ボーダーにて最強のビルドを目指す話   作:[L]

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新兵2

人と初めて会う時に好意的な印象を与える確実な方法は贈り物だと教えられたのはいつだっただろうか。

 

今思えば、現金な教育であるが、この手法は相手が目上の人間や先輩であったりすると非常に効果的である。

 

何かをもらって少なくとも見かけ上で迷惑な反応を示すことは余程人を選ぶ物を渡したか、その人の性格に難があるかのどちらかだろう。

 

私は無限とも思える有限な時間をどれだけ費やしても許される学生の身である。

 

ここ数日、訓練と並行してある人の為に適切な献上品を見繕い、彼の御仁の元へ向かっていた。

 

無論、アポイントは既に取っている。服装も私の身分の礼服たる学生服。

 

目的の部屋の前に辿り着き、表札の前に立つとセンサーが反応してか、扉が開かれる。

 

型式的な礼を行い、室内に入る。お目当の人と相対する。

 

「はじめまして。鹿島です。お忙しい中時間を割いていただき、ありがとうございます」

 

「ふん。お前が鹿島か。一体何のようだ」

 

御相手は鬼怒田本吉。ボーダーの開発室長。技術者(エンジニア)を束ねる開発部門のトップにして(ゲート)誘導システム、本部基礎システムの開発、そしてノーマルトリガーの量産等、組織における縁の下の力持ち。

 

trpgで言えばキャラクターの武器を打つ鍛冶師だろうか。

 

武具製作のスペシャリスト。そういったNPCの好感度は友好を示しておくことは大切だ。

 

ボーダーで上を目指す以上、お世話になることもあるだろう。

 

鬼怒田室長は眉間に皺が寄っており、いかにも頑固親父といった風貌で、初対面では話しかけ辛い印象を受ける。

 

加えて目の下の隈と剣呑とした表情がそれを助長している。

 

今回私が訪ねた理由は顔を覚えてもらうという意図もあるが主な目的はボーダーのトリガーの詳細な資料をいただく為だ。

 

配布された資料には基本的な使用用途やその性質、攻撃力などが簡単に記されているだけで、トリオンで何ができるのか、拡張性や応用性はどこまであるのか、一体どういう法則があるのかまでは記されていなかった。

 

和マンチにおいて目的のビルドを完成させるまでにルールを押さえておかずにいる事は心許ない。

 

理論武装は卓上でのGMの説得でしか役に立たないないかもしれないが、トリオンという未来物質(ファンタジー)を使って戦う以上、それがどういう物質かというより何ができるかを理解することは有益であると信じている。

 

人は得てして、当たり前の事を疑問に思うことは難しい。

 

疑問が疑問である内に、何となしに納得してしまえばそこで頭打ちだ。

 

目的を伝えると鬼怒田室長は不思議そうな顔をしながら、少しここに待つようお達しを受ける。

 

幾ばくかの時が過ぎた後、無駄に高価で、分厚い本(ルールブック)が薄く思えてくる厚さのファイルが幾つも机の上に重ねられた。

 

流し読みする要領で全体に目を通すとトリガーの開発記録まである。一隊員にこんな大事な情報を見せていいのだろうか。

 

後で何かとんでもない物を要求されたりしないか心配だ。

 

「これで全部だが、本当にこいつが欲しいのか」

 

「ええ、勿論です。態々ありがとうございます」

 

「そんなにトリオンとトリガーに興味があるなら技術者(エンジニア)にでもなれば良いだろうに。希望するなら上に口を聞いてやらんこともない」

 

私は技術屋志望ではないが、御土産が功を奏したのか、少なくとも好意的に思ってくれているらしい。

 

「嬉しい申し出ですが、私は戦闘員です。今更私が入ったところで迷惑にしかなりませんよ。それに私はここで上を目指すと決めていますから」

 

一息間を置いた後、私の答えに鬼怒田室長は満足したのか、

 

「分からない事があったら来るといい。時間があれば答えてやろう」

 

対面した時より僅かに表情を崩したように見えたが、さぁ仕事だ仕事だと山積みの資料を渡され、閲覧はボーダーの施設内に限るという命令を受けると開発室から追い出されてしまった。

 

うん、まぁ顔合わせとしては上出来ではなかろうか。

 

 

 

 

 

tips【ルールブック】

無駄に高価で分厚い本。シナリオをプレイする上で必要なルールが事細かく書かれている。遊んで楽しい。読んで楽しい。GMに対して理論武装をするにはこれを事細かく把握する必要があるとかないとか。持ち運びが最大の難点。

 

 

 

 

 

 

 

バランスを崩せば今にも倒壊しそうな手中のタワーを持ったまま広い本部内を移動する事は非常に困難な事だと、何故先程までの私は気が付かなかったのか。

 

