ブラック鎮守府の整備士日記   作:小椋屋/りょくちゃ

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第十話

朝食の支度をしていると、キッチンとして使用している部屋に、ある人物がやってきた。

 

「おや、雪風さん。朝食には、少し早いですよ?」

「しれぇ。あたしに、もう一回時津風と会わせてください。」

「いいのですか?」

「もう一回会って、お話がしてみたいです。」

「わかりました。本日の予定に加えておきますね。」

「しれぇ、ありがとうございます!」

「あっ、雪風さん。少し待ってください。」

「なんですか?しれぇ。」

「これをあげます。味見をしたことは、内緒ですよ。」

「ありがとうございます!しれぇ!」

「焼きたてですから、気を付けてくださいね。」

 

 

焼きあがったばっかりの卵焼きを一切れ、雪風に渡す。

はふはふと言いながら卵焼きを頬張る姿は、こう言っては雪風に失礼だが、さながら小動物のようで可愛らしい。雪風が食べ終わると同時に、 おいしかった! と笑顔でいいキッチンをでていく。たった数日で、ここまで回復したことを嬉しく思う反面、しわ寄せが起きることを危惧するのだった。

 

 

 

「それでは、本日の会議を始めようと思います。雪風さんから、時津風さんに会ってお話したいとつたえられました。明石さん、会議後、時津風さんに確認してください。」

「了解しました。」

「次に朝潮さん。備蓄資材についての、報告を。」

「はい。燃料が93944、弾薬が117242、鋼材が108761、ボーキサイトが83875でした。」

「大幅に減少してますね..。」

「妖精さんが情報を持ち帰るのを待ちましょうか。朝潮さん。次に、皆さんの様子はどうですか?」

「はい。おおむね良好で、変化はありませんでした。」

「わかりました、ありがとうございます。ほかに何か、ありますか?」

「いえ、何もありません。」

「私の方も、今のところは。」

「了解しました。それでは本日も、頑張りましょう。」

 

 

────────────────────────

「ゆっきーが、あたしと?」

「はい。時津風さんと、ちゃんとお話したいと。」

「でもゆっきーは……大丈夫……?」

 

─目を覚ました直後の雪風の様子がフラッシュバックする

「今のところは、おそらく。それ以上は、実際に会ってもらわないと、なんとも言えませんが。」

「…………わかった。あたしも、頑張る。」

「くれぐれも、無理はしないでくださいね。」

「…大丈夫。」

「わかりました。それじゃ、準備しますね。」

「お願い、します……。それと明石さん、あたしも…お願いが……。」

 

 

明石さんに案内された部屋の椅子に座って、雪風を待つ。何かあった時のために隣の部屋に、あの人、が待っていてくれてるらしいし、陽炎姉も明石さんも付き添ってくれる。大丈夫。あとは雪風を待つだけ…。

 

「時津風さん、大丈夫ですか?」

 

扉の向こうから、声が聞こえる。

 

「はい、大丈夫です…。」

 

ガチャ と扉が開く。開いてすぐその先には─

 

「ゆっきー……!」

「時津風……。守ってあげられなくて……ごめんなさい…。雪風がもっと強ければ、みんなを、時津風を、守ってあげられたのに………!」

「………そんなことないよ……。ゆっきー…。」

「…時津風……?」

「…ゆっきーは頑張ってた!あたしもいっぱい守ってもらった!ゆっきーは、自分を責めちゃ、ダメだよ………。」

「…でも、あたしは、死神です…。雪風のせいで、何人も何人も……死んじゃって………。ずっと1人なんだって………。」

「あたしは、ちゃんと帰ってきたから!だからもう、ゆっきーが1人じゃない……!死神なんかじゃない!」

気づけばあたしもゆっきーもぼろぼろと涙を流していた。

「時津風…!」

「あたしは、時津風は、ゆっきーと一緒にいる限り、幸運の女神のゆっきーがいる限り、ずっと沈まない。そう、約束したでしょ……?」

「でも……」

「でもじゃないよ。ゆっきーの相方は私なんだから。」

「うぅ……時津風ぇ……時津風ぇ……!」

 

涙を流すゆっきーをぎゅっと抱き締める。そこには今まで通りのゆっきーがいて…。

ゆっきーとちゃんとおしゃべりできたのは、いつぶりだろうか。

 

 

────────────────────────

 

 

「…ひとまず、大丈夫そうですね。会話も、たわいの無いものになりました。」

「………そうね。私たち艦娘を、舐めてもらっちゃ困るわ。」

「………なんで朝潮さんではなく、満潮さんが?」

「………別にいいじゃない。今日の秘書艦の仕事は、ほとんどないようなんだし。」

「まぁ、そうですが……。」

「たまには、こーゆー日があっても、いいでしょ?」

「……そうですね。」

「……!?ちょっ!?頭を撫でてほいしわけじゃないんだって!」

「あれ、違いましたか?時津風さんと雪風さんを見ていたら、なんだか寂しくて、怖くて。だからここに来たんじゃないんですか?」

「はぁっ!?なにそれ、意味わかんない!」

「整備士の勘、ですよ。」

 

だんだんと会話がたわいも無いものになっていくのを感じて、1度記録を止める。顔を真っ赤にしながら憤る満潮の顔を見て、

 

 

「満潮さん……そういうことは、何よりも先に、報告してください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酷く打ちのめされるのだった。

────────────────────────

 

またいつもと同じ、夢を見た。

私に向かって、雪風に向かって、助けて。助けて。と言いながら仲間が沈んでいく夢。

かつて仲間だったものに、暗い暗いところに、引きづり込めれそうになる夢。

帰りついた"家"であるべきところで、なぜ帰ってきた。死神が。と罵られ、殴られ蹴られる夢。

 

今日もそうなるはずだった。

 

そこに敵は居なくて、艦隊のみんなが笑顔で手を振っていて。

 

暗い暗いところから、呼ばれていても、時津風が私の手を引いて。

 

帰ってきたところは、凄く暖かいところで。

 

「よく頑張ったな。」

 

何度も声を聞いた訳でも無いのに、あの人の声が聞こえる。

 

撫でてくれる手は、とっても暖かくて。

 

"帰ってきた"ことを、しっかり教えてくれる。

 

隣には、笑顔の時津風。

 

雪風はもう、どこにも行かない。暗い水底に呼ばれても、海色に染まることは無い。

 

 

 

 

 

 

だって私、駆逐艦雪風の居場所は、ここなんだから。




これにて雪風編、ひとまず終了です。

とはいえ、雪風の心の傷は完全に癒えた訳では……

そして満潮さんに、何があったのでしょうか……。
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