ワールドトリガー -Fool-   作:ゆーり

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この作品のコンセプトは以下の2つです。
・『わぁ、鳥!』との温度差で風邪引かせたろ
・なんかカッコよさげでキャッチーな文言を使ってみる


第零弐話「憎」

家族に、あなたの笑顔が好きと言われたことを思い出した。

 

「うんうん、将来は俺に似てイケメンになるぞ」

「なんだか落ち着く感じの笑顔よね」

「確かに。でも、最近の男は優しいだけじゃダメだよ!お兄ちゃん」

「俺も好きだけどさ。もっとキリッとした感じのほうがよくね?」

 

そんな言葉を聞くだけで、笑顔になれたことを思い出した。

 

――――――――――――――――――――――

 

「脳に強い衝撃を受け昏倒、建物の倒壊に巻き込まれて各所にも深い傷を負っています。恐らく意識が戻ることは……」

 

 父と弟妹が胸部の巨大な裂傷に起因するショック及び失血で死亡。母が脳と肉体の損傷による意識不明の重体。それが、僕の選択の結果だった。

 

 街は未だ混迷の中にあり、立ち直る兆しすら見えてはいない。大切な人を、家を、仕事を、明日も変わらないはずの日常を……。多くの人が、数えるのも馬鹿らしいくらいにたくさん失った。

 

 だがそれでも、失っただけではない。"ボーダー"、そう名乗る集団は、この災厄の原因とそれに抗う手段があることを世間へと発表した。"近界民"、"トリオン"、"トリガー"、聞き慣れないそれらの言葉は、自分の日常が薄氷のうえにあったのだという事実を伝えてくる。

 

「……ありがとうございます、先生。どうか母のことを、よろしくお願いします」

 

 医師の診断結果は絶望的なものだった。母の肉体は損傷が大きく、一命こそ取り留めたものの徐々に衰弱していく、という見込みだった。命の灯が潰えるまでに意識が戻る可能性も、奇跡に縋るような話だという。でも、正直に話してもらえて良かった。おかげで自分の状態がよく分かる。

 

「悲しいって、どんなのだっけ」

 

 涙が出ない。この惨劇を引き起こした連中に対する怒りが湧かない。対抗できる者達が居るのだということに安堵を感じない。自宅に戻って見たあの紅色以降、感情のスイッチの入れ方が分からなくなってしまった。

 

「これからどうしようか」

 

 家族の安否を確認するために自宅へ戻ったことで、僕は被害地域に居た要救助者という扱いをされ、何日かの検査入院をしていた。今日で退院となったが帰る家はない。避難民は自分以外にもたくさん居るだろうが、天涯孤独となるとどう行動すればいいか分からないな。三上さんと烏丸さんは一時でも自分たちの家に来ないかと言ってくれたが……。自分たちの生活だってどうなるか分からないだろうに、本当に良い人たちだ。もっとも、それを嬉しいと思う気持ちすら、いまは良く分からなくなってしまっているが。

 

「竹尾 清志くん、でしょうか?」

 

 院内のベンチに腰かけていると、知らない人が声を掛けてきた。スーツを着た男性。誰だろうか。

 

「ああ、失礼。私はこういう者です。少し話をさせていただきたくて。お時間よろしいでしょうか」

 

 そう言って名刺を渡してきた。小学生相手に随分と礼儀正しい人だ。……界境防衛機関?これって。

 

「実はこの病院はボーダーとも協力関係にありまして、あなたの検査入院中にトリオンを計測させていただきました。その結果、あなたにはトリガーを使って戦えるだけのトリオン量があることが判明しました。つきましては……」

 

 ……自分の口角が上がるのが分かった。入れ方が分からないと思っていた感情のスイッチが一斉に入り、洪水のように溢れ出す。大切な者を失った悲しみ。奪われる結果を選んでしまった自身に対する怒り。母にはまだ僅かでも可能性があるという希望。そして、復讐できるのだという歓喜。

 

「その話、お受けします。()に、やつらと戦う術を教えてください」

 

 正直に言えば途中から話は聞いていなかったが、なんだっていい。俺に残されているものなんて、母を除けば失っても惜しくはないこの身だけだ。それで機会が得られるというのなら、躊躇う理由などありはしない。

 

「おお、ありがとうございます! まだ組織として立ち上げ段階ではありますが、受け入れ準備は進んでいます。つきましては住居の手配と入隊の手続きを……」

 

 ああ、そう言えば。感情のスイッチが入ったことで分かったことがある。全部のスイッチが切れた状態だと思っていたが、一つだけ入っていたようだ。こちらは逆に切れない状態になってるから、気づけなかった。だが、これはちょうどいい。

 

 悲しみも、怒りも、喜びも、全て家族に向けたことのある感情だ。たくさんの素敵な思い出があって、()を形作っていた大切な自分の欠片。けれど、抱くのは今日まで。これからには不要だ。心の奥深くに、大事に大事に仕舞っておこう。

 

 だって、そうだろう?家族に向けたのと同じ感情をやつらが受け取れるなんて、あまりにも贅沢すぎる。

 

 "近界民"には、家族に向けたことのない感情だけで、……憎悪(コレ)だけで十分だ。

 

「それでは参りましょう。公的機関への手続きについてはこちらで行います。その、誰か連絡を取っておきたい方などいらっしゃいますか?」

 

 連絡……。過去に未練はないけれど、不義理を働く訳にはいかないな。

 

「母の担当医にはボーダーに所属することを伝えてほしいです。あとは、俺がお世話になった友人たちにも無事でいることを伝えていただければ」

 

 スカウトに来た人と話をしながら道を歩いていく。空を見上げると、あの黒に覆われたのが嘘のように晴れ渡っていた。まるで俺の心の歓喜を表しているかのようだ。

 

 ――――ふと、気になった。今の俺が浮かべている笑みは、家族が好きだと言ってくれたそれと同じだろうか。

 

 




同じなわけがない。

ボーダーはトリオンとかのことボカしてそうだけど、ここでは存在と大枠位は一般にも伝わっているということで。

全十話位で書き終えたい。
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