その真意を市長は問いただすが、市長にはどうやら
見当がついていたようで……。
そして敵勢力が使ってきた兵器を知り、彼女は驚愕する。
皆が席を外して静まり返った会議室。
その中でシズネは、カスガを連れて会議室の奥の部屋へと脚を運ぶ。
奥の部屋なら、これから話す内容を誰かに聞かれる可能性は低い。
部屋に入ってドアを閉めると、シズネは笑みを浮かべ、カスガに向きなおった。
「何を考えているんだい?」
何が、とは言わなかった。お互い、それが何であるか明白だった。
「決まっている。今回の彼らは客人だ。お客の手を煩わせるなど」
「本当のことを聞いているんだけど?」
シズネは笑顔で問いかける。
笑みに、少しばかりの圧を添えて。
カスガは黙ったままだ。
なぜ折角の申し出を断るのか。
シズネには思い当たることがある。
面子などもとより欠片も気にせず、使えるものは何でも使うカスガが拒む理由など、一つしかない。
「……大方、ユーリア議員、又はオウニ商会を巻き込めば、彼らに雇われているハルカも当然巻き込まれる。だから、客人という建前を使ったんじゃないのかい?」
カスガは苦々しい顔でうなずく。
彼は政治家にしては実直で、だましたり裏をかくなど駆け引きが苦手だ。
その影響か、ホナミはともかく、娘のアスカに、その子のハルカも、そういった誤魔化しが苦手だ。
「あの子を巻き込みたくないのは、祖父としての意地かい?議長としての面子かい?それとも……」
シズネにはわかっていた。彼が孫を巻き込みたくない理由が。
彼女は表情を引き締め、静かに問いただした。
「あの子に授けられた
「……わかるだろう」
シズネは、自身の予想が外れていなかったことを確信した。
「やっぱり……。タカヒトさんが全てを教え込んだハルカなら、敵が使ってきた兵器の情報を知っている可能性は高い。だからこそ、あの子を巻き込みたくない。そういうわけ?」
「……タカヒト君が行方不明になっている理由が、大方想像できるだろう?一般的に知られていない遺産の情報を、なぜ持っているのか。まして今は、商談会の際中で色んな都市の人間がいる。彼らの耳にはいったら、周囲は興味を持つだろう」
「それはそうだろうね」
「知られていない遺産の情報を、なぜ大人になったばかりの女性が持っているのか。周囲は彼女のことを探ろうとするだろうな。そうなれば、彼女のルーツの可能性に、気づく人間が出ないとは限らない。タカヒト君さえ、わざわざハルカに明かさなかったんだ。もしそのことが広まれば、彼女はどうなる?」
カスガは、孫が面倒ごとに巻き込まれるのをよしとしない。
それは、祖母であるシズネにとっても同じだ。
まして、ハルカは彼らの娘が残した子供たちの最後の生き残り。たった一人の孫であり、行方不明になっているタカヒトの残した、たった一つの希望。
「それはそうだけどね。でも、私とあなたは、このハリマという町に住む人々と町の安全や明日に、責任を持たなければいけない政治家。そのためなら、使えるものは、何でも使わなければいけない」
「……しかし」
政治家としての立場と、私人としての間で、彼の心は揺れ動いている。
「それに、ホナミが言っていたけど、彼女の雇い主であるユーリア議員と、同僚のコトブキ飛行隊は、あの子の可能性に気付いているみたいだよ?」
カスガは目を見開いた。
「あなた、どれだけ隠したところで、いつかはバレる。タカヒト君が行方不明になっているから、ハルカまで失いたくないのはわかるよ。でも、あの子をこの世に生み出した一人である以上、こういうときが来ることは、避けられないってわかっていたんじゃないのかい?」
「それは、そうだが……」
「なら、まずはあの子にきっちり説明する義務があんたにはあるよ。知っているのは、今となっては私とあなたにホナミ。そしてナガヤの市長に、ナガヤ飛行機の社長に工場長。でも、あの子に真実を告げるのは、あんたにしかできない役目」
カスガは黙り込む。
「この件が終わったら、必ず説明してやりなさい。それと、ユーリア議員たちに協力は依頼するよ」
「……わかった」
町のことや住民の安全を天秤にかけられては、カスガも肯定するしかない。
