ホロライブラバーズ トロフィー「夢覚めぬ者」獲得RTA   作:うろ底のトースター

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久しぶりすぎてもはや初投稿です。


想いと仲直り

起き上がる気にはなれなかった。

 

脳裏に浮かぶのは、あの女の、母の顔。憎い、ああ恨めしい。あの女を千切りたくて潰したくて殺したくて堪らない。すくなくとも、理由の分からない憎悪に呑まれたあの瞬間はそう思っていた。

 

『なぁ、可愛い可愛い私の娘よ』

 

()()()()()。私の血が、脳裏の瞳が、そう伝えていたのに、真実から目を背けていた。

 

私の知らない私の秘密。求めた物があったのにどうしてそれを否定したの?

 

あの時どうして憎悪を抱いたの?

 

殺意が鈍ったのは、何故?

 

私は、何がしたいの?

 

私は私が分からなくなった。知らない感情が綯い交ぜになって心の中を暴れ回っている。

 

『叶うなら、どこか遠い地で、何もかも忘れて幸せになってほしかったよ』

 

「捨てたくせに、ふざけないでよ」

 

本当に、本当に、不快だ。

 

 


 

 

玲香の自宅、ここにいる、そんな気がした。多分この直感は正しい。インターホンを押せばあの無表情な顔がドアの隙間から覗くだろう。

 

だから、二の足を踏んでいた。

 

恐怖なんだろう。玲香の拒絶が、心の傷になって私を縛り付けている。もしもう一度邪魔だと、不快だと言われたら、私は───。

 

また玲香が死んでもいいの?

 

気付いたときには、指に力が込められていた。扉を挟んで機械音が聞こえ、少しして足音が近づいてくる。

 

ガチャリと鍵が回されて、やはり表情のない少女と目が合った。

 

「ねぇ、今、大丈夫?」

 

玲香は静かに頷いた。その顔が苦しそうに見えたのは、きっと気のせいなんかじゃない。

 

恐怖は、なかった。

 

 

降り始めの雨のように、玲香はぽつりぽつりと語り出した。悪夢に行ったこと、本能の赴くままに獣を狩って回ったこと、母親に出会ったこと、殺されたこと。

 

そして、今胸の内に渦巻く名も知らない感情のこと。

 

私は彼女じゃないから、その全てを詳細まで理解できるわけではない。だから彼女が理解できるまで、傍にいるしかないんだ。

 

「玲香ってさ、泣き方知らないでしょ」

 

「泣き方?」

 

「そう、泣き方。みんなね、泣き方を知ってるの。嫌な感情で胸がいっぱいになったら、泣いて全部吐き出すの。そうじゃないと心が壊れてしまうから」

 

落ち着いた立ち振る舞いから、いつからか玲香を大人として見ていた。けどその実は、人並みを知らない女の子。知らないことは、わたしが教えてあげないといけない。

 

優しく玲香を抱きしめる。

 

「・・・フレア?」

 

「ゆっくり、ゆっくりでいいから、ちゃんと泣いて吐き出して」

 

啜り泣く音は、すぐに聞こえてきた。

 

 

「玲香さーん、そろそろお顔見て話したいかなって思うんだけど」

 

玲香が泣き出してから暫く。勢いで抱きしめたはいいものの、相手が同級生ということを意識してしまいどうにも気恥しくなってしまった。そのため、先程からこうして会話を試みてはいるのだが。

 

「・・・もう少し」

 

「それさっきも言ってたよね?」

 

この調子で、全然離してくれない。むしろいつの間にか背中に回された腕に、さらに力が込められる。

 

頼られてるのは嬉しいのだが顔から火が出そうだし玲香の吐息がくすぐったいし艶やかな銀髪からいい匂いがして妙な気分になるしでもう我慢の限界が近い。

 

「顔が熱くて、見られるのがとても嫌なの」

 

「人前で泣いてしまったのが恥ずかしいんじゃないかなぁ、多分」

 

「そう、これが恥なのね」

 

「今私も同じ気持ちだから、押し倒さないように、じゃなくて落ち着くために離れてほしいなって、ね?」

 

「私が落ち着くまで待って」

 

どのくらいかかるんだろうそれ。

 

「・・・フレア」

 

自分の中の変な欲求に耐えていると、ふと玲香が口を開いた。どうしてか、その身体が小刻みに震えているように感じる。何かを怖がっているようだった。

 

「どうしたの?」

 

「あの時、あなたを否定して、酷いことを言ったわ。本当にごめんなさい」

 

理解、そして納得。玲香は、私の胸の中でずっと謝ろうとしていた。許されないかもしれないという恐怖に耐えながら。

 

少しずつ感情が表に現れ始めた玲香が微笑ましかった。

 

「辛かったよ。拒絶されて、突き放されて、本当に辛かった。ここに来るのだって、またあんなこと言われたらどうしようって怖かったし」

 

「・・・そう」

 

「でも許す」

 

「え?」

 

「あ、やっとこっち向いた」

 

驚いて思わずこちらを向いた玲香の顔は、目元が赤く腫れていた。涙の痕もくっきり残っている。

 

「謝ってくれたから、もういいよ。それとも、まだ私を拒絶するの?」

 

「いいえ、もうしないわ」

 

「でしょ?だからもうこの話はこれでおしまい!」

 

震えは止まっていた。代わりに腕の力が強まったけど。

 

「──ねぇ、玲香はこれからどうしたいの?」

 

「フレアは、どうしてほしい?」

 

そんなの決まってる。

 

「もう悪夢に行かないでほしい、かな。私ね、玲香が傷つくと胸が苦しくなるんだ」

 

「・・・そう」

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい」

 

長い、長い沈黙の後に、静かに玲香は謝った。

 

「私はお母さんに会いたい。会って話がしたい」

 

「そっか」

 

やっぱりか、なんて諦めを抱えながら私は聞いていた。そしてほんの少しだけ迷って、観念した。

 

「──それじゃあ顔洗ってきなさい!涙袋に涙の痕って、可愛い顔が台無しだよ?」

 

「いいの?」

 

「うん、いいよ」

 

「・・・ありがとう」

 

そう言って玲香は顔を洗いに行った。

 

「また、悪夢かぁ」

 

右腕の燻りが蘇る。

 

 


 

 

中世の街並みを、黒い影がひたひたと歩いている。獣の病の罹患者の成れ果ては、既に人の形を失い、四足を地につけ、人ならざる膂力と俊足をもって民衆を喰い荒らす。手練の狩人であっても命を落とすことのある、危険な獣である。

 

その首が、突如飛んだ。翻る白刃は、獣狩りに用いるにはあまりに心もとない尋常な曲剣。しかし、扱う者が尋常ではなかった。

 

「まだ、まだ、足りない」

 

より速く、より鋭く、より強く。かつて己の弱さに打ちひしがれた少女、貪欲に力を求め続ける。抱えるそれは、狂気と呼ぶにはあまりに思いやりに満ちていて、同時に慈悲がなかった。敵にも、そして己にも。

 

いつか発揮した全力のその先を確実のものとするために、宝鐘マリンは、ただ一人悪夢を往く。獣の血を、滴らせながら。




ちと趣味がすぎた感は否めない、ないしイナムラなので失踪します。
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