今回は作中に登場した銀河になります。
照明の落とされた羽衣丸の船内を、コトブキ飛行隊のキリエ、チカは静かに歩き、目的地である格納庫へと足を踏み入れる。
そのとき、格納庫内の明かりが一斉に点灯し、一角を明るく照らした。
そこにいたのは……。
「おう、てめえら!さぼらずよく来たな!」
この場に2人を呼び出した張本人、ナツオ整備班長はそばに置いた黒板を拳で殴りながら言い放った。
「それじゃあ、ナツオ整備班長の戦闘機解説講座、開講だああああ!」
ナツオ整備班長の戦闘機解説講座。その名の通り、ナツオ整備班長が戦闘機、もとい飛行機について懇切丁寧に解説してくれる講座である。
「じゃあ、飛行機乗りのくせに、飛行機のことをなんにも知らないお前たちのために、この私が特別に教育してやる!ありがたく思え!」
「「は~い」」
「……はあ」
「って班長、どうしたの?ため息なんてついて」
「以前の桜花の解説でもため息はいていたよね?また嫌いな機体の解説なの?」
以前の桜花の解説みたく、どんな飛行機も愛してやまないナツオがため息を吐くことに、キリエたちは違和感を抱く。
「いやな……。以前の桜花と違って、今回はまともな飛行機の解説なんだがな」
「なんだけど?」
「今回の解説は、爆・撃・機!の解説なんだよ!」
「ああ、富嶽の際言いにくそうにしていたもんね、班長」
以前あった富嶽の解説のおり、爆撃機という言葉を言いにくそうにしていたのをキリエは思い出す。
「やかましい!こうなったら仕方ねえ。お前たち、腹くくれ!」
「くくるのは班長じゃない?」
「そうそう」
「だまらっしゃい!」
ナツオ班長はわざとらしく咳払いをする。
「じゃあ、今回解説するのは陸上爆、撃、機、の銀河な」
「桜花を積んできたあの爆撃機だよね?にしても、爆撃機というわりに、随分細身だね」
「見た目は双発戦闘機だよね。爆撃機の割に足が速かったり、追いつくのに少し苦戦していたよね」
「まあな。銀河はユーハングの海軍の爆撃機で、とにかく高性能を求めた機体だったんだ」
「爆撃機なのに?」
「海軍は、海を渡って遠くまで飛べて脚の速い機体を求めた。九六式陸攻や、その後継の一式陸攻が作られ、性能も良好だった。ただ、これらはあくまで、攻撃機だったがな」
「性能がよかったならさあ、何で銀河を作ったわけ?」
「ユーハングの世界で当時、他の国では大型の爆撃機が猛威を振るっていた。それを見た海軍が、陸上基地から発進する陸上機には、双発の爆撃機が必要だって考えたわけだ」
「他の場所で有効性がわかっていたんだ」
「ああ。戦闘機無用論が唱えられた九六式陸攻の戦訓を考えて、次作る機体には、戦闘機を振り切れる早い脚。遠くまで飛べる航続距離。で、海軍で爆撃機っていえば急降下爆撃ができることをさす。また、雷撃も可能なこと。それらに基づいて計画されたのが、十五試双発陸上爆撃機。後の銀河なわけだ」
「なんというか、急降下爆撃のできる一式陸攻みたいなもの?」
「まあ、ザックリいうとそういう感じなんだが、正確には急降下爆撃の能力を付与した上で、一式陸攻を越えることを目指した。正確な要求性能は、以下のものだ」
1. スタミナ抜群(一式陸攻と同等の航続力を持つこと)
2. 速い脚(零式艦上戦闘機と同等の速力を発揮可能なこと)
3. 高い攻撃力(雷撃並びに1t爆弾での急降下攻撃が可能なこと)
4. 短い距離で飛べる(離陸滑走距離600m以内)
「なんというか?」
「……無理じゃない?」
「まあ、要求は厳しいわな」
「だって、爆撃機なのに零戦と速度同等とか」
「一式陸攻と同等の要求の上に急降下できることとか」
「まあ、簡単な要求でないわな」
キリエとチカはあきれ顔を浮かべ、ナツオ班長もため息を吐きだす。
「こんな無茶な要求、一体どこの会社が引き受けるっていうのさ?」
「銀河は零戦や隼みたいな、民間開発じゃないぞ」
「え?じゃあ、どこが作ったの?」
