荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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無事に商談会が終わり、帰路につくことになった一同。
見送りに来てくれた市長や議長たちと、彼女は別れを
惜しみながら飛行船に乗り込む。

去っていく彼女を見送りながら、議長や市長たちは懸念を口にする。


最終話 いつか会えるその日まで

 ハリマ襲撃から2日後、遅れていた商談会がようやく終わり、皆は帰路につくことになった。

「いや~、めでたく交易の話が決まってよかったです。しかも、小麦や調味料に肉類や野菜、おまけにユーハング酒までラハマで手に入るなんて。輸送はよろしくお願いしますね、マダム・ルゥルゥ」

「え、ええ……。輸送には細心の注意を払います」

 嬉しそうなラハマ町長に対し、マダムはどうも引きつった表情を浮かべていた。

 彼らの商談相手は、ホナミ議員とシズネ市長、カスガ議長だった。

 先日の件があるだけに、マダムは緊張した面持ちで商談に臨んだ。

 結果として、ラハマの岩塩の見返りに、ハリマのあらゆる製品が交易で手に入ることになった。

「にしても、ハリマは気前がいいですね。昨夜の大宴会は楽しかった」

「ええ……。そうですね、町長」

 昨夜は、ハリマ防衛戦に参加してくれたお礼にと、ハリマ主催の大宴会が行われ、町長や商会、用心棒たちだけでなく、飛行船のクルーまで招待して行われた。

 用意された大量の料理やお酒に、誰もが舌鼓を打ち、どんちゃん騒ぎをした。

 そんなときでも、議長たちはハルカをそばに置いていたのをマダムは憶えている。

 だからだろう。あんな付帯条項をつけてきたのは……。

 

 今回の商談の成功で、ラハマは食料に困ることはなくなる。また、ラハマには今後、岩塩だけでなく、周辺都市からハリマの農産物や製品を求めて商談の依頼が来ることになる。

 運び屋のオウニ商会にとっては、新たな商売の話なので喜ぶべき話ではある。

 

 ただし、ハリマ、ラハマ間の輸送においては、護衛隊のハルカ、彼女を同伴させるように、という付帯条項がつくことになった。

 

 表向きは、空賊被害を警戒してということになっているが、実際は議長たちが彼女に会いたいだけだ。

 権力を使って孫に会いたいという条件を付けてくるのだから、彼らがいかに彼女を大事に思っているのかわかる。

 それに加え、先日の件があるだけに、自分達は見張っているぞ、という市長たちなりの警告の意味も含まれていることだろう。

 もっとも、実際ハリマ周辺は空賊被害にあう箇所が多いため、マダムとしても彼女を呼ぶことは初めから考えていたので、特に問題はない。

 今は、商談が上手くいったことを喜ぼう。

 そう思いながら、羽衣丸へ乗り込んでいく。

 

 

「あ~、やっと商談が終わったね~」

「待ちくたびれた……」

「ラハマにとっては大事な話。時間がかかるのもやむなし」

「そうですわ。それに、ここからまたラハマへ帰るまでが仕事ですわ」

「え~!」

「え~じゃない!みんな、帰りも油断なくいくぞ」

「へ~い」

 気だるそうなキリエとチカ、冷静なケイトにエンマ、気を引き締めるレオナ。

「あ~、またあのお酒飲みたいわ~」

 酒瓶片手に羽衣丸へ乗り込むザラ。

「……ザラ、昨夜の大宴会でも酔って寝ていたんだ。たまには休肝日というものを」

「え~、アルコールがないと死んじゃうわ!」

「アルコールを抜いても人間は死なない」

「そんな~!」

 そんなやり取りを、少し離れた位置から眺めるハルカ。

「ハルカ~」

 ふと彼女は足をとめ、振り向いた。

 その先には、カスガ議長にシズネ市長、ホナミ議員がいた。

 彼女は彼らに駆け寄る。

「しばらく会えなくなるから、見送りにね」

「……ありがとうございます」

 カスガは右手を彼女の頭に乗せ、やさしくなでる。

「今回のハリマ防衛戦、本当にありがとう」

「あれは、皆さんと、おじいちゃんが来てくれたから……」

「おや、孫に褒められるとは、嬉しいね」

 カスガは、ハルカを抱きしめた。そんなカスガの頭に、シズネの手刀が落ちた。

「これこれ、人前で何やっているんだい?」

「いいではないか!」

「少しは議長の威厳というものを考えなさい」

 カスガとシズネはにらみ合う。

「ハルカ、元気でね」

 ホナミは、彼女に微笑みかける。

 それを見たカスガとシズネも、先ほどの雰囲気を流し、笑みを浮かべる。

「ああ、元気で。またおいで」

「手紙書くから、必ず出しておくれよ」

「はい、勿論です」

 カスガが、彼女の右手をとった。

 

