荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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第1章 略奪のウミワシ
第1話 空賊 ウミワシ通商


「はあ、はあ……」

 振動が増す輸送機の中、妙齢の女性は胴体側面に作られた窓から暗闇が支配する外界を見下ろす。翼や胴体後部から次々火の手があがり、機体の揺れが次第に大きくなってくる。

 機内の女性をはじめ、男性、そして子供たちは互いに身を寄せあい、あるいは隅でうずくまり、必死に体の震えを抑えている。

「そろそろだ」

「始めるぞ」

 操縦席に座っていた男たちは、燃料のバルブをあけ、残っている燃料を空中で放出する。そして背中に落下傘を背負うと、震える彼らを銃で脅し、機内のドアをあけた。

「うっ……」

 高度1キロクーリルの冷たい大気が機内に流れ込み、一気に真冬のように寒くなる。

 男性2人は開け放ったドアから身を乗り出す。

「じゃあな!」

 操縦席にいたパイロット2名は、暗闇の中へと飛び下りていった。

「ま、まって!」

 彼女の眼下では、開く落下傘と、どこまでも広がる荒野だけが目に入った。

「ど、どうすれば……」

 幼い子供たちや皆が震える中、彼女は操縦席へ走った。

「ケホ、ケホ。えっと、確か……」

 彼女は数年ぶりに操縦席へ腰かけ、父や夫から教わった操縦方法を脳から急いで引っ張り出す。

「計器類は……」

 まず、高度や速度計を確認。今は高度1キロクーリル。25クーリル下がった。降下しつつあるが、まだ余裕がある。

「速度、問題無し。燃料……」

 燃料の残量計を確認した彼女は、血の気が引いた。

 燃料の残量を示すメーターの針がどんどん0に近づき、そして、残量無しを示すランプが点灯する。

 直後、左右の主翼にそれぞれ取り付けられた各1基、計2機のエンジンのプロペラの回転が徐々に遅くなり、遂には完全に停止した。

「……そんな!」

 次第に機首は下を向き始め、機体は速度を増して降下を始める。

 すぐに墜落するわけではないが、何もしなければ待ち受けるのはその結末。背後では最悪の事態を悟り、年の近い女性や子供たちが震え、泣き叫んでいる。

「どこか、着陸できる場所は……」

 操縦席から周囲を見渡す。彼らの住む世界、イジツは荒野が広がる場所。不時着する場所にはことかかない。彼女もそう思っていた。だが眼下に広がる風景を見て、彼女は目を見開いた。

「町が……」

 進路上には荒野の中に点在する、築かれた町が見える。夜の暗闇の中、人々が生活を営む光が、うっすらと灯っている。

 機体は、その町へ向かって高度を下げている。

「このままじゃ……」

 女性は操縦桿を握る。エンジンが停止した今、短い半径で旋回すれば速度を失い、失速して墜落を招く。機体をゆっくりと左へ傾け、フットペダルを少しずつ踏み、徐々に進路を左へ変えつつ町から離れる進路をとる。

 町中に墜落できない。今彼らが乗っているのは輸送機なので、機体の規模が大きい。街中に落ちれば、多数の住人が犠牲になることは避けられない。そんなことはさせられない。

 その一心で彼女は機体の進路を変える。

 

 徐々に機体は進路上の町、ラハマからそれていく。町が進路から外れれば、周囲に広がるのは荒野だけ。不時着できる。

 このとき彼女は、そう考えていた。

 機体が、町の外れの上空を通過した。

「……よし。このまま、少しずつ高度をさげ……」

 暗い中、先に広がる風景が彼女の目にうつる。そして彼女は、言葉を失った。

 抜けた先にあったのは、荒野ではなかった。

 いくつもの頂上のある、切り立った山だった。

「そ、そんな……」

 これでは不時着できない。このまま進めば、山に激突して全員たすからない。

 だからといって、燃料は空。速度は上げられず、上昇して回避もできない。もうこれ以上、進路変更はできない。

「こんなのって……」

 このまま進めば山に衝突。戻ればラハマの住人を巻き込んで不時着。後者ならまだ生き残れる可能性はあるが、犠牲者が出る。彼女はわずかな間思案する。

 

「……ダメ、関係ない人たちを巻き込めない」

 

