ボーダーにて最強のビルドを目指す話   作:[L]

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新兵5

 

 

 

 

 

私が通う学び舎は通常の学校と比べると少々その趣が異なっていると断言できる。

 

歴史を感じられる古めかしい煉瓦造りの校舎。中央から放射状に広がった道と建物はキャンパスに描かれた絵画の如く整っている。

 

機能性より優雅に外から見せる様に造られた建造物はその思惑通り見る者の目を惹き、格を見せつける圧がある。

 

三門市を一望できる丘高い場所に建てられ、まるで君主の威光を示す目的で造られた一昔前の城を思わせる出立ち。

 

側から見ればコストパフォーマンスの悪い建物だと言われるのも仕方がないが、それを賄えるくらいにはこの学び舎の培ってきた歴史と権威と名前に大金を支払う人間がいる。

 

商社の社長、銀行の役員、ベンチャー企業の専務などなど、多くの責任ある立場の人間の子息。上流階級と言えば聞こえがいいが、俗に言うお坊ちゃん達が今の私のクラスメイトである。

 

私の両親はできた人達であり、尊敬もしているが、ここに通うだけの経済的余裕が生まれるほどの実入りの良い職に就いているわけではない。

 

ただ私に卓上遊戯の魅力を植え付けた父方の祖父がそれなりの地主であり、孫を自分の母校に入れてやりたいという祖父心と学長と旧知の仲である条件が揃った時、私の意思に関係なく、中学と高校が併設された中高一貫のこの学校への入学が決定した。

 

小学生の餓鬼に中学校の良し悪しなど分かるまい。5年生に上がった頃に突然猛勉強を強要され、何も分からぬうちに受験をし、あれよあれよと入学してしまった。

 

小学校にいた友人とは疎遠となってしまった事に当初は両親に反感を抱いたものだが、ここでの環境に慣れ、新たな人間関係が形成されるとそういった負の感情は消えていった。

 

この学校での生活は学生の本懐たる勉学の面では進学校ほどの要求量ではない為に思っていたより安穏としたものだった。

 

しかし、上流階級侮るなかれ。予想の斜め上の行事が行われる事も多々ある。その一つが現在私が参加している、交流会と銘打たれた19世紀のヨーロッパのような催しがその最たる例だろう。

 

私立星輪女学院。三門市の西に位置する、言うなれば我が校と対を成す淑女達の学び舎。

 

通う人間の毛色が似ている所為か、はたまた学生を媒介にした親同士の付き合いの為なのかは私の知るところではないが、星輪とこの学校は互いの文化祭での運営の手伝いや資材提供などの一定の付き合いがある。

 

そんな関係にある両校の親交を深めるという名目で年に何度か舞踏会とまで言うほど豪華絢爛なものではないが小洒落た集会が開かれる。

 

大昔の実権を巡って探りや当てこすりが飛び交う社交界のような代物ではなく、あくまでも学生同士の親睦会とはいえこんな場所に身を置いた事など一度もない私にとっては十分に非日常と言える。

 

近代になり身分という格差が崩れ去った今でも経済力による差異を感じる事は顕著にある。

 

ボーダーでの心躍るものとは異なる居心地の悪さが際立つ非日常。周りの人間は慣れたものなのか私の数少ない友人達も私を置いて談笑に耽っている。あぁこんな事なら休めばよかったと心の底から思う。

 

「鹿島君、鹿島君」

 

天井の高いホールの隅で副作用を呼び起こし、今後の方針でも思案していると小さく落ち着いた声色が耳に入る。〈気配探知〉で背後から近づくものを察する事は出来てはいたが、態々端っこにいる人間に話しかけにくる物好きがいるとは予想外だ。

 

振り返ると短く明るい髪に息を飲むような顔立ちをした少女が私の顔を覗き込んでいた。

 

「那須さん、星輪だったんだ」

 

「そうだよ。意外だったかな」

 

容姿端麗を絵に描いたようで、沈黙と共にあれば鬼怒田さんとは違った意味で近付き難い魔女のような印象を与える彼女の名は那須玲。

 

このような場所で同僚に出会う事も意外だが、それ以上に彼女がここにいる事自体が驚くべき事だった。ボーダーで進められているトリオン体と健康をテーマにした研究に協力する形で入隊した彼女は病身の身であるからだ。

 

彼女にとってトリガーという技術は私以上に世界が広がるような経験だったのだろう。開発室に入り浸る内に何度か面識を持つことがあったが、トリオン体の性能にご満悦だったことをよく覚えている。

 

普段は自宅の寝台で過ごす事が多いと言っていたのでいるだけ疲労が溜まるような集会はてっきり忌避するものだと思っていた。

 

「偶にはね。賑やかな場所も良いよね」

 

私の疑問符が顔に出ていたのか、察したように答えが返ってくる。

 

「私としては正直肩身が狭いよ」

 

「そう畏る必要ないと思うよ」

 