「銀河を作ったのは、海軍の航空関連技術の統括を行う部署、海軍航空技術廠。略して空技廠。本編の戦闘機講座で解説した、彗星を作ったのも空技廠だ。つまり銀河は、使う海軍自身が、自分達で目標を定めて、自分達で作った爆撃機。だからさっきの要求性能っていうのは、内部で、こんなの作りましょうよっていう目標みたいなものだったんだ」
「そうなんだ」
「だが、目標を作ったからには実現させたい。特に空技廠は高性能志向だったからな」
「それって、自然なことなんじゃないの?」
「まあ、それは……。後にわかる」
キリエとチカは首をかしげる。
「さっき言ったように、こんな高い要求性能の達成は簡単じゃない。まず、その時採用されているエンジンでは、実現できなかった」
「なんで?」
「爆撃機のエンジンっていうのは、直径が大きく、サイズも大きいものが多い。だが、そんなエンジン積んだら、空気抵抗が大きくなる。かといって、小型のエンジンでは、必要な馬力の出るものがなかった」
「ふむふむ」
「それでも、なんとかこの高い要求を達成するために空技廠は考えた。そのためには、徹底的な軽量化と空気抵抗の低減が必要だとわかった」
「馬力が足りないなら、抵抗を減らして速度アップを狙ったんだね」
「そういうこと。だがそれでも、エンジンをまず決めないといけない。彼らが求めたのは、直径が小さい、小型高馬力のエンジンだった」
「でも、それってなかったんじゃ……」
「あった」
「あったの!?」
「どこに!?」
キリエとチカは驚く。
「といっても、まだ正式採用されていない、試験中のエンジンだったがな。空技廠が目を付けたのが、試験中の新型エンジン、誉エンジンだ」
「疾風や紫電改のエンジンだよね?」
「ああ」
「でも、まだ試験中なんでしょ?」
「その通りだ。新しい機体には、すでに信頼性のあるエンジンを乗せるのが普通だ。機体が試作である上に、エンジンまで試作だと、エンジンが完成しなかった場合、機体もエンジンと一緒に没となってしまうし、仮に完成しても、信頼性に難がある。でも、この高い要求性能を実現するには、誉以外選択肢がなかったんだ」
「で、結局積んだわけ?」
「ああ。因みに、誉を海軍で最初に積んだのは、この銀河だ。それに加えて、他にも色んな試みがされた」
「どんな?」
「空気抵抗を減らすため、一式陸攻に比べ、胴体幅を縮めてスリムにした。また、爆弾を収めるために爆弾倉も彗星同様に設置。そのスリムな胴体で一式陸攻と同等の航続距離を目指したから、胴体内や主翼内にいくつもの燃料タンクが設けられた。防弾装備として、操縦席後方に防弾板を設けたり、自動防漏タンクの設置。さらに自動消火装置の装備」
「かなり良くなったんじゃない?」
「まあな。で、完成した試作機は、掲げた要求をほぼ満たすことに成功した」
「凄い!」
「あんな無理難題をこなすなんて!」
キリエとチカは驚きを隠せない。
「この高性能ぶりは凄い!それでめでたく量産開始、……っていきたかったんだが、ここで問題が露呈してな」
「……どんな」
「まず、空技廠が高性能志向っていうのは、さっき言ったよな?」
「うん」
「とにかく高性能を目指すから、そのためなら採用例のないエンジンや技術も使う。今回使われた誉エンジンは、水メタノール噴射装置を搭載した新型。新機軸を盛り込んだ上に、初めての2000馬力級エンジンだけに、故障が頻発。整備性も悪く、まだ手に余るものだった。加えて、徹底的な軽量化を行うために、機体の桁の隅から隅まで、強度上問題ないところに零戦同様穴があけられていた」
「うわ~」
「高性能を目指すために、とにかく凝った仕様で作りたがることが多くてな。結果、複雑な機体が出来上がる。この機体の生産を行うことになった中島飛行機は、銀河を生産するにあたり、そのままじゃ量産できないからと、200か所にも及ぶ設計変更が行われ、結果量産開始が遅れた。その複雑さは、穴をあけまくって軽量化した零戦が簡便といわれるほどだった」