「もし帰ってきたくなったら、いつでもきなさい。私たちは、いつも君を待っている。……帰ってくる場所は、ちゃんとあるからの」

 

「……はい。皆さん、ありがとうございます」

 ハルカは微笑む。

 だが気のせいか、カスガの手に力がこもっているような。

「いつまで手を握っているんだい。彼女が帰れないじゃないか?」

「……できれば帰ってほしくないんだが」

 ただの孫好きのおじいちゃんになっているカスガに、シズネとホナミはため息を吐きだす。

「ハルカ~、行くよ~」

 キリエが彼女を呼ぶ声がした。

「では、また来ます!」

 彼女は一礼をして、羽衣丸へかけていった。

 そして搭乗口に彼女が入ると扉が閉められ、係留塔の固定が外れ、羽衣丸がゆっくりと高度を上げていった。

 

 

 

 

 ハリマを離れる羽衣丸を見つめながら、カスガたちは手を振った。

「……行ってしまったか」

「心配しなくても、また会えるよ」

「それまでは、日々写真を眺めて過ごすことにするか」

 カスガは上着の胸ポケットから手帳を取り出すと、挟んである写真を眺める。

 その写真には、カスガにシズネ、ホナミ、そして今の姿のハルカが写っている。

 彼女が生きていてくれて、またハリマに来てくれたからと、カスガたちの家で撮ったものだ。

 ハルカにも、無論同じものを渡してある。

「……また、生きていく楽しみができた」

「長生きはするもんだね」

 カスガは心の中でうなずいた。

 

 本当は、特攻隊でハルカの年くらいで死んでいるはずだった。

 

 だが、何の運命のいたずらか、この世界にたどり着き、妻ができ、娘ができ、可愛い孫にも恵まれた。

 

 本当に、長生きはするものだ。

 

 だが、自分が死ぬはずだった日がハルカの誕生日になるとは、イジツに来ても、自分は祖国からは逃れられない、ということかもしれない。

 

 あるいは、あの日自分もタカヒト君も死ぬことができなかったから、代わりに死ぬまで彼女を支え続けろ、というこの世界にいるかは知らないが、神からの警告だろうか。

 

 でも、これからはあの日を、死ぬはずだった忌々しい日ではなく、可愛い孫の誕生日といういい日へ変えていこう。彼はそう思う。

 

 同時に、命令で死んでいった仲間たちに対し、申し訳ない気持ちもあった。

 カスガは、死ぬはずだった日を、これからいい日へ変えていくことができる。

 

 でも、死んでいった仲間たちにそれはできない。

 

 社会を碌に知ることなく、戦いの結果命を落としていった同僚たち。

 彼らも生きてさえいれば、このようになっていたかもしれない。

 

 だからこそ、争いなどもうごめんだと、彼は思う。

 

「……数奇な運命だな」

「現実は小説より奇なり。そう言うんでしょう?」

「全くだ」

 こんなことになろうとは、カスガ自身思わなかった。

 でも、目の前にいる妻や娘、孫といった彼らは、まぎれもない現実。

 祖国に帰っても、彼を待ってくれている人々はいないが、こちらにはいる。

 戦火の中で失われたものが、彼の手の中にある。

 それだけで、彼には十分だった。

「こうなれば、できる限り長生きしないとな」

「ハルカにまた会うため?」

 

「ああ。次会ったときには、どんなものをごちそうしよう、どんなことを話そう。彼女は、どう変わっていくだろう。どれだけ綺麗になっていくだろう。楽しみで仕方がない」

 

「まったく、バカジジイなんだから」

 

