ワールドトリガー -Fool-   作:ゆーり

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なんか日記形式にみたいになった。
あぁ^~時間がぴょんぴょんするんじゃぁ^~。


第零肆話「変遷」-三輪 秀次-

 その話を聞いて、最初に感じたのは暗い仲間意識だったはずだ。実際に会ってみて、困惑、苛立ち、恐怖、怒り、嫉妬……そんな風に変化していったと思う。

 

 ……今、俺が抱いている感情は、いったい何になるのだろうか。

 

――――――――――――――――――――――

 

「同い年の隊員、ですか」

 

 近界民を殺すために訓練をしていると、東さんからそんな話をされた。あの大規模侵攻から半年が過ぎ、三門市もやっと立ち直る兆しが見えてきた。そして"ボーダー"の設立と防衛隊員の募集。俺は、幸いにも戦場に立つ資格を有していたらしい。これで、姉の仇を討つことができる。そう考えながら自らを鍛えていたある日のことだった。

 

「ああ、そいつも大規模侵攻で家族を失っている。馴れ合えというつもりはないが、一緒に戦っていく仲間だ。会っておいたほうがいいと思ってな」

 

 その同い年の隊員というのは、家族と家を失っているらしい。受けた被害の大きさで付き合い方を決めるわけではないが、それでも通じるものはあるかもしれない。

 

「そいつはどこにいるんですか?」

 

「この訓練室に行けば会える。剣の腕前も相当なものらしい。そういう意味でも、いい刺激になると思うぞ」

 

 俺一人になっても止まるつもりはないが、強いやつが多いのはいいことだ。それだけ近界民を多く殺せる。迅や太刀川さんのような、何を考えてるのか分からない緩い連中はムカつくが。

 

「……時間を見て、会いに行ってみます。では、俺は訓練に戻りますので」

 

 そう言って、東さんと別れる。どんなやつか少しだけ楽しみだ。

 

――――――――――――――――――――――

 

 ……自分と同じように、復讐に全てを懸けているやつだろうと考えていた。だが、実際に見たそいつは、今まで見てきた誰とも違っていた。無表情で無感動。なにを考えているのか、感じているのか分からない。今も黙々と訓練室に出現したトリオン兵を狩っている。ある意味、トリオン兵よりも機械的かもしれない。その動きはとにかく効率的で、少なくとも今の自分よりは強いということが分かった。

 

 一体なんなんだコイツは。そう思った後、無性に腹立たしくなった。なぜそんなにも無感情で狩れる。そいつらが俺たちの家族を奪い、街を壊したんだぞ。もっと怒れ……理不尽だとは思いつつ、その思考を止めることはできなかった。一向に訓練室から出てこないことに業を煮やし、自分から入っていき声を掛ける。

 

「おい、お前。さっきから何を考えて訓練をしてるんだ」

 

 初対面の相手にいきなりそんなことを言われるのだ。声を掛けられた側からすれば意味が分からないだろう。だが、とにかくこちらに意識が向けばいい。そう考えて……。

 

 ――――――――こちらを捉えた目に体が竦んだ。

 

 モニター越しでは感じられなかった無感情の先。コイツは何も感じてないわけじゃない。大きく一色に染まりすぎて、それと気付けないほどの憎悪。真っ暗な陥穽のような瞳。その二つが、同時に自分へと突き刺さる。

 

「こいつ……っ!」

 

 殺されたと思った。手に持っているブレードが、まだこちらに振るわれていないことを何度も確認してしまった。

 

「どちら様でしょうか?」

 

 そいつは何も変わらない目をしたまま、こちらに問いかけてきた。それにまた恐怖する。人間というのは、憎しみしか感じさせない状態でも、こんなに落ち着いた会話ができるのか。そんな、知りたくないことを知ってしまった。

 

「……三輪、三輪秀次だ。お前と同じ"ボーダー"の防衛隊員」

 

「そうなんだ。初めまして、竹尾清志です。よろしくお願いしますね」

 

 正直、自分の感情の変化がいまいち理解できてない状態だった。勝手に苛立って、恐怖して、そして今は猛烈に怒りが湧いてきている。コイツにではない。同じ目的を持っているはずのコイツに恐怖してしまった自分にだ。自分より大きな被害を受け、高い実力を持つ人物。これではまるで、俺の想いのほうが負けているみたいではないかという、そんな身勝手。

