そんな中、突如ポロッカの市長、ゴドロウがやってくる。
彼は突如消息を絶った、ポロッカが建造したという新型飛行船の捜索に
協力してほしいという。
しかし、彼はその飛行船について多くを語ろうとしない。
ユーリア議員がゴドロウ市長に疑念を抱く中、1本の電話がかかってくる。
第1話 手荒いお出迎え
どこまでも土色の大地が広がる世界、イジツ。
ある日世界の底が抜けて、海がなくなり、破滅へ向かっていく世界に、空を飛ぶ技術を持ち込んだ異邦人たちがいた。
彼らの遺産でこの世界は命をつなぎとめたが、同時にその遺産を巡ってこの世界は何度も荒れることになった。
それでも、彼らは色んなものを失いながらでも、今日を、明日を生きていく。
今日も今日とて、空戦にあけくれる。
それが、この世界の日常だった。
荒野の上を飛ぶのは、6機の零戦52型。
機体全体が紫がかった青色で塗装され、機体にはユーハングの絵に描かれる波のような模様が白色で描かれている。
その機体の外観から、6機ともポロッカという町の所属であることがわかる。
「今日も今日とて、訓練か」
「ぼやくな、これが我々パイロットの仕事だろう」
「そんなこといったって、俺たち何から町をまもりゃあいいんですか?」
「空賊とか、自由博愛連合とか、あるだろう」
6機の間に少し沈黙が訪れた。
自由博愛連合。
当時イケスカ市長だった会長のイサオ氏が立ち上げた、イジツの都市を統一し連合国家を立ち上げるという構想のもと発足した都市間連合。
そこに加盟を拒んだポロッカを、イサオ氏は容赦なく焼き払った。
飛行機の常識外れのような大きな胴体、並外れた爆弾搭載量をほこる、連合の力の象徴、爆撃機富岳で、ポロッカを攻撃した。
その後、ポロッカの残存戦力は反イケスカ同盟に加わり、イケスカ動乱で戦った。
「だが、自由博愛連合は残党はいても、表向き存在しないことになっている。空賊は町に攻め込むことは難しい。今は、復興を急ぐべきだ」
「そうだな。だが、同時にイケスカから流れたものもたくさんある。そんなあらゆる脅威から町を守るために、あれは作られたんだろう」
パイロットたちは正面を見つめる。
彼らの進路上に、巨大な物体が現れた。
ポロッカの有する巨大な飛行船を2隻、中央の構造物を挟んで左右につなげたような、双胴式の船体をもつ巨大な飛行船。
ポロッカがイケスカの富岳に対抗する抑止力として建造した新型飛行戦艦、トドロキ。
長大な航続距離、船体に数多く配置された機銃、中央、左右に配置された格納庫は格段の物資積載量、航空機搭載能力を保証する。
市長のゴドロウの発案で建造された飛行船、いや、飛行戦艦、空中空母ともいえる存在。
これがあれば、イケスカもうかつにポロッカには手をだせない。
これの運用試験が始まり、訓練を繰り返し、運用開始も秒読みだ。
「こちら飛行船トドロキ所属の第1護衛飛行隊。トドロキ、着艦許可を求む」
だが、トドロキから応答はない。
「こちら第1護衛飛行隊。トドロキ、着艦許可を」
直後、トドロキから動きがあった。
機体上面の構造物が旋回し、彼らを向いた。
直後、何かが打ち出された。
それは白い尾を引いて、彼らに向かってきた。
「全機、回避!」
慌てて編隊をとき、零戦が四方八方へ散る。
直後、トドロキから放たれたものが、彼らの進路上で炸裂した。
とんできたそれは先端が開き、小さな小弾をばらまき、彼らに襲い掛かった。
彼らの周囲で小弾が爆発し、巻き込まれた2機が主翼を損傷し落ちていく。
「おお、トドロキちゃん、ずいぶん手荒いお出迎えだな!」
回避行動をとりながら、隊長は無線でトドロキにつなぐ。
「トドロキ!こちらは第1護衛飛行隊!敵ではない!戦闘行為の停止を求む!」
またトドロキから放たれた、数発のロケットのようなものが炸裂。1機が落とされた。
「何をしている!我々は味方だぞ!殺す気か!」
「2人ともこい!接近して様子を確認する」
残り2機を従え、隊長はトドロキに距離を詰めていく。
