ホロライブラバーズ トロフィー「夢覚めぬ者」獲得RTA   作:うろ底のトースター

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マラソン亡者、マラソンに時間を使いすぎる。


宝鐘マリン-2

獣と開戦してからすぐに、マリンは左手に持った銃をもう一本のサーベルへと持ち替えた。

 

彼女の銃が放つ弾は、狩人達が使う特殊なそれとは違う。獣に対しての効果が薄いのだ。ましてこれほど強大な獣であればその効果はほぼない。

 

で、あれば、斬ったほうが良い。

 

「シッ」

 

短い呼吸音と共に真っ直ぐに駆け出す。同時に、獣がその長い左腕を鞭のようにしならせ、横薙ぎに振るった。当たれば即死、それほどの重圧を持った左腕を、高跳びの要領で飛び越えた。

 

そして、すれ違いざまに斬りつける。

 

「っ!」

 

しかし、その刃が肉を裂くことはなかった。分厚い体毛と強靭な筋肉が、半端な一撃を完全に防ぐ。

 

「あっつ・・・」

 

加えて、その躯体から零れる炎が肌を焼く。

 

硬い肉、高い破壊能力、そして体力をじりじりと削る熱と炎。攻撃手段が近接のみに限定されたマリンにとって、この上なくやりずらい相手だった。

 

特に炎。仮に刃が通ったとして、肉の裂け目から炎が溢れ肉体を焼かれると考えると、とてもではないが近づきたくはなくなる。

 

が、距離を詰めるその脚が、止まることはなかった。

 

(削り合いだと確実に殺される。長期戦は論外。懐に入り込んで短期戦に持ち込むしかない。何より───)

 

思い出すのは、フレアと戦ったあの最後の瞬間。

 

(───焼かれるのは、慣れた)

 

今のマリンは、半身を焼き消されたとしても止まらない。

 

トンッ、と。小さく、地面を蹴る音がして、マリンの身体が急加速する。それは、玲香の扱う[加速]を自身の解釈し、見様見真似で再現したもの。

 

実際に消えるわけではないものの、突然に行われた速すぎる加速は、獣の動体視力を遥かに超えていた。

 

「!?」

 

(よし、懐には入れた)

 

厄介な左腕も、この距離では気にする必要はない。それでもこちらの攻撃が効くようになるわけではない。

 

この問題に対するマリンの解決法は、単純だった。

 

「同じ場所を」

 

二刀袈裟斬り。

 

「同じように」

 

そのまま勢いを殺さずに身体を回転させ。

 

「斬り続ける!」

 

浅い傷口をより深く抉るようにさらに、袈裟斬り。

 

彼女の卓越した技量によって実現したその連撃は、確かに獣の肉体に深い傷をつける

 

()()()()()()()

 

「・・・うっそだぁ」

 

硬すぎた、あまりにも。

 

狩人達が、ただ鋭利なだけの武器を持たない最たる理由は、獣の硬い肉質と分厚い体毛に阻まれてしまうからだ。故に彼らはギザギザとした刃か、力任せに断ち切る鈍を好む。

 

「うわっと」

 

そして、短い右腕が懐での長居を許さない。

 

ただの斬りつけは通らない。半端に重ねても効果がない。何より右左関わらずあらゆる攻撃が致命傷。

 

マリンは、手詰まりに追い込まれていた。

 

・・・ただ、一手を除いて。

 

懐から取り出した黒色の丸薬。獣の血と同じ香りのするそれは、マリン自身が使うことはないとしていた危険な物。

 

確信がある。これを食らえば、獣に堕ちる。血を浴びる度に人を失っていく。

 

「あんな風になるんですかね」

 

これを持っていた狩人は毛深く、ともすればその姿は獣のようであった。

 

「そうなるのは嫌だなぁ」

 

毛深い自分の姿を思い浮かべて、うえっと舌を出した。

 

「まぁ、いっか」

 

しかし、マリンはもはや弱い今の自分に対する未練は何もない。

 

変わらなければならない、あの子の隣で、あの子を護れるように。執着的で狂気的な自己暗示をかけ続け、躊躇いは消えた。

 

丸薬を、喉へ落とす。

 

「はぁ〜〜〜・・・・・・・・・・・・・気持ちよくなってきた」

 

「Quaaaaaaaa!!」

 

振り抜いた獣の左腕から、血が吹き出した。

 

