荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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町に近づく飛行隊を電探がとらえた。作戦通りに出撃する飛行隊と、
爆弾を抱えた彼女の零戦。
そんな中、彼女が爆弾を抱えた零戦で出撃する様を見て、
議長はかつてよく見ていた風景を思い出しているようで……。


第7話 かつて見た風景を目にして

 地下へと続く暗い階段を、ろうそく片手に飛行服を着たオカッパ頭で、眼鏡をかけた男性が下りていく。

 階段を下りると、広い区画に出た。

 その広い区画には、簡単な骨組みで作られた台と、その上に乗せられた兵器、桜花が沢山置かれている。

 区画で作業を進めている人物の一人が、こちらを見ると駆け寄ってきた。

「お疲れ様です、ヒデアキ様」

 眼鏡をかけたオカッパ頭の男性、ヒデアキは周囲を見渡すという。

「準備は?」

「進んでおります。桜花と、別の場所にある銀河。いずれも明日の朝には準備完了します」

「ハリマから返答は?」

「ありません」

「ふむ。予想通りですね。ですが……」

 ヒデアキは並べられた桜花を見渡す。

「これだけの戦力をもって襲撃すれば、ハリマも折れざるを得ない。どれだけ落とされようが、銀河以外、こちらの損害はでないのですからね」

「あの、ヒデアキ様」

「なんでしょう?」

「なぜ、ハリマを襲撃するのでしょうか?」

 眼鏡の奥を怪しく光らせながら、彼は言った。

「人間、生きていくうえで食べることから逃げることはできません。まして、ハリマの食料生産能力は、我々イケスカを越える。そんな町がユーリアについてごらんなさい。ユーリアの思想になびくものがでることでしょう」

「そのユーリア議員ですが」

「議会の内通者からは、なんと?」

「ハリマへ向かったと」

「そうですか。なら、いい機会です」

 彼は笑みを浮かべながら、眼鏡のブリッジを人差し指で持ち上げる。

「ハリマとともに、ユーリアめも始末しましょう。たとえあの悪魔やコトブキがついていようが、銀河やこの桜花をもってすれば問題ない。今度こそ、お礼参りに向かいますよ!」

 

「イヅルマやヤマセでも、同じことを言っておられましたが……」

 

 ヒデアキは高笑いをやめ、部下に振り返った。

 

「今度こそ、上手くいくはず!頭脳労働担当の私の作戦に、不備はありません!」

 

「ですが、実際イヅルマでは2度目の襲撃は失敗し、ヤマセで橘花は撃墜されましたが……」

 

 確かに、桜花も橘花も未知の遺産。知る人間がいないがゆえに、作戦初期はどれも猛威を振るった。

 だが、結局イヅルマで2度目の襲撃は失敗し、橘花は撃墜されている。

「ぐぬぬ。あ、あれは偶然のはず!やつらが、未知の遺産の情報を持っているわけがないのです!」

 今、旧自由博愛連合は、いくつもの派閥に分かれた上に、イケスカが弱体化したことで予算は限られ、人的資源もかつてほどではない。

 だからこそ、無人化した桜花のような人的資源を消費せず大量配備可能な戦力や、橘花のような質の向上を目的とした戦力の拡充を急いでいる。

 幸いにして、イケスカには市長兼会長のイサオ氏がいたころ、いくつものユーハングの遺産に関する情報を収集し研究が行われ、彼が去った後もそれらは残された。

 イサオ氏が興味を示さなくても、桜花のような改良すれば有用たりうるものの設計図がいくつも残された。

 今イケスカをまとめる後継者は、戦いに勝つことに積極的だ。

 空戦に拘ったイサオ氏とは異なる。

 あくまで、戦いに勝つことを目的とした後継者だ。

 安全な空を、という目的は同じでも。

「幸いなのは、今の後継者は未知の遺産のことを少しでも知っており、その活用に積極的。いかに凄腕でも、未知の敵相手に勝つことは容易ではありませんからね」

 

