前半はビッキーのシンフォギア本編におけるいじめ描写、後半は転移後の1年間です。いじめ描写が気になる人は半分の4,000文字ぐらい読み飛ばしても大丈夫です。
2年前。
私、
残念ながら事情によって親友の
その機会は永遠に訪れなかった。
特異災害、ノイズが大群となってライブ会場に現れたのだ。
ノイズは人型やオタマジャクシ型、大型と様々な種類がいるが、共通する特徴として生物に触れることで自身と引き換えに対象を炭素分解する機能、そして自身の存在を任意の割合だけ別次元に置くことで、物理的な干渉をほぼ受けない位相差障壁という機能を有している。
それゆえ、現在存在するあらゆる兵器は意味をなさず、ノイズが現れた数だけ周辺の人間が死ぬ。そして、その発生予測は一切できないという、まさに災害なのだ。
当然ライブ会場はパニックになり、10万人の観客はライブ会場の狭い出入り口を求めて大挙することになる。火事であれば多少逃げ遅れたところで生き残る望みはある。しかし、特異災害ノイズは触れられたが最後その人間が生き残る可能性は無く、確実な死が待ち受けている。
避難案内を素直に受ける人はもはや存在せず、パニックになって周りの人間を押しのけ、転んだ者は気にせず踏みつけ、己だけでも助かろうとする人が多くいた、という。
私はどうだったか? それがよくわからない。
ノイズが現れた瞬間ライブ会場の天井が破壊され、運悪く瓦礫が私の近くに降り注ぎ、しばらく気絶した上に怪我で身動きが取れなくなっていた。
ぼんやりと意識を取り戻したとき、あのツヴァイウィングの二人がライブの時と違う衣装で
血液が足りない頭で夢うつつのまま行く末を見つめていたが、片方の調子が悪くなった上、逃げ遅れた私の存在に気づいてから防戦一方になった。
不運は重なり、ノイズまでも私に気づいたことで一斉に襲いかかってきた。調子の悪くなったほうは私のことをかばってくれたみたいだが……その途中で私の意識は途切れた。
私にとってその日の出来事は夢としか思えなかった。
逃げ遅れることが死を意味する特異災害ノイズに対し、逃げ遅れながら生き残ったという奇跡。
怪我の様子を見るべく数ヶ月の入院生活を余儀なくされることにはなったが、結果的に五体満足でこれといった後遺症もなく術後も生活できたことは、神からの祝福があったとしか言いようがない。
だが、あの地獄の中で生き残った事実は、呪いでしかなかった。
10万人を超える観客に起こった未曾有の大災害において、 死者、行方不明者の総数は12874人にのぼった。
ただしノイズによる死者は全体の1/3程度であり、 残りは逃走中の将棋倒しによる圧死や、 避難路の確保を争った末の暴行による傷害致死だった。
これが意味することは、生存者は他の被災者を余計に犠牲にして生き延びたという事実だ。
生き延びようとする意思は生あるものにとって当然のものであり、それはしょうがないものだと政府は特に口を挟んでいなかったが、これが良くなかった。
死者、行方不明者数は連日報道され、ノイズによって灰になった被害者の情報より、逃走中の将棋倒しによって後遺症を患わった人のドキュメンタリーや、暴行による傷害致死によって家族や最愛の人を失った間接的被害者へのインタビューばかりが目立つようになった。
解きたくはない
「どうして私はこんなにいじめられるの?」
「響ちゃんは悪くないわ」
あの日以来、世間の話題は「他人を押しのけてまで生き延びること」への是非を問うことから始まり、やがて「ライブ生還者は犯罪者か」という論調へと変化する。
もしそれを裁判所で判決を言い渡すなら、「是」とは言えない。「他人を押しのけて生き延びた人」がいることは事実としても、それが生き延びた9万人すべてを指すわけではない。
理屈ではわかるものが、なぜそこまで過激な内容に変化したのか。
亡くなった1万人の親族が声を上げ続けたこともあるだろう。もしあのライブにいた人全員が最善の行動をしたなら、ノイズ以外の人災によって死んだ8千人はいなかったかもしれない。
