荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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商談会が行われる日となり、議長や市長が挨拶をする中、
突如敵機接近の警報が鳴り響く。
急いで出撃する自警団と護衛隊だが、彼らが遭遇した中に、
見たことがない飛行機が含まれていた。


第5話 高速の翼と未知の桜

 

「凄い人の数だな……」

「皆さん、少しピリピリしているみたいですね」

 ハルカは周囲を見渡しながら応える。

 彼女たちがいるのは、広いホールだった。

 そこには、商談に参加する各都市の町長や市長、運び屋の社長や用心棒といった人々がひしめいている。

 今日から始まる商談会を前に、皆この機会をものにしようと少し空気がぴりついている。

「マダム・ルゥルゥ、お願いしますね」

「任せてください、町長」

 緊張の色が顔に出ているラハマ町長に対し、マダムはいつもの余裕の笑みを浮かべている。

 ふと、ホールの壇上に一組の男女が現れる。

 カスガ議長とシズネ市長だ。

 

「皆さん、おはようございます。評議会議長のカスガです。この度は皆様、我々の招待に応じて下さり、ありがとうございます。本日より、商談会を開催いたします。ここハリマは、あらゆる都市と交易を行い、一人でも多くの人々の胃袋を満たすことが使命であると信じ、日々関係構築のため活動を行っております」

 

「ですが、我々は道中のとどまるところを知らない空賊被害に頭を悩ませてきました。食料生産都市としての役割を果たすためにも、無事に荷物を届けられることが大事なのはいうまでもありません。そこで皆様に、ぜひともお力添えいただきたいと考えております。これより、建設的で、良いお話ができることを、我々ハリマ一同、期待しております。どうか、よろしくお願いいたします」

 

 カスガとシズネの挨拶が終わると、皆が拍手を送る。

 2人の様子は、議長や市長としての顔になっている。

 昨日猫かわいがりされたハルカは内心、私生活と仕事人との違いに戸惑っていた。

「それでは皆様、交渉役のものがご案内しますので、その場でお待ちを」

 そのときだった。

 

 室内に、けたたましい警報が鳴り響いた。

 

「な、なに?」

 キリエは周囲を見ながらおろおろしている。

「……敵機接近の警報?」

 ふと、壇上の議長たちのもとにスーツ姿の男性が駆け足であがる。

「……議長、市長。所属不明の飛行隊が接近しております。皆さまも含めて、地下へ避難を」

「……わかった。住民の避難誘導は?」

「始めております」

 男性は集まっている人々を見渡すと、大きな声で言い放った。

「皆さま、空賊と思われる勢力が接近しております。自警団と護衛隊が対応しますが、万一に備えて、地下の避難所へご案内いたします。ついてきてください!」

 男性はそばにある扉の鍵をあけると、付近のハリマの職員たちが人々の誘導を始める。

 ここにいるのは、交渉に訪れている招待された町の商会や上役の人間ばかり。

 もし死人でも出れば、ハリマの沽券にかかわる。

 地下へ避難する人々をよそに、ハルカは何か胸騒ぎがするのを感じていた。

 ただの空賊が、ハリマという町を襲撃できる戦力を用意できるとは思えない。

 となれば、襲撃者の可能性は限られる。

 だが、勝つ算段がないまま襲撃を行うとも思えない。

 ということは、それなりの準備をしてきている相手ということ。

 イヅルマやヤマセに続いて、今回は一体どんな手を使ってくるか、彼女の胸の中は不安が満ちてくる。

「ハルカ、行くわよ」

 ユーリア議員の声に、彼女は思考を中断する。

 

「あれ、ユーリア議員。避難されるんですか?」

 

「当たり前よ、今回はね」

 

 言い切るユーリア議員に、ハルカと護衛隊長、弟さんは苦笑する。

 日頃は襲撃があっても、議会のクソ連中に舐められるからと、避難しなかった彼女だが、今回は議長たちの前ということもあって、指示に従う様子だ。

 扉の近くでは、コトブキ飛行隊を伴って避難するマダムの姿が見える。

 彼らは誘導にしたがい、急いで地下へと続く階段を駆け下りていったのだった。

 

 

 

 

 

『自警団、護衛隊、発進急げ!』

 ハリマの飛行場は騒がしくなっていた。

 緊急発進用の機体が待機している格納庫内には、警報がけたたましく鳴り響き、パイロットは操縦席へ滑り込み、整備班は手早く作業をおえ、各機のエンジンの始動を行っていく。

 空賊にしては、明らかに多い戦力が接近していることが対空電探によってわかっており、いつも待機している迎撃隊の数では足りないからと、評議会護衛隊にも緊急出動命令がかかった。