「確かにそうですが……。イヅルマやヤマセの件を見るに、我々の後継者と同様に、相手方にも未知の遺産の情報を知っている人間が、いるのではないでしょうか?」

 

 部下の言葉に、ヒデアキは考えるしぐさをする。

「まあ、その可能性はなくはないですね……」

 でなければ、イヅルマで2度目の襲撃が失敗したり、ヤマセで橘花が撃墜されることもなかったはずだ。

「ですが、一体どうやって……」

 イケスカでさえ実用化の途中である遺産の情報を、ユーリアめたちはどこから手に入れているのか。

 可能性として、彼は穴の研究を進めていたラハマの病人、アレンのことを思い出す。

 だが、奪った資料を見た限り、彼は穴に関する研究が主体だったはず。

 ではその妹、コトブキ飛行隊のケイトとかいう女性だろうか。

 それも可能性は低い。

 その妹は、イヅルマ襲撃の際にいなかったのだから。

 同様の理由で、遺跡の調査を行っているというタミル、とかいう女性も可能性は低い。

 可能性があるとすれば、イヅルマ襲撃の際あの場に居合わせ、ヤマセの件でもあの場に共通していた人物だ。

 その人物に、彼は唸る。

「……まさか」

 彼は見ていた。

 イヅルマで一式陸攻を真っ先に攻撃し、ヤマセで橘花を撃墜し、そして今回の標的、ハリマを訪れている人物。これらの場所でいずれも目撃した、あの蒼い翼の悪魔を……。

「……しかし、どうやって」

 それにしたって、技術者でも、ユーハングと接触するはずもないあの悪魔が、なぜ情報を持っている。

「……わからないことはありますが、まあ所詮は1人だけ。これだけ新兵器があれば、問題ない。ユーリアめの目論見の妨害として、まずはハリマを屈服させます」

 彼は疑問を薙ぎ払い、準備を進めるよう部下に指示を飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 要求から24時間後、警告にあったように、ハリマに迫る飛行隊が電探に捕捉された。

