ボーダーにて最強のビルドを目指す話   作:[L]

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最新話が丁度新刊の続きなので追っかけるなら今がおすすめです。


新兵4

「ここにはもう慣れた?」

 

「そうやなぁ。近所で戦いあっても普通に授業あるって色々凄いよなぁ」

 

パチン、パキリと耳障りの良い音が部屋に満ちる。

 

卓上の盤と駒が触れ合い、テンポよく奏でられるリズムに指し合いの速さが窺える。

 

「まぁ普通ではないよね」

 

「この前リスニング中にメテオラ聞こえてきたんよ。みんな何も気にせず受けてるのって側から見たら絶対おかしいって」

 

早指しをどちらから始めたのかなど最早詮なき事であるが、何処で止めるかは指手の意地の張り合いである。周りに見物人もいる事がそれを助長する。

 

早指しが多少の精神的な攻勢を示す事はあれど公式的な待ち時間を決めた試合でない限り、特に意味はない。

 

ここで日和るのはカッコ悪い。

 

合理化を突き詰める遊戯にて全く非合理な動機によってこうならヤケだと言わんばかりに駒は盤に弾かれる。

 

向き合う駒に意味を与えるは指手の腕次第であるこの遊戯は私にとって思い出深いものだった。

 

田舎に住んでいた父方の祖父がいた。

 

孫である私に語る事は少なく、口を閉ざしたまま黙々と作業する人であり、家の都合で一時預けられると決まった時には齎されるであろう沈黙に憂鬱になったものだ。

 

そんな祖父が良く触っていた駒について尋ねたのは田舎の時が止まった様な空気に孤独を感じたのか、静かさに嫌気がさした為なのかは定かではないが、それが対話の始まりであったと認識している。

 

駒を使い、駒を取り合い、王を討ち取る。盤上で展開される数百年の歴史を持つこの遊戯が私にとって生まれて初めての卓上遊戯(ボードゲーム)だった。

 

対話の形は様々であり、口上によって紹介される人物像より、見掛けで抱いていた私見より一度の対局によって伝わってくるものの方が雄弁に相手の事を語る。

 

尖兵による探り合いは私はこんな人ですよといった具合の自己紹介。

 

選択肢の多さに呆気に取られるが、最善と呼ばれるものは少ない。

 

この駒が好きでそれを活かす戦法が好きだと言われ、私はこれを使いますと返しをすれば、定石も知らぬ素人に優しく接する様に悪手を咎める祖父はお前はどんな人間だと問われた気がした。

 

若輩であり、未だ何者でもない私にはその問いに出せる答えは持ち得ず、或いは闇雲に進めた駒が答えだったのかもしれない。

 

結局最後まで勝利を得る事はなかったが、私が得た遊戯の楽しさは後の人生に多大な影響を与えた事は言うまでもない。

 

「これ、どっちが勝ってんの?」

 

「分かんないです!」

 

周りから聞こえてくる会話によって思い出から引き戻される。

 

視界に収める盤を見つめ直し、自陣に余裕があると分かると愛用の飛車を竜に転じさせ、相手の陣を食い破らんと駒を進める。

 

攻撃的な駒が中央に集中し、伏兵が側面を叩くは遊撃の華か。

 

一手一手に駒が果たす意味が変わり、死んだ駒、生き返る駒が幾度も現れる。

 

中盤を超え、迎えるは終盤。狙いを探りながらも攻勢を崩さず駒を叩きつける。

 

対する相手の変わらぬ守勢を貫きつつも的確に大駒を封じる様は美しささえ感じられる。

 

歩兵を捨て駒として切り開いた穴から竜王を流し込み、桂馬を効かせ隙を無くそうとするがそれを許してはもらえず、手痛い反撃を食らう。

 

一瞬何をされたのか分からなかった。守勢を破り、攻勢を成していたはずだった。

 