 シズネは、半分あきれているような、苦笑を浮かべる。

 もっとも、孫に会えることはシズネにとっても楽しみなので、そこは同意見である。

「でも、用心棒って、いつどうなるかわからない、危険な仕事よ?」

「心配ないさ」

 ホナミの心配を、カスガはあっけらかんと応える。

「随分な自信ね」

「当たり前だ。なにせ……」

 カスガは、自信をもって言い放った。

 

「ハルカは、私とタカヒト君の自慢の孫だぞ」

 

 どこまでもブレないカスガに、シズネとホナミは苦笑する。

 カスガは羽衣丸が飛び去った方向を見て、つぶやくように言った。

 

「……元気で、ハルカ。また、会える日まで」

 

 彼らは、ホナミの姉、もう一人の娘と、その子供たちが殆ど生きていないことを聞いたとき、すごく落ち込んだ。

 でも、ハルカだけは生きていてくれて、またハリマに来てくれた。

 それが、たまらなく嬉しかった。

 同時に、彼女に手を差し伸べられなかったことを後悔した。

 だからこそ、自分達の命が尽きるその日まで、彼女の家族の分まで、ハルカを支え続けよう。

 彼らは、そう決意した。

「でも、彼女大丈夫かしら」

 ホナミの心配が何なのか、彼らにはわかった。

「タカヒト君は、本当に知る全てを授けたようだな」

 今回のハリマ襲撃に使われた銀河や、ユーハングが実用化しても実際には使われなかった桜花。その知識を、彼女は持っていた。

「ああは言ったけど、ハルカはいずれ、厄介ごとに巻き込まれるんじゃないかい?タカヒト君がそうであったように」

 ハルカが受け継いだ、ユーハングの血と知識や技術。

 今はユーリア議員たちのもとにいて、情報の管理に気を付けると言ってくれたからいいが、人の口には戸が立てられない。

 

 いずれ、彼女が遺産の知識を沢山持っているということが知られてしまえば、争いの火種になるのは目に見えている。

 

「だが、あの子は籠の中で大人しくしている鳥じゃない。いずれ籠を開けて、飛び立ってしまう。……あの子の名前に込めた願いを考えれば、おとなしくしているほうではない」

 

 本当は、ハリマで一緒に居て欲しかった。

 そうすれば、彼女を守ることができるし、カスガたちも安心できる。

 でも、彼女に込められた願いの一つ、自分達がまだ見ぬ遥遠くの景色を見に行ってくれる。それを伝えるために、必ず帰ってきてくれる。

 そのために、道を切り開いて歩み続けてくれる。

 そんな子であってくれると、彼らは彼女を信じた。

「それに、彼女はどんな状況でも生き残り、今回このハリマに来てくれた。だから、きっと大丈夫だろう」

「そうだね」

「ええ、きっと……」

「そういえば、ヤマセでの件をマダム・ルゥルゥから聞いたけど」

「……ああ」

 シズネは、マダムやユーリアからこれまでのハルカに関する、知ることを聞き出していた。

「やはり、贖罪を求めて無理難題を吹っ掛けてきたみたいだな」

「ああ。できれば、今すぐにでもヤマセへの食料供給を止めてやろうかと思ったよ」

 ハルカがウミワシ通商にいたころ、ヤマセ所属の飛行船を襲撃して物資を奪う手伝いをした。

 その時の償いを求めて、生存がハッキリしている彼女に、ヤマセは無理難題を吹っ掛けた。

「その際、ハルカはヤマセの要求をのむつもりだったそうだと」

 カスガは表情を曇らせる。

 

「償いは確かに必要だろう。でも、それにばかりとらわれて、そのためなら何でもすると加減をしなくなるのが心配だ」

 

「あの子の心は、償いという牢獄に、囚われたままだね」

 

 カスガたちは心配しているのだ。

 償いのためだ、贖罪のためだ。

 そのことに囚われて、際限なく要求をのんでいき、自分を殺してしまわないか。

 

「まあ、この件に関しては、待つしかないな」

 

「どうしたんだい?てっきり今すぐ飛び出していくかとおもったんだけど」

「その件については、相手がいるからね。わしらでは、どうにもできん。それに……」

 カスガは、静かに言う。

 

「深い傷、傷ついた心、辛い記憶。あらゆることを解決することができるのは、結局のところ時間しかないのだからな」

 

