ホロライブラバーズ トロフィー「夢覚めぬ者」獲得RTA 作:うろ底のトースター
まるで綱渡りをしているようだった。獣になりかけの古狩人の死体を見下しながら、マリンは先の戦闘をそう評価した。
この古狩人の得物は獣の手足をそのままもぎ取ったかのような鉤爪であり、度々叫び声を轟かせてはそのおぞましい本質を解放させ、獣の如き身体能力を得ていた。
奇しくもそれは、マリンの求めていた力。だが、どうにもその仕掛け武器に魅力を感じないのは、彼女が正式な狩人ではないからだろうか。
マリンが目をつけたのは、それよりもむしろ古狩人が持っていた黒い丸薬だった。
獣の血と、同じ匂いがした。
確信がある。これを噛み砕けばすぐにでも力を手に入れられる。しかし同時に、それをすれば人ではなくなるのだろうという確信もある。
少し迷った後、それをポーチにしまいこんだ。
「まだ足りないですねー」
強くなるには死地が必要だと、マリンは考える。なぜなら、死んだことのある玲香はあんなに強いから。
「いっそ死んでみようかな。あ、でも死んだら終わりか。それはダメだなぁ」
奇声を上げる群衆を斬り裂きながら、悠々と街を闊歩する。行く宛てはない。ただ、強者を求めていた。
──ふと、焦げた獣肉の匂いが鼻腔を突いた。あの爆炎を放つ金槌に潰されたそれとは違う、未だ焼き焦がれているかのような、獣の匂い。
まるで誘われるように、マリンは匂いの元へ歩き出す。
「濃いなぁ」
近づく度、際立つこの匂い。身体が震え、気分が高揚する。血を浴びすぎた彼女は気付かない。いつかの玲香のように、歪んだ笑みがその顔に浮かんでいることを。
長い階段を登りきり、大聖堂に辿り着いたマリンは、それを目にした。
祭壇に横たわり、その身を
それは強く、狂気的な執着心を持ち、阻む全てを許さない。獣に落ちて尚人の頃の想いを抱え続けるそれは、己が相対したあらゆる敵とは格が違う。
やがて獣はその身を起こし、大聖堂に入り込んだ一人の狩人に手を伸ばす。
求めるものは、既に無くしてしまったというのに。
ついに地に足をつけた獣。巨大な体躯、肥大化した強靭な左腕、酷い血肉の焦げる匂い。かつて玲香が狩った獣と似てはいるが、その危険性は比較にならない。
「a・・・a・・・」
獣は、その喉を震わせた。
「Quaaaaaaaaaaa!!!」
「いいよ、
そして、獣狩りが始まる。
まぁ、なんというか、楽観視ぃ、してたと思う。
ホロライブ学園。世界各国から特に戦闘力の優れた生徒の集まる私立高校。私が
特に苦労することなく入学の切符を手に入れて、多分調子に乗っていた。この程度かと、慢心していた。
クラス分けと席順を確認して自分の席に向かうと、既に隣に人がいた。
綺麗な、とても綺麗な女の子だった。映える銀髪、華奢な肢体、ロシア人形みたいな顔立ち。
こんな子が、戦える?こんな子と、戦う?そうだ、隣同士になったのもなにかの縁、バトルロワイヤル中に会ったら守ってあげよう。
・・・バカだった。守る?できるわけがない。むしろ一蹴されて、轢き潰された。
あれ、もしかして船長、弱い?
これが一つ目の機転。
人生で初めての挫折。まぁ、伸びた天狗の鼻がへし折られたわけで。
でまぁ、倒された相手である玲香たんに興味が湧いて、(あとできればお近づきになりたいっていうのもあって)一緒に戦う・・・ちがうか、付きまとうことにしたんだけど。
獣狩り。詳しくは知らないけど、とてつもなく凶悪で危険な怪物と命のやり取りをしていた。あんなに華奢な子が、だ。
一緒に戦おうと思った。
正義感、というよりエゴのほうが近いかも。とにかく、その獣狩りを手伝って、前よりずっと強くなった。慢心は、自信に変わっていた。
でも、玲香たんの背中はさらに遠ざかっていて、隣に立たせてはくれなかった。
戦うことは、できなかった。
これが二つ目の機転。
悔しさと、焦りのような感情が生まれていた。このままだと、玲香たんがどっか行っちゃうんじゃないかって。フレたんでも届かないような、どこか、遠くに・・・。
それは嫌だ。そう、嫌だ。
でもできることは、狩りに付いていくことだけ。実際、半端な訓練を積むよりも狩りで得られる経験のほうが大きい。
もっと頭が良かったら、他にやり方を見つけられたのかな〜、なんて歯痒い思いを味わい続けた。
そして、事態が急変した。
獣と化した人、玲香たんのことを知っているらしい謎の人物、過剰に反応する玲香たん。
何が何だか分からなかった。分からなくて、分からないままその日は別れて。
そして、三つ目の転機が訪れる。
初めての殺意、初めての絶望。友達の危機にも駆けつけることができない、弱者。
ああ、どうしてこんなに弱いんだろう。
強くなりたい、あの子を助けられるくらい、強く。
強く・・・。
もう、二度と戻らないと思っていた。
獣の血を踏みしめながら、フレアは深く息を吸った。血の匂いはフレアにとっては戦場の証。否応にもその感性が戦闘のために研ぎ澄まされていく。
ふと気になって、横目に玲香を見た。狂気の一端はそこには見えなかった。
「どうしたの?」
髪色によく似た銀色の瞳と視線が交わる。
「・・・なんでもない」
はて、玲香の瞳はあんな色であっただろうか。少し考えたが、どうでもいいとフレアは切り捨てた。
「おかしい」
少し悪夢を進んだ先、獣の死体を見て玲香は呟いた。
狂った古狩人達が今も獣を狩り続けているため、その死体は珍しいわけではない。
「巧すぎる」
目を付けたのは死因と見られる斬られた首の断面。凹凸がなく、鮮やかな手並みであることが伺える。
古狩人達の扱う仕掛け武器は、
「別の誰かが、悪夢に来てる」
「別の誰かって、随分と限られるよ」
悪夢について知っているのは、白銀騎士団の人員か宝鐘マリンのみ。そして、こうも容易く獣狩ることができるのは───。
「「マリン」」
2人は弾かれたように走り始めた。
獣の咆哮が、木霊する。
【次回予告】
次回も未定です。