朝食の支度をしていると、キッチンとして使用している部屋に、ある人物がやってきた。
「おや、雪風さん。朝食には、少し早いですよ?」
「しれぇ。あたしに、もう一回時津風と会わせてください。」
「いいのですか?」
「もう一回会って、お話がしてみたいです。」
「わかりました。本日の予定に加えておきますね。」
「しれぇ、ありがとうございます!」
「あっ、雪風さん。少し待ってください。」
「なんですか?しれぇ。」
「これをあげます。味見をしたことは、内緒ですよ。」
「ありがとうございます!しれぇ!」
「焼きたてですから、気を付けてくださいね。」
焼きあがったばっかりの卵焼きを一切れ、雪風に渡す。
はふはふと言いながら卵焼きを頬張る姿は、こう言っては雪風に失礼だが、さながら小動物のようで可愛らしい。雪風が食べ終わると同時に、 おいしかった! と笑顔でいいキッチンをでていく。たった数日で、ここまで回復したことを嬉しく思う反面、しわ寄せが起きることを危惧するのだった。
「それでは、本日の会議を始めようと思います。雪風さんから、時津風さんに会ってお話したいとつたえられました。明石さん、会議後、時津風さんに確認してください。」
「了解しました。」
「次に朝潮さん。備蓄資材についての、報告を。」
「はい。燃料が93944、弾薬が117242、鋼材が108761、ボーキサイトが83875でした。」
「大幅に減少してますね..。」
「妖精さんが情報を持ち帰るのを待ちましょうか。朝潮さん。次に、皆さんの様子はどうですか?」
「はい。おおむね良好で、変化はありませんでした。」
「わかりました、ありがとうございます。ほかに何か、ありますか?」
「いえ、何もありません。」
「私の方も、今のところは。」
「了解しました。それでは本日も、頑張りましょう。」
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「ゆっきーが、あたしと?」
「はい。時津風さんと、ちゃんとお話したいと。」
「でもゆっきーは……大丈夫……?」
─目を覚ました直後の雪風の様子がフラッシュバックする
「今のところは、おそらく。それ以上は、実際に会ってもらわないと、なんとも言えませんが。」
「…………わかった。あたしも、頑張る。」
「くれぐれも、無理はしないでくださいね。」
「…大丈夫。」
「わかりました。それじゃ、準備しますね。」
「お願い、します……。それと明石さん、あたしも…お願いが……。」
明石さんに案内された部屋の椅子に座って、雪風を待つ。何かあった時のために隣の部屋に、あの人、が待っていてくれてるらしいし、陽炎姉も明石さんも付き添ってくれる。大丈夫。あとは雪風を待つだけ…。
「時津風さん、大丈夫ですか?」
扉の向こうから、声が聞こえる。
「はい、大丈夫です…。」
ガチャ と扉が開く。開いてすぐその先には─
「ゆっきー……!」
「時津風……。守ってあげられなくて……ごめんなさい…。雪風がもっと強ければ、みんなを、時津風を、守ってあげられたのに………!」
「………そんなことないよ……。ゆっきー…。」
「…時津風……?」
「…ゆっきーは頑張ってた!あたしもいっぱい守ってもらった!ゆっきーは、自分を責めちゃ、ダメだよ………。」
「…でも、あたしは、死神です…。雪風のせいで、何人も何人も……死んじゃって………。ずっと1人なんだって………。」
「あたしは、ちゃんと帰ってきたから!だからもう、ゆっきーが1人じゃない……!死神なんかじゃない!」
気づけばあたしもゆっきーもぼろぼろと涙を流していた。
「時津風…!」
「あたしは、時津風は、ゆっきーと一緒にいる限り、幸運の女神のゆっきーがいる限り、ずっと沈まない。そう、約束したでしょ……?」
「でも……」
「でもじゃないよ。ゆっきーの相方は私なんだから。」
「うぅ……時津風ぇ……時津風ぇ……!」
涙を流すゆっきーをぎゅっと抱き締める。そこには今まで通りのゆっきーがいて…。
ゆっきーとちゃんとおしゃべりできたのは、いつぶりだろうか。
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「…ひとまず、大丈夫そうですね。会話も、たわいの無いものになりました。」
「………そうね。私たち艦娘を、舐めてもらっちゃ困るわ。」
「………なんで朝潮さんではなく、満潮さんが?」
「………別にいいじゃない。今日の秘書艦の仕事は、ほとんどないようなんだし。」
「まぁ、そうですが……。」
「たまには、こーゆー日があっても、いいでしょ?」
「……そうですね。」
「……!?ちょっ!?頭を撫でてほいしわけじゃないんだって!」
「あれ、違いましたか?時津風さんと雪風さんを見ていたら、なんだか寂しくて、怖くて。だからここに来たんじゃないんですか?」
「はぁっ!?なにそれ、意味わかんない!」
「整備士の勘、ですよ。」
だんだんと会話がたわいも無いものになっていくのを感じて、1度記録を止める。顔を真っ赤にしながら憤る満潮の顔を見て、
「満潮さん……そういうことは、何よりも先に、報告してください。」
酷く打ちのめされるのだった。
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またいつもと同じ、夢を見た。
私に向かって、雪風に向かって、助けて。助けて。と言いながら仲間が沈んでいく夢。
かつて仲間だったものに、暗い暗いところに、引きづり込めれそうになる夢。
帰りついた"家"であるべきところで、なぜ帰ってきた。死神が。と罵られ、殴られ蹴られる夢。
今日もそうなるはずだった。
そこに敵は居なくて、艦隊のみんなが笑顔で手を振っていて。
暗い暗いところから、呼ばれていても、時津風が私の手を引いて。
帰ってきたところは、凄く暖かいところで。
「よく頑張ったな。」
何度も声を聞いた訳でも無いのに、あの人の声が聞こえる。
撫でてくれる手は、とっても暖かくて。
"帰ってきた"ことを、しっかり教えてくれる。
隣には、笑顔の時津風。
雪風はもう、どこにも行かない。暗い水底に呼ばれても、海色に染まることは無い。
だって私、駆逐艦雪風の居場所は、ここなんだから。
これにて雪風編、ひとまず終了です。
とはいえ、雪風の心の傷は完全に癒えた訳では……
そして満潮さんに、何があったのでしょうか……。