どうも班長が気乗りしないようなので、軽めの内容になります。
照明の落とされた羽衣丸の船内を、コトブキ飛行隊のキリエ、チカは静かに歩き、目的地である格納庫へと足を踏み入れる。
そのとき、格納庫内の明かりが一斉に点灯し、一角を明るく照らした。
そこにいたのは……。
「おう、てめえら!さぼらずよく来たな!」
この場に2人を呼び出した張本人、ナツオ整備班長はそばに置いた黒板を拳で殴りながら言い放った。
「それじゃあ、ナツオ整備班長の戦闘機解説講座、開講だああああ!」
ナツオ整備班長の戦闘機解説講座。その名の通り、ナツオ整備班長が戦闘機、もとい飛行機について懇切丁寧に解説してくれる講座である。
「じゃあ、飛行機乗りのくせに、飛行機のことをなんにも知らないお前たちのために、この私が特別に教育してやる!ありがたく思え!」
「「は~い」」
「……はあ」
開始を宣言したにも関わらず、直後にナツオは気だるそうにため息を吐きだした。
「班長」
「どうしたの?やる気なさそうじゃん」
「だってなあ……」
ナツオはまたため息を吐きだす。
「今回の解説の対象が、やる気がでないものなんだわ」
「でも班長、これも仕事でしょう?」
「わかっている!だがな、またこんなものの解説を頼んできやがった作者の頭に、イナーシャハンドルぶっさして脳を再始動してやりたい気分だ!前回コテンパンにしたっていうのに、まだ足りなかったのか、この作者は!」
「でも、ここにいるんだから班長は引き受けたんでしょ?」
「やかましい!こうなったら、ちゃっちゃとおわらせるぞ!」
「「ほ~い」」
ナツオはわざとらしく咳払いをする。
「で、今回解説するのは、特別攻撃機の桜花22型と43乙型だ」
「ハリマ襲撃で使われた桜花だね」
「というかこれって、イヅルマで使われたものと違うの?」
「ああ。作中でハルカやカスガ議長も言っているが、桜花はユーハングが、悪化していく一方である戦局を覆す、起死回生の一手として作ったものだ」
「そうだったね」
「彼女の祖父が存在してはいけないものって」
「忌々しい名とか、最悪の方法とか」
「まあ、あんな使い方するんじゃな。まして、この作中のイジツと違い、ユーハングでは有人で使っていたんだからな。その桜花を運ぶ一式陸攻の護衛を任されていたんじゃ、祖父がそういうのも無理ないわな」
「そうだね……」
「イヅルマで使われたのは、桜花11型。最初の機体で、固体燃料ロケットで飛翔するものだ。だが、固体燃料は燃え尽きるまでの時間が短かったから、速度は出たんだが、航続距離が40km程度と短かい」
「だから、一式陸攻が運んでいたの?」
「ああ。桜花は自力飛行ができず、滑空しかできない。だから一式陸攻が運んでいたんだが、目標まで40kmという位置まで運ぶには、大きな危険を伴った。桜花を搭載すれば、800kgもの炸薬を積んでいることもあって、重量増加で速度や運動性の低下は避けられない。だから敵機に捕捉されて、目標到達前に桜花もろとも陸攻が落とされることが多かった」
「イヅルマでは、その母機を狙う戦法で戦ったんだよね?」
「そういうこと。だから母機の速度低下の問題や、桜花自体の航続距離の短さの問題を解決すべく、運ぶ機体を銀河に変え、桜花にも改造機が作られた。これが、22型だ」
「今回のハリマ襲撃で使われたんだよね?何が違うの?」
「違いはいくつかある。主翼、胴体、エンジンだ。銀河の狭い着陸脚の間に桜花を収めるために、主翼幅を短縮。銀河の速度低下を抑えるために炸薬を減らし、さらに航続距離を伸ばすためにエンジンを換装した」
「たしか、この胴体後ろの出っ張りでハルカは察したんだよね?」
「ああ。これはエンジンに必要な空気の取り入れ口だ。22型は、エンジンをモータージェットエンジン、ツ11に換装したことで、航続距離は120kmくらいにまで伸びた」
「これなら少しは遠くから切り離せるんじゃない?」
「ああ。あと、敵さんのレーダー波を逆探知して居場所を突き止める、二式空七号無線電話機二型が主翼内に装備された」
「これなら離れた位置の敵も大丈夫だね!」
「だが、22型も問題があった。主翼を左右で合わせて1m近く短くしたことで、操縦性が悪化した。それに、ツ11は空気の薄い高空ではエンジンの始動ができなかったから、基地を離陸する前にエンジンを始動させておく必要があった」
「エンジンかけわすれたら大変だね……」
「もっとも、エンジンの製造が滞ったから生産数も少なく、実戦で使用されることはなかった」
「そうなんだ」
「そんで、桜花を使うたび、陸攻や銀河を失っていてはたまらないし準備もいる。それに、使用できる桜花の数が、陸攻や銀河の数に限られてしまう。何より母機を狙われると桜花も一緒に失われるという脆弱性はどうしようもなかった。そこで、桜花単体で離陸ができることが求められた。この求めでつくられたのが43乙型だ」
