荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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空賊の襲撃の中、整備班長のナツオはレオナたちを
探しに羽衣丸船内を行く。
そこには、キリエとチカ特製の料理を食べた結果、
苦しむ彼らの姿が……。

そして襲撃が止んだ後、レオナが見たものは……。


おまけ短編:沸き起こった好奇心とその代償 後編

 船内を歩く中、ナツオはサルーンのそばの廊下で人が倒れているのが目に入った。

「おい、大丈夫か?……って、レオナ!?」

 抱き起こしてみると、キリエが病気と言っていたレオナだった。

「ああ……、班長」

「どうした?キリエから病気で出られねえっていうから来てみれば」

 ナツオは驚いていた。

 いつものレオナに比べ、表情は明らかに暗く、どこかひどく疲弊しているように声も絶え絶えだ。

「いや……、キリエとチカが用意した料理を食べたら、あまりに辛くて、この有様に……、うぐっ!」

 直後、彼女はお腹を押さえながら走り去っていった。

「相当重症だな。残り2人は……」

 傍にあるサルーンのドアを開けると、ナツオたちは酒臭さに鼻をつまんだ。

 床に転がる大量の酒瓶を踏まないよう進むと、樽に抱き着きながら寝息を立てるザラがいた。

「ザラ、起きろ!」

 だがどれだけ揺すっても、彼女は寝息を立て続けるばかり。

 床に転がる酒瓶を見る限り、例え起きても操縦は無理だ。

「こりゃあ無理か……。となると……」

 ナツオは、並べられた椅子の上で気絶しているハルカに視線を向ける。

「おい、バケツに水をくめ!」

「へ?バケツに、ですか?」

「いいから!」

「うっす!」

 ナツオは部下に命じ、バケツに水をくませる。

「くみました!」

 部下からバケツを受け取ると、ナツオはそれをハルカの顔目掛けてぶっかけた。

 水の量の多かったのか、顔から下もずぶぬれになり、服が張り付いたことで彼女の体型がよくわかるようになった。

「……う」

 すると、ハルカの目がうっすらと開かれた。

「……あれ、私」

「気が付いたか?」

 彼女は声のした方向、ナツオ班長に顔を向ける。

 最初は焦点のあっていない虚ろな瞳が、徐々に生気を取り戻していく。

「あ、ナツオ班長。あれ、私今まで何を……」

「キリエが体調不良だっていうから探してみれば、サルーンで昼寝か?」

「体調不良?昼寝?……違いますよ!キリエさんとチカさんが出した料理を食べたらあまりに辛くて、そして水を頼んで出されたものを飲んだら、なお辛くて……」

「そんで、今まで気を失っていたわけか……」

 ナツオはため息を吐きだした。

 ふと、機銃が銃弾を放つ音を、何かが爆発したような音が響いた。

「時間がない!今空賊の襲撃を受けてんだ!」

 ハルカの表情が、一瞬で真剣なものに変わる。

「レイは?」

「出られる。いくぞ!」

 彼らは格納庫目指して駆け出した。

 

 

 

 

