「……ここは……?」
「私、明石専用のドックです。雪風さん、あなたは数日間、生死の境を─
「ひっ!?いやっ!いやぁっ!?許して!許して!痛いのは嫌だ!怖い!怖い!ごめんなさい!ごめんなさい!」
「あー……。私に対しても、ですか…。今、誰かを呼びますか─
「待って!辞めて!罰なら雪風が受けます!だから!陽炎お姉さんに何かするのは辞めてください!雪風が、何でもしますから!」
「と言った次第で、鎮静剤と睡眠薬の混合剤を注射した後、満潮さんと朝潮さんに、引き渡した次第です。」
「そうか…。お疲れ様。明石さんも下がって休んでください。」
「はい、お疲れ様でした。」
妖精さんと金平糖の交渉を行い、ようやく手に入れた小さな個室で頭を抱える。最悪の事態は避けられ雪風は"戻って"きた。それはとても喜ばしいことだ。が、しかし、初対面であるはずの明石に対してもあの反応である。極度の対人恐怖症、人間不信を引き起こしているようだった。正直、明石に対してなら、問題無いだろうと楽観していた。大淀やその他艦娘にですら怯え硬直するほどだった吹雪型の娘達も、明石には少しづつ、だが着実に心を開いてきていた。"整備士"の出番なのだろうが、どうすることも出来ない。ただ、頭を抱えることしか出来なかった。
「満潮さん、あなたに頼みたいことがあるのですが。」
「ん?何よ。」
「あなたに私の秘書艦をお願いしたいんですが…」
翌朝、食器を返しにきた満潮に、そう声をかける。すると手にしていたお盆を落とし、顔を青ざめさせる。
「…………………嘘……嘘…よね……?」
「待ってください!満潮の代わりは私が務めます!だから、満潮には…!」
すぐ後ろにいた朝潮が満潮を庇うように前に飛び出す。目に、涙を浮かべながら。
……この娘達にとって、秘書艦制度はトラウマの一つであることを、完全に失念していた。
「あー…。……本来の秘書艦制度は、提督業務をサポートしたり、艦娘と提督が円滑なコミュニケーションをするためのものです。お二人が思っているようなことは、一切しませんので………。」
「……ほ、本当……なんですか…?」
「はい、それが本当です。……満潮さん、私の"手伝い"は…さすがに今日は、無理がありますよね……。」
「ご、ごめんなさい……。今日はちょっと……遠慮させて、もらうわ………。」
「……本当に、申し訳ありません。」
青い顔のまま辞退する満潮に対して、土下座をする。戸惑う声が聞こえるが、トラウマを掘り返すという大罪を犯したのは自分だ。体を一切動かさず、もう一度申し訳なかった と誠心誠意伝える。ただ、素直に辞退してくれたことに、改善の兆しがあることは素直に喜ばしいことだった。
結局その日は諦め、翌々日から秘書艦を改めて頼むことになったのだった。
「秘書艦とは、具体的になにをすればよろしいでしょうか…?」
「毎朝、資材の確認、それから皆さんの健康状態について報告。それと、後々カウンセリングや証拠固めも行いたいので、それに協力してもらいたいです。」
「わかりました。それでは資材の確認と、健康状態の確認に、行ってまいります!」
秘書艦は、満潮ではなく、朝潮からと言うことになったのだが、朝潮の様子を見ていると、満潮よりも、朝潮の方が問題ないように見受けられた。ただ、まだまだ要カウンセリングであることに間違いはなく、復帰するにも、まだまだ時間がかかるのは明白だった。それならば、先に証拠固めを始めようということで、コミュニケーションついでに、協力してもらうことにした。
「明石さん、調子はどうですか?」
「お陰様で、使いこなせるようになりました!」
「それなら良かったです。パソコンがあると、簡単にデータ管理ができますからね。」
「これで、情報収集や管理、監視を行えばいいんですね。」
「そうです。資材の横流し等もあれば、証拠をしっかり抑えていきたいですからね。」
「お任せ下さい!」
なんとも頼もしい事だった。思えば既に赴任してから1週間。"提督様"が、寄越した金を使って艦娘たちの服を用意したり、パソコン等のツールを使って管理を強化したり、資材置き場や工廠入口に監視カメラをこっそり設置してみたりと、することは山々だった。艦娘に関してもやっと数人会話ができるようになったのみで、睦月型や吹雪型、陽炎型の娘たちとは、ほとんどコンタクトが取れていなかった…。
「いいや!こんぺいとーななこはゆずれないね!」
「そこを何とかお願いしますよ…。」
「ななこー。ななこがいいですー。」
「われわれはせいとうなたいかがないとはたらかないぞー。」
「ぎぶあんどていくなのです。こんぺいとー、ななこなのです。」
「こんぺいとー。こんぺいとー。」
「こんぺいとー。こんぺいとー。あぁなんというかんびなひびき…!」
「こんぺいとー。こんぺいとー。」
「ななこ。ななこください、です。」
「わかりました!1人につき7個用意します!だから最高に仕上げてくださいよ?」
「あいわかった!まかせておけ!」
「ななこ。ななこです。」
「せいとうなたいかがでるぞー。しごとだー。」
「あぁうるわしのこんぺいとー。なんとかんびなひびき…。」
「「わーわー」」と言いながらくるくると飛び回る妖精さん達に根負けし、金平糖7個での交渉決着となったが、背に腹は変えられない。今の休憩室では工廠に入ってすぐの所にあるから、自分の小部屋よりも奥に、艦娘たちの部屋を新設することにした。そして今までの休憩室は2つの部屋に分け、僕個人の部屋、そしてカウンセリング用の部屋、とすることにしたのだった。
ふぅ。と一息着いていると、奥から妖精さん達が、さっき以上に騒ぎながら飛んできた。
「かんむす!かんむすがたおれてる!」
「いきだおれなのです。たすけるのです。」
「せいとうなたいかがないとわれわれはたすけられないぞー。」
「かんむす。あぁなんというすばらしいひびき…!」
一部訳が分からないことを言っているのがいるが、何やらとても嫌な予感がする。小部屋を飛び出し、妖精さん達の指す方へと走るのだった。
誤字報告、訂正をしてくださる方には頭が上がりません…。
いつもいつも、ありがとうございます…。