 

「俺は、近界民を一人残らず殺し尽くす」

 

「……? 俺と同じだね。じゃあ、仲間だ」

 

 言ってる内容自体は別におかしなことではない。だが、いきなり現れて名乗って、この発言は間違いなく変人だ。なのにコイツは大した反応を示さない。なにがなんだか分からくなってきた。

 

「それだけだ。……いや、もう一つ。お前には負けない!」

 

 そう言い残して、訓練室から出て行く。くそっ!なんなんだこれは。こんなつもりで来たわけじゃなかったのに。訓練室から出てモニターに目を向ける。竹尾は少しの間、何かを考えていたようだが、まだすぐにトリオン兵を出現させて訓練に戻った。まだ続けるのか。そう思ってコンソールを調べると、訓練時間がおかしなことになっていた。

 

「……訓練継続時間、十四時間?」

 

 今が夜の七時。今日が土曜日ということを考慮しても、朝の五時から続けていることになる。あまりにも異常な行動だった。

 

――――――――――――――――――――――

 

 これでは早晩、破綻する。それが、竹尾の生活を調べて出た結論だった。

 

 学校には行っている。勉強もしているらしい。だが、あとは最低限の食事に睡眠を取るだけ。残りの全てを訓練と任務に当てている。おおよそ後先など考えてない在り方だ。

 

 同時に気付く。これは俺の在り方でもあると。恐らく東さんは、俺にそのことを自覚させたかったのだろう。……関係あるか。復讐以外なんてどうでもいい。いや、むしろ俺と同じ存在がいるなら、それは正しさの証明だろう。このまま突き進めばいい。そのはずなのに、無表情で訓練室に籠り、任務でトリオン兵を狩るあいつを見ていると、迅と同じくらいに、だけど違った苛立ちを感じる。

 

「おい、食事にいくぞ」

 

 そう声を掛けると、何を言っているのだろうかと首を傾げられた。これでもコイツの中では人間らしい反応だ。大体はこっちに目を合わせて首を縦か横に振るだけだ。

 

「お前を見ているとイライラする。それを解消するためだ。黙って付き合え」

 

 自分でも意味の分からない理由だが、実際そうなのだから仕方ない。

 

「必要な栄養は摂取してるよ。わざわざ一緒に行く必要を感じない」

 

 その言葉に更に苛立ちが加速する。もういい、力ずくだ。

 

「十本だ。俺が勝ったら四の五の言わせない。……いくぞ」

 

 ……一本も取れず、こいつと二人で開発部の作ったくそ不味い携帯食料を食べることになった。これも全部コイツが悪い。

 

――――――――――――――――――――――

 

「お前は、迅のことをどう思っている」

 

 偶然、コイツと迅が模擬戦をしているのを見て、終わったあと声を掛けていた。ほとんど無意識の行動で、そんなことを聞く気などなかったのに。

 

「迅さん? なんだか視線が不愉快だね。それ以外は特にないかな」

 

 本音を言えば、迅と向かい合えばコイツの怒りの発露が見られるのではないかと期待があった。コイツも未来視のことは知っている。なら、可能性を考えなかったわけではないはずだ。

 

「……言いたいことは分かる。けど、その責任を迅さんに負わせる気はないよ。だって、なんだか迅さんに自分たちの人生を左右されてるみたいで嫌でしょ。納得できない結果も、嬉しいことも、その全部があの人に選ばれたからだとは思いたくない」

 

 こんなに長文を話すところは初めて見た。悟ったように言っているが、今考えたわけでもないだろう。コイツも何度も考えて、結論を出したはずだ。普段の俺なら、何を甘いことを言っているのだと怒りを顕にしていたと思う。 だが、竹尾の目に、初めて憎悪以外の何かが宿っているように見えて、何も咎められなかった。

 

「十本だ。……俺が勝ったら外に飯を食いに行くぞ」

 

「飽きないね。この携帯食料、開発部が作ってるから栄養豊富だし、割と美味しくない?」

 

 美味しいわけあるか!そう言えないほど食べ慣れてしまった自分が嫌になる。なぜコイツと一緒に味のテスターをさせられているのだ。コイツを負かして食べる飯はさぞかし旨いことだろう。さっさと潰す。

 

 ……取れたのは一本だけだった。くそっ、次こそは。

 