そう仰るが那須さんや、こんなアウェイな環境で見ず知らず異性に話し掛けるのは普通の男子には難度が高いクエストですよ。

 

「あ、そういえば。私ね、メイントリガーをバイパーに決めたの」

 

さいですか。貴方の性に合ってると思いますよ。病弱キャラ何処行ったと言わんばかりに全力疾走しながら逃げ場のない攻撃を繰り出して私を笑顔で蜂の巣にする程度には。

 

変化弾の弾道を戦闘中に設定する難易度はやってみて分かるが想像を絶する。彼女の持つ対象との距離を正確に把握するほどの空間認識能力や障害物の意味を成さないほどの即興の弾道イメージは天賦の才と言える。

 

少しばかり憧れて副作用で再現しようと軽い気持ちで御値段を見れば目を見張るほどの熟練度が要求された。

 

全距離と全方位攻撃は一つの理想構築(ロマンビルド)だよ。

 

将来は立派な弾バカになりそうでなによりだ。師匠のところの出水もそうだが、弾バカ一族は天才肌な気風がある。彼等にどうやってんの?と尋ねてはいけない。何となく、やったらできたと返されるのがオチである。

 

「あら、那須さん。お知り合い?」

 

「そうなの。私と同じボーダーの人」

 

まぁそれはそれはと珍しいものを見たかのように目を見開いてこちらに近づいて来る見知らぬ少女達。

 

クラスメイトがお世話になっていますから始まり、どんな事をなさっているのやどんな人達がいるのかと答えられる事からそりゃ無理ですと断る事まで根掘り葉掘り質問するお嬢様方の好奇心は底無しらしい。

 

タレントや俳優といった有名人になった訳でもないが、そういった人達の苦労の一端を理解できた気がする。いつの日か嵐山隊長と連れ立って歩いていた時に周りから向けられる視線と集まって来た人の多さに気圧された側から見れば何とも思わなかったものだが、いざ当人になると彼の凄さが垣間見える。

 

三門市にいれば、ボーダー関係の人間など幾らでもいるだろうにとオブラートに包んで尋ねてやりたいが、そこは家に守られた箱入り娘という訳なのか。

 

「那須さんはあまり教えて下さらないし、同じクラスの小南さんはオペレーター?という事務仕事ばかりだから分からないの一点張りで中々ボーダーの事について知る機会が殆どありませんの」

 

オペレーターが事務仕事とは随分見当違いな理解をしているが、どうやら私の同僚がもう一人、この場にいるらしい。

 

「あ!小南さん、小南さん」

 

呼び止められ、連れて来られたのは明るい茶色の長髪に後頭部に羽根のようなくせ毛が目立つ少女だった。

 

さて、ボーダーに入ってしばらく経ったが目の前の少女を私は見た事があっただろうか。ただオペレーターとは自分の部隊の人間でもなければ知り合う機会は極端に少ない。

 

「どうしたの?」

 

「こちら鹿島さん。ボーダーで正隊員をされてるそうなのよ。面識あるかしら」

 

「え!?」

 

淡々としたテンポの声が上擦ったものに変わる。〈目星〉が無くてもこれには気付くと確信できるほど顕著なものだった。

 

「かしま、カシマ、鹿島。あぁ太刀川の所の」

 

A級上位たる師匠とセットで私は覚えられてるようだ。一方的に知られているのは私の名が上がった為か、はたまた悪目立ちした所為なのか。

 

私の知る限り、彼女との面識はない。そんな相手との会話ほど引き合わされて困るものはない。一体何を話せと言うのか。

 

「どうも初めまして」

 

「鹿島君、鹿島君」

 

周りに聞こえない程度の声で那須が耳打ちしてくる。何か無礼でもあったのか。

 

「桐絵ちゃんは今一位にいる娘だよ」

 

はて、オペレーターに順位があったとは初耳だ。純粋な機器の操作や並列処理能力で言えば柚宇さん、宇佐美、綾辻あたりだろうか。あんな天才、秀才達を抑えてトップに立つとは驚きだ。

 

「違う違う。桐絵ちゃんはアタッカー」

 

「え?」

 

微量な電流のような刺激が脳裏を貫いた。どうやらアイデアロールに成功したらしい。最近ランク戦をやっていないので忘れていたが怒涛の勢いで攻撃手の点を上げている女性隊員がいると噂になってた事を思い出した。

 

周りにはオペレーターと吹聴しているが実際は攻撃手、那須以外の正隊員を紹介された時の情緒の揺れ。状況の整理する限り我々(trpgプレイヤー)や推理物を嗜む人間でなくともこの場で被る彼女の仮面が見えてくるというもの。

 

人格、或いは仮面と書いてペルソナと読む。学校で話させる事も家では話せなかったりする。目前の彼女の場合、戦闘員と周りに知られたくない事情があることくらいは察せられる。

 

「鹿島君、玲。ちょっとお時間よろしいかしら」

 

笑顔で猪の如く猛進して来る。全くもって私の副作用に〈幸運〉の数値がないのは残念でならないよ。

 