仕方がなかった、パニックになる人が出てくるのは当然という理屈だけでは、その無念を晴らせるほど人々は利口ではなかった。
「あの子は今生き延びている人たちに足蹴にされて死んだ!」
「いつまでこれが続くの?」
「人の噂も七十五日と言うわ。もう少しだけ我慢できる?」
だが、論調が過激なものへと変化した一番の理由は、世間が「わかりやすいもの」や「二者択一」「派手なもの」を好むからだ。
そして、
「ライブ生還者は悪か」。
日本が法治国家である以上、犯罪者は悪である。だが、非犯罪者は悪ではないという証明にはならない。
それを問う討論番組が地上波で放送されたときはSNS上では炎上したが、逆にそれだけの人間がこの問いに着目していると言えた。それも悪い方向に。
「なんであの子が死んで、あなたが生き延びている!」
「私は呪われているの?」
「あなたは呪われてなんていないわ。もし呪われているなら、それは世界のほう」
だから汚れた人間は、汚れた人間の望みを叶える。
ある時は人災によって最愛の人を亡くした遺族へ心無いインタビューをし、編集によって増幅された怨嗟の声を垂れ流す。
ある時は度重なるバッシングによって心を壊しかけたライブ生還者に挑発じみた質問を繰り返し、一部始終を切り貼りして事実を捻じ曲げる。
都合のいい事実を真に受けて、それを真実として世界は動く。
「あの子から奪った笑顔でのうのうと生きているあなたを見るのは不愉快なのよ!」
「私は生きていてはダメなの?」
「あなたは決して罪を犯していないわ」
私が退院した時、学校では腫れ物を扱うように私の周りは静寂に満ちた。それは私のことを見計らっていたのだ。私が善か悪かではない。私の罪状は彼らの中で既に決まっている。
彼らにとって私が手に余る存在かどうかだ。
彼らによって私を裁くことができるかどうかだ。
今まで抱えてきた痛みをぶつける者。
世界が下した判決をもって断罪する者。
手軽に殴れる相手を見つけた者。
皆等しく暴力として私に襲いかかった。
「ここから出ていって。あなたは悪くないのかもしれないけど、今はあなたの顔をみたくない」
「みんな真実を知りたいのよ。あの子を殺したのはあなたなんでしょ?」
「殺されたあの子の仇を私がとってあげる」
「呪いたくない。恨みたくない。世界はきれいなはずなのに、私だけが、私だけが苦しい、耐えられない。もう駄目だ、ダメかもしれない」
「あきらめないで。今だけは世界を呪ってもいい。でも、いつか、世界を赦してあげて。今だけは、泣いてもいいから」
カウンセラーの先生が言うように七十五日待った。誰も止めてくれなかった。
百五十日明るく努めた。誰もが「あいつにはまだ裁きが足りない」と思った。
三百日静かに過ごした。世界から呪いが解かれることはなかった。
「五体満足で今も生きているライブ生還者」が罪だっていうのなら、今この腕を切り落せば私の罪は無くなるのだろうか。
1年待った。世界から呪いがなくなることは無かった。
私の言葉は何も届かず、私の一挙一動が彼らの琴線に触れるようだ。
私はただ声を潜め、嵐がすぎるのを待つように、部屋の隅で膝を抱えて過ごす日々が続いた。
どこか別の場所に行きたい。だがツヴァイウィングの事件は日本国内全土で周知されているし、外国に行くにも私の学力では英語のコミュニケーションなんて望めない。
ましてや死傷者1万人を超える大災害なら諸外国で知られていてもおかしくないし、当時の私やお母さんにそれができるほどの気力は残されていなかった。
お父さんは、会社の取引先の家族がライブの被害にあっており、その
失意の中、あてもなく夜道を歩いていたある日。
「なに、これ……」
事件前の私なら不用意に触ったりなんかしないと思うが……その時の私は、たとえそれがどんな波乱をもたらすものであっても何かにすがりたかった。
おもむろに手に取り胸に抱けば、明滅は鼓動のように早まり、私の体は軽やかになっていく。