2人は会議室に戻り、退出を頼んでいた人たちを、笑顔で招き入れたのだった。
「では、自警団長。もう一度説明を頼む」
「はい!」
茶色い飛行服を着こんだ、少し厳つめの顔の自警団長が立ち上がり、説明を始める。
自警団長の前には、ユーリア議員、マダム・ルゥルゥ、ユーリア護衛隊長、副隊長、レオナ、ケイト、ハルカが腰かけ、説明に耳を傾けている。
「敵が使用してきたのは、爆撃機6機に、その下に吊り下げられた、飛行する爆弾です。小型の飛行機のようにも見えますが……」
現場に赴き、残骸を写した写真をさしながら説明を進める。
「まず、ハリマに攻撃を加えたのは、この爆撃機6機です。しかし、見たことがない機体です」
イジツでは、爆撃機自体お目にかかることが少ない。
あっても、輸送機仕様に改造されたものであり、爆撃能力を保有したままの機体など、イケスカが持っていたくらいだ。
「ケイト、知っているか?」
「いや、知らない。爆撃機にしてはやけに細身だが……」
写真の機体は、飛龍や一式陸攻と比べ、胴体が大分細身になっている。
その印象は、いかにも速度が出そう、というものだ。
「……銀河」
ハルカがつぶやくように言った。
「ぎんが?」
自警団長の問いに、彼女は応える。
「ユーハングが開発したという、爆撃機の1つです」
「だが、これは本当に爆撃機なのか?鍾馗でも追いつくことが容易ではなかったが……」
「……銀河は、長い航続距離を飛んで目標に近づき、その速力をもって敵戦闘機を振り切り、爆弾を命中させることを考えた機体です。搭載されているエンジンは、疾風や紫電改と同じ誉。その速度は、540km前後にもなります」
「……うちの隼や零戦では追いつけない」
「どおりで、鍾馗でもなかなか距離が縮まらなかったわけだ。それで、この下の飛翔する爆弾は?」
それを聞いて、ハルカは表情を曇らせた。
彼女だけではない。護衛隊長に、弟さんもだ。
「……これは、ユーリア議員の護衛で、イヅルマに行ったとき、町を襲ってきた勢力が、似たものを使ってきました」
「似たもの?」
「……ユーハングが作ったという、決戦兵器。名前は、桜花といいます」
カスガは目を見開いた。
彼女は、イヅルマで遭遇した桜花について説明した。
その内容に、会議室の空気は凍り付き、誰も言葉を発さなかった。
「ユーハングが、まさか……」
「そんなものを、作っていたなんて……」
自警団長に護衛隊長、その部屋にいる誰もの顔が引きつっている。
隣に座るレオナは俯き、ケイトはいつもと表情は変わらないが、両手をぎゅっと握り締めている。
「一式陸攻と違い、銀河は速度が出る分、桜花を積んでも速度が500kmを下回る心配はありません。高速で飛ぶ爆撃機を迎撃するには、鍾馗でも機会は限られます」
「つまり、母機である銀河を狙えばいいのか?」
「はい。ですが、気になることが」
自警団長は首をかしげる。ハルカは、並べられた写真の中から1枚を引っ張り出した。
「この残骸を見てください」
皆が注目するが、彼女の言いたいことがわからず、皆首を傾げる。
「私たちがイヅルマで遭遇した桜花は、固体燃料を使用するロケットエンジンで飛翔していました。速度は出ますが、燃料が燃え尽きるのが早いので、航続距離は40kmに至らない距離でした。ですが……」
彼女は、写真を指さす。
そこは、桜花の尾翼近くの後部胴体の出っ張りだった。
「この桜花は、イヅルマで遭遇したものと異なります。初めて見た桜花に、こんな出っ張りはありませんでした」
「改造されているというのか!?」
「おそらくは……」
「どんな改造か、わかるか?」
彼女はしばし考え込み、言った。
「恐らく、この出っ張りは吸気口。つまり、エンジンが換装されているということです」
「それによる変化は、どう予想される?」
「……ユーハングの残した資料にあった記載を信じるなら、モータージェットエンジン。レシプロエンジンで圧縮機を稼働させる、ジェットエンジンに換装された型があります。それとすれば、航続距離は120kmにまで延長されています」
「120km!?」
自警団長は驚いた。
