駆逐艦娘達は改めて見るまでもなくボロボロである。
虚ろな目、生気のない目。雪風や白露、睦月はどこの鎮守府でも元気いっぱい、明るさいっぱいのはずなのに、ここではそんな面影もない。
「睦月、弥生、皐月、文月、吹雪、白雪、綾波、白露、村雨、朝潮、満潮、大潮、陽炎、不知火、雪風ですね?」
全員の名前を読み上げる。優しい、素の口調で。
すると満潮がゆっくりと顔を上げて聞く。他の駆逐艦娘に比べるとかろうじて目に光が残っている。……しかし朝潮と揃って、頭1つ飛び抜けてボロボロだ。おそらく大潮を庇ったのだろう。
「どうして…私たちの名前を?」
「どうしてって言われても困りますが…元々は提督になりたかったんですよ。そのために勉強したけど、届かなくて。だから代わりに整備士になった、ってところです。…とりあえず入渠してきて貰えますか?怪我を治してください。」
「お風呂……お風呂に入っていいの……?」
「えぇ、工廠の簡易ドックで、ですが…。」
「ほんとに…ホントなの?」
……人を疑う目だ。生気の無い目に比べたらまだ救いようがある。虚勢を張っているのはわかるが満潮は、会話がかろうじてできている。ここは頼ることにするか。
「すぐ準備します。準備出来たら呼びに行くので…そこの休憩室にいて下さい。満潮さん、皆さんをお願いします。」
「わ、わかったわ。嘘ついたら、ただじゃ済まさないんだから!」
こちらに怯えているのが手に取るようにわかる。だが精一杯の返事をしてくれる。今のうちはこれでも十分ありがたい。
「お願いします。すぐに準備しますね。」
「皆、こっちよ。着いてらっしゃい。」
「さて、簡易ドックを用意しますか。」
そっとその場を離れるのだった。
「誰?誰かそこにいるの?」
暗い工廠の小部屋から声が聞こえる。
「明石…さんですか?」
「なんで…私の名前を?」
「…僕は新しく来た整備士ですから。名前を川原悠人と言います。少し、手伝ってもらいたくて。」
「…………そうですか。あなたは信用できそうですね。で、私はどうすればいいですか?」
「簡易ドックを使えるようにするのを手伝ってください。後…妖精さんと話がしたいです。」
「わかりました。準備します。」
艦娘は基本、疑うということを知らない。それだけ純粋無垢でまっすぐなのだ。明石も存在を忘れられていただけなので、極度の人間不信、という訳ではなさそうだった。
「………ほんとに入渠させてくれるなんてね…。」
周りからは何も返ってこない。それほどまでに心をボロボロにされていた。
「いつぶりかしら。……いけない。私がもっとみんなのために頑張らなきゃなのに。」
「満潮ちゃん……もう、いいんだよ……。頑張らなくても…。」
「何言ってるのよ、吹雪!やっと希望が見えたんだから!これからじゃない!」
「どうせあの人だってすぐ……うっ。うぅっ……。」
「……………。」
何も、言い返すことが出来なかった。
「これで、今この鎮守府に残っている妖精さん達全員です……。」
「……やはりこれだけですか…。背に腹は変えられません。皆さんにお願いします。皆の服を超特急で治してきてください。なるべく早く、完璧に。報酬は特注の金平糖を2粒づつです。どうですか?」
「こんぺいとー、くれるですか?」
「ほんとにほんとですか。」
「このひと、うそついてなさそうです。」
「ならがんばってみるです。」
「こんぺいとーよういしてまってろよ、です。」
「ありがとう、妖精さん。」
5人しか残っていない妖精さん達のおかげで、ボロボロになっていた制服も修繕ができ、またその間に休憩室を綺麗に整え、駆逐艦娘だけでも落ち着けるようにできた。
「その……ありがと。……あなたのおかげでみんな入渠できたわ、…できました。」
妖精さん達に報酬の金平糖をあげているところに、満潮が一人でやってきた。
