荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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町へ向かってくる爆撃機と護衛戦闘機を迎え撃つため、出撃した
自警団や護衛隊をはじめとした連合航空隊が戦闘を開始する。
そのころ、爆撃隊は峡谷の間を抜けて目的地へと迫っていた。
一発しかない爆弾で成功させるため、彼女は慎重に機体を
操り、遂にそのタイミングが訪れる。


第8話 1度限りの機会で

 ハリマを離陸してからしばらく、ハリマ自警団を先頭に、ハリマ評議会護衛隊、コトブキ飛行隊、ユーリア護衛隊にハルカゼ飛行隊など、集められた総勢80機にも及ぶ戦闘機が編隊を組んで飛んでいる。

 そんな中、先頭を飛ぶハリマ自警団のすぐ隣を飛ぶ4機の隼、コトブキ飛行隊のレオナは操縦席から周囲を見渡す。

 羽衣丸を母艦とし、飛行船の用心棒を生業とする彼女にとって、これほど大規模の編隊飛行は、先のイケスカ動乱以来久しぶりだ。

『連合航空隊、こちら管制塔。対空電探に感あり。進路上に大型のものが8機、小型のものが60機』

『自警団了解』

『追加連絡、敵基地攻撃隊は現在、目的地へ進行中』

「……ハルカたち。上手くいくといいが」

『不安がってもしょうがないんじゃないかしら?』

 不安を口にすると、すぐザラの声が無線から聞こえる。

『これだけ戦闘機乗りがいるなか、爆撃ができるのはハルカさん1人。経験がある彼女でできないなら、私たちでもできるわけない。それに、道案内にはケイトが、護衛にはキリエがいる。これ以上望むほうが、無理なんじゃないかしら?』

「そうだが……。なら、せめてコトブキ飛行隊全員でいけば」

『それは敵に察知される可能性があるって、彼女が言ったんでしょ?』

 

「……初めてだったんだ」

 

『何が?』

 

「……彼女が、頼ってくれたのは」

 

 あれほど、一人でやってしまえばいいと考えていたハルカが、コトブキを頼ってきたのは、恐らく今回が初めてだろう。

 だから、あの場にいたマダムにユーリア議員だけでなく、ケイトも目を丸くした。

 それほどに、驚きと同時に、少しレオナは嬉しかったのだ。

「だから、できるだけのことをしたかった」

『目立って敵の注意を引くことも、立派な役目でしょ?あっちは、あっちに任せましょう』

「……そうだな」

 

『レオナは過保護ですわ』

 

 レオナは、一瞬胸に何かが刺さる幻覚を感じた。

 エンマに、以前マダムやザラに言われたことと同じことを言われる。

『それでは、妹を心配する過保護な姉のようです。私たちと同い年ですのに、扱いの違いはどこからくるのでしょう?』

『そうだそうだ。いつも私やキリエには鬼なのに!ぷんぷん!』

 チカも不満をいだいているようだが、その台詞は聞き捨てならない。

 

「……チカ、戦闘が終わったら話がある」

 

『ひぃ!』

 

『総員、前方を警戒!』

 航空隊の前に、大きな機影が姿を表した。

 双発の機体なのに、驚くほど細身の胴体の機体が、胴体下に小型の飛行機のようなものを吊り下げている。

『こちら自警団、目視で確認。大型のものは銀河。小型のものは五式戦闘機だ』

『ユーリア護衛隊並びに、鍾馗の飛行隊は銀河の撃墜を優先。他の飛行隊は五式戦を引き付ける』

『お仕事の時間ね』

『レオナさん!出番ですね!』

 そばを飛んでいる、ハルカゼ飛行隊のユーカの声が聞こえる。

 遠目に、彼女たちははしゃいでいる表情なのがわかる。

 レオナは表情を引き締める。

 

「いいか。あくまで我々の目的は、鍾馗が銀河に向かいやすいよう、五式戦を引き付けることだ。星を稼ごうと、変な色気を出すんじゃないぞ!いいな!」

 

「「「はい!」」」

 

『交戦を許可。作戦開始!』

 

 全機エンジン出力を上げ、目標に向かって突き進んでいった。

 

 

 

 

 

「連合航空隊、銀河を含む敵航空隊と遭遇。戦闘開始しました!」

「爆撃隊、間もなく目的地までの中間地点です!」

 作戦指令室で、カスガはじっと状況を聞いている。

「まずは、無事に敵と遭遇。あとは、こちらの意図がばれなければいいのだけど……」

 シズネはとりあえず、作戦が無事に始まったことに胸をなでおろすが、カスガは険しい顔をしたままだ。

 ふと、彼は指令室のドアへ向かう。

「どこに行くんだい?」

「……どうせやることはなにもない。少し出かけてくる」

「この非常時にかい?」

「……すぐ帰る」

 そう言って、カスガは部屋を出て行ってしまった。

「……まったく、心配性なんだから」

 シズネがため息を吐きだす一方、格納庫への廊下を歩きながら、カスガはある懸念を抱いていた。

「万が一だ。だが、もし……」

 彼には心配なことがあった。

 それは、爆撃が1度で上手くいくか、ということだけではない。

 もう一つある。

「ただの心配ごとで終わればいい……」

 一人つぶやきながら、彼は格納庫へ小走りでかけていった。

 