その距離は、ハリマの敷地に入らなくても攻撃ができる距離だ。
「でも、にしては妙だな……」
護衛隊長は、頭に疑問符を浮かべる。
「120kmもの飛行距離があれば、ハリマの敷地に入らず圏外から攻撃できる。でも、今回その爆撃機、銀河だったっけ。それを迎え撃ったのは、ハリマの耕作地上空だ。なぜ射程を犠牲にしてまで、進入した?」
広大な敷地をもつハリマだが、ハリマの端から端までいっても、120kmには及ばない。なら町の外から自動操縦装置の設定で狙えるはずなのに、彼らはあえて町の上で射出している。
なぜそんなことをする必要があったのか。
「考えられるのは、銀河はあくまで囮で、後から来た小型の飛行機が本命だったのかもしれません」
「なるほど。銀河に注意を引き付けておいて、後から来た飛行機が本命だったと」
そう考えれば自警団も護衛隊も、銀河に引き寄せられ、後に来た飛行機の迎撃に失敗しているあたり、見事に術中にはまってしまったということだ。
「それで、後から来た小型の飛行機というのは?」
護衛隊長が写真をさしだしてきた。
それを見て、ハルカは息をのんだ。
「……これは」
となりに座るケイトやレオナも、写真を覗き込む。
そこには、先ほどと同じく機首に爆弾を仕込んだ、小さな飛行機が写っていた。
「桜花に似ている」
「でも、主翼の大きさが違うな」
「……これも、桜花です」
ハルカが、重い口を開いた。
「ですが、こんなものまで……」
彼女は頭を抱えた。
「ハルカ、この桜花は何が違うのだ?」
ケイトの質問に、彼女は憂鬱そうに応える。
「これは、ユーハングの資料にあった、桜花43乙型です」
「43乙型?」
「エンジンをネ式エンジンに換装した、自力で離陸ができる型です」
「ネ式……。橘花のエンジンか!?」
レオナの問いに、ハルカは頷く。
「ヤマセで使われた橘花、その試験で得た情報から、敵はこのような使い方に切り替えた、ということか?」
「おそらくはそうです」
コストは安く構造も簡単だが、寿命が短い。
そんなエンジンは普通の戦闘機には、まだつめない。
ならどうすればいいか。帰還を考えなければいい。
まさに、無人化した桜花にはうってつけということなのだろう。
「だが、それよりも気になる。さっき、自力で離陸ができる、と」
「桜花は、滑空しかできなかったんです。だから、一式陸攻や銀河が運んでいた。ですが、ネ式エンジンを積み、主翼が拡大されたこの型の航続距離は、270km近くにもなります。つまり……」
「危険を冒して運ばなくても、地上から発射して敵を攻撃できる、と?」
彼女は頷く。
自警団長や護衛隊長、皆の顔が引きつった。
イヅルマの桜花なら、母機である一式陸攻を攻撃すればよかった。
だが、今回はそうはいかない。
もし銀河が囮で、後から来た43乙型が本命なら、さきほどのように多数が同時に飛んできたら、迎撃することは容易ではない。
「……どうすればいい?」
自警団長が、絞り出すように問う。
それでも何か策を考えなければ、次の襲撃で、大きな犠牲がでるかもしれない。
それは、何としても避けなければならない。
「……撃たれる前に、地上で破壊するしかありません。エンジンに火が入った桜花を撃墜することは、事実上無理です。すいません、地図を貸してもらえませんか」
議長が目配せし、会議室にある黒板に地図が張られる。
「桜花は、どの方向から飛来しました?」
「確か、北側だ」
「着弾点は?」
自警団長が着弾場所を書き込んでいく。
そして彼女は、彼の証言と着弾場所から、敵の地上発射基地があるであろう場所を推測する。
進入してきた場所は、北側で間違いない。
ハリマの重要施設が集まっている中心地だけでなく、端の地域を狙った場合も考え、航続距離からおおよその範囲に検討をつける。
ハリマの北側は、平地ではなく、切り立った崖が多く、峡谷がいくつもあるような場所だ。
いかに自動操縦装置を使っても、自動操縦で峡谷を抜けるという器用な真似ができるとは思えない。
なら、それらの上を通ってきたと考えるべきだろう。
桜花の発射には、大がかりな設備は必要ない。
格納できる場所、機体を乗せ加速させるための台、滑走のためのレールがあればできる。
