私の名前は鹿島道長。
平和だった日本に生を受け、立派な父親と聡明な母親に育てられた、何でもそつなくこなすエリート一家の長男坊。
趣味はテーブルトークRPG。自分を投影するキャラクターを作り、思うがままにシナリオを味わう。
趣味はあれど、ただ日々を過ごしていた。
彼女もいなけりゃ夢もなかった。
世界が一つで無いと知ってからは。
次元の向こうから来るネイバーとそれと戦う組織ボーダーを知り、私に戦うための優れた才がある事が分かり、スカウトされた。
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具体的には未来が見えたり、動物と話ができたりと多岐にわたる。
私が持っていた副作用は『自己制御』
自分を思い通りにする能力だと言われた時、意味がよく分からなかった。
日々で得る経験を糧に自分の能力を如何様にも成長させることの出来る能力。
これを認識した時私は思った。
あ、trpgだこれ。
やるしかない。なりたい自分になれるのはここしかない。そう確信した。
背中を預け合う仲間との研鑽、日常には無い闘争、盤上でしか得ることのできないと思っていた経験が現実でもできると分かった時、気付けばわたしは両親にボーダー入隊申請書とその旨を熱く語っていた。
今思えば、思い切りが良すぎた。常に理論立てて物事を考え、広い視野を持つ両親から見れば思春期故の熱せられやすい衝動的な行動と写ったかもしれない。
ただ、その私の熱意が伝わったのか、用意した資料とプレゼンが良かったのかは分からないが、成績の維持とトップを取ることを条件に許可が降りた。
以上が私が青春を物騒な破壊光線を吐く、人攫いとの戦いに捧げるまでの経緯だ。
【tips】テーブルトークRPG
略してtrpg。古くからあるRPG。プレイヤーは自分が作ったキャラクターを操り、シナリオを攻略する。キャラクターの行動によって結末やシナリオが変化する。敵と闘い、力を示すか、敵を言いくるめ味方と出来るかどうかはそのプレイヤーのダイスの出目と固定値次第である。やはり固定値、固定値は全てを解決する。
新たな環境で知らない人間と出会うと分かっている時、多くの場合で緊張が勝る。
しかし今の私の心には心地よい適度の不安と目には期待が写っているだろう。
首を長くして待っていた入隊日だ。
周りの人間は知らない人間なれど、ゆくゆくは共に肩を並べて戦う仲間であり、鎬を削る
そしてこの場は私が望み、立っている場所だ。武者振るいこそあれど不安など歩みを進める程に希薄になっていく。
指定された席を見つけ、座して辺りを見渡すのも束の間、スーツを着た大人の男性が壇上にてマイクを握る。
「ボーダー本部長、忍田真史だ」
本部長、正隊員を束ねる事実上の私含めたこの場の人間の直属の上司となる役職。
力強さを感じさせる声は正対すれば圧倒される事は予想に難くない。
述べられる祝辞と激励は特に意外性はなく、使命感を掻き立てるプロパガンダの様な胡散臭さもない。それどころか、少し格式ばりすぎていると感じる。
後方から味方の士気を上げ、最大限のサポートをするリーダーというより先陣を切り味方を導く前線指揮官といったところか。
だとしたら頼もしい限りだが、勝手な期待をして後で失望することになるのは避けたい。声色と出立ちからから分かるのはこの程度だ。
本部長の祝辞が終わり、訓練生の顧問としてA級チーム、嵐山隊が紹介される。
「嵐山隊、隊長の嵐山准だ!よろしく!」
ボーダーの顔として広報活動によってメディア露出も多く、それだけ有名な嵐山隊。そしてこれを束ねる嵐山隊長。
明るく、元気な好青年を絵に描いたような印象を与える。
中々人前でここまで堂々としていられるのもシンプルに尊敬の念を禁じ得ない。
広告塔としての日々がそうさせるのだろうか。
紹介と共に幾らかの騒めきが起こっても、慣れたものなのか手際良く嵐山隊長がそれを諌めると希望のポジションに分かれて引率を開始する。
連れてこられた空間は式場とはまた別の趣がある大部屋だった。
「君たち訓練生にはこれからトリガーを使った、戦闘訓練をやってもらう!」
初日からの戦闘訓練。思うところはあれど、戦闘に向いているかどうかがこれで分かったりするのだろう。
平和な日本に生まれた以上、喧嘩一つした事ないという人間は多い。
本能的な暴力的な部分を社会の中でゲーム等で解除するのが現代だ。
いざ、戦うとなった時、戦えるかどうかは0と1くらい違う。
周りの戸惑いは感じられるが、1人が開始すれば大多数の覚悟は決まる。
気付けば私の番が来ていた。ブースに入れば巨大なネイバーが現れる。
私が希望したポジションは
接近戦を主として最前線で目標と戦うことから、私はRPGで言えばタンクと似た役割だと感じた。
