結集されていく。どおっ、と威圧が場を支配する。
再び張り付こうとした玲香を、力の集約に伴う衝撃波で引き剥がし、場は整った。
それは、地を迸る月光の奔流。数多の獣と怪異を屠ってきたルドウイークの、最大の技巧。
地に聖剣を叩きつけ。
紅一色の死体溜まりが、月明かりに切り裂かれた。
手応えは
獣の勘か、あるいは辛うじて息をしている脳裏の瞳か、それともこれまでの経験則か、必殺の一撃さえ掻い潜った玲香は、ルドウイークに斬りかかり。
異例、必殺の連続使用。
回避されることを前提に初撃を放ち、この二撃目に全てを託した。
この戦場において行われた獣同士のあらゆる駆け引きは、ルドウイークに軍配が上がり、玲香は負けた。
玲香の瞳が見開かれ、その華奢な肢体が消し飛ばされ───
唐突に、喀血した。聖剣を掲げ、獣を狩らんと万力を込めたまま、血を吐き出していた。
一瞬の困惑。次いで、狩人であった頃の長きに渡る狩りの記憶が答えを弾き出す。
それは、『劇毒』。
千景の誇る血刃、その刀身に含まれた劇毒が、ゆっくりと巨体を巡り、蝕み、たった今牙を剥いた。
激痛と多量の出血を強いるそれは、獣の身であってもよく効いた。
拳に込めた力が抜け膝から崩れ落ちる身体を、
「うっ」
しかし彼は
「うぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」
気力でもって繋ぎ止めた。
聖剣の担い手たる我が矜恃のため、獣と堕ちた目の前の少女のため、そして何よりこの先に佇んでいるだろう戦友のため。限界さえ超えた全身全霊を込めて。
そして、
玲香は、眼前から移動していなかった。身を屈め、紅い刃を鞘に納め、ルドウイークを狩るための工程を全て完了させていた。
それは、居合。血を消費するという千景特有の居合が、彼女の圧倒的技量によって放たれる。
たった一刀。されど、英雄の気力を打ち砕くには十分だった。
腹を裂き、肉を斬り、内臓を蹂躙し、脊椎まで損傷させ、ついにその巨体が膝を突く。
「ありがとう」
そっと囁かれたのは、短い別れの言葉。
右腕が、内臓に突き立てられる。
「・・・嗚呼・・・すまない」
誰にも届かない謝罪を零して、見えぬ夜空を仰ぐ。月光の導きは、もう見えず。腕が引き抜かれ肉体が霧散し、英雄が再び没した後、玲香は余韻に浸り、静かに哂った。
なんか執筆意欲が高いので失踪します。