 

 

 

 

 

 

「銀河と護衛隊、ハリマの航空隊と戦闘開始。数は、約60機以上!」

「ムフッ、見事に策にハマってくれましたね」

 桜花を搭載した銀河と護衛戦闘機隊に、ハリマは大規模な航空隊をぶつけてきた。

 これが囮で、桜花43乙型が本命ともしらず。

 いや、そもそも桜花22型はともかく、43乙型の情報を彼らは持っていないはず。

 対抗策は考えられない。

「いずれ、我々自由博愛連合は復活します。あのお方を、新しい会長にお迎えして。それにあたって、厄介なハリマをまずは叩きます。この都市に、ユーリアめの味方に付かれては困る。覚悟してもらいますよ」

 どれだけ腕が良かろうとも、桜花を迎撃することは事実上不可能。

 それが大量に迫れば、対応できない。

 銀河に搭載している22型はいざ知らず、地上から撃てる43乙型を知っている者はいないはず。

 未知の敵への対応策など、普通は思いつけない。

 今度こそ、我々がいつか覇権を握るために、まずはハリマに負けてもらおう。

 ヒデアキは、作戦の成功を信じて疑わなかった。

 

 

 

 

 

 連合航空隊が交戦を開始したころ、ケイトたちは峡谷の中を飛び続けていた。

『レオナたちが、銀河と遭遇。交戦を開始した模様』

『やっぱきたんだ。こっちも急がないと!』

『でも焦りは禁物』

「ええ、チャンスは1度きりですからね」

 桜花発射基地周辺に電探がある可能性を考慮し、峡谷の中を、できるだけ低高度で駆け抜けていく。

『というか、ケイト。これで道あっているの?』

『あっている。もう目的地までの中間地点を過ぎている』

 峡谷の中を飛び続けているため、どうも道があっているか確認のしようがない。

 周囲の風景が確認できない今、頼りになるのは方向感覚と、個人の頭の中に入っている地図だけ。

 ケイトの記憶力を信じるしかない。

『キリエ。後方や上空は?』

『大丈夫、まだ気づかれていないよ』

 幸い、まだ敵に意図は気づかれていない様子。

 このまま爆撃が成功することを祈りたい。

 しばらく進むと、直線の場所に出た。その先には、峡谷の行き止まりを示すように、急斜面がある。

『あの斜面の向こうが目的地』

 いよいよだ。ハルカは操縦桿とスロットルレバーを握りなおす。

『キリエ、私たちは先に』

 キリエの隼が前に出て、ケイトの隼と速度を上げて前を進んでいく。

『ハルカ、手筈通りに』

「了解」

 彼女はスロットルレバーを開き、増速。峡谷の中を、速度を上げて突き進む。

 ここまでこれば、道案内は必要ない。

 ケイトとキリエの隼が先にいき、万一のこと考え露払いをする。

 その後を、ハルカの零戦が低空で進入し、爆弾を桜花の発射場と思われる、地面から出ている搬出口へ命中させる。

 2人の隼が斜面を登り切り、峡谷の上に出て囮として相手を引き付ける。

 目的の斜面が、みるみる内に迫ってくる。

 ハルカはスロットルレバーを引き、速度を緩めると操縦桿を手前に引き、機首をあげる。

 零戦の機首が上を向き、斜面に沿って上昇していく。

 間もなく、斜面の頂上に達した。

 彼女は、即座に操縦桿を左へ倒す。

 機体を180度左へロールさせると、操縦桿を手前に引く。

 機首が地面へ向き、降下を始める。

 再び操縦桿を左に倒し、180度ロールして上下をもとに戻す。

「……あれだ」

 彼女の進路上に、桜花を運ぶためだろうレールが地面にしかれ、その先が地上に出ている搬出するための出入り口が見えた。

 彼女は地面に沿って降下し、衝突する前に機首を上げ、地面すれすれを飛行する。

 目標が迫る。

 爆弾の安全装置を解除。

 スロットルを固定。左手を爆弾投下レバーにかける。

 そして彼女はタイミングを見計らい。

「よ~い。……って!」

 爆弾を切り離した。

 地面に激突をさけるため、即座に機首を起こして回避。

 250kg爆弾は宙を進み、搬出口の中へと吸い込まれるように綺麗に入り込んだ。

 間もなく、爆弾が入った搬出口から、炎が噴き出した。

 

 

 

 