明滅が繰り返されるたび輝きはその強さを増し、体は宙に浮かんで次第に常世から姿を消していく。
「嗚呼、これで私は……」
光が明けた後、私の目の前には岩と砂しかなかった。私がいたのは都市部だし、日本のどこにもここまで何もない土地はないと思えた。
かつて心の静まる場所は地球上のどこにも存在しないと思っていたが、ただ風が砂を巻き上げる音だけが響くこの場所は、私にとって心地よかった。
だが荒野の中央で立ち尽くしていてもただ乾いて死ぬだけだ。ほんの少しだけ軽くなった心が指す方向に、あてもなく歩くことにした。
ざく、ざく、キュ。
歩くことで足元の砂が擦れ合い生まれる小気味良い音も、3時間も歩けば聞き飽きてくる。
かんかんに日が照っていたが、日本と違って湿度が低いのか思ったより体感温度は低かった。
時おり岩陰で休憩をはさみながら歩き続けるが、ただの女子高生な私には荒れ地を一日中行軍するだけの体力はなかった。
「水……水がほしい……」
水といえば、トイレにこもっていたときに上からバケツの水をぶっかけられた思い出……許せない。
もし戻ったら今の私と同じ目にあわせてやる……と思ったけど、今さらあの世界に戻りたくはない。
お母さんは心配してるかもしれないけど、私のせいでああなってしまったんだ。きっと私がいないほうがお母さんは幸せになれる。……少し涙が出てきた。
こんなところで水を消費している場合ではない、と気を引き締めてまた歩き出した。
「あ……」
真上にあったお日様が沈みそうな刻に、ようやく人の営みであろう建物が見えた。
中に入れば、あれだけ渇望した水が飲めるかもしれない。
「ぅ……ッ!」
だけど、私の足はそれ以上前に進めなかった。
1歩踏み出せば動悸が激しくなり、2歩前に出れば手に汗を握る。
わかってる。私の心が集団の中に入り込むことを良しとしないことを。
考えるな。
今いる場所は日本じゃない。
私のことを知らない人しかいないはず。
ぐわんぐわんと頭が揺れる。世界が揺れて、地面が壁になって……いや、私が倒れていた。
私の命が果てるまでに誰か通りがかってくれるだろうか。……誰もいなくてもいい。ここで終われるのなら。
「うぅん……」
「あ、起きた」
「え……?」
その子は、村の外で気を失っていた。ふくらはぎがパンパンにふくれ上がり、ひどい脱水症状になっていたので、村の中まで運んでからゆっくりと水を飲ませ、私のベッドで休ませていた。
どうやら気がついたみたいだけど、なんだか目を白黒させていた。
「私の名前はミク。あなたは?」
「響、だけど……私のことを覚えてない? 」
「ヒビキ、ね。よろしく、ヒビキ」
「よろしく…………。ごめん、もう少しだけ休ませて」
「すっごく疲れてたもんね。いいよ、ゆっくり休んで」
そう言うとヒビキは私に背を向けて寝始めた。ただ目をつむっているだけかもしれないけど、きっとあの子には少しでも休まる時間が必要だと思う。
あの顔は、声は、間違いなく未来だった。私の親友の、小日向未来。
世界には同じ顔の人が3人いるとは言うけれど、これはもう平行世界とかそういうレベル。
最初は私のことをバカにしているのかと思ったけど、未来が私のことを本当に覚えていない、いや最初から知らなかったみたいだ。
たちの悪い夢ではないかと疑ったけど、3日も過ごせばそれが現実のものと嫌でも認識する。
「ずっと甘えっぱなしも悪いから……家事ぐらいは手伝わせて」
この世界の未来……ミクは、見ず知らずのはずの私を嫌な顔せず受け入れてくれた。
まだ外に出るのは怖いけど、ミクの優しさに甘えすぎるのも嫌だから、せめて家事だけは手伝いたい。
「私達の部屋って狭いから掃除には困らないし、手伝ってもらうなら料理のお仕事なんだけど……ヒビキは人がいっぱいいる所が怖いって言ってたよね?」
「大丈夫、少しぐらいなら……」
この村の人達は村の外で戦っている獣人って人たちの糧食を作るのが仕事みたいで、ここはそのための集合住宅。当然キッチンは大規模で、たくさんの人達が仕事として食材を加工している。その人達に混ざって私はミクの手伝いをすることにした。