 ラハマ上空で空戦が繰り広げられる中、その空を舞う隼に乗るパイロットのケイトは、空賊のかる零戦21型を落としていく。

「1機撃墜」

『こちらも1機落としましたわ』

 編隊を組んでいるエンマも、落としたようだ。

 だが視界の端では、自警団の九七式戦闘機が落ちていくのが見える。

「相手は数を減らしてはいるが、厄介な機体がいる」

 彼女の視線の先で暴れているのは、2機の紫電改だ。

 高馬力エンジンに裏打ちされた速度、充実した防弾装備による堅牢性、20mm機銃4丁という大火力、自動空戦フラップを装備し格闘戦にも対応できる。

 ラハマ自警団がかつてほどお飾りでなくなったとはいえども、九七式戦闘機とでは性能に開きがありすぎる。

 唯一対抗できそうなのは、町の守り神と呼ばれる雷電だが、パイロットの腕の問題もあり2機を相手にするのは難しい。

 地上に設置されている対空機銃は、紫電改の速度に対応できていないし、低高度にこないから狙いにくい。

『社会のダニが、なんであのような高級品を!忌々しい!』

「私たちでなんとかするしかない」

『わかっておりますけど……』

 レオナとザラはなにやら不調で出られず、キリエとチカは撃墜された上に逃亡。

 自警団が数を減らしている今、コトブキの2人でなんとかするしかない。

 2人は標的を紫電改に変え、2機と距離をつめる。

 突如、紫電改が機首を下げた。

『逃がしません!』

 エンマも機首をさげ、ケイトもあとをおって急降下に入った。

 速度が増していく中、ケイトは慎重に照準眼鏡を覗き、紫電改に狙いを定める。

 すると、突如ジュラルミン製の主翼が波打ち、機体が振動し始めた。

「エンマ!機首を上げて!」

『了解!』

 2人は上昇に転じた。

 先ほどから、何度紫電改の背後をとっても、急降下で引き離されてしまう。

 隼1型は軽量な機体で、高い格闘戦性能を有したが、その反動として機体強度が脆弱だ。

 急降下で引き離されたら、3型はともかく、隼1型は追いつけない。

 そして、上昇に転じた2機の背後をとった紫電改の主翼の20mm機銃が、咆哮を上げた。

 隼の12.7mm機銃を越える重い銃撃音が空気を揺さぶり、風防越しでも耳に響く。

 ふと、ケイトは機体が振動したのを感じた。

 紫電改が放った20mm機銃の弾が右主翼を撃ち抜き、燃料が漏洩して霧状に軌跡を引いている。

 20mm機銃の破壊力か、被弾による火災は直ぐに収まったが漏洩がなかなか止まらない。

 彼女は舵を切って右へ旋回した。

 その瞬間、紫電改が2機ともケイトの方を向いた。

『ケイト!』

 被弾した方から片付けるつもりだ。

 そのまま小回りを利かせて旋回を続けようとした瞬間、けん制するように紫電改が発砲してきた。

 ケイトは旋回をやめ、反対に舵を切った。

 その瞬間、彼女は自身の失策に気付いた。相手は2機。もう片方の紫電改の射線上にケイトは来てしまった。

 誘い込まれたと気づいたときには遅く、20mm機銃の銃口が鈍く輝く。

 やられる。そう直感し、体に無意識に力を込めた。

 そのとき、背後から爆発音が聞こえた。

 背後にいた紫電改が、火を吹きながら落ちていく。

 その落ち行く紫電改の背後を、1機の蒼い翼の零戦が駆け抜けていく。

「……ハルカ!」

 ハルカの零戦はもう1機の紫電改の背後につく。すると、紫電改は機首を下げて急降下に入った。

 彼女も後を追って降下に入った。

 普通の零戦ならこれで引き離せるが、彼女が乗るのは急降下速度を上げた52型丙。

 まして、高高度から降下に入ったわけではないので、下げられる高度はしれている。

 引き離すことはできず、紫電改が先に機首を上げる。

 それを見越していたように、零戦の機首の13.2mm機銃と主翼の20mm機銃計3門が火を吹き、紫電改の進路上に銃弾を一斉に放った。

 零戦の放った銃弾は紫電改にいくつもの穴を穿ち、瞬く間に火災が発生。まもなく高度を下げていった。

 周囲を見ると、空賊の他の機体は逃げていくのが見える。

『こちらラハマ管制塔、空賊の撤退を確認しました。帰還してください』

「了解」

 3人はラハマの滑走路へと向かった。

 

 

 

 

「ふう……」

 ケイトは隼から下りると、ハルカの零戦のもとに向かう。

 丁度、零戦のエンジンが止まり、風防を開けて彼女が下りてきた。

「お疲れ」

「あ、ケイトさん。お疲れ様です」

 彼女は微笑みながら返した。

「危機を救ってくれて、感謝する」

「いいですよ、気にしなくて」

「いえ、数の上で不利だったので、助かりましたわ」

 エンマもその場にやってきた。

「にしても、来るのが少し遅かったではありませんこと?」

「ああ、ちょっと色々と」

 ふと、突如ハルカはお腹を押さえ、表情に苦しみが滲んできた。

「どうかしたのか?」

「いえ、ちょっと、キリエさんと、チカさんに出された、料理、が……」

 次第に、彼女の表情がゆがんできた。

「すいません、ちょっと……」

 彼女はお腹を押さえながら、滑走路のすぐそばに係留されている羽衣丸へとかけていった。

「……キリエとチカが原因か」

「一体、どんな料理を食べたらああなるのかしら?」

 2人は怪訝なまなざしを浮かべながら、彼女を追って歩きながら羽衣丸へ向かっていった。

 

 

 

 