 何か入ってきたと思った直後、それが爆弾とわかりヒデアキは近い部屋に転がり込み、ドアを即座に閉めた。

 直後、耳をつんざくほどの爆音に衝撃が地下を揺らした。

 ドアの向こうでは、準備中だった桜花や使用する燃料などが火災を起こしているにちがいない。

「これはまずいですねえ」

 彼は眼鏡を直すと立ち上がり、地上への進路を進んでいく。

 地上へ続く階段を駆け上がり、ドアを開け放つと、まぶしい光が差し込んでくる。

 周りを見渡すと、桜花の搬出口から炎が立ち上っている。

 そして、エンジン音らしきものがする方向を見やると、彼は表情を険しくした。

 見えたのは、去っていく紅色のプロペラの描かれた隼と、主翼が蒼く塗られた零戦の後ろ姿だった。

「コトブキに、あの悪魔……」

 彼は拳を握り締める。

「またも邪魔を……。なぜ、なぜでしょう」

 彼らはどうやってこの発射基地の場所を突き止めた。

 ハリマの航空隊が銀河と護衛戦闘機隊を相手にしているはずだ。

 どうやってこちらの意図がわかった。

 そもそも、あの桜花が地上から放たれたものだと、なぜわかった。

「いまいましい、実に忌々しい」

 彼は苦々しい表情をしながら、無線を取り出す。

 

「しかし、私の仕事は頭脳労働。詰めがあまかったですね」

 

 彼は無線のスイッチを入れ、どこかへ連絡を入れ始める。

 

「聞こえますか?準備はできていますね。ええ……。撃ちなさい、今すぐ!」

 

 彼は少しのやり取りの後、無線を切った。

 

 

 

 

 

 

 銀河を狙う鍾馗、五式戦闘機と交戦する隼や零戦たち。

 レオナたちの空戦は、混戦状態に陥っていた。

 進路上から機銃を撃ちながら向かってくる五式戦を、左へロールして回避。

 回避しながら撃った機銃弾が当たったのだろう、五式戦が1機おちていく。

 後ろを見ていると、別の五式戦が背後をとった。

 飛来した機銃弾が、五式を撃ち抜いた。

『後方注意、よ』

「すまない」

 ザラの援護を受け、レオナはまた別の標的へ向かっていく。

 彼女は、左右に首を何度もふる。

「くそ、敵と味方の区別が……」

『こんなにいたんじゃね』

 お互い、80機相当。総勢160機もの戦闘機隊がこの場にひしめき合っている。

 空中での認識はしづらく、迂闊に引き金を引けば味方だった、ということになりかねない。

 だから、慎重に識別する必要があった。

 

『鍾馗隊!銀河が1機抜けるぞ!』

 

 桜花を抱えた銀河が1機、速度を上げて空戦場から抜けようとしていた。

『行かせるな!』

 自警団の青色の鍾馗が速度を上げて追うが、五式がすかさず邪魔をしてくる。

 その隙に、護衛隊の緑色の鍾馗が銀河を追う。

 だが、相手は高速爆撃機。簡単に距離が縮まらないし、数少ない銀河の機銃が火を吹き、鍾馗を狙い撃つ。

『まかせてください!』

 聞き覚えのある声に、レオナは目を見開いた。

 偶然その場にいたのだろう、ハルカゼ飛行隊の青い隼3型がいた。

 声からしてユーカだろう。彼女の隼は、銀河と正面からぶつかるように進んでいた。

「ユーカよせ!ぶつかるぞ!」

 ハルカゼ飛行隊の6機の隼が、一斉に機銃を放った。

 その内の少しは銀河に命中した。主翼にも命中し燃料タンクに被弾したのか、燃料が霧状に漏れだす。

 だが、間もなく燃料の流出が止まった。

『へ!?何で!』

 驚いている暇はない。

 銀河は、彼らの目と鼻の先に迫っていた。

『てめえら!今すぐ回避しろ!』

 ウッズ社長の声で、彼女たちはいっせいにその場から離れた。

 直後、ようやく追いついた鍾馗が4丁の機銃を一斉に放ち、左側のエンジンを破壊。

 次いで下方から来た僚機が、桜花ごと銀河を撃ち抜いた。

 銀河は機首をさげ、地面に向かって高度を下げていく。

『てめえら!妙な色気を出すんじゃねえ!五式を追い払うことが役目だといったろう!』

『は、はい社長!』

『じゃあいくぞ!ついてこい!』

 社長が彼女たちを引き連れていったことに、レオナは胸をなでおろす。

 自分も五式の迎撃に戻ろうとした、そのときだった。

 

 小型の、爆弾に翼をつけたような物体が、彼らの視線の先を横切っていった。

 

「なっ!」

 あれは、作戦説明のときにあった桜花43乙型で間違いなかった。

 レオナの頭の中に、嫌な予感がよぎる。

 

 ハルカたちの爆撃は、失敗したのではないか、と。

 

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