護衛飛行隊を攻撃するなど、なにかあったに違いない。状況を確認しなければ。
直後、トドロキの銃座が彼らを向いた。
大雨のように撃たれる銃弾の嵐の中、彼らの機体は損傷し、地上へと高度を下げていった。
そして、双胴の巨人は静かに、空の彼方へと消えていった。
「給油完了っと」
主翼の燃料タンクへ給油を終えると、作業をしていた女性はタンクの栓を締め、カバーを戻す。
「これで燃料は満タン」
肩の下あたりまで伸ばした黒髪に、防寒用の茶色い上着、裾の方に青いラインが入った白色のスカートを身に着けた女性、名をハルカという。
彼女は愛機の零戦の給油を終えると、代金をスタンドの会計で支払う。
「ハルカ~」
会計を終えた彼女のところに、赤髪を縛った、凛々しい表情の女性が近づいてくる。凄腕飛行隊、コトブキ飛行隊の隊長、名をレオナという。
「給油、終わったか」
「はい」
「なら、時間もいいから昼食にしよう」
「ケイトも空腹」
レオナの後ろに続くのは、銀色の髪を分けて縛った、いつもと変わらぬ表情を浮かべる女性、コトブキ飛行隊の隊員の1人、名をケイトという。
「いいんですか?今捜索任務の最中なのに」
「方針を練り直そう。もう今日で3日目だ。このまま、時間を浪費するだけじゃいけない」
「……わかりました」
2人について、空の駅の食事処に歩いてく。
空の駅で簡単な食事を頼み、食後にお茶で一服する。
日頃はビールといった酒が多い中、今は捜索依頼の最中なので酒を飲んではだめだ。
「にしても、今日で3日目か……」
「飛ぶことが仕事のパイロットでも、朝から晩まであてもなく飛ばされては、さすがに苦行と感じる」
「……そうですね」
ここ3日ばかり、朝から晩まで給油を繰り返しながら飛び続け、夜は空の駅や近場の町で一泊という日が続いている。
「隼に増槽つけたのは久しぶりだな」
「私も増槽つけて飛ぶのは久しぶりです」
レオナとケイトの隼、ハルカの零戦には、それぞれ主翼下、胴体下に増槽がつけられている。
今は捜索任務の最中なので、長距離を飛ぶためだ。
「連絡がないところを見ると、ザラたちの方も進展はないんだろうな。キリエやチカが不満をもらしていそうだ」
「違いないですね。ユーリア護衛隊からも連絡はないです」
「ということは、空振りか……」
「ポロッカも戦力を割いている」
「それでもみつからないんですからね……」
ハルカは肩からかけている鞄から地図を取り出し、テーブルに広げる。
「だが、ポロッカが戦力を割くのは当然だろう。今回の一件は、ポロッカの責任なんだからな」
「同意、ポロッカも、とんだことをしてくれた……」
どんな依頼も真面目に向き合うレオナにケイトだが、こうも連日あてもなく飛ばされ続けてはこうも言いたくなる。
ことの始まりは、3日前にさかのぼる。
ハルカがハリマへのマダム・ルゥルゥやラハマ町長、ユーリア議員の護衛を終え、ガドールのユーリア議員のもとに戻り、いつものように仕事をこなしていると、突然ドアがあけられた。
「ユーリア!」
息を切らせながら入ってきたのは、見るからに屈強そうな男性。後ろには部下らしきスーツを着た、身ぎれいそうな従者がつきそっている。
「……せめて、ノックくらいしてくれないかしら?……ゴドロウ市長」
「す、すまん!いや、ことは一刻を争うのだ!手を貸してほしい!」
「市長のおっしゃる通りです!事態は急を要するのです!」
市長と助役がそろって慌てている。
まともに話すのは難しそうだ。
「……とりあえず落ち着きましょう。ハルカ、紅茶を3人分お願い」
彼女はユーリア議員の執務室の一角に設けられた部屋に行き、紅茶を3人分用意して戻る。
ユーリア議員は優美に紅茶をたしなむが、ゴドロウ市長はがぶ飲みし、服に飛び散ったものは助役がふいている。
「それで、緊急の要件って、何かしら?」
ゴドロウ市長は、ティーカップを荒々しく置くといった。
「ポロッカの新型飛行船が行方をくらました。捜索に協力してほしい!」
「……は?」
なんでそんなことに?