「な、なんなんだ。これは……」

 羽衣丸から降り立ったレオナが目撃したのは、撃墜された自身とザラの隼。

 被弾したのか主翼には穴が開いており、風防は開け放たれ操縦者はすでにいない。

「あ、隊長さん」

 声のする方向を見ると、ラハマ自警団長がいた。

「調子が凄く悪かったのか?紫電改相手とはいえ、コトブキの隊長さんに副隊長さんがあっという間に落とされるなんて」

 自警団長は不思議そうな顔をする。

 コトブキ飛行隊といえば、ゴロツキ飛行隊と言われるが、凄腕とも知られる。

 その隊長に副隊長が瞬く間に落とされれば、そうも思うだろう。

 今回は、キリエとチカが代わりに乗っていたことを団長はしらないはず。

「紫電改に?」

「どうしたんだ?ショックで記憶があいまいなのかな?まあ、最後はあの蒼い翼の子が撃墜してくれたからよかったけど」

 

 瞬間、レオナの中で、何かが切れた音がした。

 

 人に激辛料理を食べさせて腹痛に追いやり、人の隼を借りて出撃して機体に穴開けた上に瞬く間に撃墜されて、機体を乗り捨てて。

 レオナからあふれ出る怒りのオーラに、自警団長は思わず顔が引きつった。

 

 

 

 

 

 空戦のあとは、整備は整備班に任せ、パイロットは各々自由に時間を過ごす。

 エンマは羽衣丸であてがわれた自室で紅茶を嗜み、ケイトはぼ~っとしている。

 そんな中、突如大きな轟音と共に、部屋のドアが吹っ飛ばされた。

「ななな、なんですの!?」

 突然の衝撃に、エンマは服に紅茶が飛んでいることなど気にもとめず、吹っ飛んだドアの向こうを見る。

 ドアの向こうにいた人物は、踏みぬかんばかりに足に力を込め、床を踏みしめながら、一歩一歩ゆっくりと、部屋に入ってきた。

 

 

「キリエとチカのバカはどこだ!あのバカ2人はどこにいる!?」

 

 

 そこにいたのは、両手に機関銃をもって武装し、鬼の形相を浮かべるレオナだった。

 背後には、怒りを爆発させた隊長に戸惑うザラにハルカの姿があった。

 

 

「キリエ!チカ!出てこい!」

 

 

 エンマとケイトは顔を見合わせる。

 このままでは、出てこないなら、とレオナが手に持っている銃を発砲しかねない。

 2人は心の中でキリエとチカに詫び、レオナに言った。

 

「ふ、2人なら、何やらイジツで一番甘いものを探す旅に出ると……」

 

「あの空戦の最中、自警団の赤とんぼで飛んでいった」

 

「……逃がすか!2人とも!行くぞ!」

「ちょ!ちょっとレオナさん!?」

 レオナはハルカの首根っこをつかみ、引きずりながらどこかへ向かっていった。

 ザラはエンマとケイトに苦笑しながら軽く頭を下げ、2人を追った。

 

 

 

 

 