でも、地上基地は動けないため、見つかりやすい場所にはないだろう。
それでも、桜花を発進させる都合上、周囲にはある程度の広さがいるはず。
わかっている情報から、推定される範囲の中で該当する場所を絞り込んでいく。
「……ん?」
ふと、一か所気になる場所があった。
その場所は、峡谷を抜けた先にある窪地。
「気になる場所でも?」
カスガ議長の声に、彼女は振り向いた。
「え、あ……」
ふと、今はあくまで議長としての顔だと悟った彼女は、表情を引き締める。
「ここなんですけど……」
彼女は気になった場所を指さす。
峡谷が続いている中、そこだけが広くなっている。円状に広がっている場所なので、これなら桜花をある程度まとめて一斉に飛ばすことも可能だろう。
桜花を発射するには、十分な広さだ。
だが、議長や自警団長たちは難しい顔をしている。
「どうかしたんですか?」
「……厄介な場所だな」
議長がつぶやいた。
「そこは、峡谷が続く中では広い場所なんだが。ただの窪地じゃない」
「……というと?」
「……窪地の周りは、高い傾斜のついた地形で守られている。クレーターのような場所なんだ」
その場所は、峡谷の中で地面がただくぼんでいるわけではなく、峡谷の中に突如斜面が現れ、それに沿って上昇して上空から眺めると、すりばち状にくぼんだ場所だという。
すぐさま、飛び立っている偵察隊にその周囲を高高度から観察させたところ、確かにクレーターのような場所の中心に出っ張ったようなものがあり、その正面にはレールのようなものが引かれていたとわかった。
「……自警団長、護衛隊長。ここが発射場である場合、確実かつ有効と考えられる対処方法は?」
2人は顔を見合わせた後、自警団長が絞り出すように言った。
「……ありません」
「……なんと?」
「……あの絶壁は、地上から攻めることはできません。アリジゴクを、岩に置き換えたような地形です。のぼることはできません」
「それにその場所は、ハリマから100km以上はなれています。歩いていけば時間がかかります。かといって、そんな場所に届く火砲をハリマは有しておりません」
「なら、航空部隊による直接排除しか考えられませんが……」
「何か問題でも?」
「……自警団も護衛隊も、地上攻撃ができるパイロットがおりません」
それは、自警団にとっても、護衛隊も、当然の返答だった。
自警団にせよ、護衛隊にせよ。守る対象が町か議員かという違いはあるが、相手はいずれも空賊といった飛行機を使って襲撃してくる相手を想定している。
なので、爆撃の訓練などしていないというのが普通だ。
だが、今回は標的が地上施設である。どうやっても、爆撃のできるパイロットが必要になる。
「……どうすればいい」
戦闘機に搭載できる爆弾は1発。
だが、富嶽がやったような、大量の爆弾を落とす絨毯爆撃でもない限り、爆撃というのは命中精度を上げるため低高度を飛ぶことになり、地上からの対空砲火の危機にさらされ、大きな危険を伴う。
付け焼刃でどうにかできるものではない。
ふと、シズネ市長が言い放った。
「だったら、今訪れている方々の中で、爆撃ができる人に協力してもらえばいいんじゃないかい?無論、報酬は弾むという条件で」
だが、対象を広げたところで同じ結果だろう。訪れている客人たちの用心棒も、相手は空賊を想定しているのだから。
「ただ、もし桜花の発射基地を破壊できても、先ほど銀河が数機離脱しています。銀河が健在であるなら、襲撃にこないとは限りません」
「こちらの目を引き付けるために、来る可能性はあるね」
「はい。つまり、迫りくる銀河と桜花の発射基地。その両方を叩かなければなりません」
「それに、発射基地の攻撃隊はできるだけ敵に悟られないよう、峡谷の間を低高度で抜けていく必要があります」
「峡谷の上を飛べば、発射基地を攻撃するという意図を見抜かれます。そうなれば、敵飛行隊が向かってくるかもしれませんし、もしくはすぐに桜花の発射準備を行うでしょう」
「つまり、こちらの意図を悟らせないために、相手が銀河を出して来たら、そこにできるだけ多くの飛行隊をぶつけて、相手に術中にはまったと見せかけている間に、少数の飛行機で発射基地を破壊する、と?」