訓練生に与えられるトリガーの中で私が選択した物は孤月。刀を使ってみたいと思う男子は日本中探せばいくらでもいるだろう。
孤月のフォルムは日本刀を思わせる。武器を握るという行為が私の闘争心を掻き立てる。目の前には切るために用意されたデク人形、開始の合図と共に地面を蹴り、身長の何倍もの高さを跳躍する。
狙いは口内にある目玉の様な物体。そこが弱点であることは先程まで行われていた同期達のお陰で割れている。
刃を目玉に合わせ、手に伝わる切るという感触。孤月の重さに振り回されている事を自覚しつつも、幸いな事に
私は跳躍した、そして目標を切った。訓練自体は成功でタイム自体はそれで止まる。
ここまでの判定で全て成功を出した。
だが私は忘れていた。私が何故固定値信者であったのかを、悪戯好きの女神に愛されている事を。
高く飛んだのだ。なれば着地も残ってるだろうに。
「あ」
情けない声を出せど、失敗は変わらない。身体の重心は失われ、着地と共にバランスを崩す。地面に足をつけるだけでは勢いは殺せず、体は前のめりになり盛大に地面に口を落とす。
あぁ恥ずかしい。調子に乗るとすぐこうだ。
やはりダイスの目は信用できない。信じるべきは固定値だ。
「平気かい?」
やめてくれ。今は同情の方が心にくる。
嵐山隊長が手を差し伸べ、起こしてくれる。トリオン体である以上怪我はしない。けれども精神的ダメージは別だ。タイムが早く、優秀だと褒められたことは嬉しいが、やらかした事実は変わらない。
受け身でも成長させてしまおうかしら。二度と同じ失敗はしたくない。
しかし安易に決めて熟練度を振っていけない。
現在私が副作用によって成長させることのできる基本的な技能は〈思考力〉〈瞬発力〉〈記憶力〉〈技量〉〈筋力〉の5つ。
これらが複雑に絡み合って私を構成している。そして、ある一定以上成長させた時、特技とも言える技能を取る事ができる。
技能の成長段階は様々であり、多くの場合は5つに分かれているが3つであったり4つであるものもある。
例えば、〈記憶力〉は〈愚鈍〉〈凡人〉〈秀才〉〈寵児〉〈賢者〉まであり、成長に伴い必要な熟練度は途方もないものとなっていく。
一度成長させた技能は元には戻せず、よく考えみれば取った技能が既に持っている技能と役割が被ってしまう、なんてことはtrpgでは良くある事。
器用貧乏とはよく言ったものだ。
私は固定値信者であると同時に
相手の手札を叩き切り、どうやれば勝てるとGMに愚痴らせる。セッションの主役を総取りにし、シナリオを存分に荒らし回る。やり過ぎは良くないが、要は程度の問題だ。
そしてtrpgにおいてシナリオを楽しむことは主な目的の一つではあるが、目標としていたビルドを完成させた時の喜びも醍醐味の一つではないだろうか。
ボーダーという組織の中で自分専用のトリガーというのも憧れるが、規格化されたトリガーから自分だけのスタイルを見つけ出すというのも私にとってはロマン溢れる行為である。
tips【和マンチ】
trpgで使われる用語の一つ。
原形はマンチキン。海外でのtrpgにおいて自分のキャラクターを最大限に有利になる様に強引に持っていくワガママなプレイヤーの事。
海外からのtrpgの輸入により日本人の合理的なルールにこだわる性格とルールの穴を突く事で理論武装でワガママを実現するプレイを行うことから和マンチとしてマンチキンと区別して言われる様になった。
基地内の施設の一通りの案内と説明が終わり、合同訓練の予定等のスケジュールを渡されると後は自由解散となる。
日もまだ高く、帰る気が起きない私はある目的を持って訓練生のために用意されたタブレットを使い、画面と睨めっこしていた。
画面にあるのはボーダーの人間達による戦いの歴史。ランク戦のリプレイだ。
訓練生の自分のスタイルを探すあやふやな戦いではなく、実力はピンからキリまであれど、明確な意図を持って構築された正隊員同士の戦いは見応えのあるものばかりだ。
私がボーダーに入るにあたり、伸ばそうと考えたのはまず、目を肥すこと。
優れた芸術を作るには優れた目を養う必要があると母は口癖の様に言っていた。
私はこの言葉に従い、到達すべき高みを知ることから始めた。
B級隊員に上がり、チームを組むことによってランク戦に参加できるようになるのは熟練度が大いに稼げそうでいいのだが、和マンチをしようとしている私を受け入れてくれる人間が果たしてどれだけいるだろうか。
全く先行きが不安であるが、今は強くなることだけを考える。
戦力となるのであれば歓迎してくれる部隊もあることを願うとしよう。
リプレイを漁っていく度に、正隊員が使うことのできるトリガーの豊富さが羨ましく感じる。
訓練生で使えるトリガーは一種のみ、選択したのは孤月だが、スコーピオンも使ってみたい。射手用トリガーの炸裂弾もロマンがあって興味がある。変化弾も初見では回避するのは難しいだろう。