 滑走路に向かって、機体上面が青色で塗られた自警団の鍾馗2型丙と零戦32型が、上面が緑色で塗られた護衛隊の鍾馗2型丙と隼2型が滑走路へ向かって進んでいく。

 その数、合計36機にもなる。

『各隊、現在接近中の機影の中に、大型の機影が6機あります。爆撃機の可能性あり。優先して撃墜してください』

『了解した』

『案の定きやがったか、空賊め』

『都市の要人が集まる日を狙いやがって。どこから情報が漏れた』

『無駄口はあと回しだ。全機、急いで迎撃に向かうぞ!』

『『『了解!!!』』』

 滑走路端に到着した機体は、エンジン出力をあげ、滑走路を飛び立っていく。

 離陸した自警団と護衛隊は、ハリマの北に向かって進んでいく。

 飛び立って間もなく、彼らの進路上に大型の機体と小さな機影が見えた。

 戦闘機と思われる機影が多数。その中に、双発の爆撃機と思われる機影が、管制塔の言う通り6機。

 胴体の下には、いずれも爆弾と思われる巨大なものを吊るしている。

『なんだ、あの爆撃機?』

『双発だが、見たことない機体だな』

『一式陸攻にしては細身だ』

『爆撃機なら、対応方法に変わりはない。鍾馗隊は敵戦闘機を相手にしつつも、爆撃機の撃墜を優先。隼、零戦隊は、敵戦闘機を引き離す!』

『よし、全機、交戦開始!!!』

『『『はい!!!』』』

 護衛隊と自警団の機体がエンジン出力を上げ、目標へ向かって進んでいく。

 相手は双発爆撃機にしては細身の機体6機に、護衛の五式戦が30機ほど随伴している。

 まず零戦と隼は爆撃機の側面から仕掛ける。それを迎え撃つために、護衛機が離れた。

 その瞬間を狙い、鍾馗が仕掛ける。

 上方から降下し、主翼付け根を照準器にとらえる。

 ふと、爆撃機に動きがあった。

 突如、速度を上げて進み始めた。

『逃がすか!』

 鍾馗も速度を上げ、爆撃機を追う。距離が縮まらない。

 速度を重視し、実際高速の部類に入るはずの鍾馗でも、中々距離が縮まらない。

『……追いつけない。本当に爆撃機なのかこいつは!』

 少しずつ距離が縮まりはじめたころ、鍾馗隊は一度高度を落とした。

 敵機の機銃の死角になる胴体中央付近を下方から狙うべく機首を上に向け高度を上げ、敵機を照準器内に収める。

 

 そして、引き金を引こうとした。瞬間だった。

 

 爆撃機が胴体前方にぶら下げていた爆弾を切り離した。

 

 それは、後部から炎を吹いて加速していく。

 

『な、なんだあれは!』

 そして地面に命中。大きな爆音と同時に発生した大きな衝撃が、大気をゆすった。

 爆弾を切り離した爆撃機は旋回し、速度を上げて離脱していく。

 

『鍾馗隊、爆撃機を何とかしてくれ!護衛は他で引き受ける!急げ!』

 

 見たことのない兵器に恐怖した彼らは、同じものを吊り下げている爆撃機残り5機を最優先で破壊する目標とする。

 直後、別の爆撃機が爆弾を切り離した。

 それも同じように飛翔し、地面に大穴を開けた。

 これ以上撃たせてはいけない。そう感じた自警団と護衛隊の鍾馗は、獣に群れるハチのように爆撃機を取り囲み1機、また1機と落としていく。

『敵爆撃機、残り1機』

 残り1機に鍾馗が向かう。

 機体下方から迫り、胴体中央やエンジンを狙い機銃を浴びせる。

 間もなく、最後の爆撃機が地面に落ちていく。

『ふう……』

 爆撃機が落とされたことで、護衛の戦闘機隊は撤退していく。

 これで終わりだと、誰もが思った。

 

 直後、機上電話から管制官の悲鳴のような声が響く。

 

 

『全機注意!高速で飛行する物体多数!数は……多すぎる!』

 

 

『多数?どこにいる!?』

 

 周囲を見渡しても、飛行機などどこにもいない。

 電探の誤作動だろうか。

 ふと、上空で何か光ったように見えた。

 それは、高速で上空から降下。自警団や護衛隊の機体を無視し地面へ向かって高度を下げていく。

『しまっ!』

 それらは地面に激突すると、巨大な爆音が大地を揺るがした。

 他にもその飛行機のようなものが地面に激突し、立て続けに大きな爆発を起こした。

 ハリマのあちらこちらで爆音がとどろき、火柱が上がる。

 

『今のは、一体……』

 