 

 

 

 

 

【tips】アイデアロール。何かを見た時に直感的に違和感に気づく事ができるかの行為判定。例えば、事件や事故などが起こった現場を見た時の違和感を察したり、差し迫った危機の対処法を思い付いたりと状況によって様々。

〈目星〉と似ているが、瞬時に分かりにくいものに気付く〈目星〉と異なり、目に入ったものをしっかりと理解できるかを判断するもの。

しかし、世の中には理解してはならないものもある。得てして賢者と狂人の境界は紙一重なのだ。

 

 

 

 

 

 

「ーという事があったんだ」

 

キーボードに打ち込まれる音が部屋中にある。エンターキーを押す事で作業の終了を確定させる。

 

「それは大変だったね〜」

 

その後、お嬢様とは思えないほど荒ぶる小南に厳重に注意された那須と私は向けられた注目(ヘイト)を何とか散らす為に壁役に徹した。集団戦のヘイト管理の苦労を現実でも味わう事になるとは思いもよらなんだ。

 

「小南も猫被り辞めればいいのに」

 

「全くだよ」

 

女性は嘘を着飾って美しくなるとはよくいったものだが、余りに差のある人間を演じる事などストレスにしかならないだろうに。それに巻き込まれた側としては堪ったもんじゃない。

 

 

「鬼怒田さんは今日はいないの?」

 

「今日は非番だって」

 

14か15連勤とかいってたからな。忍田本部長とエンジニアの面々が本気で説得しなきゃどうなっていた事か。ワーカーホリックが高じて私がA級になる前に過労死しないか心配だ。あの人には菓子折りではなく健康グッズの方を渡した方が良いかもしれない。

 

「よし、出来た。はいどうぞ」

 

「わーい、ありがとう!」

 

目的の物を受け取って喜ぶのは風間隊オペレーター宇佐美栞。ステルス部隊たる風間隊の立役者。ピーキーな部隊を支えるその能力は確かなものがある。

 

「こんなので喜ぶのは宇佐美ぐらいだろうな」

 

「え〜、どうして?トリオン兵同士が戦うなんて此処じゃレアモノだぜ?」

 

「需要がないだろ、需要が」

 

宇佐美に渡した物は私の頼みで雷蔵さんに作成してもらった一種のシミュレーションゲームのコピーだ。三門市に出現するトリオン兵の行動プロセスとその特徴を分析し、システムに落とし込む事で自分だけのトリオン兵を作る事ができる。昔ながらのコンシューマーゲームで有りがちな代物だ。

 

レアモノというよりゲテモノの類いだが、彼女の趣向には合ったらしい。何処からこれの存在を仕入れたのか、目を輝かせて強請られた。女性の頼みは断れない、世の大人の先輩方が夜の街で経済を回すのも同じ心境なのだろうか。

 

「そんな事ないと思うけどなぁ」

 

「菊地原に渡してみろ。絶対こんなの時間の無駄とか何とか言うぞ」

 

「きくっちーがそんなに冷たくないの知ってるでしょ」

 

「よく知ってるよ。ぶつぶつ私の趣味がどれだけ無駄なのか御高説を垂れる奴だって事」

 

悪い奴ではないんだがね。最近ランク戦を断り続けている所為か、機嫌が悪いらしい。

 

「またそういうこと言う。カッシーはきくっちーの親友なんだからちゃんと相手してあげないとダメだよ」

 

親友の定義が子供をあやす当番のように聞こえるが、彼女は自覚して言っているのか甚だ疑問だ。

 

「そのあだ名やめない?」

 

「良いじゃんカッシー」

 

「絶対に広めるなよ」

 

引き際を察する。彼女とはボーダーで縁ができて暫く経つが、これと決めた事は曲げてはくれない存外頑固なところがある。今更ああだこうだと宣っても数日後には同じように呼んでくるのは間違いない。

 

彼女はエンジニアほどではないものの、トリオンという斯様な物質の不思議さに魅入られた人間でもある。最近は専らトリオン兵に御執心のようだが。

 

詰まる所、私にとって彼女はボーダーでも数少ない同好の士(オタク仲間)だ。

 

「あ、そうだカッシー。これを貰った御礼にいい事教えてあげよう」

 

「何?」

 

「私、風間隊やめるから!」

 

眼鏡をくいっと上げ、キラーンと効果音が鳴りそうな具合の顔をして自信満々に彼女は言い切った。

 

 

 

 

 

【tips】ウルトラトリオン兵バトル(仮称)。鹿島のトリオン兵の解析とお願いによって雷蔵が作成したトリオン兵を用いたシミュレーションソフト。名目上はトリオン兵の研究、対策を想定して作成された。

その一方で生成トリオンを度外視した超巨大トリオン兵同士で戦わせるトリオン兵ファイトが一時期ボーダー内のオペレーター、隊員問わず流行する。しかし何処かのバカが根付メディア対策室長に売れば儲かると提出した為に絶版となる。

 

 

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