「相当だったんだね……」
「まあ、なんやかんやあって、設計変更を行ったものの、それでも量産にはむかなかった。なんとか量産が開始された後も、依然課題は多かった」
「……どんな?」
「キリエ、一式陸攻の搭乗員は何人だ?」
「え~っと……」
「大体、7~8人くらいだ」
「ああ、長い距離飛ぶから交代要員いるもんね、パイロットとか」
「では、銀河は?」
「同じじゃないの?双発の爆撃機だし」
「……3人だ」
「……へ?」
キリエとチカは固まる。
「3人だ」
「なんで!?少なくない!?」
「少ないな」
「交代とかできなくない?それとも、パイロットは2人とか?」
「……1人だ」
「1人で交代なしで5000kmも飛ぶの!?」
「お尻が死んじゃう!?」
2人は悲痛な声で言う。
「人数減らしたから交代はできず、乗員一人あたりの仕事は増えた。まあ、パイロットについては、一応対策はあった。リクライニング式の操縦座席つけたり、流星と同様にオーパイ。オートパイロットつけたり」
「オッパイオッパイ!」
「……チカ、消し炭になりたいか?」
「嫌です、もう口にしません!?」
背後の250kg爆弾に手をかけるナツオの怖さに、チカは叫ぶように言う。
「ていうか、双発の爆撃機でしょう?なんでそんなに人減らしたの?」
「人を減らしたのは、とにかく空気抵抗を減らすために、胴体を細く絞るためだったんだ」
「ああ、人が多いと」
「それだけスペースとるもんね」
「そういうこと。一式陸攻は、空気抵抗を考えて葉巻型の形状になったんだが、如何せん太くてな。だから細くしようと考えた。因みに、銀河の胴体の幅は、ハルカの零戦と変わらない」
「細い!」
「狭い!」
「まあそうだわな。そのために、一式陸攻ではできた乗員の機内の行き来ができなくなった。だから、機内で乗員同士のやり取りは無線でやっていた。んで、なんとか設計変更も終わり、作りにくいが生産も始まった」
「これで活躍だね!?」
ナツオはため息を吐きだす。
「そういいたいんだが、実は活躍できなかった。その理由の一つが、量産機は試作機に比べ性能が落ちたことだ」
「なんで?」
「銀河は、確かにカタログスペック上は高性能だったし、試作機もほぼその要求を満たしたんだが、この性能を発揮するためには、必須の条件があった」
「必須の条件?」
「ベテランパイロットが乗ること。ベテランの工員が製造を行うこと。この二つだ」
「なんでそんな条件が必須なの?」
キリエが首をかしげる。
「確かに試作機では高性能を示した銀河だったが、その試作機は非常に精度の高いパーツで作られていたんだ。が、設計変更に手こずって量産開始された時期には、ベテランの工員は殆ど戦場に連れていかれ、未熟な工員しか残っていなかった。そんな奴らでは高精度のパーツなんて作れない。結果、量産機では性能割れを起こした」
「ベテランが作れば性能が出たんだね」
「まあ、これは他の機体もそうだがな……。だが、何とか生産して戦場に送っても、そこでも問題続きだった」
「……また?」
「銀河の高性能を支えたのは、誉エンジンだった。だが、なにせ正式採用間もないエンジンだったから、色々不具合が発生。故障が多発した。もっとも、これは試験飛行のときもそうだった」
「ああ、まだ新しいから……」
「わからないことが多いもんね」
「新機軸を採用した新型エンジンだったからな、まだ不具合が解消しきれてなかったんだよ。そんな信頼性に難のあるエンジン積んでいたから、稼働率が悪化した」
「うわ~」
「それに、扱いも大変だった。銀河が、3人乗りっていうのは、さっき言ったよな」
「少ないよね……」
「そう。ベテランの乗員が使えば問題なかったんだが、銀河が戦場に送られたときっていうのは、ベテランパイロットはもう殆どいなくて、実際乗ったのは訓練終わって間もない新人ばかりだった」
「新人が交代なしで……」
「5000kmも飛ぶの?」
