満潮さん回
「明石さん、皆さんの調子はどうですか?」
「何名か改善傾向が見られるようになってきました。ですが睦月型の娘達は……。」
「…わかりました。…朝食の方は皆さん取ってくれましたか?」
「はい。何とか。一部の娘には、"命令"と言って食べてもらいました。」
「……了解です。午後になったら、満潮さんにこの部屋に来るように伝えてください。」
「わかりました。川原さんは、本日は如何なさいますか?」
「僕?僕はそうですね…。午前中は艤装のチェックと妖精さんとのコンタクトを取ろうかなと。明石さんも、駆逐艦娘の皆さんと自由にしててください。午後は…そうですね。満潮さん達と少し話をしてみましょうか。」
「でしたら、艤装のチェックはお供させていただきます。」
「明石さんも、無理に敬語は使わないでください。少し、困りますから…。」
「………わかりました。改善します。」
村雨と別れたあと、出来合いのもので朝ごはんを用意し、駆逐艦娘達に食べさせた。朝潮や満潮、陽炎は戸惑いながらも食べてくれたようであり、白露と村雨に至っては泣いて喜びながら食べていたようだ。しかし問題は睦月型と吹雪型、雪風達であり、完全に心をおられたのか、明石が"命令"として食べさせようとするまで一切何もしなかったという。1番の問題は睦月型と吹雪型、雪風なのではないだろうか…。
「……酷い有様ですね。」
「えぇ……。」
「艤装妖精さんが残ってる装備が全くないんですが…。……あれ、これは潜水艦の艤装…?鎮守府のどこにも潜水艦なんていなかったのですが…。」
「…私も、潜水艦の娘たちは、見た事ありませんね。」
「まさか、出撃を?工廠でメンテナンスや補給も受けずに? ………。悩んでいても仕方ないですね。全部綺麗に直しますか…。」
「お手伝いします。」
「ありがとうございます。では明石さん、あのパーツを─」
コミュニケーションを取りながら艤装の整備を進め、午前中に粗方の作業を終えることができた。汗を軽く流し、昼食を用意したあと、満潮と話をするために彼女を呼び出した。やはり彼女の目は、どこか翳りがあった。
「何か用?」
「少し、外出に付き合って欲しいんです。無論、心配とあれば明石さんにも同行してもらいますが…」
「心配要らないわ。」
「ありがとうございます。それじゃ、行きましょうか。」
無事、満潮と2人で話す場所を確保することに成功する。別にあの部屋でも良かったのだが、壁に耳あり、障子に目あり。外出先で話すことにした。
「で、何をするの?」
「買い物…ですかね。正直、物がないと何も出来ないので。」
「そーゆー事じゃなくて、何か私に、話があるんでしょ?」
「……鋭いですね。」
「一応仮にも、あんなゴミの元で暮らすことを強要されてた訳だし。」
「ふむ……。満潮さんもまだ、要経過観察ですね。」
「はぁ!?何それ!意味わかんない!私は朝潮姉さんや白露や村雨、ほかの子とは違ってもう立ち直ったわよ!」
「ならなんで、その左手はスカートの裾をきっちりと握っているんですかね…?」
「な!?これは…」
「……立ち直っただなんて、とんでもない。心が強かったばっかりに、トラウマは全て鮮明に覚えてるし、夜も眠れる訳では無い。フラッシュバックなんて日常茶飯事で、もう限界を超えているのもわかっている。そうですよね?」
「なんで…なんでわかるのよ……。」
「それが"整備士"ですから。」
「聞いたことないわよ…そんな話……。っく…なんで私…泣いてるのよ。みんなの為に、私が泣いてる姿を見せる訳にはいかないのよ……!」
満潮は、ボロボロとこぼれ落ちる涙を必死に拭っては、声を殺して何分も、何分も泣き続けた。
「……はぁ。ったく、つくづく自分が情けないわ…。」
「そうですかね?」
「そうよ。頼れって言われてたのに頼らないで抱え込んだままにして、それで辛いからって虚勢はって隠し通そうとして、あっけなくバレて。」
「それが、満潮さんのいい所でもあると、僕は思いますよ。」
「はぁ?何それ、意味わかんない。」
「自分で解決してみようと全力で努力する。自分を律して動ける。そして何より、そこには人を気遣う優しさがある。」
「そう…なのかしらね。」
「えぇ、そうです。ですがまぁ、もっと僕のことを頼ってくださいね。」
「それは…もっと善処するわ。」
細々と、必需品を買い込み、鎮守府に戻る頃には、満潮の目に翳りはなかった。満潮は大丈夫だろう。そう思った。しかし…
「しれぇ、どこにいるの?雪風のしれぇはどこ?ねぇ教えてよ」
そう、虚空に向かってつぶやく雪風"だった"艦娘を見るまでは。
雪風ちゃん…