ワートリのオリ主に辛い過去とかいるぅ? いるぅ!!という方のみ、お進みください。
「ごめんなさいね、清志。あなた一人だけ先に行かせることになってしまって……」
母さんが申し訳なさそうに言ってくる。気にする必要はないのに。楽しみにしていたのはみんな一緒だ。
「謝らなくていいよ。むしろ、僕だけ参加するのは悪い気がするんだけど。二人と代わってあげられたらよかったのに」
今日は地域の子ども達の交流会が定期的に催しているフリーマーケットが開かれる日だ。僕たちもよく家族で参加していて弟と妹も楽しみにしていたのだが、昨日から熱を出してしまっていた。
「気にしなくていいわ。二人とも自分の分まで楽しんで来てって言ってたから。写真とお土産があれば大丈夫よ。それと、あなたなら心配ないと思うけど三上さんや烏丸さんに迷惑を掛けちゃダメよ?」
三上さんと烏丸さんは交流会で知り合った人達だ。どちらも兄弟姉妹の多い家庭で僕は一番年上の子たちと仲良くさせてもらっている。今日は一緒に出店することにしていたから、負担を掛けてしまうな。
「分かってるよ。今日は僕の手が空いているからね。歌歩ちゃんと京介くんもたまには下の子たちのお世話から解放されて思いっきり楽しんだほうがいい」
二人とも、とてもしっかりした子だ。僕も長男として見習わなければいけないと常々思っている。
「あなた本当にしっかりしてるわねぇ。誰に似たのかしら。あの子にも少しだけあなたを見習ってほしいわ」
弟のことを言っているのだろう。あいつはとにかく元気でアクティブだ。ちょっと突飛な行動も多いけど、自然と場の空気や流れを変えてくれる。そんな熱量を持っている。妹の方も別方面に熱量がすごい。恋に恋する乙女というのだろうか。他者と深い関わりを持つことを大事に思っているようだった。
「でも、きっと女の子にモテるのはああいうタイプだと思うよ? 将来はカッコよくなると思うな」
「あら、モテるということならあなたも負けてないでしょう? 迷惑は掛けちゃダメだけど、あなたもしっかり楽しんでエスコートしてあげなさい」
僕がモテる?女の子から告白とかされたことないけどなぁ。それにエスコートって。小さい子たちのお守に使うのは変じゃない?
「この朴念仁っぷりだけは、あの人の似なくていいところを受け継いだわね。苦労しそうだわ」
そろそろ出ないと準備に間に合わなくなっちゃうな。父さん、大丈夫かな?
「ええ、お昼には仕事からあがれるそうよ。看病はあの人に任せて、私も午後にはそっちに合流するからね」
「うん、分かったよ。それじゃあ、行ってきます」
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「あ、清志くん、おはよう」
「おはよう、歌歩ちゃん。三上さん、今日はよろしくお願いします」
会場に着くとちょうど三上さん達が到着したところだったようだ。
「二人は風邪なんだって? すごく楽しみにしていたのに残念だね」
歌歩ちゃんは同い年の女の子なんだけど、気配りができるとても優しい女の子だ。女性の方が心身の成熟が早いって聞くけど、歌歩ちゃんを見てるとその通りだなって実感する。
「あ、清志にいちゃーん!」「二人は来られないってほんとー?」「せっかく遊び道具もってきたのにねー」
「こらお前たち、まずは挨拶しないとだろ。おはようございます清志さん、歌歩さん。」
三上さんたちに挨拶をしていると、後ろからたくさんの元気な声が聞こえてきた。京介くんは相変わらず礼儀正しいな。一歳しか違わないんだ。敬語なんて使わなくていいのに。
「おはよう、京介くん。今日はうちの人手が足りなくて申し訳ないんだけど、一緒にフリーマーケット楽しもう」
「はい、うちの兄弟たちも清志さんに会えるのを楽しみにしていたようで、はしゃぎすぎないよう言ってるんですけど、迷惑掛けてしまったらすみません」
こっちは既に手伝える人数が三人減で大迷惑掛けてるのにこの謙虚さ。小学五年生とは思えない落ち着き具合だ。京介くんも女の子にモテそうだよなぁ。
