目を開けていても瞼を閉じているような暗闇の中。 慣れたのかも分からないほど何も無い空間で、俺は 1 人ぽつんと立っている。何か聴こえる。 「パシャッパシャッ」という水音。 振り向けば光が指している。こちらに向かって歩いてくる 2 つのシルエット。 顔はまだ見えない。
俺は歩いてくるのを待ち続ける。やがて顔が見える。
息を飲んだ。それは、数年前に死んだ親友でありライバルであり相棒だった男。 もう 1 人は父親とは別に戦い方を教わった自身をが師匠と慕った男。 2 人に触れようとしたその刹那、真っ赤に染まりそして崩れた。そこに残された 2 つの爪を俺は抱える。涙が溢れて止まらない。
2 人は戦争で死んだ。 泣き叫ぶ。喚く。何も聞こえない。ただ虚しくこだまするだけ。 自分の不注意ではあった。しかし防御のすべはあった。 なのに何故庇った。返事はない。 何故大切な人は俺の前から消えていく。誰も答えてはくれない。ただ、ただ泣いている。そのまま沈み、飲み込まれていく。その手には強く、強く、黒いトリガーが握りしめられていた。
目を覚ますと真っ白い天井。 おそらく病院だろう。何故ここにいるのだろうと思ったが、身体の痛みで邪魔された。 見てみると服の下におびただしい包帯が巻かれていた。エネドラの攻撃により出血過多で倒れたのを思い出す。 とりあえず起きて周りを見渡す。 うわっ何この量。とりあえず後回しにして日にちと時刻を確認する。
「あー、 1 週間以上も寝てたのか」
「起きたか」
後ろから声がして振り返ると忍田さんがいた。 カーテンからは光が漏れていて太陽はすでに昇っているようだった。忍田さんは安心したような表情を見せたがすぐに、「私たちにああ言っておきながら自分が死にかけてどうする」と怒られた。俺は結構やばい状態だったようだ。帰り際に
「黒トリガーは 2 つとも林道に預けてあるから退院したら返して貰いなさい」
と言っていた。
忍田さんが出ていくと入れ違いで人が来た。
「起きたのか」
「良かったぁ」
風間さんと三上先輩だった。
「お疲れ様です」
と返す。
「何はともあれ無事でよかった」
ううん無事…無事…かなぁ ?
「まぁ死にはしなかったので良かったですけど」
いや良くはないが。
「それにお前が倒れたあと三上が泣いて大変だった」
「ちょ、ちょっと風間さん ! その話はしなくていいです!!」
顔を赤らめながら三上が風間を止める。
「えっ ? 」
泣いたの ? 心配してくれたのは嬉しいけどなんか女の子を泣かせたってところにちょっと罪悪感がある。 それは置いといて
「俺が倒れたあとの事ってどうなったんですか? 」
そう質問すると風間さんは詳しく教えてくれた。
ひと通り話終えると席を立って
「何か売店で買ってくる。何がいい ? 」
「じゃあ俺ココアで」
「私は…お茶をお願いします」
病室を出ていった。 すると三上先輩が向き直って、
「何ですか ? 」
「私が言ったこと覚えてる ? 」
なんだろう…
「入隊式の日に "詳しく聞かせてもらう" って言ったでしょ ? 」
あー、そういえばそんなこと言ってた。
「司令と本部長からある程度のことは聞いたよ」
上層部に後輩のこと聞くとかすげぇなこの先輩と思いながら「だったら別に…」と言いかけ遮られた。
「でも岸辺君の口から聞かせて」
諦めた。怪我してるから逃げられないし。
「とりあえずどこまで聞いてますか ? 」
「司令たちが昔から知ってるってことしか聞いてない」
すごいざっくりしてる。 でも
「その通りですよ」
と言っても…納得してないなこれ。 仕方ない。
「俺の父親は城戸さんと忍田さん、あと林道さんと一緒にボーダーを作ったうちの 1 人何です」
三上先輩は驚いた顔をした。
「父さんは数年前に亡くなりました」
「うちの国は大抵ずっと戦争やっててそれが嫌いで、そこからさらに友達と師匠を失いました。 それがこの間の黒トリガーです。 2 度、 3 人も目の前で大切な人を失いました」