 荒野をあてもなく飛ぶ、1機の赤とんぼ。

 その後部席に座るチカは、操縦桿を握るキリエに話しかける。

「ねえ、どこまでいくのさ?」

「とりあえず、隠れられそうな場所」

「ならさあ、あの峡谷のあたりがいいんじゃない?」

 チカが指さした方角には、切り立った崖と崖に挟まれた道、細い渓谷が走っている場所がある。

「そうだね。このまま飛んでいたら、もしも追ってきたとき見つかっちゃうし」

 彼女たちが飛んでいるのは、荒野のど真ん中だ。

 まして、隠れられる雲も今日は少ない。

 赤とんぼなら滑走距離が短いから、峡谷の間に降りても離陸は容易だ。

「じゃあそうしようか」

 キリエは舵をきり、峡谷へ機首を向ける。

 チカは後ろを向き、後方の警戒にあたる。

 照り付ける太陽がまぶしい。何気なく太陽を見上げ、まぶしい光にまぶたを下げる。

 そのとき、太陽に何か鳥のような影が見えた気がした。

「あれ?」

「どうかした?」

「いや、太陽の中に、鳥のようなものが……」

「気のせいじゃないの?」

「そっかなあ……」

 チカはもう一度確認する。

 だが、その鳥は徐々に姿がおおきくなり、同時に聞きなれた栄エンジンの爆音がとどろく。

「気のせいじゃないよ!あれ戦闘機だよ!」

「え!空賊!?」

 太陽を背にして迫ってきたそれは、急降下の速度を乗せ、猛スピードでキリエとチカの乗る赤とんぼを追い越した。

 彼女たちは、その戦闘機の塗装を見て唖然とした。

 主翼の大部分が暗い蒼色で塗られ、その中には白色を縁取った水色の丸が描かれている、零戦52型丙。

「ちょ!あれハルカの零戦じゃん!彼女、気絶していたはずじゃ」

「キリエがジュースの配合間違えたから、目が覚めたんじゃないの?」

「なんだと!?」

 零戦は赤とんぼを追い越すと旋回し、速度を落として赤とんぼの隣を並走する。

 風防の向こうには、見慣れた顔があった。

 長い黒髪に、飛行眼鏡。

「ハルカじゃん……」

 その表情は、少しばかり怒りの色が滲んでいるのが遠目でもわかる。

 キリエとチカは冷や汗が流れる。

 赤とんぼは便利な飛行機だし扱いやすいが、旋回半径以外、速度をはじめあらゆる性能は零戦の方が上だ。

 おまけに、以前アレンを乗せていた時襲撃してきた紫電改と違い、零戦はもともと中低速度域での性能を優先して作られている。

 何より、赤とんぼには武装がない。

 アレンを後ろに乗せたときは、彼が機銃を持ってきたからなんとか応戦できたが、通常は積んでいない。無論、今もだ。

 ふと、機上電話から声がした。

 

『隣を飛んでいる、ラハマ所属の赤とんぼ。キリエさん、チカさんですね?』

 

 2人は黙ったまま返答しない。

 

『キリエさん、チカさん、返事をしてください』

 

 なおも2人は返答しない。

 

『なら一方的にしゃべりますよ。レオナさんからの伝言です。私は非常に怒っている。今すぐラハマへ帰ってこい。さもないと、……わかっていますね?』

 

 ハルカが満面の笑みを浮かべた。

 それが意味するところは、明白だった。

「ど、どどど、どうすんのさ!?」

「どうするったって……」

 こうも早く見つかるなど、2人にとっては想定外だった。

 だが、ハルカは元空賊。

 自警団かエンマ、ケイトから飛び立った方向を聞き出し、航路を推測して追ってきたのだろう。

 いかにキリエが凄腕飛行隊の一員といえど、自分は赤とんぼ、相手は零戦では勝負にならない。

 

『キリエさん、チカさん。今すぐラハマへ引き返してください。従わない場合は……』

 

 ハルカの零戦が動いた。

 機首を上げた直後、左へロール。瞬く間に赤とんぼの後ろについた。

 

 

 

 

 

 赤とんぼの後ろをとったハルカは、照準器に前方を飛ぶ赤とんぼをとらえる。

 機銃の安全装置を外し、スロットルレバーについている引き金に指をかける。

 

「キリエさん、チカさん。これが最後の警告です。今すぐラハマへ戻って下さい。……従わない場合は」

 

 直後、赤とんぼが動いた。

 旋回しながら高度を下げて速度を稼ぐ。

 その先には、峡谷が見える。

「峡谷へ逃げ込むつもりですか。……なら」

 ハルカも後を追う。

 峡谷へ逃げ込まれると面倒だ。

 彼女たちが直進し始めた瞬間を狙い、照準器のサークルに赤とんぼをとらえ、フットペダルで位置を少しずらし、引き金を引いた。

 機首の13.2mm機銃が咆哮を上げ、放たれた銃弾は赤とんぼの左主翼に命中した。

『いや~!撃った!撃ってきた!』

『ひえええええ!』

 機上電話から彼女たちの悲鳴が聞こえてくる。

「わかりましたか?こちらは本気です。……今すぐ」

 

『でも、レオナに絞られるのはもっといや~!』

 

 なおもキリエたちは逃亡を止めない。

 機首を下げ、高度を地面すれすれまで下げていく。

 そんなにいやなのだろうか?そもそも、隠れてもレオナの場合、ほとぼりが冷めるということなど、ありえるのだろうか。

 日数がたった分、怒りを買うだけではないだろうか。

 

『ハルカ、手加減は必要ないぞ!』

 

 機上電話から、今度はレオナの声が入る。

「……いいんですか?」

 

『かまわん、やれ』

 

 彼女はため息を吐きだす。

 彼女はスロットルレバーについている20mm機銃の安全装置を外し、発射ボタンに指をのせる。

「動かないでくださいよ……」

 主翼に装備された20mm機銃が放たれ、赤とんぼの左右の主翼を銃弾が突き抜けた。

『いやああああああ!20mmは勘弁して~!』

『死んじゃう!私たち死んじゃうから!』

「……やっぱ、20mmだと突き抜けちゃうんだな」

 全金属製でなく、一部構造材以外は木製骨格と布張りの赤とんぼは、機銃の弾を受けても簡単には落ちない。

 柔らかい布故に、機銃の弾が尽き抜けやすく致命傷になりにくい。

 だが、徐々に赤とんぼがふらつき始めた。

 いかに銃弾が抜けようとも、ダメージがないわけではない。

 ふと、彼女の横を追い越していく赤い機体が見えた。

 