目的を果たしたことへの達成感とこの微妙な失敗へ感情が入り混じって、なんとも言えない気分になる。

 

「手伝おうか?少年」

 

視界の外から現れた見ず知らずの男が私の荷物との格闘を見かねてか、声を掛けてきた。

 

与えられた親切を無碍に断ることも理由も、この状況への解決策も持ってない私は迅悠一と名乗る男の申し出を素直に受け入れた。

 

「こんなに大量に貰えるなんて随分と鬼怒田さんに気に入られたみたいだな」

 

鬼怒田室長に会っていた事をなぜ知っているのか、初対面だというのに何処か見透かしているような目をしている。

 

「事前に聞いていたより話し易い人でした。厳しい人だと聞いていたので」

 

「それだけ気に入られたってことさ」

 

「でもこの情報って外部に漏らしたりしたら、不味いじゃないですか。正直意外でした」

 

「大丈夫、大丈夫。漏らしても最悪消されるだけだろうから」

 

なにそれ怖い。ボーダーって思ったより黒い組織だったのか。確かにネイバーに攫われましたって言えばどうとでもなる気がする。

 

「あぁ、消されるっていうのは記憶だから。心配しなくていいよ」

 

ほう、任意に人の記憶を消去できるとは。トリオンで可能な技術なんだろうか。ダメ元で今度鬼怒田室長に聞いてみよう。

 

「ボーダーで悪さは出来ないですね」

 

「そうだな。といっても、お前さんがそんな事しないのは分かってるさ。俺の副作用がそう言ってる」

 

副作用。何だろう、今のやり取りで考えられるとしたら心を読むとかだろうか。

 

「俺には未来が見えるのさ」

 

「それは凄い能力ですね」

 

「そんなにいい事ばかりじゃないさ。それに強さで言えば道長の副作用の方がよっぽど強力だよ」

 

初対面から名前呼び、随分フランクな人だ。しかも私の副作用まで把握している。手伝ってもらっておいて失礼かもしれないが、距離をとった方がいいかもしれない。

 

「いつから見えるようになったんですか?」

 

「気付いたら見えるようなってたかな。トリオンの増加は肉体の成長が影響するし、人によって副作用が出る時期は違うからなー」

 

なるほど、私もこの副作用が現れたのは最近だし、決まった年齢に発現する訳ではないのか。

 

中学受験の頃にあったらどれだけ助かったことか。

 

副作用(サイドエフェクト)にも色々ある。それで苦労している奴も結構いる」

 

あくまでも副作用と言うわけか。言われてみれば、他人と違う事で弊害が生まれるのは予想に難くない。

 

そうこうしているうちに隊員達の憩いの場であるラウンジに辿り着く。

 

現在、訓練生の多くは合同訓練のため人はまばらだ。

 

そこの一席を陣取り、資料を並べて行く。

 

「ありがとうございました。良ければ御礼させて下さい」

 

「いいのいいの。困ってる後輩を助けるのも実力派エリートの務めだから」

 

実力派エリート。自負としての肩書きだろうか。ボーダーにそんな階級は無いはずだ。

 

「それより、これから時間ある?ちょっと話したいんだけど」

 

何のお誘いだろうか。ここに来て胡散臭さが加速度的に上がってきている気がする。

 

だが、手伝ってもらった上にお礼も受け取ってもらえない手前、私に断るという選択肢はなかった。

 

「これを整理しながらで良ければ」

 

「道長、玉狛支部(うち)に来ない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

tips【自己制御】

ランクSー超感覚。自分の成長を体験から得ることのできる熟練度によって如何様にもコントロールすることができる。しかし、人間という種を超えた成長は不可能であり生まれを変えることも同様である。銃弾を受けても再生したり、空を飛んだりする事はできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然の勧誘に驚いたのは言うまでも無い。 

 

加えて、もっと驚いたのは続け様に伝えられた近界(ネイバー)とボーダーの事だ。

 

トリガーは元々近界からの技術である事もそうだが、幾つもの国家が存在し、友好的な近界民もいるとのこと。

 

そして今のボーダーには主に友好派と敵対派、中立派に分かれている。

 

玉狛は友好派に属しており、協力して欲しいと。

 

組織に派閥がある事は別段不思議な事ではない。

 

問題は聞く限りだと玉狛に所属することで、本部との摩擦に巻き込まれる可能性があることだ。

 

戦闘というシンプルな形であるなら私としても望むところである。

 

ただ、回りくどい方法での戦いとなると余計な熟練度を振る羽目になる。

 

それは勘弁だ。

 

「お断りします」

 