「どういたしまして。あぁと、名乗るのが遅れました。整備士の川原と言います。それで皆さんは?」
「川原さん…ね。皆はとりあえず部屋でゆっくりしてもらって…ます。でその…川原さんは私たちを入渠なんかさせて何がしたいわけ…ですか?」
「無理に敬語を使わないでください。こっちまで縮こまってしまいますから。それで何をしたいかですか?……この鎮守府を変えて、艦娘の皆さんに幸せになってもらう事ですかね。」
「………はぁ?何それ、意味わかんない。私達艦娘は兵器よ?兵器が幸せになって良い訳ないじゃない。」
「兵器である前に、皆さんは可愛い女の子ですよ?」
「ふぅーん……意外に口が上手いのね。で、その…川原さんは、妖精さんに懐かれてるのね。意外だわ。妖精さん達、酷い目に合わされて私たちの艤装妖精さんすらほとんどいなくなっちゃったんだから。」
「呼びづらかったら、無理に川原さんと呼ばなくてもいいですよ。妖精さんと仲がいいのは、僕が妖精さんに好かれやすい体質だからですかね。あと、働きに対して正当な報酬を支払ってるから、でしょうか。」
「そうなのね。」
「…ご飯を作りに行きたいのですが…止めといた方がいいですかね?」
「…そうかもね。運ぶのは私と明石さんで何とかするから…ってえっ!?ご飯!?」
「えぇ。腹が減っては戦は出来ぬ、です。」
「そんなことしたらあんた…!あの……くっ。司令官にボコボコにされるわよ!」
「……ここにいる間は別に司令官と呼ばなくてもいいですよ。僕も、彼は大嫌いですし、何より駆逐艦娘全員は僕が管理権をもらいました。口出ししないと言質も取りましたから。」
「……はぁ。わかったわよ。あんたを信頼してあげる。その代わり、裏切ったらただじゃ済まさないんだから!」
「命の恩人である艦娘を裏切るようなことはしませんよ。安心してください。」
ギリギリまで緊張の糸を張り詰めてるのがありありとわかる。それを見てすっと椅子から立ち上がり、同じ目線の高さまでしゃがんだかと思うと満潮を思い切り抱きしめる。思い切り怯えられているが、今の満潮ならこれが1番得策だ。
「ちょっ!何するのよ!」
「……僕の前くらいなら、泣いてもいいんですよ。虚勢を張り続けなくてもいいんですよ。あなた達は、僕が守りますから。」
「べ、別に虚勢なんか張ってないし!」
「…よしよし。満潮さん、今までよく頑張りました。」
「そんなこと言われたら……うぐっ…うぅっ……うわぁぁぁぁぁぁぁん 」
「よしよし……。」
「だずげで……。私たちを…たずげで……うわぁぁぁぁぁぁぁぁん」
「大丈夫。大丈夫ですよ。よく頑張りました。これからは任せてください。」
年相応に泣きじゃくる満潮をしっかりと抱き締めながらゆっくりと頭を撫でる。優しさに触れたからか、緊張の糸も何もかもが切れる。そこにいるのは艦娘でもなんでもない、ただの少女だった。ゆっくり、ゆっくりと頭を撫でる。久々に入渠したことによって美しさを取り戻したクリーム色の髪の毛の上を、所々にタコができた手が走る。
「…誰か分からないけど満潮から手を離してください!私たちの満潮を返してください!!どんな罰でも代わりに私が受けます!だから満潮から離れてください!」
と急に背後から怒鳴られる。この声は…朝潮か。僕が満潮を泣かせたと思われたのだろうか。前途多難なものを感じるのだった。
明石さんは人の悪意にも善意にも触れていないのでそこそこ簡単に話してくれました。妖精さんは金平糖で簡単に釣れたようですね。
そしてかろうじて満潮さんと会話ができるように。
やっとスタートラインに着く準備が出来そうです。
次回は朝潮さんとお話するのと、満潮さんともっとお話してもらいます。
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