「へぇー、ヒビキって言うんだ。じゃあビッキーって呼んで良い?」
「ビ、ビッキーかぁ……よろしく」
特徴的なニックネームをつけるクリヨ。
「うへぇ、これを調理するの? ほんと変な生き物……まるでアニメみたい」
「ねえねえ、アニメって何? 教えて教えて!」
アニメのことを教えたら自由時間によくパラパラ漫画を書くようになったユミ。
始めたてのころはみんなの指示に応えるだけで精いっぱいだったが、1ヶ月もすればやることもわかってくる。
ここでの共同生活は不思議と安らぐものだった。仕事に集中すれば、その間は前の世界の嫌なことも忘れられる。
ミクがこの世界特有の珍妙なビジュアルをした動物を解体してミンチして腸詰めする様を見るのは相変わらず慣れないけど。
ここが私の第二の故郷となるのに時間はかからなかった。
だが。
いつものようにキッチンに集合したある日の朝。
「シオリ、です。……よろしく、お願いします」
「おっ、ヒビキが来てから1年ぶりの新入りかー。よろしくね、私はクリヨ!」
「私はユミ! ってもう知ってるか」
「私はミク。もしかしてユミが面倒見てたってこと?」
「そーそー。見てみてこのシオリちゃんの金髪! 今はまだツヤがないけど、しっかりお手入れしたらきっとアニメみたいなストレートブロンドになるはずよ!」
「私はヒビキ。……よろしく」
この施設に新しい女の子が入ってきた。名前をシオリというみたいだが、それより私には気になることがある。
「ねぇ、シオリはなんでそんな暗い顔をしているの?」
それを聞くとクリヨとユミはミクのことを見合わせた。
「あー……ビッキーの面倒見てたのってミクだっけ?」
「うん。……そっか、ヒビキは自力でここまで歩いてきたんだもんね」
「シオリに仕事教えるのは私達でやっておくからさ、ミクはヒビキに詳しいこと教えてやってよ」
「ありがと。ヒビキ、ちょっとこっちに来てくれる?」
「う、うん……」
私達は調理室を出て、ミクの部屋で話を聞くことにした。
「ヒビキは、私たちやシオリがどうしてここにいるか知ってる?」
「ううん、知らない」
なぜミクやみんながここにいるのか、詳しいことは知らなかった。みんなこぞって外の話や昔の話をしないし、それはあまり触れちゃいけない話題だと思ってた。
それでも、自分の中で推測していた。
私は平和な時代に生まれ、戦争を知らずに育ったが、かつて戦争があったときに男たちは徴兵され、兵士の装備を作るために男たちの妻や子供が集められ、工場で働いていたことを歴史の授業で習った。
私は兵士たる獣人を直接見る機会はあまり無かったけど、今いるこの施設のことをそのようにとらえていた。
そんな戦時中でもみんな笑顔で働いている。だからみんなは親御さんに預けられ、合意の下で働いていると信じていたのだ。
「きっとね、シオリは家族を殺されてからここまで連れ去られたのよ」
「……え? 殺されてって……」
「みんな思い出したくないと思うからなるべく話さないようにしてたんだけどね。私も拉致されてきたんだ、獣人に」
「拉致!? ……ごめん、理解が追いついてない」
「大丈夫、ゆっくり話すから」
ミクの話す内容をまとめると、こうだ。
かつて獣人は巨大なロボット「ガンメン」を操り、地上を制圧した。敗北した人間は地下へと潜り、細々と暮らすようになった。
長い年月が経ち、戦力を蓄えて蜂起する人間や、かつての歴史を忘れた人間がまた地上に現れるようになった。
基本的に獣人が負けることはないが、何度も戦ううちに外部に露出したエンジンや関節部がガンメンの弱点と知れ渡るようになってから、銃の腕を磨き弱点を射抜く者も現れた。
そこで消耗を嫌った獣人の一人が、地上に出てきた人間の中から主に女子供を選び、人質や罠として活用する作戦を立案した。
その時から戦いを挑み、負けた人間に対して『女子供を残していくなら命は助けてやるぞ?』と交渉を持ちかけるようになった。