――――――――――――――――――――――

 

「清志。部隊編成の件、お前はどうするつもりだ」

 

 夜間の防衛任務を終え、基地を歩きながら尋ねる。俺は東さんから誘われたが、そのメンバーの中にコイツは入ってなかった。

 

「特に考えてなかったけど、俺のサイドエフェクトを考えると専任のオペレーターがいた方がいい。受けてくれる相手が居るか分からないけど、一人部隊を組むことになるんじゃないかな」

 

 視覚に作用する危険予知に近いサイドエフェクトか。単品でも有用だが、余計な情報を削除したり、他者と共有するためには、オペレーターに高い並列処理能力と情報分析能力が求められる。特殊な処理も行うから、専門に技能を磨いたやつを用意したほうがいいだろうな。

 

「目星は付けているのか? お前、あまりオペレーターとの付き合いがないだろう」

 

「秀次だって、俺と大した違いはないと思うけどな。月見さんに頼めれば話は早いけど、競争率高そうだよね」

 

 ……月見さんは東さんに誘われていたな。コイツが他の隊の誘いを受けるとは思えないし、一人部隊になる可能性は非常に高い。そうなると、オペレーターは技能を高められないわけではないが、性質が尖る。好んで受けるやつはいないだろう。東さんたちに、それとなく相談しておくか。

 

「十本だ。……いい加減、勝たせてもらうぞ」

 

「……新しいフレーバーの試作品たくさんもらってるから。もう好物を聞かれたら、携帯食料って答えるよね」

 

 そんなわけがあるか!開発部の連中、遊んでいるだろう。チゲ鍋だのジンギスカンだの、普通の味付けを満足に作れるようになってからやれ。

 

 ……二本。太刀川さんや風間さんを相手にするよりも勝率が悪い。初見殺しが通用しない以上、純粋な腕を磨くしかないか。

 

――――――――――――――――――――――

 

「部隊を解散する?」

 

「ああ。遠征に行ってみて、少し考えたくなった。迷惑を掛けてしまうが、二人の実力なら他の隊からいくらでも誘いがあるはずだ」

 

 こいつが遠征部隊に選ばれるのは、ある意味で当然のことではあった。高いトリオン能力を持つ"ボーダー"でも屈指の万能手。サイドエフェクトで不意打ちを防ぎ、部隊の消耗も抑えられる。防衛を考慮すると動かしづらい迅を除けば、最優先の人材と言える。

 

「……それは、復讐を諦めるということか」

 

 腹の内から煮えたぎるような感情が溢れそうになる。浅い考えだとは思わない。憎悪に塗れていたコイツが、思い悩むほどのことがあったのだろう。だがそれでも、コイツの立つ位置だけは変わらないと思っていた。……少しだけ、これほど強く執着していた自分に驚く。

 

「そこは変わらないよ。けれど、自分が復讐すべき相手をしっかり見定めるべきだと思った。……あっちも、こちらと大きな違いはなかったよ」

 

 近界民の考えも在り方も一様ではないということか。コイツが言うからには、そうなんだろう。それでも、俺はまだ……。

 

「秀次に変わってほしいわけじゃないんだ。けど、誤魔化すようなことは言いたくなかった」

 

 誠意、なのだと思う。最近は随分と人間らしさを思い出してきたようだが、それでも全身から立ち上る憎悪と暗い目は変わらない。その人間らしさを見ることを、嬉しいと思っている自分もいるのに、都合の悪い変化を見せられると怒りが湧く。自分はとんでもなく勝手な性根だったらしい。

 

「十本だ。この苛立ちを治めるのにちょうどいい」

 

「俺が遠征に行ってる間にゼリー飲料タイプも作ったんだね。固形タイプも良かったけど、こっちも美味しそうだ」

 

 味はくどいし、喉越しが悪いぞ。控えめに行ってマズいから、お前も消費するのを手伝え。

 

 ……四本。お前が遠征に行っている間、俺も遊んでいたわけじゃないんだ。

 

――――――――――――――――――――――

 

『十本勝負終了。九対一。勝者 三輪』

 

 そんなアナウンスが流れた。あれから、二年以上も掛かって初めての勝ち越し。……こうなる前に成し遂げたかったな。

 

「ここまで惨敗するなんて。ちょっとショックだ」

 