銃という武器にも魅力はあるが私が悦に入るのは剣と魔法のファンタジーな世界であり、
今考えると、私のトリオン量だと炸裂弾の火力のゴリ押しで相手を叩き潰すことや誘導弾で動かした先に変化弾を叩き込む等をすれば簡単に正隊員に上がれるのではないだろうか。ただ剣と言う武器のロマンが私を縛る。トリガーの多彩さが私のtrpg脳を掻き立てる。あぁ、夢が広がるんじゃー。
「そんなにリプレイばっかり見て、何のためにボーダーに入ったんだか」
横から耳に入る憎まれ口とも皮肉とも取れる言葉に、誰の為に向けられたものなのかを認識すると私は返礼することにした。
「悪戯に剣を振るだけが強くなる方法ではないと思うがね」
事実そうだ。私は先程の訓練で得た熟練度よりリプレイを見た事で得た熟練度の方が圧倒的だ。これが何よりの証明であると言える。
初対面の人間にあからさまに印象を悪くする様な言葉を投げかけるとは中々難儀な性格をしている。
私の返礼に素っ気ないこと態度を示すことからリプレイを見ていた理由が知りたいわけではないらしい。
「勝負しようよ、そこのブースで」
それが本題か。入隊初日に決闘を挑まれるとは思いもやらなかった。
喧嘩を売ることも売られることもなかった人生を過ごしてきた私にとって非常に新鮮な体験だ。
今日の予定は特になく、リプレイも一段落していたことから勝負を受けることにした私は菊池原と名乗った目の前は思い返せば、入隊式にいた同期だと分かる。
共にそれぞれ、空いているブースに入った。
菊地原の入ったブースの番号を指定し、彼のポイントが表示される。そのポイントは私が入隊にあたって所持していたポイントよりやや小さい数だった。
新米隊員に与えられるポイントより遥かに多い数。新米隊員が今日入隊しただけで、得たとは考えにくい。
あぁなるほど。そういうことか。私と同じスカウト組か。
加えて、この勝負をふっかける気概。ならば君は私の
高揚するの気分の表れか、上がる口角を手で隠し、勝負が始まる。
菊地原の素早い動きに翻弄される。奇襲を仕掛けようと裏を取れど、手にとる様に分かると言わんばかりに斬り伏せられる。背中に目玉でも付いているのだろうか。
期待はずれだと目線が訴えている。
気付けば5戦が終わり、私が得た白星は1本で代わりに4本の黒星を得ることになっている。
「5本勝負なら僕の圧勝だね」
全く情けない限りだ。私に現状の戦闘能力の低さが叩きつけられる。
「もうやめていいかな。正直期待はずれだったよ」
告げられる言葉には明確な落胆が含まれている。
誠に不甲斐ないばかりだ。私を強いと思い、期待をしてくれていたにも関わらず、私はそれに応えることが出来ないばかりか、失望させてしまった。
「15分ほど時間をくれないか。君さえ良ければ後5本、私に付き合って欲しい」
自分が仕掛けた勝負だからか、不承不承といった感じに了承を得た。
私は先程の戦闘訓練、リプレイとこの5本の勝負で得た熟練度を使い、菊池原の期待に応える事を決意する。
この程度の熟練度なら使っても後悔するまい。それに、何より今は
tips【致命的失敗】
ファンブルと訳される。ダイスの女神の大いなる悪戯。勝ちが確定している状況すら敗北となる可能性すらある。これを回避するには日頃の行いで善行をし、神を信じるか、固定値を積み、成功を重ね絶対に負けない状況を作るかどちらかだ。
ー鹿島、
アナウンスが勝者の名前を告げる。結果は4勝6敗で私の敗北。
最後の試合は新兵たる私としてもいい試合であったと感じる。
これだよ、鎬を削り、互いを高め合う。これがやりたかったんだよ。形は特殊なれど青春ではなかろうか。
「ありがとう。またやろう」
「何度やっても同じ結果だと思うけどね」
変わらず帰ってくるのは憎まれ口。しかし幾ばくかの高揚が込められているのは分かる。どうやら私は彼の期待に応えることが出来たらしい。
最後の試合はどうだったと投げかけてみれば、もう少し、間合いを意識すれば正確に相手の弱点を付けるのではないかと返してくれたり、どこの学校で何が好きかと聞いてみれば一言はあれどちゃんと答えは帰ってくる。
皮肉屋なれど本音を口にする彼の性根は私にとって好ましものだ。
後にリプレイから学べることを私が語り、幾らかの有効性を認識してくれたのか。共にラウンジで食事を取りリプレイを見て、私達は帰路についた。
こうして私のボーダー初日の1日が終わった。
私の名前は鹿島道長。いずれボーダー最強のビルドを完成させる男である。
この小説は私がSchuld氏の
TRPGプレイヤーが異世界にて最強ビルドを目指す〜ヘンダーソン氏の福音を〜に大いに、それはもう大いに影響を受け、そのシステムをワールドトリガーに落とし込んだものです。
誤字修正)バレッタ様より
誤字修正)ソフィア様より
誤字修正)三の丸様より
誤字修正)ああ様より
誤字修正)寝間着様より