「各機、始動準備にかかれ!」

 ハリマ自警団、護衛隊の戦闘機隊がエンジンの始動準備を始める。

 その風景を横目で眺めながら、ハルカは愛機を見つめる。

 胴体下に吊り下げられた、250kg爆弾。

 主翼下に取り付けられた、対地攻撃用のロケット。

「いつもに比べて、重いからな」

 装備の確認が完了したのか、ナツオ班長がイナーシャハンドル片手にやってくる。

「いつも通りの動きができると思うな」

「はい」

 ふと、ナツオは彼女の前にたつと、右手を伸ばし、彼女の左頬をつかんで引っ張った。

「いたたた!」

「まったく、またてめえはこんな無茶な作戦受けやがって!」

「で、でも!いだだだ!」

 しばらく引っ張ったのち、ナツオは手を離した。

「……重くなっているからな。滑走路はできるだけ目一杯使え」

「……了解です」

 ナツオ班長はため息を吐きだす。

「にしても、訪れている商会の用心棒たちに声かけても、爆撃担当がてめえ一人っていうのが……」

「仕方がないですよ……」

 議長たちは、戦力を補うために客人の用心棒たちにも声をかけたのだが、残念ながら爆撃ができるパイロットはいなかった。

「チャンスは1度きりか……」

「安心しろ、ケイトとキリエが守ってくれる」

「道案内はまかせて欲しい」

「絶対、守るからね!」

 ハルカには、道案内としてケイト、護衛としてキリエが同伴することになった。

「はい。お願いしますね」

「堅苦しいって!」

「心配しなくていい。あなたは、爆弾を当てることに集中してくれればいい」

 あはは、と笑って返すハルカだが、彼女は内心落ち着かない。

 零戦に搭載できる爆弾は1発。一応地上攻撃用のロケットも積んではいるが、それはあくまで地上に対空火器があった場合の備えで、チャンスは1度しかない。

 緊張するなという方が無理な話だ。

「キリエ、今回の目的は、ハルカの護衛だ。くれぐれも、いつものように敵機の撃墜に拘るんじゃないぞ」

「わかっているって!」

 心配なのか、レオナはキリエに念押しをする。

「レオナさん!」

 ふと、元気そうな声でハルカゼ飛行隊隊長、ユーカが駆け寄ってきた。

「私たちも参加することになりました!一緒に頑張りましょうね!」

「ああ」

 レオナは、険しい表情でいう。

「だが、私たちの役目はあくまで敵爆撃機の護衛戦闘機の撃墜と時間稼ぎだ」

「命大事に。落とされちゃだめよ」

「はい、わかってますって!」

 そういうと、彼女は仲間たちのもとへ戻っていった。

「いいかてめえら。くれぐれも、無茶すんじゃねえぞ!」

 ウッズ社長が念押しをしている。

「はい!じゃあみんな、いっくよ~!」

 ハルカゼ飛行隊の隊員たちが笑顔でやる気を示している。

「大丈夫かしらね、あの子たち」

「……今回の作戦は、いつもの用心棒の仕事とは違う。社長が、しっかりしてくれていると思うが」

 今回の作戦は、ハリマ防衛戦であると同時に敵拠点への攻撃でもある。

 いつもの警備のような用心棒の仕事とは違い、今回は傭兵に近い。

 無論、ハルカゼ飛行隊だって覚悟のうえで参加しているのだろうが、彼女らがそれを理解するにはまだまだ子供では、と思ってしまう。

 孤児院の後輩だけに、レオナは少々心配になってしまう。

「てめえら、エンジン動かすから、早くこ~い!」

 ナツオの声にレオナたちは振り向き、愛機へ向かおうとする。

「レオナさん」

 振り返ると、ハルカが心配そうな表情を浮かべていた。

「気を付けて、ください……」

 ふと、レオナは中指を曲げて、ピンと彼女のおでこをはじいた。

「痛い!」

 彼女は本当に痛そうにおでこをさする。

「人の心配している場合か?今回の作戦、もっとも危険なのは君だ。わかっているのか?」

「わかっていますよ……。でも、今回の作戦は私のわがままのせいで」

「気にしなくていい。君が受けなくても、マダムやユーリア議員が提案していただろう。それに、この作戦が成功しなければ、ハリマと交易どころではなくなる。参加する以外、道はない」

 彼女はハルカの頭にポン、と手を置いた。

「だから、気にしなくていい。自分の腕と私たちを信じて、行ってくるように」

「……はい!」

 彼女は一礼すると、振り返って愛機へ向かっていった。

「む~」

 ふとレオナが振り返ると、そこには頬を膨らませ、不満を訴えるザラの姿があった。

「どうした?」

「……ハルカさんには甘いんだから」

「そうか?作戦前なんだ。緊張をほぐすことも隊長の仕事だ」

「そう……。なら、私にもしてちょうだい」

 そういって、ザラは自身の頭を指さす。

「ザラはそういう年じゃないだろう?」

「……そういう問題じゃないのに」

 不満を訴えるザラに、レオナは頭に疑問符を浮かべる。

「てめえら、早くこ~い!」

「……行こう」

 表情を引き締め、レオナたちは愛機へ向かった。

 

 

 

 