「京介くん、おはよう。今日のこと、色々とわがまま言っちゃってごめんね。」
「いえ、気にしないでください。二人にはいつも良くしてもらってますから。たまには役に立たせてください」
何やら二人が和やかに話をしている。うーん、まだ小学生だけど二人とも顔立ちが整ってるから絵になるなぁ。もしかして付き合ってるとか?最近の子はマセているというから有り得なくもない。
「清志さん、とりあえず言っておきますがその予想は大外れです。」
なんと、京介くんは読心術を使えるのか。最近の子は本当に進んでいる。
「ふふ、相変わらずだね。面倒見も良くてしっかり者なのに変なところで抜けてる」
「歌歩さんはそれでいいんですか。たぶん、すごい苦労させられますよ」
む、同い年の子にそんな微笑ましいものを見る目をされると気恥ずかしいな。京介くんにも暗に頼りないと言われてしまうとは。反省せねば。
「頼りないなんてことはないです。俺の老婆心ですんで忘れてください」
小学生が老婆心……この子を小学生扱いするのは正しいのだろうか。
「ふふふ、今日のフリーマーケットいっぱい楽しもうね?」
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「それじゃあ、客足もひと段落付いたので、二人はご飯食べるついでに休憩行ってきてください」
もうすぐ十二時になろうかという時に京介くんからそう言われた。下の子たちの面倒を見ながら交代で店番と自由時間を作り、フリーマーケットを周っていたのだが。
「二人で行って大丈夫かい? おじさんとおばさん達も居るけど人数が多いよ?」
「こいつら用のお弁当はありますから、食べてる間は大人しくしてますよ。それ位なら俺だけで面倒見られます。二人はあまり店を周る時間も取れてないですし、どこか落ち着いたとこで弁当食べて、ゆっくりと物色しながら戻ってきてくれて構いませんから」
これが小学生男子にできる気遣いなのだろうか。弟はあのままで良いと思っていたが、京介くんを見ていると男前にも上が居るのだと思わされる。間違いなくモテ男になるだろう。既になっているかもしれない。将来、この子を巡って争いが起こらなければいいのだが。
「ありがとう、京介くん。それじゃあ悪いけど休憩もらうね」
「はい、楽しんで来て下さい」
じゃあ行こうか歌歩ちゃん。今日は天気も良いし、すぐそこにある公園のベンチなんてちょうどいいかもしれないね。
「うん、あのね。実は今日、自分でお弁当作ってきたの。よかったら食べてみてくれる?」
おお……。女の子の手作り弁当。少女漫画を読んだ直後の妹から聞いたことがある。乙女の最終兵器らしい。
「ほんとうに? 歌歩ちゃんが作ったのならきっとすごく美味しいんだろうな。なんだか、ウキウキしてきたよ」
「そ、そんなに大したものじゃないの。でも頑張ったから喜んでもらえると嬉しいな」
そんな話をしながらフリーマーケットを進み公園に向かう。
「わぁ、本当に色々置いてあるね。可愛い小物とか雑貨もたくさん」
「本当だね。よく分からない像とかもあるけど、面白いのも多いや。二人へのお土産なにがいいかなぁ」
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「ごちそうさまでした。とっても美味しかったよ。ありがとう、歌歩ちゃん」
「お粗末様でした。よかった。美味しくないって言われたら泣いちゃってたよ」
仮に美味しくなかったとしても口に出したりしないけど、そんな杞憂は必要ないくらいに美味でした。この年でこの腕前、大器を感じさせる。
「それじゃあ、戻ろうか」
そう言って公園のベンチから立ち上がり、フリーマーケットへ足を向けた瞬間。
――――――空が黒に覆われた。
「なに? これ」
ッ! なんだあれ。さっきまでは何も……。いや、そんなことよりも今は。
「歌歩ちゃん! 今すぐおじさん達のところに戻ろう! ここは危険だ」