「ハリマ襲撃のとき、一番の脅威って言われたやつだね」
「ハルカが深刻な顔していたよね」
「まあな。この43乙型の最大の特徴は、300km近い航続距離と、自力で離陸できるってことだ。エンジンを橘花と同じネ20に換装。これを専用の発射台、カタパルトを使って撃ちだすんだ。また先の二つに比べ主翼面積が広がったことで、自力で飛行しての移動が可能になった」
「なんというか」
「飛行機、だよね?」
「ああ、飛行機に近づいたな。何より、43乙型は母機を必要としない。だから、母機を攻撃すればいいって手段が使えなくなった」
「攻撃する母機がないもんね」
「だから、地上に基地をつくって発射できる。一応狭い洞窟でも収納しておけるように、主翼は折り畳み式になっていた。さらに突入時に速度がつくよう、翼端が火薬で切り離せるようになっていた」
「翼の形が変わるの!」
「なんか少し凝っているね」
「とはいえ、こっちは地上の発射基地は作られたんだが、肝心の桜花は生産を始める前に戦いが終わってしまってな」
「実際には使われなかったんだね」
「だからこそ、イジツで使われたことにカスガ議長は驚いているわけだ」
「悪夢が再来したようなもんだもんね……」
「まあ、議長たちが見たものと違い、イジツの桜花は自動操縦装置で自動化されているがな」
「こんなものが有人でイジツに登場した日には……」
「……ねえ」
キリエとチカは表情を曇らせる。
「今後、もしさらに速度や航続距離が延びれば、都市から都市へと、爆撃機を使うまでもなく攻撃ができる可能性がある。そうなれば、都市にとって大きな脅威だ」
「ああ~、人を使わずに沢山飛んできて攻撃してくるなんて、怖いよね~」
「現に、今回のハリマ襲撃の際、第一波は自警団も護衛隊もまるで対応できていない」
「いきなりあんなにこられたんじゃ……」
「無理だよ……」
「自由博愛連合の残党も、イサオが率いていた頃に比べれば、色んな面で劣る。でも、彼の理想を実現するために、資源を極力消費せず、効果的なものが必要になった。今回の43乙型をもって、桜花の戦力化には目途がついただろうな」
「私たち、こんなのと戦っていかないといけないの?」
「空賊相手の方がよっぽど楽だよ!」
「仕方ないだろう?なんてったって、荒野のコトブキ飛行隊、という題名を一応冠しているんだ。お前たちが戦わないと始まらないだろう?」
「班長、そんなこと言っちゃっていいの?」
「今更だろ?」
「聞くんじゃなかった……。というかさ、私たち隼のままでいいの?」
「何を言うか、キリエ!キリエには、愛がないのか!」
「チカ、急に何を言いだすの?」
「愛だ!ハヤブサ愛!愛があれば、何とかなる!そうだろう!?」
「え、あ……、うん」
突然沸いたお湯のように熱いチカに、キリエは戸惑う。
「まあ、お前たちには隼がいいんじゃねえか?」
「そうなの班長?」
「くるくる回って軽い機体を好むお前たちには、翼面荷重が高い疾風や紫電に紫電改、鍾馗は合わない。かとって、飛燕なんて液冷の機体は維持するだけで大変だ。となると、零戦か隼か五式戦になるが、五式はイケスカしか使っていないし流通量も多い方じゃない。それに、機体のバランスから離陸の際には少し気をつかう。零戦にしたって、格闘戦がやりやすいのは21型と22型だけだ。もっとも、零戦の20mm機銃は弾が少ないから、実質7.7mm機銃を主体に戦うことになる。今の隼が12.7mmと考えると、弾数が増えても威力は劣るが、いいのか?」
「そう考えると……」
「やっぱ隼だね」
「そういうことだ(もし高価な機体でも導入してみろ。こいつらの荒っぽい扱いで整備修理費用がかさんで、マダムからあたいが怒られる未来しか見えない……)」
「班長、何か言った?」
「何も言ってない。愛があるなら、最後まで貫いてみせろ!」
「そうだね!」
「ハヤブサ愛!」
「よっし、これで解説は以上だ!」
「……班長」
「なんだ?」
キリエは、班長が手にしているものが気になった。
「あ~、またしてもあたいにこんな解説を頼みやがった作者に、ちょっと物申しに行ってこようと思ってな!」
ナツオが手にしているのは、巨大なハンマーだった。
「そんじゃ、また次回だ。歯みがけよ~」
いうなり、ナツオは走り去っていった。
「それではみなさん、また次回」
「お会いしましょう!」
ナツオ班長が気乗りしないので、簡単な解説になりました。
それに加え、桜花22型や43乙型といった派生に関する資料が
少なく、わかることが少なかったのが大きいです。
22型は少数作られましたが、実戦で使用されず。
43乙型に至っては量産開始前に終戦。
使われずに済んで結果としてはよかったのでしょう。