 彼女は一か八か、機首をあげ、回避を試みる。

 だが、機首がわずかに上がった直後、空気抵抗が増したことで速度が急激に落ち、機首は下を向いた。

 速度を増して地上に向かっていく機内で、皆が泣き叫んだ。

 運命は、回避できなかった。

「……ごめんなさい」

 高度は、残り250クーリルもなくなっていた。重力にひかれて地上に向かっていく機内の操縦席で、女性は大事な思い出を収めた胸ポケットに両手をあてる。

 

「……ごめんなさい。ハルカ」

 

 直後、地響きのような衝撃が機内を襲う。彼らを乗せた機体は山の中腹に激突し、機首や翼がちぎれとんだ。

 燃料が殆ど残っていなかったため大きな火災は怒らなかったが、夜の闇の中でわずかに上がった炎と、大地を揺らす衝撃と音が、ラハマの住民たち全員を眠りからたたき起こした。

 

 

 

 

 どこまでも土色の荒野の広がる世界、イジツ。70年以上前に突如世界に開いた穴から、様々なものが降ってきた。

 その中の1つ、飛行機は、荒野に住む人々の生活を一変させた。開拓の進まなかった陸路に変わり、飛行船や輸送機で、町と町を結ぶ航路ができ、交易がおこなえるようになった。

 だが同時に、積み荷を狙う集団、空賊が現れ、何隻もの飛行船や輸送機が狙われることになった。

 そんな状況から、積み荷を守る用心棒たる飛行隊が、急速に増えることになった。

 これは、そんな空戦が当たり前になったイジツの片隅で紡がれた、ある少女の物語。

 

 

 

 船体を大きな振動が襲う。飛行船の傾きは次第に大きくなり、艦橋内の乗員たちは舵輪や手近なものへとしがみつく。

 積み荷を届ける町への航路の半ばで、突如空賊の襲撃に会い、雇った用心棒を急いで出撃させるも、全て叩き落され、飛行船が襲撃された。

 乗組員たちの視線の先には、どこまでも広がる大地が近づくのが窓から見える。

「高度を上げられるか!?」

「ダメです!エンジンの半数以上が被弾しています!」

「ガス嚢内のヘリウムの流出も止まりません!」

「またエンジン被弾!」

 空賊機の攻撃は的確で、飛行船に大穴があいて墜落しないよう、破壊箇所はエンジンとプロペラ、船体上面だけに限定され、脚を止めながら徐々に内部のヘリウムが抜けて軟着陸させるつもりだとすぐわかった。

 目的は言わずもがな、積み荷だ。

 

「もう高度が100クーリルもない。全エンジン緊急停止!不時着する!」

 

 騒がしいブリッジの乗組員をよそに、飛行船は徐々に高度を下げていく。また1つ爆発音が鳴り、船体が揺さぶられる。

 艦橋の窓から見える地面はもう、間近に迫っていた。

 

「総員!衝撃に備え!」

 

 船長の声で、飛行船内全員が手近なものにしがみつく。

「来るぞ!」

 直後、船体に衝撃が走る。右に傾斜した状態で船体は高度を落とし、地面と接触した。地面と船体との摩擦でエンジンやプロペラがちぎれ飛び、頭や体に響く音や衝撃が船員たちを襲う。

 間もなく飛行船は完全に停止し、地面へと不時着した。

 

 

「全員無事か?」

 床でうずくまっていた船員たちが、ゆっくりと体を起こした。

「はあ~」

「とりあえず、生きているようですね」

 乗組員たちは船から脱出し、目の前一面に広がる荒野へと脚を下ろした。

「ここ、どこだ?」

「……正確にはわかりませんが、ラハマから北西へ飛び、目的地までもう少しだったはずです」

「目的地までは?」

「約40キロクーリルくらいかと……」

 徒歩でいくには遠い場所であることに、息を吐き出す船長のそばで、他の乗員たちもため息を吐き出す。

 その彼らの耳に、火薬の炸裂する音が響いた。

 彼らは音のした方向に同時に振り向く。そこにはいつの間にか、銃を持った男性が立っていた。

 黒い帽子に、黒いサングラス、黒い上着、ズボンも靴も黒に染められ、染まっていないのは白いシャツと金色のネクタイだけという一目で怪しいといういで立ちの男性だった。

 