「私のときは要求を飲んで、私とクリヨを引き換えにみんな生きて帰ったの。みんながまだ生きているかは知らされてないんだけどね」
「へぇ……さみしくないの?」
「そりゃさみしいよ。でも悲しんでばかりじゃいけないって思って、二人で頑張ることにしたんだ」
「そういえば、ユミはどうしたの?」
「ユミは私より後に来たの。でも最初はヒビキやシオリちゃんの時と同じようにふさぎ込んでいたから、しばらくはクリヨがユミと一緒の部屋で慰めていたんだよ」
ミクはユミの両親が生きているかどうかは聞いてないし、かつて世話をしていたクリヨが知っているかどうかもわからない。それを聞いてもどうにもならないし、過去のことを蒸し返しても悲しくなるだけだ。
「そうだったんだ……私、なんにも知らなかった」
「ごめんなさい。隠していたわけじゃないんだけど」
「ううん。ミクは優しいんだね。ありがとう」
そのためこの村の女の子はみんな、親や同じコミュニティにいた家族のような人々から獣人によって無理やり引き離されてここに来るのだ。
その家族が生きているならまだいい。だが、大切な人を目の前で殺されてきた人は、本当に目の中が曇り、
ユミやシオリだけではない。他にもたくさんの人を受け入れ、たくさんの絶望した顔を見てきたミクだからこそ身についた優しさだと私は思う。
だからこそ、私はミクの優しさに反逆する。
気持ちを整理したいとミクに告げ、今日の仕事はそのまま休むことにした。
そしてミクが部屋を離れたところを見計らい、窓から外に出た。
思えば私が外に出たのは1年ぶりだ。食材の受け入れと加工食品の払い出しはミクたちがやってくれるから、私は獣人と直接の交流を行ったこともない。
『脱走か?』と周囲の獣人がざわつく。大きいもの、小さいもの、毛深いもの、甲殻を持つもの。人とは違う姿にコミュニケーションが取れるのか怖かったけど、その心配はするだけ無駄と切り捨てた。たとえ同じ肌の色をした人間だとしても心とは通じ合わないものだから。
「あなたがシオリを連れてきた獣人?」
「あん? なんだテメェ、脱走した人間か?」
比較的新しい傷がついたガンメンを探し、その近くにいた獣人に話しかけてみたが、当たりだったみたいだ。
「今すぐ人間を拉致するのをやめて。それで悲しむ人間がいるの」
「何かと思えばそんなことか。やめるわけねぇだろう、それで何か俺たちにうまみがあンのか?」
「ない。だけど私が止める」
「止めるぅ?」
ガハハと周囲の獣人が笑う。
どうして人を傷つけて笑ってられる?
どうして求められた助けを払いのける?
涙をのんで、精一杯の笑顔を貼り付けて、未来のない毎日をただ生きるだけの人を生む、こいつらが許せない。
「グアーム様、所属不明の少女が脱走。現在人間捕獲部隊に要求を行っている様子」
『所属不明だと? 監督官は何をしておる?』
「施設内の人員の管理帳票は正常につけていましたが、いつの間にか紛れ込んでいたようです」
『まあいい、減るのは困るが増える分にはどうでもいいからな。それより、要求の内容は?』
「人間の拉致をやめてほしいと。やめなければ相手になると言っております」
グワハハハと通信の奥で嗤い声が聞こえる。
『青いな。交渉の何たるかをわかってない。カードも金も、力もないままテーブルに上がるのは死にたいやつだけよ』
怒りを手に握り、殴る。だが、獣の身体を持ち、鍛えられた軍人でもある獣人にはペットにじゃれつかれているようなもの。癇癪を起こした子供の目を覚まさせるように、時おり手加減されたビンタでもてあそばれ、痛みに涙が出そうになる。
「よくこんなザマで『止める』なんてぬかしたモンだなぁ! 頭を下げてオネガイすれば何でも叶うとでも思っていたかぁ?」
「黙れ! 私はお前たちのために頭なんて下げたりしない!」
「だったらよぉ、弱いヤツが強えヤツに指図するんじゃねぇよ!」
「……だとしても」
「弱いヤツが何を言おうとも、世界は何も変わっちゃくれねぇ」
「だとしてもォ!」
心の内を、想いのままに叫ぶ。
「自分の力の弱さを理由に! 不条理に握った拳を解きたくはない!」