「いくらオーパイ積んでいるとはいえ、交代はできない上に、翼面荷重が高くて扱いにくい。まだ一式陸攻のほうが扱いやすかったって声もあったくらいだ。新人では扱いが難しくて、離着陸時によく機首にある偵察員席をぶつける事故が多発。これにより銀河は、偵察員殺し。又は、後家づくりという不名誉なあだ名をつけられることになった」
「なんか、当初の想定が……」
「すっかり破綻しているよね?」
「そうだよなあ。おまけに、銀河が戦場に姿を表したときっていうのは、もはや爆撃機が活躍できる機会はほとんどなく、後に特攻機として使われることになる」
「……高性能機の末路が」
「悲惨だね……」
「あと、その構造の複雑さや誉エンジンの故障の多さも相まって整備が大変でな。エンジンは疾風や紫電改も使っていたから余裕がなかった。エンジンに余裕がなく、整備も大変。そんな銀河を揶揄して、国破れて、銀河あり、なんて言われる始末だ」
「というかさ……」
「なんだ?」
「海軍はさ、なんでこんな飛行機の製造許可したの?」
「そうそう。民間にはあれこれ注文つけるのに」
「まあ、それは設計者が、空技廠だからっていうのがある」
「?」
「当時、民間企業は海軍に物申すことができなかった。だから、海軍の示す性能要求に従うしかなかった。で、その民間企業に示す要求性能を考えるところは、どこだと思う?」
「あ、もしかして」
「そう、海軍内部の空技廠だ。性能要求を決める役所に物申せる組織なんて、当時なかった。だから民間企業があれこれ注文つけられるのに対し、空技廠は自由にできた。言ってみれば、僕の考えた最強の飛行機、を実現できる集団だったわけだ。だから、カタログスペック上は優秀な機体ができた。だが、カタログスペックに現れていない、生産性や信頼性、整備性といった部分はあまり考慮されてない。だから、性能は優秀でも、こった複雑な構造の生産しにくい、信頼性に難のある機体が出来上がることが多かった」
「要するに……」
「好きにつくったわけ?」
「まあ、な……。まあ、彗星同様、良くも悪くも技術屋の作った機体。それが全てを表している。確かに性能は優秀だったが、それはあくまで機材としての性能であって、兵器として優秀かは別問題だ。戦場で使うには、彗星にせよ銀河にせよ、ガラスの工芸品のように繊細過ぎたんだよ」
「そう考えると、私たちの扱いに耐えれる隼って」
「兵器としては優秀だよね」
「まあ、お前たちの荒っぽい扱いでも平気なんだから、そうだな」
「やっぱ、隼っていいね!」
「ハヤブサ愛!」
ふと、ナツオ班長がイナーシャハンドルを2人に向けて言う。
「てめえら!荒っぽく扱っている自覚あるなら、少しは機体を労わりやがれ!整備班が、お前たちの扱いの荒さに頭痛めているの、知っているだろう!」
「「ごめんなさい!」」
「謝れっつってんじゃねえ!改善しろっていってんだ!」
「「はい!気を付けます!」」
「本当だな!次荒っぽく扱ったら、レオナの隼の脚に縛り付けて、空中散歩の刑だからな!?」
「うげ!?」
「返事は!?」
「「はい!」」
「よっし!これにて銀河の解説は終わりだ。やっぱ兵器たるもの、軍人の蛮用に耐えられなければいけないってこった」
「締めたね」
「強引だね」
「そんじゃ、また次回!歯みがけよ~!」
以上、今回登場した銀河の簡単な解説でした。
ちょっと酷評みたいな書き方になってしまいましたが、
調べた限りはこんな印象でした。
機動力を生かして攻撃を回避し、20mm機銃をお見舞いする
零戦といい、今回の銀河といい、液冷の彗星といい、
海軍は整備員にもパイロットにも工員にもベテランが
いることを前提にしたものを作りがちな印象です。
この点、新人でも扱いやすかった隼や、工数を減らして作りやすく
した疾風を有した陸軍とは異なりますね。
ただ、銀河を使わなければならないほど、自由博愛連合の残党はパイロット
不足なのでしょうかね。