 何が起こっているか理解が追いつかず、自警団や護衛隊は呆然とするしかない。

 

『全機に通達。残りの敵機が離脱していきます。帰還してください!』

『ハリマ各地より連絡。住民の被害はありませんが、火災が発生!』

『残りの自警団はハリマ周辺の哨戒を行ってください。消防隊は至急発進。空中消火に当たって下さい!』

『偵察隊を全機あげろ!被害状況の把握を急げ!』

『商談会に訪れた客人たちに被害は!?』

『現状確認中です!』

 いくつもの無線が飛び交う中、自警団と護衛隊は交代の機体が来たのを確認すると、飛行場へと急ぎ向かった。

 今回の件、いつもの空賊による襲撃でないことは、誰の目にも明らかだった。

 

 

 

 

「これは……」

 目の前に広がる光景に、誰もが言葉を失った。

 広大な畑のあちらこちらで火の手が上がり、地面は大きくえぐれ、いくつもの建物が崩れ、撃墜された機体の残骸を見て、明らかに大きな戦闘があったことを示している。

上空を飛ぶ消防隊の飛行船や航空隊が、胴体下に吊り下げたタンクから水を撒いて消火活動を行っている。

「まるで、爆撃の跡だ……」

 昨日見たはずのハリマの美しい緑や広大は黄金の海の風景が、ひどく荒らされていた。

 その光景を見て絶句するのは、コトブキ飛行隊隊長のレオナ。

 襲撃が止んだからと、マダムたちを一応残し、地下の避難施設から様子を見に出てきたらこの有様だ。

「ただの空賊に、こんな芸当ができるとは思えない」

 同じ風景を見たケイトの言葉に、レオナは頷く。

 一方、ハルカは周囲を見渡し、地面がえぐれた場所や様子をじっと見ている。

 爆撃の跡にしては、爆弾がさく裂して地面がえぐれた跡の場所にあまりに開きがあり、不規則な場所になっている。

 爆撃機ならば、多くは爆弾をまとめて、あるいは続けて落とす。風に流されたとはいえ、ある程度は規則性を持った跡になるはず。

 それとは、今の様子は違う。

 富嶽や飛龍、一式陸攻のような機体で爆撃したわけではないだろう。

 気になるのは、被弾箇所が広範囲にわたっていることだ。

 被害状況は今確認中だろうが、広範囲を爆撃するなら、それこそ富嶽のような大型機か、飛龍のような機体を多数そろえる必要がある。

 そんなことができる都市など、イケスカでさえ容易ではない。

 その様子に、彼女はある可能性を頭に浮かべる。ふと、首根っこを掴まれたことで、思考が中断される。

「何かわかったのか?」

「ひっ!」

 いつの間にか背後にいたケイトに話しかけられ、彼女は内心驚く。

「いえ、まだ何も」

 そういうと、ケイトがじっと目を細める。

「本当なのか?」

「本当ですよ」

「本当なのか、ハルカ」

「だから、何も……」

 ケイトとレオナが、疑いのまなざして見つめてくる。

 最近、隠し事をいくつかしたせいだろう、素直に信じてもらえない。

 ふと、ケイトがハルカの両肩をつかみ、目を覗き込むように顔を近づけてきた。

「……本当に、何もわからないのか?」

「え、ええ……」

「本当か?」

 鼻先同士が触れそうなほど、ケイトの顔が迫る。

 彼女に見つめられると、頭の中まで覗かれているような錯覚に陥る。

 ハルカは視線をそらした。

「……また隠し事か?」

「その、当時の状況がわからないので、なんとも……」

 

「なら、議長たちに聞けばいいのね」

 

 突如口をはさんできたのは、ユーリア議員だった。

「ハリマがこれだけ被害を被ったんだもの。早く手を打たないと大変なことになるわ。これから議長たちの所にいきましょう。イヅルマの時みたいに、何か知っているなら教えて頂戴ね、ハルカ」

 圧をまとったユーリア議員の笑みに、ハルカは頷くしかない。

「皆さん、安全が確認されましたが、万一を考えてハリマの庁舎の避難施設へご案内いたします!そちらなら水も食料もあります。移動しましょう」

 間もなく用意されたバスに乗り、全員がこの場を後にした。

 

 

 

 

 

「では、報告を頼む」

 庁舎についたカスガ議長とシズネ市長は、建物内にある会議室に自警団と護衛隊の長、さらにほかの評議会議員や必要な人間をあつめ、今後の対応策を検討していた。

「敵勢勢力からと思われる攻撃がありましたが、負傷者は幸いおらず飛行場は無事。ですが、畑や放牧地などで敵が使用してきた兵器の爆発の影響で火災が発生。消防団が対処にあたり、今は鎮火しつつあるそうです」