その場の全員が思ったのは想像に難くない。
「……もう少し、詳しく話してくれないかしら?」
ゴドロウ市長がいうには、昨日、試験運用中だったポロッカ船籍の新型飛行船が、収容するはずの護衛機を突如攻撃。
全機を撃墜し、そのまま行方をくらましてしまったとのこと。
「無線で呼びかけたが応答がない。だから捜索しているんだが、行方がつかめない。一刻も早い発見のためにも、協力してほしいのだ」
「ゴドロウ市長、あなた、私が今は評議会議員だということをお忘れかしら?」
「それはわかっておるが、お互いイケスカ動乱を生き抜いた仲だ。なんとか手を貸してもらえないか?」
「あの時は、私は議員じゃなかった。今は評議会議員。……わかるわね」
頼み込むゴドロウ市長を前に、ユーリア議員は淡々と返す。
ユーリア議員は、無論ガドール評議会の議員であり、運び屋でもまして傭兵でもない。
ユーリア護衛隊は、議員を守るために存在している。
議員の身の安全にかかわらない捜索任務に護衛隊は使えない、という遠回しの言い分だった。
その意図を理解しているのかいないのか、ゴドロウ市長はひかない。
「そこをなんとか頼めないか?動乱の際、ポロッカの戦力ほぼすべてを投じて戦ったではないか」
ユーリア議員の顔が、一瞬ぴくっとひきつった。
ハルカは話でしか聞いていないが、かつてあったイケスカ動乱。
そのとき、ユーリア議員をはじめとした反イケスカ同盟の戦力の中で、最大規模だったのはポロッカだ。
その戦力があったからこそ、ポロッカが結果としておとりになっていたからこそ、イケスカ上空の戦闘で同盟は勝利できた。
暗にそう言っているようだ。
そのときのことを持ち出されると、彼女もこの話をむげにはできない。
彼女は内圧を下げるように息を吐き出すと、問いかける。
「……それで、その飛行船を捜索して、見つけたらどうすればいいのかしら?……破壊していいの?」
「そ、それはだめだ!あれは、ポロッカの税金で建造した飛行船!破壊など論外だ!」
「じゃあ、どうすればいいの?船首に縄でもつけて、ポロッカまで引きずってこいとでもいうの?」
「そ、それは後で考える。とりあえずは見つけてほしい」
皆は一抹の不安を感じた。
「大体、捜索に協力してほしいって、ポロッカほどの戦力があるなら、捜索隊は自分たちで編成できそうなものだと思うけど?」
「あのイケスカ動乱の傷は決して浅くはない。ポロッカも復興に取り組んではいるが、まだ道半ば。都市の防衛をしながら、そこから出せる戦力には限りがある」
ショウト等イケスカによる爆撃を受けた都市は、今でも復興の道半ばにある。
復興に町の資金の多くを割かなければならないが、空賊やイケスカの残党の襲撃が想定される現在、町の防衛はおざなりにできない。
だが、防衛ばかりに資金を使って復興が遅れるわけにもいかない。
そのかじ取りが、市長たちにはもとめられている。
「そうはいっても……」
ユーリアはそれでも首をたてに振らない。
彼女の裁量で動かせるのは、ユーリア護衛隊の鍾馗8機、金を払ってオウニ商会のコトブキ飛行隊の隼6機、共有になっているハルカの零戦1機の、計15機だ。
これが捜索任務で、そんなに大きな戦力になるとも思えない。
