たまにはこーゆーのもいかがでしょう?
「雪風……さん?」
「しれぇ、しれぇ、雪風のしれぇはどこに行ったんですか?帰ってきてくださいよ、しれぇ。しれぇ、しれぇ、しれぇ、しれぇ、しれぇ、しれぇ、しれぇ、しれぇ、しれぇ、しれぇ、しれぇ、しれぇしれぇしれぇしれぇしれぇしれぇしれぇしれぇしれぇしれぇしれぇしれぇしれぇしれぇしれぇしれぇしれぇしれぇしれぇしれぇしれぇしれぇしれぇしれぇしれぇしれぇ」
「雪風は……もう戻らないわよ……。」
「なぜ…ですか?」
「もう…艤装すら装着できないのよ…。」
満潮がそう、冷酷な事実を告げる。
艦娘は、艤装が使えないとなると、即座に解体処分となるのが常であった。
「それって……」
「…出撃が、一切ないから、バレることがなかったけど……解体処分になるのかしら。」
「ちなみに…原因は?」
「一切合切不明よ。私たちで出来るだけ、色々試して見たけど何もわからなかったわ…。」
艦娘には、最低限の自己メンテナンス機能が備わっており、艤装のチェック等はできるようになっている。しかし、それで全く分からないということは、整備士でも、工作艦でも分からない場合が多い。
雪風の艤装を修復した時は、異常は見当たらなかった。ということは、原因は必ず雪風内部にある。そしてそれは…非情にも、助かる見込みがないことを暗示していた。
「なんで雪風がああなったか、話さなきゃいけないわね。これはもう大分前、深海棲艦の侵攻が活発だった頃。最前線たるこの鎮守府は毎日毎日昼夜を問わず、防戦に駆り出されたわ。司令官があれだもの。艦種を問わず、轟沈なんて日常茶飯事。敵艦隊を退けた功績と救援ってことで毎日山のように資材が届くから、それで何度も何度も建造をして、気づけば誰が入れ替わったかなんて、わかんなくなってたわ。今生き残ってる私たちは、それを切り抜けた精鋭中の精鋭。建造したての娘は、全く動けず、どんどん沈んでいってたわ。そんな中、雪風の居る駆逐隊は悲惨だった。産まれたての高性能駆逐艦を詰め込んだだけの部隊じゃ、盾になることも出来ず、的になるので精一杯だった。一番最初に、彼女と僚艦だったメンバーは、彼女を守るように死んでった。次に彼女と僚艦になったメンバーは、彼女と共に戦いながら死んでった。それから後に、僚艦になったメンバーは、彼女に助けを求めながら死んでった。雪風と中が良く、最終侵攻の直前まで何とか生き残ってた時津風は、雪風を狙った流れ弾に直撃して、半身を失って死んだわ。それから、雪風は壊れた。あの司令官に犬のようにつきまとい、しれぇ!しれぇ!と笑っていた。もちろん雪風も、アイツにいい思いはしてないはずなのに、よ。心なんて、あってないようなもんだった。村雨や、睦月達みたいに壊れてた方が、何倍も救われたでしょうね。そうしてそのうち、持ち前の幸運も働かなくなった。艤装との関係が、完全に切れたんでしょうね。そしてそれから、付きまとうことも無く、虚空に向かって呟くようになったのよ。しれぇ、しれぇ、って。」
しれぇ、どこに行ったの?しれぇ。雪風の大好きな、雪風だけのしれぇ。早く帰ってきて欲しいな。しれぇ。しれぇ。雪風は、いい子で待ってます。だから帰ってきてください。しれぇ。
─雪風!雪風!─
うるさいなぁ…。雪風は、しれぇをずっと待ってなきゃいけないんです。邪魔しないでください。
─雪風さん!しっかり!明石さん!蘇生を!─
しれぇ?…じゃないか。雪風が待ってるのは、雪風のしれぇです。関係ない人は帰ってください。
─あぁもう!今やってますよ!なんで艦娘がこんなに!─
しれぇ、しれぇ。邪魔する人は、要らない。
あっ、しれぇ!今そっちに…!
って…時津風?邪魔しないでよ。雪風は、ずっとしれぇを待ってたんです。やっと会いに行けるんです。だからそこを通してください。
「雪風は、それでいいの?」
はい!雪風は、しれぇをずっとずっと、ずーーーーっと待ってたんです!
「しれぇって、誰?私たちには、しれぇはいないんだよ?」
しれぇはしれぇです!そんなことを言う時津風なんか、大っ嫌いです!
「雪風、サァ、コッチへオイデ。イイモノヲアゲヨウ。ダカラ早ク、司令官ト行コウヨ。」
はい!司令官!今行きます!
「ダメっ!雪風!」
離してください時津風!雪風は、しれぇと一緒に行くんです!
「その人は、司令官なんかじゃない!雪風の、本当の司令官が待ってるんだから!こっちに来ちゃダメッ!」
時津風!辞めてください!雪風は司令官と一緒に行かなきゃダメなんです!お願いだから!
「陽炎ちゃんに不知火ちゃん、満潮ちゃんや、みんな。そしてとってもとっても優しい司令官が雪風のために待ってるんだから!お願い!戻ってあげて!」
「雪風?惑ワドワサレチャダメダヨ?サァ、司令官ト行コウ。」
─雪風さん!雪風さん!あなたの帰ってくる場所はここです!だから…帰ってきてください!─
雪風の…帰る場所?雪風は、帰ってもいいの…?
「雪風。雪風の帰るべき場所はここじゃない。ここは来るべきところじゃない。雪風。またいつか、あたしも帰るから。先に待ってて、雪風。」
雪風は……ほんとに帰ってもいいの?
─はい!みんな雪風さんの帰りを心待ちにしてます!だから!!─
なら…帰らなきゃ。時津風が来るなら、お出迎えの準備をしてあげなきゃ。早く…早く帰らなきゃ。みんなが、私を呼んでるんだから…!
川原整備士は、雪風を癒すことができるのでしょうか。
雪風編、スタートとなります。