 そういう清志の顔には、本当に悔しさが浮かんでいた。表情の動き自体はまだ少ないが、目に光がある。ここ数年を思えば劇的な変化だ。

 

「体はもういいのか? 浅い怪我ではなかったはずだ」

 

 ……後で医者に聞いたところ、怪我の三割くらいは俺が原因だった。苦肉の策だったし、こっちも精神状態がぐちゃぐちゃだったのだが、流石にトリオン兵に生身で跳ね飛ばされた怪我と比較して三割はやりすぎた。

 

「うん。なんていうか体の痛みは新鮮だね。心のほうが辛かったから、この痛みもちょうどいいカンフル剤になるよ」

 

 トリオン体の動きも、戦術の組み立ても、なんならサイドエフェクトの感知もめちゃくちゃになっているようだが、それでも十本勝負の間に立て直しを図っていた。これなら、そう時間を置かずにかつての実力を取り戻すだろう。本当の意味での勝ち越しはその時に果たせばいい。

 

「……忍田派に鞍替えするんじゃないかという噂が立っている。実際、どうするんだ?」

 

 今は、それでもいいと思えている。もう前には戻れない。なら、大切な思い出のあるこの街を守ることに注力したほうが健全だ。

 

「重要視する比率は変わるかもしれないけど、城戸派ってところは変わらないよ。街を守るためにも、遠征で技術と知識を入手することは必須だと思ってるからね。玉狛にあんまり好き勝手させるわけにもいかないし」

 

 迅対策か。盤外戦術には意味ないが、向かい合っての勝負なら、清志のサイドエフェクトは未来予知に匹敵する。

 

「そうか。……俺の勝ち越しだ。約束通り、外に食べに行くぞ。焼肉だ」

 

「その賭け、まだ続いてたんだ。最近は基地の食堂でなら普通にご飯食べてたのに」

 

 それはそれ、これはこれだ。男子学生は肉が好きなのだ。

 

「あ、秀次。実は気付いたことがあるんだけどさ」

 

 ……?さっきの摸擬戦で何か思うところがあったのだろうか。

 

「あの携帯食料、くっそマズいね」

 

 ……こいつがまともな感性を取り戻してくれて良かったと、素直に思えた。

 

――――――――――――――――――――――

 

「秀次、聞いてくれーー!!」

 

 ドタバタと大声でバカが走ってきた。なぜそんな方向に成長してしまったのかと大いに疑問だったのだが、三上たちに教えてもらった理由を考えるとなにも言えない。

 

「煩いぞ。それとトリオン体で廊下を疾走するな、危ないだろう。それで、どうしたんだ?」

 

「遥ちゃんに告白したんだけど、笑顔で冗談扱いされたんだ。……俺は本気だったのに」

 

 確かに付き合いたいという思いは本気だったのだろう。恋と言うにはいささか微妙で、全く愛ではないというのが非常に厄介だが。

 

「どうせ衆人環視の中、デカい声で告白したんだろう。好悪以前の問題だ。仮に悪く思われてなくても、羞恥心で断られるぞ。思春期というのはそういうものだ」

 

「なんだよ分かった風なこと言って! このシスコン!」

 

 お前だって大概ファミコンだろうが!顔面に鉛弾ぶち込むぞ!

 

「あ、そういえばさ。開発部から新しいフレーバーの携帯食料貰ったんだよ。チョコチーズ味。これがまたすげーんだ。ちょっと食べてみてくれよ」

 

 ……ここ最近はたいぶ味も改善されてきた。女子が好みそうな味だが、チョコとクリームチーズを組み合わせたスイーツは普通にある。美味しかったのだろう。どれ……。

 

「ぐはぁっ!」

 

 ナンダ コノ エグイ アジハ……。

 

「期待してたのにさ。カカオ九十九%チョコにゴルゴンゾーラとかチェダー、ゴーダのキメラチーズ混ぜてんの。あいつら頭おかしいよね」

 

「それならそうと先に言え! 今から十本だ、ぶっ飛ばしてやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 毎度イラつかされるし、近界民を相手にするときと同じくらい、コイツにはキレることが多い。だけど、……これは友情なのだろう。




大規模侵攻以前からの知り合いよりも、部隊を組んだ二人よりも関係の深い男、三輪。
なんか携帯食料の話みたいになってるじゃん。
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