失策を正そうと挽回を試みるも手が進むほど攻めを続けられなくなり、逆撃を受ける。

 

勝負の流れというものを実感させられる。茶を啜る相手の仕草が目に入り、自分が盤に集中しきれていない事に気付き、悔しく思う。

 

「...ありません」

 

ここに来て手詰まりとなり、決着を確信する。

 

「「ありがとうございました」」

 

互いに礼を言い対局を締めくくると疎らな拍手と感心が込められた賛辞が向けられる。

 

「めっちゃ良い勝負やったな」

 

「いやー久々に苦戦しましたわ」

 

「はいはい!次、俺の番!」

 

「海はまずルール覚えなあかんやろ」

 

故郷から遠く離れた場所での生活を始める時、多くの人は自分の古巣の文化を捨て、その土地の空気に馴染もうとする。だが、稀に染み付いた文化が濃い為か、何も捨てずに抱え込んで新天地に持ってくる輩がいる。

 

口調であったり、趣味であったりするが同じ日の本の国に生まれていても一種のアイデンティティーを持って立っている。

 

それが西からやってきた新進気鋭の実力派部隊、生駒隊である。

 

三門市に越して来る人間は出て行く人間と比べれば近界民との関係もあって圧倒的に少ない。そんな状況で態々危険な場所にやって来る理由は余程の物好きか近界関連のどちらかだろう。

 

県外スカウトというのは生活をそのまま三門市に移す事を意味する。当人はもちろんの事、ボーダーという組織としても非常に面倒な手続きが必要な勧誘行事が可能になるのは一重に三門市とボーダーの強固な関係が成す技と言える。

 

「鹿島君ありがとうな、将棋できる人あんま居らんから嬉しいわ」

 

謝辞を述べたのは生駒隊の参謀(アイディアマン)である水上敏志。マイペースな部隊に方向性を与える人でもあり、射手として基本に忠実ながらも通常弾と宣言しながら撃つ追撃弾は初見殺しを絵に描いた様な器用さも併せ持つ強かさは生駒隊を上位に食い込ませる要とも言える。

 

「良い所まで行ったと思ったんですけどね。見誤りました」

 

「いやいや危ない所結構あったし、またやろうや」

 

勿論ですと返すと安心した様な笑顔を向けられる。勝ち過ぎたと思ったのだろうか。

勝負事に熱をあげれば、込み上げて来る感情もある。

 

「そういえば鹿島先輩、何しに来にたんですか?」

 

横から疑問を投げかけるのは南沢海。最近正隊員になり、生駒隊に入った機動力があるものの深く考える事をしない性分なのか搦め手によく引っかかるのが玉に瑕な有望な新人攻撃手。

 

「君達の隊長に呼ばれてね。何で呼ばれたかは私も分からん」

 

「イコさん、人呼び出して遅れて来るのはダメっすよ」

 

「ちゃうって、言うてた時間より鹿島が来るんが早っかってん」

 

「まぁ私も将棋指して、予定から大分遅れてますし。それで、何の用だったんですか?」

 

単刀直入に本題に入る。個人ランク戦でよく斬り合う間柄である生駒達人。

オールバックにゴーグルを付けた姿は人混みの中でも非常に見つけやすい。

 

「最近さ、弓場ちゃんの早撃ちあるやん」

 

攻撃手殺し。射程と弾数を切り詰めた二丁の銃トリガーを使って、カウボーイスタイルの早撃ちで攻撃者を寄せ付けない弓場隊、弓場拓磨。このスタイルが確立されて以来、弓場隊長の間合いで勝てた隊員はそういない。

 

一つの完成形とも言える構築(ビルド)だと思う。使い所を選べど、嵌れば強く、メタプレイの一種とも言える戦い方に真似してみたいとさえ思える。

 

「この前のランク戦でボロ負けしたやん。そこで俺の旋空もっと伸ばせばいいやんと思い至ったわけよ」

 

