ブラック鎮守府の整備士日記   作:小椋屋/りょくちゃ

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少し遅れてしまいましたー。


第三話

「…誰か分からないけど満潮から手を離してください!私たちの満潮を返してください!!どんな罰でも代わりに私が受けます!だから満潮から離れてください!」

 

そう背後から怒鳴られてしまった。とりあえず満潮から手を離す。小さく「あっ…」と名残惜しそうな声が聞こえたが今は無視する。

 

「あ、朝潮!」

「満潮から離れてください!大切な姉妹なんです!罰は私が代わりに受けます!だから…だから!」

「わ、私は何もされてないって……」

「お願いです…。満潮から……」

「私は何もされてないってば!朝潮!」

「ほ、ほんとですか…?」

「えぇ。朝潮さんが思っておられるようなことは一切していませんよ。」

 

朝潮らしいと言えば朝潮らしい。根の性格がまだ出ている。

この二人は着任してまだ日が浅いのだろうか…?心の傷自体は軽傷な様だった。しかし、刷り込まれた物となると話は違う。忠犬と称される程真面目な朝潮は、洗脳とも言える刷り込みに、完全に飲み込まれていた。

 

「その……申し訳ありませんでした。人間様にいきなり怒鳴りつけてしまい、誠に申し訳ございませんでした。罰は何卒私だけで許してください…。」

 

そんなことを考えていると目の前で朝潮が急に土下座を始めた。……ここの提督が艦娘に対して施した洗脳。それはやはり人間に対する絶対服従だった。心など、あってないようなものだ。自ら罰を求め、満潮には何もされないように仕向ける。……満潮は無関係のはずだがここで出てくる、ということは余程そのようなことを繰り返していたのだろう。さらに言えばここは工廠。長らく使ってなかったとはいえ、いや長らく使ってなかったからこそ床もまだ埃まみれである。そんなところに臆面もなく土下座できるように刷り込んだ提督に、猛烈な吐き気を覚えた。

 

「あ、朝潮さん?顔をあげてください。」

「私はどのような罰も受ける所存です。」

「こんなことで罰を与える訳にはいかないんですが…」

「……え?あ、ほんとにお願いします。満潮の分まで私が罰を受けます。だから…!」

「だから罰を与えることはしませんから。早く顔をあげて立ってください。」

「ですが……」

「ですがじゃありません。顔をあげて立ってください。」

「……はい。」

 

落ち着いて顔をあげた彼女の頭をそっと撫でる。手を伸ばした瞬間朝潮からは「ひっ」と怯えられ、満潮からは「殴るなら私を…!」と言われてしまった。

彼女の髪も、サラサラで美しい。こんなにも幼い子供に何を行ってきたのか、二人の態度を見ただけで理解してしまった。なら自分は、それを変える。鎮守府全てを変えるために証拠を集める。駆逐艦娘達を、最優先で癒す。これが今後の課題だった。

 

「あなたは何も間違ったことはしてませんよ。妹を守るために精一杯動いたんですから。偉いです。罰なんて与えられませんよ。むしろ褒めるべきです。」

「え、あ……は、はい…。」

「よく頑張って声を上げました。もう大丈夫です。この工廠の中に居るうちは、もう怯えさせることはしませんから、安心してください。」

「ほんと……ですか…?」

「えぇ、必ず。約束致します。」

 

そういうとその場にへたりこんでしまった。張り詰めていた緊張が押し隠していた、恐怖心や怯えの心が急に心に戻ってきてふっと力が抜けてしまったようだ。

 

「朝潮!?大丈夫!?」

「朝潮さん!?」

「ほんとに……ほんとに安心していいんですか…?また、私たちに暴言や暴力を振るいませんか…。」

 

朝潮の両目からポロポロと雫がこぼれていた。

それを見て、しゃがみこみ目線を同じ高さにする。

 

「大丈夫です。約束します。私は絶対に、この鎮守府を変えてみせます。」

「うぐっ…うぅ……うわぁぁぁぁぁぁん!」

「よしよし…。よく頑張って声を上げました。よく満潮さんを守ろうとしました。花丸です。もう安心していいんですからね。」

 

そう言いながら抱き寄せ、そっと頭を撫でたり、背中をさすってやったりする。大丈夫、大丈夫。そう言い聞かせながら。

 

 

数分間泣き続けた朝潮は泣き疲れたからか、極度の緊張による疲れからかは分からないがそのまま眠りに落ちてしまった。

 

「あのすみませんが明石さん…朝潮さんを、休憩室に運んでくださいますか?私が行ったら恐らく、大変なことになるので…。」

「わかりました、いいですよ。」

「よろしくお願いします…。あぁそれと満潮さん。皆さんを寝かせてあげてください。もうこんな時間ですから。もちろん、布団は使ってください。ホントなら何か食事を作ってあげたいのですが……」

「……私たちにはいらないわよ。兵器だもの。」

「……ですよね…。とにかく、今日はもう休息を取ってください。ふかふかの布団…では無いかもしれませんが、布団を敷いて寝てください。明石さん、よろしくお願いします。」

「わかりました。さぁ行きますよ、満潮さん。」

「私たちは兵器よ?布団なんて…」

 

そう言って拒否しようとするがそれを察知した明石がサッと満潮に耳打ちした。

 

「今ここで、この人を不機嫌にしてもいいことはありません。使えと言われてるんですから、使いましょう。」

 

「……わかったよ。休息を取る事にするわ。」

「明石さんもおつかれでしょうから、今日はそのまま…」

「いえ、私は大じょ」

「だいじょばないです。寝てください。満潮さんに示しがつかないので。」

「……わかりました。失礼します。」

 

明石が機転を効かせたおかげで、何とか休息を取って貰うことに成功した。何とか満潮と朝潮、それに明石はかろうじてコミュニケーションを取れるようにすることができた。まだまだ道は長い。しかし確実に1歩前進した。そう思うとふっと眠気に襲われ川原はそのまま椅子にもたれるように深い眠りに落ちるのだった。

 




ちょっとだけ、考えを改めさせることに成功。

しかしまだまだ道は遠いようです。

とりあえず着任初日は終了です。
また来週をお待ちください。
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