 レオナたちの隼、ハリマ自警団、護衛隊が次々離陸していくのを見送るキリエにハルカとケイト。

「私たちも行こっか」

「ええ」

 キリエとケイトは愛機の操縦席へ滑り込み、いつもの手順でエンジンを始動させる。

 ハルカも操縦席に入ろうとしたとき、視界の端にカスガ議長を見ると、一度機体からおりた。

 議長は、両足のかかとを揃え、右手を斜めに顔に添える、敬礼をした。

 彼女もそれに習い、敬礼で返す。

 そして頭を下げると、急いで操縦席へ入る。

 いつもの手順でエンジンを始動させ、同時に各計器の確認。

 ケイトの隼が動き出し、ハルカの零戦、キリエの隼が後を追い滑走路へ向かう。

 滑走路に機体を誘導すると、ケイトが先に離陸する。

 ハルカもスロットルレバーを押し込み、機体を加速させる。

 いつもに比べて重い地上攻撃兵装を積んでいるため、加速が鈍い。

 滑走路を端から端までできるだけ使い、必要な速度に達した瞬間、操縦桿を慎重に操作して尾部を持ち上げ、そして着陸脚が地面を離れた瞬間、操縦桿を引く。

 重くなった機体を空へ浮かび上がらせると着陸脚をしまい、先行している案内役のケイトを追う。

『2人とも、ついてきているか?』

「はい。後ろにいます」

『もっちろん!』

『了解。これより峡谷に入る。敵の電探がある可能性が考えられる。高度を制限。峡谷からは絶対でないように』

「はい」

 ケイトの機体が高度を下げ、峡谷から出ないどころか、地上から十数メートルの位置まで高度を下げる。

 2人も合わせて高度を下げる。

『……いくぞ』

 ケイトの隼が加速する。

 ハルカもキリエも、彼女を追って速度を上げる。

 この作戦は、敵に意図を悟られる前に目標を破壊する必要がある。

 3機は高度に気を付けながら、できる限り早い速度で峡谷の間を駆け抜けていく。

 左右に曲がりくねる峡谷の間を、何度も旋回を繰り返し、狭い場所は機体を垂直にして駆け抜け、急なカーブは速度を落とし、抜けた直後に加速。

 さらに上下に移動しながら峡谷から出ない程度に高度を調整し、急いで目的地へ向かう。

 ハルカは、いつもにくらべ、重さを増した愛機の操作に苦戦する。

 作戦会議でも言われたが、この作戦は確かに無茶だ。

 零戦が軽快な運動性能を誇ったのは、小さいエンジン出力を補うために、できる限りの軽量化を行ったからだ。

 52型丙はエンジンが換装され、21型よりエンジン出力が向上している。

 とはいえ、250kg爆弾にロケットを積めば、明らかに重量は増加し運動性能は下がる上に、もとより52型丙は火力と生存性を重視した型で、代わりに運動性能や旋回性能が犠牲になっている。

 速度では上と言っても、重い爆弾を抱えていない彼らの隼ほどは動けない。

 それをケイトは考慮してくれているようで、ハルカの零戦でも通れるルートを飛んでくれている。

 絶対成功させてみせる。

 自分が来るのを待っていてくれていた、祖父や祖母、叔母の住む、母親の故郷であった場所を、これ以上傷つけさせるわけにはいかない。

 彼らは速度を上げ、目的へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 爆撃隊を見送ったカスガ議長は、一人格納庫から出て、ハルカの飛び去った方向をみやる。

 

「桜花、か……。忌々しい名だ」

 

 カスガの顔は、苦々しい表情を浮かべていたが、すぐに表情が曇る。

「まさかこの年になって、桜花を再び見ることに加え、爆弾を抱えたあの機体の見送りをすることに、なろうとは……」

 彼は、先ほどのハルカの見送りと似た光景を、かつて日常的に見ていた時期があった。

 もう、50年近く昔になる。

 しかも、見送ったのは20歳くらいの人物で、主翼の13.2mm機銃を外した零戦52型丙。

 

「……数奇な運命だ。いや……、宿命か」

 

 彼は、上着の内ポケットから手帳を取り出す。

 表紙を開いたページには、写真が挟まっていた。

 白黒写真だが、同じ飛行服を着た20歳前後の若い男性2人が、零戦52型丙を背後に写っている。

 

「結局、私も君も、祖国からは逃れられない、ということか」

 

 彼は、孫の飛び去った方向を見つめる。

「だが、それでも、きっとあの子は帰ってきてくれる、成功させてくれる。そう信じているよ」

 彼は、写真に写るかつて若い時の自分と、その友人に向けていった。

 

「君もそう思うだろう?……タカヒト君」

 

 

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