「良いですけど、使い勝手かなり悪くなりますよ」

 

「大丈夫。みんなが何とかしてくれる」

 

「というかそれ開発室に行けば良いですやん」

 

「いや鬼怒田さんめっちゃ近寄り難いやん」

 

いつから鬼怒田さんは招かれざる犬になったのだろうか。

 

「細かい調整してもらうのに忙しい人に頼むのって気が引けるやろ?」

 

「あぁ、確かに」

 

それはそうかもしれない。特に開発室は日夜忙しく稼働しているからか鬼怒田さんとかいつ寝てるか分からないくらい働いている。確かにそんな人に物を頼むのは難度が高い。

 

「弓場さん間合いは20mくらいだから間合いの外からってなると40mくらい必要になりますけど、0.5秒ないですよこれ」

 

「大丈夫、大丈夫。俺旋空好きやから」

 

「根拠になってないっすよ」

 

未だ所属する隊を定めていない私は出張エンジニアの真似事をしていた。

 

 

 

 

 

【tips】メタプレイ。

プレイスタイルの一つ。良い意味としても悪い意味としても使われる事がある。

プレイヤーがなりきる必要のあるキャラクターの感情や知識を無視して行動したりする事を指す。キャラクターの知らないはずの敵の弱点を突くなどかあるが、過度なメタプレイはシナリオの崩壊を招く事もある為、適度なバランスが求められる。

 

 

 

 

 

 

ー誤差修正、7.23近隣の皆様はご注意下さいー

 

この定型文を考えたのは鬼怒田さんだったか、三門市に住んでいればいつかは聞く事になる物騒なアナウンス。放送網が町中に張り巡らせる苦労は私の想像を超えているだろう。

 

「ーそういえば」

 

ふと思い出した様に口から言葉が出る。防衛任務がシフト制という何とも言えない労働に感じるのはボーダーに慣れた所為なのか、はたまた渋い熟練度の所為なのかは定かではないし、無駄口を叩くのは余裕なのか油断なのかも自分では分からない。

 

「関西の人はみんなたこ焼き器持ってるって本当なんですか?」

 

「大阪人ならみんな持ってるやろ」

 

トリオン兵の襲来を知らせる警告。瓦礫と空き家が建ち並ぶ中に黒い穴が空間を押しのけて風を生む。

 

ボーダーがゲートと呼ぶ近界からの門。炸裂弾の命中が轟音によって確認する。トリオン兵には幾つか種類が存在するが確認する限りでは口に存在する目玉の様な球が弱点と言える。

 

尖兵だからといって侮るなかれ。弱点以外は装甲が厚く、意外と撃たれ強いのだ。

 

何度か戦って分かったのだが、トリオン兵にも個体差の様な出来の良し悪しがある。そのメカニズムは完全には解明できてはいないものの、作り手に寄って個性が出ると考えている。トリオンとは誠奥深いものよ。

 

「イコさん京都出身ですやん」

 

「心は大阪人や。中学も大阪やったし」

 

[ほら、無駄話しない。そいつまだ死んでへんで]

 

生駒隊オペレーター、細井真織。生駒隊の紅一点にして褒めると可愛くなる多趣味な女子。生駒隊はオペレーター含めた5人で構成され、頭がマイペースな隊ではあるがこの部隊が機能するのは4人をサポートする彼女の技量があってこそだ。

 

私見ではあるがオペレーターの負担は部隊のコンセプトによって負担が変わる。負担といえば語弊があるかもしれないが近接が主体で狙撃手のいる生駒隊は一見バランスの取れた良いチームと言えるが盤面をミクロとマクロで比較しながら隊員のサポートをすることは難度が高い。

 

全くボーダーの部隊オペレーターは粒揃いだ。

 

「ー旋空」

 

長大に拡大されたブレードが顕現し、目標に達する前に霧散する。生駒に狙いを定めたトリオン兵は止まる様子はなかった。

 