 彼らは、羽衣丸が去っていった方角を見つめる。

「彼女が心の整理をつけるまで、待つほかあるまい。そして今度は、彼女をしっかり支えていこう」

「そうだね」

「ええ」

 そして、またハルカに会える日に想いを馳せ、彼らは空港を後にした。

 

 

 

 

 

「以上が、今回の戦果になります」

 ヒデアキはイケスカに帰還後、目の前に座る主人、茶色の大きなコートに、白色のシャツ、黒のズボンを身に着けた男性に報告を行っていた。

「なるほど。43乙型をもって、桜花の安全な無人使用にめどが立ったな」

「はい。あれをさらに性能向上させ、大量生産できれば、危険を冒さず、他都市への攻撃も可能かと」

「問題は、資金集めか。どうなっている?」

「空賊を使って物資を略奪し、売買した儲けで賄っております。十分な資金集めには、もう少し時間が必要かと」

「わかった。新型機や既存戦力の拡充は?」

「そちらも資金集めが問題ですが、確実に準備は進行しております」

 

「いいねえ~」

 

 主人はご機嫌な様子。

 

「ところで、1つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

「何だ?」

 

「なぜあなたは、あの悪魔を放置しているのでしょう?」

 

「……彼女を倒すには、確かな準備がいる。その際中だ」

「ですが、彼女を放置すれば」

「わかっている」

 彼は、ヒデアキの言葉を遮った。

 今回のハリマ襲撃作戦でも、あの悪魔やコトブキのせいで失敗している。

「今回のハリマ襲撃に関しては、当初の目的、無人兵器の試験は達成できたとみていい。下手にハリマを痛めつけすぎれば、我々が痛手を受ける」

「と、おっしゃいますと?」

「ハリマは、わがイケスカをしのぐ食料生産都市。もし襲撃で供給が滞れば、我々が次点だが、ハリマの供給量は並外れている。足りなくなった食料を巡り、争いが起こったとき、他都市がイケスカを襲撃してこないとも限らない。戦力が整っていない今、下手な争いは避けたい。これくらいが落としどころだろう」

「なるほど」

「それと、例の悪魔について。排除したいのはやまやまだが、こちらはまだ戦力の再編中。もう少し待つべきだ」

「そうですか……。ところで、一つ気になることが」

 主人は先を促す。

 

「ハリマ襲撃の際、彼らは桜花の発射基地を特定し、爆撃を行ってきました。先日の橘花の件といい、あやつらはどうやって対策を講じているのでしょう?」

 

「……あちらにも、遺産に詳しい人間がいるとしか考えられない」

 

「では、即刻排除すべきです!」

 

 焦るヒデアキを、彼は制する。

 

「まあ待て。いかに知識があろうとも、研究も開発も行っている我々は先を行っている。やつらができるのは精々対抗まで。先を越される心配はない。それより、戦力の再編を急いでくれ」

 

 主人は、笑顔で言った。

 

「みんなの、平和な空のために、ね」

 

「は、かしこまりました」

 ヒデアキは返事をすると、準備のため部屋から出る。

 

 

 

 ドアが閉まるのを見送った彼は、椅子から腰を上げ、窓から外を眺める。

 イサオタワーから見下ろす、眼下の町。

 今は落ち着きを取り戻しつつあるとはいえ、まだ道半ば。

「遺産に詳しい人間となると……」

 彼は一人考え事をしてから、つぶやくように言う。

 

「やはり、君なのか。……ハルカ」

 

 ヒデアキの話を聞いたときから、彼には見当がついていた。

 

「そこまでして、我々の、いや……。イサオ様の理想。平和な空の実現を邪魔するのか」

 

 ため息を吐きだす。

 

「まあ、もうしばらく自由にしておくがいい。時が来たら、私が君を排除する。首を洗って待っているがいいさ。なあ……、ハルカ」

 

 彼一人しかいない部屋の中で、彼は静かにつぶやき、確かに意志を固めたのだった。

 




ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
第7章はここまでとなります。


長く引きづって来た主人公の疑惑が、ようやく明かせた章でした。

今回は空戦場面が少なかったので、少し退屈気味だったかもしれません。
内容が内容だったので、面白く書けているか不安ですが、面白く読んで頂けたら
幸いです。

次の章がいつになるかはわかりませんが、次章が始まり
ましたら、またよろしくお願いいたします。
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