だが、それでもポロッカは捜索機をかき集めなければならないのだろう。
「……協力するとして、その飛行船はどんな見た目をしているの?特徴は?このイジツで飛行船なんて、いくらでも飛んでいるでしょう?」
ハルカには気になっていることがあった。
このイジツで、飛行船といえば物資や人員の輸送、気象観測等戦闘以外の目的に使われることがほとんどだ。
飛行船の大きさは大小さまざまあるが、外見はどれもほぼ同じ。それを見つけだすには時間と労力がいる。
今回の捜索対象は、ポロッカの新型飛行船だというが、盗まれたにせよ何にせよ、その飛行船は果たして普通の飛行船なのだろうか。
飛行船など、このイジツにいくらでもある。
そんな中、あえてポロッカの新型飛行船を盗んだとなると、余程その飛行船が特殊である以外理由がない。
「見た目や特徴は、……その、だな」
突然、ゴドロウが言葉を濁し始めた。
「巨大だ」
「……ほかには?」
「その……。まあ、とりあえず探してくれないか?」
ユーリアはため息を吐き出し、護衛隊長たちは唖然とした。
「……そんなので、手を貸せるわけないでしょ?」
「協力するというなら詳細を教える」
逆に言えば、部外者に余計なことを話したくないということだ。
その飛行船、きっとなにかがある。
ゴドロウ市長が、あまり表に話したくないなにかが。
ふと、部屋の電話が鳴り響いた。
「でます」
ハルカは受話器をとる。
「はい、ユーリア議員の執務室です」
受話器の向こうから聞こえた言葉に、彼女は目を見開く。
「わかりました。……伝えます」
彼女は静かに受話器をおいた。
「なんて?」
彼女は静かにユーリアにむきなおる。
「今から30分前に、ショウトより北の辺境にある都市が、突然謎の巨大飛行船に爆撃されたそうです」
「爆撃!?被害は?」
「町はほぼ壊滅状態。ショウトやナガヤが急ぎ救助部隊を派遣して対処するそうですが……」
近いショウトやナガヤは、今頃ハチの巣をつついた騒ぎになっているだろう。
その飛行船が狙うのは、つぎはその都市かもしれないのだ。
彼女はふと顔を上げた。
「……巨大な飛行船?」
彼女の言葉に、ユーリアや護衛隊隊長たちが一斉にゴドロウに振り返った。
「ゴドロウ。まさかとはおもうけど、さきの町を爆撃した巨大な飛行船って……」
彼はため息を吐き出していった。
「……おそらく、トドロキだ」
「トドロキ?」
「ポロッカで建造した、新型飛行船。昨日、護衛戦闘機隊を撃墜し、突如行方をくらました」
部屋が静まり返った。
「ゴドロウ、そのトドロキの詳細を教えてくれない?」
「それは……」
ゴドロウはそこから先を話そうとしない。
「いいの?このままだと、ポロッカのマークの入った飛行船が、最悪の実演をしながら飛び続けることになるかもしれないけど?」
「……市長」
助役に促され、ゴドロウは観念したように話し始めた。
「……トドロキは、普通の飛行船とはわけが違う。双胴式の船体をもち、爆撃能力や防衛火器を多数搭載した飛行船。……爆撃飛行船と言い換えてもいい」
こんにちは!お久しぶりです!
お待たせしました、第8章開始です!
最後までお付き合いいただけたら幸いです。