「孤月」

 

豆鉄砲の様な軽い音が耳に入る。火薬を使った実銃とは異なる菊地原の言葉を借りるならトリオンの音。寡黙な優男にして生駒隊狙撃手、隠岐孝二による狙撃。

 

「隠岐、俺の獲物やったのに」

 

「いや、旋空届くまでに伸びきってましたよ」

 

防衛任務のギリギリに合流した彼はボーダー外にいるという女性の影の噂が絶えない。ボーダー内で色恋を制限するルールはないが、恋仲に発展したケースは私の知る限りない。

 

何しろ境界防衛機関といってもボーダーはまだまだ小さな組織だ。小さなコミュニティでは関係の有無など秘密にするのは難しい。なので基地で男を取り合う隊員同士の決闘やそれを止める隊員の姿を見かけるのはまだまだ先の話になりそうだ。

 

「戻します?やっぱり0.2秒しかない旋空って使いづらいでしょ」

 

「3回に1回は成功すんねん。あとちょっとや」

 

「次のランク戦に間に合うと良いんすけどね」

 

「失敗したら観客席から笑い物にされますね!」

 

「まぁこれが完成したら生駒旋空なんて名付けられるかもしれないですしね」

 

「え、何それめっちゃええやん」

 

初見殺し、必殺技。男の子なら一度は憧れる名前の付いた技。それに自分の名前が付いたと物となればテンションが上がるのは理解できる。

 

自分で名付けるのは恥ずかしいが、周りから言われる異名が欲しくなるという少年の心を忘れないのが男という生き物。

 

セッション中に仲間に隠していた実力をここぞとばかりに開帳するのは胸が躍る。

だが余りに隠し過ぎてしまうとあの時それがあればどれ程楽だったか!なんて凄い形相で胸ぐらを掴まれる事になってしまうことを考えると難儀なものだ。

 

個人、チームでのランク戦は総じて記録が基地に残る。ボーダー内で隠れて新技を練習する場所は意外と少ない。その為防衛任務中にコソ練をする-作戦室の仮想空間でも同じ事ができるのだが、生駒さん曰く雰囲気がないらしい-人間が一定数存在する。

 

「そういえば何でたこ焼き?」

 

「いや、たこ焼きって食べた事ないなと思ったんです」

 

[「「「え?」」」]

 

「え?」

 

何だこのシンクロは。今まで和気藹々と会話していただろうに、突然あり得ないものを見るような目になるは何故だ。

 

「はーこれだからいいとこの坊ちゃんはあかんわ」

 

出自が今関係があるのかと抗議してやりたいが多勢に無勢。私は勝ち目のない戦はしない主義である。熱りが冷めるのを待つとしよう。

 

相手によっては思いもよらない地雷が転がっている。調子に乗って〈言いくるめ〉で相手の譲歩を引き出し過ぎた所為で気付けば敵対者ばかりになったセッションのようだ。

 

いやはや、カルチャーギャップがかくも恐ろしいとは。同じ国でさえこうなのだ。近界民と国交が成された時にはどんな地雷があるのか分かったもんじゃないな。

 

「あ、俺も食べた事ないです!」

 

偶にいるよね。自分から地雷原でタップダンス踊る奴。さながら上位者に何でも好きな事を願うがいいと問われた時に貴方の知識を全て教えてと面白半分に頼む所業。

 

私にとっては有難い。悪いが便利な身代わり(スケープゴート)になっていただこう。最後に墓穴を掘った奴が狙われるのは世の常だ。

 

「海、除隊やな」

 

「そっすね」

 

「えぇ〜」

 

私は哀れな後輩にヘイトを移し、黙々と防衛任務に勤しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 




誤字修正)minotauros様より
誤字修正)ソフィア様より
誤字修正)三の丸様より
誤字修正)とあるカルデアのマスター様より
誤字修正)七號様より
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