たどり着いてみるとそこには、もう息も絶え絶えな時津風が横たわっていた。
瀕死、まさにその状態だった。すぐそばで妖精さん達が騒いでいるのにも一切反応がない。
「緊急用ドックを使います!高速修復剤用意!」
「「「あいあいさー!」」」
時津風の体を背負い、急いで運ぶ。微かな呼吸の音と、僅かに感じる体温が、時津風が生きていることを証明する。
「おーらいおーらい」
「しゅうふくざいよういかんりょー」
「いつでもいけますぜ!おやぶん!」
ドックにたどり着くと修復担当の妖精さん達が勢揃いしていた。緊急用カプセルの中に彼女を横たえ、カプセルを閉める。
あとは全て、妖精さん達に頼むしかない。彼女ら(?)を信じ、満潮と陽炎に連絡を取った。
満潮に連れられてやってきた陽炎は、やはり未だにビクビクと怯えていた。満潮や、朝潮以外と会話ができるように、カウンセリングを開始したり、食事を誰が用意しているのかを明かしたりと、少しづつ距離感を詰めるように行動しているのだが、陽炎以外に効果が現れてるとは到底思えなかった。そんな陽炎でさえ、対面すればこの有様である。この鎮守府がどれほどの地獄なのかを表していた。
「雪風さんの様子は、いかがですか?」
「えっと…か、かろうじて、私と不知火とは、会話ができています。はい。」
「私と朝潮姉さん含め、その他の子にはほとんど反応無し。怯えられることは無いけど…ってとこね。」
「了解しました。………まだ、面会するには、無理がありそうですかね……。」
「…そうね。」
「え、えっと……雪風は、これからどうなるんですか…?」
「………元の雪風さん…に戻せるかはわかりませんが、少なくとも艦娘の皆さんとはお話できるくらいには、回復させたいと思っています。」
「………そう…なんですね…。」
「……ところで、呼び出すなんて、何かあったの?」
さすが満潮だ。鋭い。
「……時津風さんが"帰って"来ました。」
「はぁ?何それ、意味わか─
「それは本当ですかっ!?……あっ、も、申し訳ありません!」
「えぇ、おそらくは。」
「でも…なんでかしら…。」
「全くもって原因不明です。今、ドックにて治療中なので、陽炎さん、完了したら明石さんと雪風さんと連れ立って、会ってほしいです。」
「わ、わかりました……。」
「えぇ、よろしくお願いします。」
陽炎の様子を見ていると、傷の深さは伺い知れないものだと改めて認識させられた。明石や満潮、朝潮に、村雨すら色々と行ってくれているようだが、陽炎と白露以外に効果があったという報告はない。今日会って会話してみた記録や所感をノートに書いていく。朝潮から報告を受けた分や、明石が収集した情報にも目を通しているタイミングで、治療完了の知らせが届いた。
────────────────────────
「時津風さん、入りますよー。」
「…時津風、大丈夫?」
「私は…帰って、来れたの……?」
「……間違いなさそうですね…。陽炎さん、雪風さんを─
「嫌っ嫌っ嫌ァァァァァァァ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ─
「雪風さん!?」
「雪風!?」
「ゆ、雪風…!?」
「仕方ないですねっ!」
────────────────────────
「という次第で、私がその後雪風さんを気絶させ、1度撤収した。という所です。」
「失敗しました…。時津風さんの存在自体が、雪風さんの心の傷そのものな訳ですから……。完全に私の失敗です…。」
「川原さん。これから、どうしますか?」
「…時津風さんと、会ってみましょう。」
「わかりました。では行きましょう。」
完全に失敗だ。時津風の轟沈が雪風の心を完全に破壊したとしたのならば、それを思い出す存在自体がトラウマになっている可能性を甘く見ていた。
「時津風さん、失礼します。」
「失礼しますよー。」
「あなたが新しい、時津風の司令官……ですか?」
おかしい。何かがおかしい。
「司令官…では無く、今、雪風さん達駆逐艦の面倒を見ている川原、という整備士です。」
「整備士さんが、なんでこんなところに?もしかして、司令官が変わったんですか…?」
「……自分が、新しく来ただけで、ほかはあまり変わりません…。」
「………じゃあ川原さんも、時津風にエッチなことをするように命じるんですか?」
「そんなこと、しませんよ。」
「なら、殴ったり蹴ったりするの?」
「そんなことも、絶対にしません。」
「そう、ですか。それなら、良かったです!」
屈託の無い笑顔。無邪気なほどの笑顔。目にはちゃんと光が点っている。しかし何かがおかしい。数日前の村雨以上に本能が警鐘を鳴らす。
「それじゃ…どうしましょうか……。ひとまず、明石さんのお部屋に行ってもらっても、いいですか?」
「明石って……そこのピンク色の髪の毛のお姉さんですか?」
「はい、私が工作艦の明石です。」
「よろしくお願いしますね?明石お姉さん。」
おかしいっ!おかしい。何かがとてつもなくおかしい。ありえない。ありえない。有り得てはいけない。そんな物を真っ直ぐな笑顔の時津風から感じるのだった。
来週は、土曜日投稿をしっかり守ります。