「玲香たんもこんな気分だったのかな」

 

本来の卓越した技量に、獣の膂力が上乗せされたその結果、ただ鋭いだけの刃が獣の肌を()()()()

 

獣性。

 

それは、血を浴びるたびに正気を削り人を人ならざるものへ近づける。故に獣性を呼び覚ます黒い丸薬は、所持・服用を禁止されている。

 

余程の使命に駆られているか、あるいは狩りに酔いしれたか、いずれにしろ使った者の結末は、往々にして破滅である。

 

「最っっっっっっっっっ高」

 

 


 

 

初めての感覚。万能感とでも呼ぶべきかな。ともかく、すごく気分がいい。肌に触れた血がゆっくりと染みこんで、どんどん体が軽くなっていく。握った曲剣からみしりと軋む音がして、踏みしめた床に蜘蛛の巣のような罅が刻まれた。

 

あの二人の狩人と戦った最後の瞬間、限界を超えたあの一瞬が、今自分の力としてこの手の中にある。

 

何より、この力には限界がない。血を浴びるたびに増していく。

 

「この力があれば・・・あはっ」

 

あの子を超せる。

 

けどまだ足りない。もっと血がいる。

 

腕をちまちま斬ってても出る血なんてたかが知れてるし、次はお腹でも狙いに行こうかな。本当は頭を落とすのが一番だけど高すぎて狙えないし。

 

ととっ。

 

「Quaaaaaaa!!」

 

「暴れないでよ、今どうやって狩ろうか考えてたんだからさ」

 

にしてもすごいなぁ。あんなに脅威だった鞭みたいに長くて破壊力抜群な腕が、今ならそんなに怖くない。もちろん喰らったひとたまりもないのだろうけど、簡単に避けることができるから、問題ない。

 

さっきより懐に潜りやすい。

 

「じゃあ行っちゃいますか!」

 

血を浴びてもっと強くなる。そのために、目の前の獣を狩る。斬り刻む。

 

増した脚力を存分に利用しての加速。

 

「はやっ」

 

つんのめりそうになるのを無理矢理制御して停止。慌てて頭を下げて右腕の攻撃を避けた。

 

「って、今の間に合うんだ」

 

改めて、今の身体のスペックの高さを理解する。てかマジですごいねこれ。さっきの船長だったら潰れたトマトのできあがりだったよ。

 

ともあれ、目の前には獣の腹。

 

さて、じゃあ切るか。

 

「やっっわらか」

 

振った刃が、ずぷっと硬い体毛と肉を裂いた。例えるならそう、庶民じゃ手の届かないような上等なステーキにナイフを入れている感じ。

 

あ〜、そう考えると溢れる血が肉汁に見えてきて〜、お腹空いてきたなぁ。

 

てか玲香たんいっつもこんなの味わってたの?そりゃあんな()()笑顔しちゃうわ〜。羨ましい〜。

 

・・・ってことは、玲香たんも血あびるたびに強くなってるんだよね。獣を狩るたびに遠くなるんだよね。ああ足りない足りない。もっと、玲香たんの倍は狩らないと、倍は血を浴びないと。

 

玲香たんっていつもどうやってあんなに血塗れになってたっけ?

 

ああそうだ。

 

「こんな感じだった、ね!」

 

裂いた傷口から体内に向けて腕を突っ込む。そのまま、中身を引きずり出すように振り抜いた。

 

最っ高じゃないこれ!肉殴る感覚も内臓抉る感覚も血を掻き出す感覚も全部最高!すっごく気持ちいい!ずるいなぁ玲香たん!教えてくれても良かったのになぁ!

 

もっと欲しいなぁ。

 

どうせ玲香たんに追いつくためにはもっと血が必要なんだし、もっと狩らなきゃいけないんだし。

 

あはっ。

 

もっと斬って抉って掻き出して血浴びて強くならないとね。

 

もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと!!

 

じゃないと、じゃないと!

 

 

玲香たんに追いつけない強い獣を狩れない!

 

 

「あれ、今、何考えて───」

 

 

気付けば、空を飛んでいた。右半身が酷く痛んで、動かそうとしてもできなくて。てかなんで飛んでるの?ああ、殴られたのか、獣に。

 

「これは、死んだかもなぁ」

 

1秒後、べちゃりと肉の潰れる音が脳裏に響いた。




マラソン亡者、マラソンの休憩に別のマラソンを走る。
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