「こんにちは、飛行船祥雲丸(なぐもまる)の皆さん」

 

 銃口を向けたまま、その男性は近づいてくる。

 船長は船員たちより前にでる。

「さあ、あなたたちの積み荷を引き渡してもらいましょうか?」

「嫌だといったら?」

 笑みを浮かべる男性の持つ銃の先が、船長に向けられる。

「おわかりでしょう?」

 船長は思案する。周囲には、用心棒に雇った零戦21型9機が転がっている。

 用心棒は全滅。おまけに飛行船の乗員たちは、通常武器を携帯していない。

 選択の余地はなかった。

「……わかった。積み荷は引き渡す。その代わり、乗員全員の安全の保障を……」

「いいでしょう。用があるのは積み荷だけ」

 間もなく、目の前の男の仲間と思しき輸送機や戦闘機が多数到着し、積み荷であるラハマの岩塩を輸送船から運び出す。

 積み荷が運び込まれていく機体には、いずれも首から上が白く、首から下が茶色い鳥の姿が描かれている。

 積み荷を載せたそばから輸送機は離陸していく。そして最後の輸送機が荷物を載せ終え、飛び立っていった。

「ご協力感謝します」

 男は笑顔でそういうと背中を向け、無線機を取り出した。

 

「ハルカ、用事は済んだ。引き上げるぞ」

 

『……了解』

 

 要件を伝えた男は、そばに着陸していた艦上爆撃機、彗星の後席に乗りこむと、仲間を追って離陸していった。

 その風景を見ているしかなかった飛行船の乗員たちは、一斉に空をにらむ。

 蒼い空の中を悠然と飛ぶ、一機の飛行機。機体の大部分が灰色で塗られている一方、翼の半分近くが蒼色で塗装された1機の零戦52型を、彼らは見つめる。

 雇った用心棒をすべて撃墜し、飛行船が軟着陸できるよう限られた箇所を破壊したのも、全てはあの1機の零戦によるものだった。

 零戦は上空を周回するのをやめ、仲間のあとを追って去って行った。そんな光景を見つめながら、船長はつぶやいた。

 

「……悪魔が」

 

 

 

 

 

 飛ぶことしばらく。とある山のふもとにある大きな洞窟のそばに作られた滑走路に零戦は着陸する。

 先に飛び立った百式輸送機や彗星、零戦21型などはすでにエンジンを停止させ、戦闘機は洞窟内へ。輸送機からは積み荷の運び出し作業が行われ、ウミワシ通商、と書かれた別の輸送機へ積み込みが行われている。

 

「よう、ハルカ。ご苦労だったな」

 

 彗星の後席から下りた男性、ウミワシ通商代表取締役社長ナカイは、着陸した零戦に向かって歩いていく。

 零戦52型のエンジンが止まると、風防があいた。中から出てきたのは、見た目は大人になる手前くらいの少女だった。

 肩より少し下あたりまで伸びた黒髪は白いリボンで後ろにまとめられ、黒色のシャツの上に防寒用の茶色いジャケットを着ている。

 ナカイからハルカ、と呼ばれた少女は操縦席から出ると、翼の付け根を歩き、地面に脚を下ろした。

「……積み荷は?」

「残らず頂いた。中身はラハマの岩塩だ!高く売れるぞ!」

「買い手は?」

「もうついている。これから客に届けてくる。今回の報酬も弾んでやれるぞ!」

「……そう。ナカイ、私の報酬はいつも通り」

「いつもの割合で病院と学校へ、だな」

「……お願い」

 ハルカは裾の方に青い線の入った白色のスカートを翻らせ、洞窟内の自室へと向かって歩いて行った。

 

 

「……彼女、強いですね」

 ナカイのそばに控えていた、彗星のパイロットがつぶやいた。

「ああ、おかげで積み荷を毎度確実に奪えて、商売も順調にいっている。儲かりすぎて、笑いが止まらないくらいだ!ハハハ!」

 彼女にナカイは、一人で用心棒の撃墜と輸送船の襲撃を行わせている。少ない出費で積み荷を奪え、高い値段でも買い手がつけば利益は莫大なものになるため、笑いが止まらない状況なのだという。

 