ミクは私の悲しみを受け入れ、癒やしてくれた。
自分の気持ちに蓋をして、現実から目を背けて。
でも、ミクがそんなことをしなきゃいけない世界なんて嫌だ。
誰かが不当に悲しみを背負う世界なんて嫌だ。
そして、ミクにそんなことをさせた私が嫌だ。
次第に意思を持つ胸の内の
「弱いんだったら、さっさと諦めろ! 殴って満足したなら、そのまま死んでろ!」
叫ぶごとに、胸の内の
それがあまりにうるさいものだから、私は思うがままにそれを歌うことにした。
胸の中の歌を歌えば、瞬時に私の姿が変わった。
獣人が振りかぶっていた拳を払いのければ、その勢いのまま横っ面に飛んでいった。
踏み出した一歩は、バッタが己の身長の何倍もの距離を飛ぶが如く跳躍する。
強者と弱者は今このときをもって入れ替わったが、その事実を受け入れたくない獣人は仮にも人の姿をした者を相手にガンメンまで持ち出して応戦した。
それでもなお優勢は覆らず、部隊の3割を損耗させたところで獣人らは撤退した。
「ヒビキ……? その姿は……」
騒ぎを聞きつけてミクがやってきた。
私はミクがこんな優しさを強いられるのが嫌だから奴らに戦いを挑んだ。だがそれはミクに感謝されたいとかじゃないし、私のこの状況を知ったならミクはかばってくれるだろうが、それは私のやりたいことじゃない。
「ミク……っ、ごめん」
万が一にもミクを傷つけないように細心の注意を払いながらミクの後ろから首筋を叩き、一瞬で気絶させた。
「イッタイナンノ騒ギダ?」
「丁度いい、この子を頼む。 言っておくけど、変なことしたら絶対に殺すから」
「ア、アァ……」
遅れてやってきた寮監の獣人にミクを預け、私は村の入口に陣取ることにした。
これでいい。これは私の戦いだ。呪われた私の拳では周りにいる人みんな傷つけてしまうだろう。それでも私はみんなを守りたい。私の心を守ってくれたみんなに
気持ちを落ち着けると変身は自然と解除され、元の姿に戻る。
この力もだいぶ謎めいている。あのときガンメンのガラスの目玉に写った私の姿は、2年前のツヴァイウィングのライブ会場で、ノイズと戦っていたとき彼女たちの姿を思い出させる。きっとあのとき私が意識を失った後に何かがあったのだろう。
だが今の私にとっては好都合だ。細かいことはどうでもいい、やつらに抗う力を私に与えてくれたのだから。
「少し、寒いな……」
逃げ出した獣人が置いていった外套をはおり、吹き付ける風が舞い上げる砂にむせないように、しっかりと口元まで覆い隠す。
村の門の柱を背に座り込み、逃げた獣人が呼び込むであろうさらなる敵に向けて、しっかりと体を休ませることにした。
「もう、二度と……傷つけさせるものか……」
立花響:戦姫絶唱シンフォギアの主人公にして、本作のヒロイン。
ツヴァイウィングのコンサート後、小日向未来のメンタルケアを受けられなかったためグレビッキー化。その1年後、ギャランホルンによってグレンラガン世界に転移する。
平行世界の未来とリディアンメンバーによる1年のカウンセリングによってメンタルが多少回復するも、この世界の厳しい現実を知り、戦うことを決意する。
ギャランホルン:アプリゲーム、戦姫絶唱シンフォギアXDU(エクスドライブアンリミテッド)において、平行世界への移動を可能とする聖遺物。今回は螺旋力マシマシで響の前に現れた。
読者様のグレンラガンとシンフォギアの原作知識は?
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両方知ってる
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グレンラガンは知ってる
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シンフォギアは知ってる
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両方知らない