『キリエ!チカ!見つけたぞ!』

 

 赤とんぼを追い越していったのは、エリート興業から借りた艦上爆撃機、彗星。

 操縦席に乗っているのはザラ、後部席はレオナがいる。

『げ!レオナ!』

 

『よくもあんな辛いものを食べさせてくれたな!おかげで何度トイレにこもったと思っている!?』

 

『あ、あれは、サービスで』

 

『過剰なサービスは余計だ!おまけに、私とザラの隼を持ち出した上に、主翼を穴だらけにして撃墜された挙句、自警団の赤とんぼを奪って逃走だと!?』

 

『奪ったんじゃないよ!』

『借りたんだよ!』

 

『どっちでもいい!お前たちが逃走した事実に変わりはない!あの辛さと痛みの恨み、そして隼の仇、ここではらさせてもらう!』

 

 彗星の後部席の風防が開き、旋回機銃が赤とんぼに向けられる。

 

『ちょ!レオナ待って!』

 

『待たん!覚悟しろ!』

 

 旋回機銃が火を吹き、赤とんぼの垂直尾翼を穴だらけにした。

『ちょ!ちょっと!このままじゃ落ちるって!』

『ハルカ!やれ!』

「へ~い」

 彼女は照準器を覗き、赤とんぼの左主翼に合わせる。

 引き金を引いた瞬間、3丁の機銃が一斉に放たれ、赤とんぼの左主翼に命中。

 主翼の構造材に命中したのか、翼が折れ曲がった。

『うおおおおおおおおおおおおお!』

 高度を下げていく赤とんぼ。すんでの所で持ち直したのか、なんとか車輪をつけて着陸したようだ。そこは、峡谷の入口のところだった。

 赤とんぼから下りた2人は、無線に向かって何か叫んでいる。

『しばらくそこで反省していろ。生きていたら回収する』

『ちょっと!食料も水もないんだよ!』

『安心しろ、食料はおいていく』

 彗星の爆弾倉が開き、何か荷物が落とされた。

『それで飢えをしのぐんだな』

 荷物にしがみつく2人。中身を空けて、さっそく口に運ぶ。

 直後、水を入れた水筒を手に水を一心不乱に飲んでいる。

『なにこのパンケーキ!辛すぎだって!』

『カレーも辛すぎだって!』

『私たちの味わった痛みを思い知るといい。それに、どんな反応するか興味もあったしな』

『水もう少し頂戴よ!少なすぎだって!』

『辛い物への挑戦だ。ハルカ、ザラ、引き上げるぞ』

「……了解」

『は~い』

 零戦と彗星は、ラハマへ機首を向けた。

『こら~!おいていくな!』

『薄情もの~』

 2人の叫びを無視し、彼らはラハマへと帰っていった。

 

 

 

 

 そんなことがあり、回収してもらえるまで、落としてもらった荷物の中にあった食料と水でしのぐしかない。

 覚悟を決めパンケーキを口に押し込んだキリエだったが、あまりの辛さにのたうち回り、水をがぶ飲みするのを繰り返す。

 結局、辛いものを食べると限られた水を消費してしまうため、日々運ばれてくるパンケーキとカレーは少ししか口にできず、殆ど水で過ごすことになった。

 2日後、回収されたキリエとチカは、羽衣丸の格納庫の固い床で正座の上、レオナからみっちり説教され、キリエとチカが壊したレオナとザラの隼の修理費用、逃走に使ったラハマ自警団の赤とんぼの弁償費用、レオナが壊した部屋のドアの修理費用など、オウニ商会のマダムが負担した費用を返済するため、2人はしばらくただ働きが続くことになった。

 激辛料理を食べたときの皆の反応が見たい、という好奇心の代償としては、あまりに大きいものであったかもしれない。

 

 なお、この一件によって激辛料理が羽衣丸で提供禁止となったのは、言うまでもない。

 

 




読んで頂き、ありがとうございました。

短編なので、今回もギャグ成分多めで書きました。
定期的にやってくる辛い物ブームをイジツに導入した
らどうなるか。そんな妄想から生まれた作品です。

いつ出動要請があるかわからない人々には、刺激の
強いものはダメですね。

いつも不定期更新ですが、次回もまた読んで頂けたら
幸いです。
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