蒼翼(そうよく)の悪魔、でしたか」

 

「ああ、巷ではそんな風に言われているらしいな」

 それは、1人で役割を完遂する彼女に着けられた通り名。

「で、病院へ、というのは……」

「ああ。あいつの母親だ」

 彼女は孤児ではなく、少ないながらも家族がいる。ここに所属するかわりに、母親を病院へ、弟と妹を学校へという条件だったからだ。

 それを聞いて、彗星のパイロットは息をのんだ。

「すると、あの(・・)件で……」

 パイロットは小声でナカイに耳打ちした。

「ああ」

 2人は周囲に聞こえない小声でやり取りをする。

「いいのですか?」

「今はそう思わせておけばいい。その方が好都合。彼女は金を手にできるし、俺たちは彼女を使って積み荷を奪い売って儲けられる。誰も損をしない」

「なるほど…」

「さあ、買い手にさっさと届けにいくぞ。取引が終わったら、次の襲撃を行う」

 ナカイたちも洞窟内を目指して、滑走路から歩き出した。

 

 

 暗い洞窟内に作られた廊下を歩き、ハルカは自室にたどり着いた。

 自室のドアを開けると中に入って、彼女は鍵を閉める。自室は、あらゆる面倒から解放されるただ1つの空間。せめて襲撃がないときくらい静かに過ごしたいものと彼女は考える。

 彼女は飛行眼鏡を壁に作ったフックに吊るし、ブーツとジャケットを脱ぐとベッドに倒れこんだ。

「……疲れた」

 彼女は髪の毛を縛っていたリボンをほどき、枕に頭を沈める。

いくら組織の中で腕がたつとはいえ、1人に用心棒の駆除から飛行船の襲撃までやらせるナカイに思うところがないわけではなかった。

 だが、一応報酬は弾んでもらっているため、彼女は黙って付き従っていた。

実体は空賊とはいえ、彼女は表向きウミワシ通商という物資を買っては売りさばく会社の事務方の社員ということになっている。

 体を回転させ、仰向けからうつぶせになると、枕元に置いてある写真立てを手に取った。

「……お母さん」

 写真には、彼女を大人にしたような女性、それに年下の男の子、女の子が1人ずつ写っている。彼女にとって残された、わずかな家族だった。

 昔は祖父母や父親、兄に姉もいたが、皆死ぬか行方知れずになった。

 彼らが皆いなくなったとき、まだ幼かったハルカ。残された遺族が簡単に生きていけるほど、この荒野や空はやさしくない。

 奪うか、奪われるか、どちらかしか存在しないこの荒野や空で、彼女はこれ以上奪われる側になりたくないと、幼い心で思った。

 そんなある日、家を訪れたナカイの誘いをうけた。

 祖父と父が残した零戦と共に、空へ上がることを決めた。

 他人のものを盗むことに抵抗がなかったわけではないが、残されたものを守るためには多額のお金や敵を排除する力がいる。

 残されたものをこれ以上奪われたくないという一心で、彼女はいままでやってきた。

「……寝よ」

 自然と瞼が下がってきて、彼女は眠りの世界へと、落ちていった。

 

 

 

 

「以上が、今回の被害になります……」

 沈痛な面持ちで報告を終えたのは、輸送船祥雲丸の船長。ラハマで岩塩を積み、出航したのが一昨日のこと。

 積み荷を略奪された後、彼らは近くの都市まで自力で歩き、飛行船の回収と修理を依頼すると、今回の被害を報告しにラハマまで百式輸送機でやってきたのだった。

 

「空賊の襲撃に会い、用心棒の9機の零戦は全滅。そして軟着陸させられたのち、積み荷を奪われた、と」

 

 ラハマ自警団の団長は、今回の事件の流れをまとめる。その場には、ラハマ自警団長、飛行船祥雲丸の船長以外に、ラハマ町長、町の上役、ラハマを拠点にしているオウニ商会のマダム・ルゥルゥの姿もあった。