議長の言葉に、自警団長と護衛隊長は頷く。
「二方面作戦か……」
市長も議長も渋い顔をする。
「そんなことができるのか?銀河相手に、大規模な航空隊をぶつけることは可能だが、狭い峡谷を、重い爆弾をぶら下げて飛び、一発で敵の発射基地に爆弾をぶつけるなど」
そんなことができるパイロットは、今ハリマにいない。
訪れている客人の飛行隊もそうだろう。
イジツでは、空戦は日常であっても爆撃は日常ではないのだ。
そんな中、議長の頭の中にこの攻撃が可能な人物が思い浮かんだ。
そしてそれは本人も思ったのか、彼の予想は直ぐに的中することになった。
「なら、私がやります」
カスガは目を見開き、レオナたちは手を上げた人物、ハルカに視線を向けた。
「私は、何度か爆撃の経験があります」
「……だが、君は客人で」
「ですが議長。彼女は、似た兵器が使われたイヅルマの一件の際、敵方の基地の爆撃を成功させています。現状、適任だと考えられます」
渋い顔をする議長に対し、ユーリアは淡々と彼女を推す。
「……しかし」
「ハルカ、待て」
ケイトが制止する。
「いくらあなたでも、爆装した零戦で峡谷を抜けて、地上の発射基地を破壊するのは容易ではない。爆弾による重量増加で、運動性能は大きくさがる。敵の戦闘機に捕捉されたら、逃げ切ることは不可能」
ケイトが淡々と事実を述べる、が、今回は少しばかり感情がこもっている。
「ケイトの言う通りだ。君一人では危険すぎる」
レオナも同意し、少し険しさを増した視線で見つめてくる。
「君の腕がいいのはわかっているが、それでも爆装した機体で、単機でやり遂げるのは不可能だ」
「……そうですね」
「なら!」
「ですから……」
ハルカは、少し頬をかきながら言う。
「レオナさん、マダム。コトブキから、2人ほど一緒に来てもらえませんか?」
彼女の発言に、レオナとマダムは目を丸くし、ケイトは少しばかり目を見開いた。
「道案内と護衛で、2人ほど……。頼めませんか?」
レオナはマダムに目配せする。マダムは即座に頷く。
「わかった。でも、2人なんて言わずに、6人全員でもいいんだぞ?」
「全員で行くと、コトブキがいないからどこかに別動隊がいると、相手に勘繰られる可能性があります」
あのイケスカ動乱で、コトブキ飛行隊の名は一躍有名になった。
その母船が羽衣丸であることも、恐らく知られているはず。
銀河を保有でき、桜花の改良が行える組織など、特定しやすい。
彼らなら、羽衣丸が係留場にあるのなら、コトブキ飛行隊もいると悟っている可能性を考えなければならない。
あくまで、用心してだが。
「それは、そうだが……」
「だが、それならあなたも同様のことが言える」
だが、同時に蒼い翼の零戦も、最近新聞への露出が多い。ユーリア議員の飛行船があるなら、いる可能性を相手は考えるだろう。
「ええ。でも、爆撃ができる人間は限られているので、そこは仕方ないです。敵方にこちらの意図を悟らせないためにも、狭い峡谷を短時間で抜けなければ、敵に捕捉される可能性が高まる。そのためにも、少数のほうがいいんです」
「残ったコトブキ飛行隊でできるだけ目立ち、銀河に向かった方が本隊だと思わせるのか?」
「皆さんからすれば不本意でしょうが、そういうことです」
「……わかった。マダム」
マダムは表情を引き締める。
「議長、コトブキ飛行隊はうちの用心棒です。ハルカさんは、あなた方のホナミ議員も雇い主なのでダメとはいえませんが、どういたしましょうか?」
即座に議長は言い放った。
「手当を含めた報酬の、通常の5倍でどうでしょう?爆撃を行う彼女は、8倍で」
提示された金額に、マダムも一瞬目を見開いたが、すぐにいつもの商人の顔に戻る。
「わかりました。今回の件、協力させていただきます」
「議長、私の護衛隊も協力致します。ハリマのものとは違いますが、鍾馗。お役に立てるかと」
「ありがとうございます。別途、報酬をお支払いします」
その後、訪れている客人にも声がかけられ、有志を募った。
それを基に即座に作戦が立案され、準備に奔走することになった。