「そうか。それで、敵はどこの勢力だ?」

 自警団長と護衛隊長は顔を見合わせる。

「それが……」

「特定できていません」

「空賊ではないのか?」

「ハリマ周辺には、空賊の根城がいくつもあるそうですが……」

「空賊が、あのような爆撃機や大量の兵器を保有できるとは思えません」

 かつてイケスカ動乱がおわり、イケスカに残された戦闘機や兵器、人材が空賊に流れたせいで、疾風や紫電改など、高価な機体を持っている空賊もいるというが、あくまで彼らの目的は略奪。

 それに使えない爆撃機など、維持するだけ無駄な金食い虫だ。

「なるほど。それで、敵が使ってきた兵器については?」

「爆撃機6機に、護衛の五式戦が30機ほど。飛翔する爆弾がそれぞれ1発ずつ。あと爆発物を積んだ、小型の飛行機が推定40機近くです」

「飛翔する爆弾に、爆発物を積んだ、小型の飛行機?」

 議長や市長、集まったものたちが首を傾げる。

 落下する爆弾が飛翔する、という説明に疑問をいだいたのだろう。

「はい。現場に残された残骸を解析しておりますが、見たことがないものです」

「失礼します!」

 スーツ姿の男性が、会議室に駆け込んできた。

「先ほど、これが空から落とされました」

 渡されたのは、大きな封筒だった。

 中身を確認すると、荒っぽい字で書かれていた。

 

 

「我々はハリマに空賊への無償支援を要求する。要求がのまれない場合、24時間後に再び攻撃を仕掛ける。空賊……」

 

 

「空賊がわざわざ空賊、なんて名乗るものかね?」

 

 そもそも、空賊の多くは自分たちのことを空賊、などと言わない。

 いうのは、その集団や飛行隊の名前だ。

「空賊にしたって、名前がある。それがないということは、言えない事情があるのか……。いずれにしても、こんな要求飲めるはずない」

「でも、それならそれで対応策を考えないと、期間は1日しかないよ」

 こんなふざけた要求飲めるはずはない。

 シズネ市長の言う通り、対応策の検討が早急の課題だ。

「自警団長、護衛隊長。敵の兵器に関して、今わかっている情報はあるかな?」

 自警団長と護衛隊長は、沈痛な面持ちで応えた。

「……ありません」

「ない?」

「何もわからないんです。一応、書庫にある資料を調べさせている最中ではありますが」

「その口ぶりだと、望みは薄いか……」

「はい。対応策を練ろうにも、今回敵が使用してきた兵器の情報がありません」

「それがなければ、対抗策が検討できません」

 議長は頭を抱えた。制限時間が迫る中、相手が使ってきた兵器の情報がない。

 これでは、次ハリマを防衛できるかわからない。

 ふと、ドアがノックされた。

「どうぞ」

「失礼します」

 入ってきた人物を見て、議長は息をのんだ。

 

「苦戦しておられるようですね、議長」

 

「……ユーリア議員」

 だが、彼が驚いたのは彼女に対してではない。

 ユーリア議員の背後には、護衛隊の隊長、副隊長。そして……。

「何かお力になれればと思って、参りました」

 オウニ商会のマダム・ルゥルゥ、後ろにはコトブキ飛行隊の隊長と隊員が一人。

 そして……。

「ユーリア議員、会議中はまずかったのでは?」

「いいって言われたから、気にしないの」

 彼の孫、ハルカの姿があった。

「それで、議長。先ほどの襲撃を行ったという空賊から、要求があったと?」

「……ああ。要求に従わなければ、24時間後にまた襲撃を行うと」

 

「何かお力になれるかもしれません。襲撃した勢力と、用いた飛行機や兵器について、教えてもらえないでしょうか?イヅルマやヤマセで使われた未知の兵器を相手に、私たちは対処してきました」

 

 カスガ議長は少しの沈黙の後、重そうに口を開いた。

 

 

「それは……、できません」

 

 

 ユーリア議員は目を見開き、シズネ市長たちもカスガを驚きの顔で見つめる。

「なぜですか?」

「……あなた方は、今回は客人です。お客の手を煩わせることはできません」

「議長、敵が使ってきた兵器の情報をお持ちかもしれません!聞いてください」

「我々だけでは、今回の件は手に負えないと思われます」

 客人の手は借りられないという議長に対し、護衛隊隊長と自警団長はすがる思いで情報を求める。

「……しかし」

 それでも議長は難色を示す。

「皆さん」

 シズネの声が響いた。

 

 

「悪いけど、少し席を外してもらってもいいかい?」

 

 

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