「はい、お恥ずかしながら、その通りです……」

 場の面々が早々たる面子ということもあってか、船長は委縮してしまっている。

「町長、今回のような件は、これに限った話ではありません」

 ラハマ自警団長は、書類の束を手に話し始める。

「最近、ラハマや、ハリマ等都市の間を結ぶ輸送船が度々襲撃され、積み荷を奪われるという事件が、後を絶ちません。今月にはいってもう10件です」

 皆が顔をしかめた。

 月が替わり、10件。これは、決して少ない数字ではない。

「事態は深刻なようね。ところで……」

 真紅のドレスに身を包んだ女性、マダム・ルゥルゥはキセルを吸い、煙を吐き出しながら向かいに座る人物を見つめる。

 

「なぜ政治家先生たちもこの場に?」

 

 その場には、別件でラハマを訪れていた他都市の議員の姿もあった。

「あら?私たちがいたらおかしいかしら?ガドール行の輸送船も、数隻被害にあっているの。情報共有は大事でしょ?」

 緑色で統一された服装に同じ色のつばの広い帽子をかぶり、眼光の少々鋭い女性、ガドールのユーリア議員。

 

「申し訳ありません。町長と交易の件で話し合いに来たのですが、それどころではないようでしたので……」

 栗色の髪に、灰色で統一されたスーツを着る穏やかな表情を浮かべる女性、ハリマのホナミ議員。彼女は頭を軽く下げる。

 

「お気を悪くしないでください。別に邪魔といっているわけではありません。交易をおこなう上で、空賊は無視できない存在。情報共有は大事なことです」

「なら、いいわよね?」

 口角を吊り上げ、勝気な笑みを浮かべるユーリアの言葉を無視し、マダムは団長に先を促す。

「他都市の自警団にも問い合わせましたが、輸送船の襲撃だけでなく、最近は都市に直接攻め込んできたケースもあります」

 通常、輸送船には用心棒の戦闘機隊が同伴するケースが殆どになる。そして輸送船の積み荷を狙う空賊は、性能のよい機体の維持が難しいため、数は少なく、旧式な場合が多い。

 これまでは、用心棒を雇えば問題はなかったし、まして都市に直接攻め入ることができる戦力もなかった。

 これまでの常識が、今では崩れつつあった。

「なぜ、そんなことが可能に?」

 小太りで、首元に蝶ネクタイをつけたラハマの町長が問う。一度は町長を退くといった彼だったが、選挙はまだ先であり、以前の優柔不断だったときと違い、決断ができるようになったという点で、ラハマの守り神といわれた戦闘機雷電は下りたが、皆に推され今でも町長を続けている。

「空賊の機体が高性能になり、数も増えたんです」

 最近では空賊の機体が高性能化している。かつては九六式艦戦や九七式戦闘機、あるいはそれ以前の機体が多かったが、今は零戦や隼、挙句は飛燕や疾風を持っている空賊さえあるという。

「なぜ、そんなことに……」

 

「イケスカ動乱……」

 

 マダムが煙を静かに吐き出した。

「イケスカが空賊に流したもの、イケスカに残されたものが、そのまま空賊に流れたのね」

 忌々しそうに、マダムの向かいに腰かけているユーリア議員はいう。

「……ええ」

 皆うつむいた。イケスカ動乱。そのときのことを、彼らは憶えている。

 1人の男が、かつてイジツに色んなものをもたらした、空に開いた穴を独占するために行った業の数々を。

「……ですが、今回の件は、それを加味しても、一方的なものでした」

「……というと」

 苦々しく口を開いた船長を、自警団長は促す。

 

「今回雇った用心棒を撃墜したのも、飛行船に被害を与えたのもすべて、たった1機の零戦52型によるものでした」

 

 皆の顔が、驚きの色に染まる。

「たった、1機……」

 町長の言葉に、船長は重々しくうなずいた。

「そんな、何かの間違いでは?」

 自警団長の問いに、彼は首を横に振る。

「はじめは、9機もいれば問題ない。そう思いました。しかし、フタを開けてみれば、こちらは全滅」

「その零戦は、どんな塗装だったのかしら?」

 相打ちを避けたり、所属を明確にする目的で、飛行機には塗装が施されている。空賊も例外ではなく、相手を威圧するための過度な塗装や、独自の塗装やマークが描かれている場合がある。

「マークはよく見えませんでしたが、はっきり覚えていることはあります」

 全員が静かに続きをまつ。

 

「その零戦は、翼の一部が、青色に塗られていました」

 

 

 

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