ホロライブラバーズ トロフィー「夢覚めぬ者」獲得RTA 作:うろ底のトースター
手数という観点では、目の前の女が圧倒的に有利である。短刀のリーチの内に入ろうものなら、右の長刀と共に振るわれ、すぐさま斬り刻まれるだろう。辛うじて残った玲香の冷静さがそう断じた。
で、あれば、そもそも懐に入らせなければいい。リーチでは血刃を振るうこちらが有利。何よりこちらには[加速]がある。詰められたとて、距離を離す方法はあるのだ。
強気に攻め、その血刃を薙ぐ。
瞬間、独特のステップによって女の姿が
「!?」
反射的に逃げを選択。眼前を、長刀が過ぎ通っていった。
あの場にいたら、死んでいた。
[
問題なのはその練度。
「・・・私より、
無駄がない。少ない予備動作、長い移動距離、姿の消える時間。あらゆる面で上を行く。
「当たり前だろう」
また消えた。
「この業は私が産み、普及させた」
無理矢理に千景を滑り込ませ長刀を防ぎ、続く短刀を体を逸らして回避する。
「そもそも、お前が使えることが異常だ」
身体のバランスが崩れたところを、鍔迫り合っていた長刀が千景を弾いた。瞬時に[加速]し、仕切り直しを狙うが、詰められる。
圧倒的不利。勝っていたリーチ差も意味がなくなった。
後に残るのは、手数の差。
首に向けられた長刀を避ければ、腹を狙って短刀が突き出され、退いて躱せばまた長刀が振るわれる。それは、終わらない連撃。何度も薄皮を切り裂かれ、その表情には疲労が滲んでいた。
思い出されるはいつか戦った二刀の鬼の少女。目の前の敵は、恐らく少女よりも強く速い。仲間と戦ってようやく勝ったあの少女よりも、だ。
苛立たしい、ああ苛立たしい。ただでさえこの女が憎いのに、攻められ続けるのは本当に不愉快だ。こうも連撃を繋げられれば、無理に攻め入る隙さえない。
だから、玲香は目を凝らす。耐えて、耐えて、敵の動きをよく観る。
その瞳が、開く唇を捉えていた。
「私は、血族の一人だった」
その語りは憂いを伴って、それでも剣に迷いはない。
袈裟斬り、突き、逆袈裟、横薙ぎ。
「血族は排斥され、処刑の対象だった」
水平切り、[加速]、突き、切り上げ。
「私がこの首を斬られなかったのは、人を上位者ヘ至らせる研究を行っていたから」
大振りの振り下ろし、逆袈裟、突き、突き。
「私の命を留めたそれは、同時に私の罪でもあった」
巧く、鋭く、速く、念入りに。
「私の犯した全ての罪を、かつての私は秘匿した」
しっかりと、殺せるように。
「嗚呼、しかし私は一つだけ、罪を
「──お前だよ」
攻撃は、更に苛烈に。瞳は、より慈愛に満ちて。まるで一貫性のない矛盾を抱えたこの女は、実際にはある一つの目的のために動いていた。
それは、罪の秘匿ではない。もっと倫理的で、人間的な目的。
「既に堕とした子のことなど、どうでもいいと思っていた」
語りは、独白へ。
「それでも、一度腹に宿した子というのは、愛しいものか」
二刀の武器は、また両刃剣へ。
水平に構え、渾身の突きを放たれる。その威力は凄まじく、人の身体など容易く風穴を空けてしまえそうなほど。
故に隙。玲香はその一撃を躱し、懐に入り込む。鞘に収めた血刃で、その首を落とすために。
「なあ、可愛い可愛い
憎悪が、鈍った。
眼前に、銃口があった。
「お前を捨てた身で勝手だが」
パリィ。体勢が大きく崩れる。
「そんなお前の姿は見たくはなかった」
優しく、優しく抱擁され、その右腕が、内臓に突き刺さった。
多量の出血とともに引き抜かれ、倒れ伏す。
「叶うなら、どこか遠い地で、何もかも忘れて幸せになってほしかったよ」
薄れる意識の中、玲香が最後に見たのは女の───母親の涙だった。
気が付けばまたベッドにいた、3回目の今日の朝。つまり、一日に二度玲香が殺されたことになる。
私はメルゴーを名乗るあの女から、全てを聞いた。狩人の原点、ビルゲンワースの衰退、学派の分離、悪夢の終わり。
そして、玲香の秘密。
『きっともうすぐ、あの子は殺される。全てを知って上で、ね──どうか、支えてあげて』
最後の言葉から滲む罪悪感と愛情は、嘘ではないと思った。まぁ、だからと言って私にできることなんてないのだけれど。
思考は深く落ちていく。思い出すのは、メルゴーとの遭遇のその更に前。初めて人を殺めた、あの瞬間。玲香の拒絶は、私の奥深くに巣食い、絶望の根を張り巡らせていた。
私が玲香に向けていた感情は、助けになりたいっていう願いは、ある種の依存だったのかな。
「・・・あれ?」
気付けば、悪夢に繋がるあの廃工場が目の前にあった。どうやら考え込んでいる間に来てしまったらしい。無意識に悪夢に足を向けるあたり、少しずつ狩人に染まっていっているのかもしれない。
染まり切れていたら、今も隣りにいれたかな。
ああほら、こんなときにもまた玲香だ。自分に対して嘲笑が漏れる。
そんな折。
「フレちゃん?」
幼馴染が、私に手を差し伸べた。
「───つまり、玲香ちゃんに狩りを辞めてもらいたい?」
「そう。できるなら、玲香の納得できる方法で」
場所は変えて、行きつけの定食屋。ノエちゃんは相変わらず牛丼を注文していたが、私は何も食べる気にはなれなかった。
「団長はさ、今3つの案を提示できるよ」
1つ目は、理想案。
「団長とフレちゃんと、あとはマリンも誘って、みんなで説得する」
2つ目は、妥協案にしてノエちゃんの最善案。
「玲香ちゃんを、物理的に動けなくする。例えば、
そして、3つ目は。
「フレちゃんが、一人で玲香ちゃんを説得する」
きっと今、私が取るべき手段。何となく、そんな気がする。
「団長的には、2つ目がオススメ。玲香ちゃんにはちょっとお灸を据えてあげないとだしね」
手をかけた丼に罅が入った。過去に数回しか見たことのない怒り方だ。私のために怒ってくれるのは嬉しいけど、でもそれは玲香を壊してしまいそうだから選べない。
だからと言って、玲香を説得できるとも思わない。ましてや、私一人なんて。
「うーん・・・よし」
私が言葉に詰まっている間に、ノエちゃんは答えを出した。
「ごめんね。団長、少し強引な手を取るよ」
「え?」
いつの間にか空になった丼を置いて、立ち上がりながらそう言った。
「今から玲香ちゃんを探しに行くよ。で、見つけ次第重要参考人として連行する」
「それって」
「うん、2つ目を実行するよ」
焦燥が背筋を焼いた。あの目は、本当にやるときの目だ。
「それは」
「それがダメって言うなら!」
「!」
「フレちゃんが探して、自分で説得して」
私は、否応なしに走り出していた。何を話すかも決めていなければどこにいるかも分からないけれど、ぐちゃぐちゃな感情をそのままにただ足を動かしていた。
「妬けるなぁ、玲香ちゃん」
小さく呟かれた言葉が私の耳に入ることは、なかった。
ところどころで入れてるブラボの説明、どこまで通じてるのか心配になったわ。