有難い申し出ではあるが、と付け加えるのは忘れない。

 

「あちゃー。振られちゃったかー」 

 

「まだ、所属する部隊も自分がどう戦うかも決めていないです。近界に興味はありますけど、どちらかに肩入れする程ボーダーを知りません」

 

玉狛支部(うち)に来ればそれなりの設備を提供できたりするけど」

 

魅力的な提案に閉口するが、答えは変わらない。

 

「お手伝い出来ることがあれば何でも言ってください。貰いっぱなしは気が引けますし」

 

私の決断が変わらないことが分かったのか、了承する未来が見えなくなったのか、それとも初めからそんな未来は見えていなかったのか、迅さんは浮かべた笑みを崩さないまま困ったことがあったらいつでも聞いてくれと言い、私の前から去っていった。

 

嵐のように過ぎていった午前だった。

 

盤上(trpg)で言えば武器職人との会合と未来を見通す魔法使いとの出会いといったところだろうか。この出会いがより良いものとなりますように。

 

 

 

 

珈琲を片手に当初の目的を果たすとする。

 

この日の書類漁りの為に、既に〈凡人〉であった〈記憶力〉を〈秀才〉の段階に上げ、〈図書館〉と〈目星〉に熟練度を振り、それなりに値が張った〈並列思考〉を取得した。

 

〈図書館〉書物から情報を得るのにかかる時間にボーナスがかかる。

 

〈目星〉目視可能な対象から幾らの気付きを得ることができる。

 

〈並列思考〉文字通り、マルチタスクを可能にする。練度を上げれば、複雑な作業も可能になるだろう。

 

〈図書館〉は期待はできないが、〈目星〉〈並列思考〉は机仕事(デスクワーク)だけに留まらず、戦闘にも応用が効くと判断した故の結果だ。

 

用いた熟練度が入隊初日の無駄遣いを除けば、ほぼ全てであるだけあって面白い具合に資料の内容が頭に入って来る。

 

トリオンが可能にする現行の物理法則とは異なる法則に則った挙動。

 

物質にも、エネルギーにも変化する様はまさにファンタジー物質。

 

やはり貰って良かった。世界が広がった気分だ。さぁ次だ、次だ。今日は読めるだけ読むぞ。

 

積まれた宝の山を前に悦に入る私であったが、首筋に細い針を刺したような感覚が走った。入隊日に取った〈気配探知〉による第三者の感覚。

 

深く考えず顔を上げると見知った顔がそこにはあった。

 

「訓練サボって読書って良い身分だね」

 

「用事があったんだよ」

 

憎まれ口と地獄耳が標準装備された我が友、菊地原である。

 

午前の経緯とその成果を見せ、共に知識を溜め込む作業に誘うと残念な物を見るような目でこちらを見る。

 

「B級に上がったら、使えるトリガーも増えるんだから見ていて損しないぞ」

 

彼は対面の席に座り、目の前に広げられた書類をかき分け、自分の珈琲を置くスペースを確保する。

 

そこの一言もないあたり、彼の太々しい性格が現れている。

 

口を開けば誰々があんな事やこんな事を言っていたと。

 

それは私へのものでもあったり、彼自身へのものあった。

 

ボーダーに下駄を履かせてもらって入隊したことで、それをよく思わない人は幾らかいた。

 

私や菊地原が入隊してからそれほど目立った成績は出せてはいないことも反感を助長しているようだった。

 

「遅かれ早かれ正隊員にはなるんだ。その時にそんな悪態ばかり垂れてたら、入れてくれる部隊が無くなるぞ」

 

「ああ、もう入る部隊決まったんだよね」

 

お互い訓練生という身分であるが、一抜けと言わんばかりに彼は微笑を浮かべながら私に淡々と報告する。

 

曰く、近頃ランク戦で流行りのカメレオンを使った隠密に特化した部隊を作るに当たって、彼の副作用を聞きつけると勧誘したと。

 

なるほど、先見の明がある人だ。

 

それにコンセプト部隊とはなかなかカッコいい響きをしている。

 

カメレオンの化かし合いだと聴覚が秀でる菊地原がいる側に軍配が上がるのは自明か。

 

彼の憎まれ口で部隊内の不破を招くことへの一抹の不安を覚えつつも友の門出を素直に祝う。

 

少しばかり先を越された気がして悔しいが、就職先が決まったようで何よりだ。

 

「なら、何か奢ろうか。お祝いだ」

 

そう言うと彼はぶっきらぼうに承諾し、共に食堂に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




誤字修正)青黄 紅様より
誤字修正)みやとも様より
誤字修正)任天堂信者様より
誤字修正)coreish様より
誤字修正)七號様より
誤字修正)結璃様より
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