僕には他人にはない特殊な能力がある。三上さんと烏丸さん達との交流が生まれてからしばらく経った頃、子供たちで河川敷に来て遊んでいたんだ。穏やかな日中、急に自分の視界に赤の線が引かれた。何かの病気だろうか。そう思っていると線に一人の子が接触し、自分の心臓が掴まれるような嫌な予感がした。急いで走ってその子を抱き抱えて線から外れるよう移動した直後、河川敷横の車道から車が飛び出してきた。
……結局、運転手の持病が発作したことによる操縦ミスだったらしい。事故の現場を見た子供たちは大泣きしてしまったが、運転手の人も大きな怪我はなく胸を撫でおろす結果となった。後日、この話は家族と三上さん、烏丸さんたちにも伝えた。信じてもらえないだろうと思っていたけれど、子供が助かったこともあってか半信半疑ながらも受け入れてくれた。子供の戯言としない辺り、頼りになる大人たちだ。それ以降、何度か赤い線を目にして、そこには近づかない生活を送っていたのだが。
今、自分の視界のほとんどが覆いつくされるほどに、赤く染まっている。
「はぁ……、はぁ……」
走って会場に戻っていると遠くから爆発音と建物が崩れるような激しい音が聞こえてきた。何が起こっているのかは分からない。でも、これが明確な意思を以て行われていることは分かる。少し遠くに見える辺り一帯を覆うような赤とそこから四方八方に伸びる赤い線。事故や災害じゃない。覆われている場所はダメだ。逃げ場がない。赤い線も数が多い。一つ間違えば囲まれてしまう。
「おじさん! みんなは無事!?」
出店していた場所に戻ると自分たち以外は全員揃っているようだった。おじさん達も何が起きているのか分かっていないようだが、避難しようとしていたらしい。
「急いで車をだして。あっちの方は危ないから、まずはここから離れよう」
かつての経験が良い方に作用してくれた。おじさんたちは特に文句を言うこともなく従ってくれている。
「清志さん! いったいなにが起きてるんですか?」
京介くんもひどく狼狽している。頭のいい子だから、今の状況の異常さを理解できてしまっているんだろう。
「分からない。けど、街の向こう側が真っ赤になってる。落ち着いて、兄弟とはぐれないように注意してね」
急いで車に乗り込み、赤くない方角を指示する。大丈夫だ。この速度ならギリギリで広がり始めている赤に追いつかれることはない。みんな助かる。
――――――――見て、しまった。
ああ、そうだ。いくら異常事態だからって自分がそれに気付かないはずがない。分かっていて見ないようにしていたんだ。ダメだ。もう、見るな。危険と分かっているのに引き返してもらうつもりか?自分の足で向かったって間に合うわけがない。……だから。
ぼくの家がある場所が、真っ赤に呑まれていることなんて、見ちゃいけないんだ。
――――――――――――――――――――――
「……………………」
あの後、突如街からは赤が消えた。それを確認したあと、止めるおじさん達を振り切って、僕は自分の家まで戻ってきた。街は地獄の様相を呈している。崩れた建物、そこらじゅうに転がる人だったもの。今も火災の煙が立ち上り、建物が倒壊する音が時折聞こえてくる。
そして、見たことのない白い怪物のようなものの死骸。これが、赤を引き起こしていたのだろう。
一歩一歩、恐れるようにして足を進める。どうしたら良かったのだろうか。戻っていれば、この結果を変えることができただろうか。間違っていたとは思わない。僕が居なければ、皆は逃げ遅れたり、危険な方へ向かっていたかも知れないんだ。あの死の危険から、歌歩ちゃん達を無事に遠ざけられたのだということを、僕は嬉しく思っている。けれど、もしも過去の自分と話が出来たとして、その選択を正しいと言い切ることは、今の自分にはできそうになかった。
だって、あの時の自分は知らなかったから。今の自分は知ってしまったから。
大切な人から流れる血の色は、自分に迫る死の赤など遠く及ばないほど、――――紅いのだと。
私の好きはお話は心が温まるようなハッピーエンド物です。苦手なのは胸がつまるような辛いお話です。