先輩は真面目な顔をして俺の話を聞いている。「でも…」と続ける。
「俺は三上先輩のこと好きだから、守れて良かったです」
そう。 初めて会った時から。
ポカンした顔をしている。どうしたんだろう。俺何か変な事言ったか ? と考えていると…どさくさに紛れに告白したことに気がついた。ヤバい。 今凄く死にたい。先輩の前から消えたい。 とか考えて焦っていると、突然視界が傾いた。要は抱きしめられていた。俺は硬直したがすぐに復帰。 さらに焦る。 すると彼女は口を開く。
「私には "分かる" なんて軽々しく言えない。 どれほど辛くて苦しかったかは全然分からないから」
彼女は続ける。「でもね」と。
「これだけは言わせて。 拓真君、私はあの時君が守ってくれて、助けてくれて凄く嬉しかった。 倒れた時は凄く不安で悲しかった。私も、君のことが好きだから。 」
「先輩 ? 」
彼女の目には涙が浮かんでいた。
「拓真君が背負っているものを、一生、私も一緒に背負うから。もう不安にさせないで…」
涙が落ちてくる。
「それは出来ません」
彼女ははっと目を開いて俺を見る。 そんな彼女の頬に手を当てて俺はこう言う。
「でも、必ず帰ると約束します」
俺はこの時まだ "一生" と言われたことに気づかなかった。 "好きだ" と言われただけで十分嬉しかった。 彼女がそっと目を閉じる。心臓の音がうるさい。 ガラスで反射した太陽の光で涙が輝いている。時間の流れが遅く感じる。彼女の顔が、唇が、少しずつ近付いて…ガラッ!
バッ!!
風間さんが戻って来た。あっぶね~!!
「何かったのか ? 」
俺たちが下を向いているからだろう。そう聞いてきた。だが俺は平静を装って返す。
「何がですか ? 」
「いや、何もないならいい」
そう言って買ってきたココアを渡してくれた。
ところで三上先輩は…赤っ!!
正気に戻ったのか、恥ずかしさのあまり耳まで真っ赤だった。 俺もあまり正気ではなかったが。
あの後 3 人で世間話をして 2 人は帰っていった。
夜、俺は三上先輩が "一生" と言ったことを思い出し赤面していた。あの時風間さんが戻って来なかったらどうなっていたのだろうか…
「ずるいなぁ。あの人」
その夜は、すぐに眠れなかった。
~余談~
後日、宇佐美先輩が病室にやってきた…のだが
「宇佐美先輩ボロボロじゃないですか。 どうしたんですか ? 」
髪ボサボサで目の下の隈もやばかった。
「うん、この間の大規模侵攻についての論功行賞について報告があって」
へーそんなのあるんだ
「まずは特級戦功からね。三輪隊の三輪君、太刀川隊の太刀川さん、 S 級隊員の天羽君。 うちからは遊真君と拓真君で合計 5 人」
俺って特級なんだ。
「次に一級戦功。 うちからは修君と小南と迅さん。 あとは東隊の東さん、太刀川隊の出水君、三輪隊の米屋君、草壁隊の緑川君、風間隊の風間さん、嵐山隊。 で、最後が二級戦功ね。 うちからは烏丸君とレイジさん。 冬島隊の当真さん、三輪隊の奈良坂君と古寺君、諏訪隊、鈴鳴第一の村上君、 B 級合同で東隊、来馬隊、荒船隊、柿崎隊、茶野隊が選ばれたの」
「オペレーターが特級って珍しくないですか ? 」
「珍しいも何もオペレーターが行賞貰うなんて史上初だよ ! 前例を作ったんだよ。君はオペレーターの鑑だ~。
それはそれとしてこれで報告は以上ね」
「ありがとうございました」
「じゃあね。お大事に」
黒トリガー:零爪
消費するトリオン量によって任意の範囲を凍結させることができる。 また傷をつければそこから凍らせることもできる。
黒トリガー:暴爪
斬ったり殴ったりすることで爆発を起こすことができる。 何もなくても爆風を起こせるが何かに当てた方が威力は強い。
パラメーター(黒トリガー同時装備時)
トリオン: 84
攻撃: 37
防御・援護: 20
機動: 10
技術: 9
射程: 9
指揮: 5
特殊戦術: 10